冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

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王太子と辺境伯

旅立ちの準備

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 “ヴァイスリリィ”

 リリーナが数ヶ月前オープンさせた香水販売の専門店だ。
 規模は決して大きくないが、有名な洋裁店の二階という好立地に店を置けたこともありリリーナの予想を上回る初月の売り上げを見せ、現在も順調な売り上げをキープしている。

「しばらく首都にいないんですか?」

 そう話すのはヴァイスリリィお抱えである職人のアンムート。
 オーナーであるリリーナの予想通り、イェーガー洋裁店の二階という配置から服に合わせた香水を選びに来る客も多い。しかし彼女の予想を超えたのはアンムートの作るオリジナル商品の人気であった。

 “男性へのより広い香水文化の普及”それがリリーナがこの店を通して目指す目標だ。実際にこの店に来る男性客の大半はアンムートの香水を求めてやってくる。
 まだまだリリーナ自身が自信を得れるほど男性向けの香水が広まっている印象は受けないが、これまで男性であろうとも香水を使うとどうしても甘い香りが付き纏いがちであったことから考えると、評判は悪くない。

「えぇ、オフシーズンは殿下と辺境を見に行くことが増えますので」

 アンムートの問いに返したのはリリーナ。ヴァイスリリィに置かれた香水用の工房スペースにて、二人はどうやらこれからくるオフシーズンに向けての話し合いをしているようだ。

「パンドラでもそうでしたが、オフシーズンというのは基本的に王族が招待され地方へ訪問する時期ですから」

 地方貴族が首都に集まり議会を運営していくにしても、常にとはいかない。議会に出席している議員は皆基本的に領地を持っている領主であるため、議会が動いている時期というのは限られているのだ。その議会が閉まり、各議員が領主として戻るのがオフシーズンである。

 基本的に議会が開いている時期…シーズン中の領地管理は各家の子息や代理人が行なっているが、最終決定は現領主に任されるものも少なくない。
 更には天候や季節で移ろう領地を把握、管理するのも領主の仕事である。

「でもわざわざ王族が地方になんて行くんですか?」
「招待や所用があれば向かいますわ。イベントなどの体裁で地方を視察するのも王族の務めですから」

 むしろオフシーズン最も暇なのは王族であると言っていい。議会の運営もなく、外交的な要件もなければ書類と格闘する期間だ。故に、視察を兼ねて地方領主の誘いを受け、普段目の届かない場所にも目を光らせるのである。

「すでに向かうことが決まっている領があるのですが、そこは国境を護る辺境領なので要所なのです」
「そうなんですね…どこに行くんですか?」
「グレンツェ領ですわ」
「あぁ、グレンツェ領。確か蜂蜜が有名でしたよね?」
「あら、よく知っていますわね」

 そこからアンムートは「ちょっと失礼します」と言って工房に設置された書棚から一冊の本を取り出し、机に広げた。

「これ、なんですけど」

 そう言ってアンムートは開かれたページのある項目を指差す。

「昔、興味本位で『練り香水』を作ろうとしたことがあって。その関連で調べてた時にグレンツェ領のことを知ったんです」

 練り香水とは、蜂の巣から取れる蜜蝋を溶かし、精油を加えて再度冷やすことで生まれるもの。なおフレーメンでは山間である国境付近が主な蜂蜜の産地である。

「そうでしたのね。ではやってみますか?」
「いいんですか?」

 リリーナも存在は知っていた。しかし首都では蜜蝋も手に入りにくいので、知識はあっても使用したことはない。

「私も触ってみたかったものですし、蜜蝋があればいいのかしら?」
「そうです。よろしくお願いします」
「では探してきましょう。何かあれば連絡しますわ」
「ありがとうございます」
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