冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

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帰省と誕生日

またきっと会える日は来るから

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 翌朝。
 リリーナたちはフレーメンに帰還するための支度を終え、マルクスとエルーシアの見送りの下エントランスにて別れの挨拶を交わしている。

「ありがとうございました。お父様、お母様」
「あぁ、リリーナ…行ってしまうのね」

 別れを惜しむ気持ちがエルーシアの体を自然と動かす。エルーシアはリリーナに優しく抱きつき、リリーナもまたそっとその抱擁に応え母の背中を優しく撫でる。

「はい…お母様」
「何かあったらいつでも歓迎するわ。手紙もたくさん交わしましょう」
「ありがとうございます。私からもお手紙しますわ」
「殿下と仲良くね…。あぁ、だめね、本当に行ってしまうの?」
「…えぇ、お母様。私はフレーメンに“帰ります”」
「…」

 リリーナの言葉を聞いたエルーシアには、ただ今より少し力をこめて娘を抱きしめることしかできなかった。
 それはリリーナの帰る場所がもう、この家だけではないと彼女自身に言われてしまったから。
 だから寂しさも愛しさも、数えきれないものが込み上げて、溢れてしまいそうで。

「…エルーシア」

 そんな母の背中を叩いたのは父であるマルクスであった。マルクスがエルーシアが離れられるようそっと彼女を促すと、名残惜しいを表情に描いたままの“母”はなんとか娘から離れていく。

「リリーナ。父として私からお前に言えることは一つだ」
「はい」
「健やかに生きなさい。もう大人なのだから、気のぬき方は覚えなくてはいけないよ」
「お、お父様までディードリヒ様のようなことを言いますの…!?」

 明らかに動揺するリリーナ。恥ずかしいのか少しばかり彼女の頬は赤いが、その姿にマルクスはやれやれと内心ため息をつく。

「何度もお父様とお母様は休むように言ったというのに、一向に話を聞かなかったのは誰だったかな?」
「う…気をつけますわ」
「…もう頑張らなくていいとは言わない。やらなければいけないことがある時も来るだろう。だからと言って進み続けることだけが答えとは限らない、ということは覚えておいて欲しい」

 言葉ともにリリーナの肩に手を置くマルクスは、真っ直ぐと彼女を見ている。その真剣と心配が混ざったような視線に、リリーナは表情を引き締めた。

「はい、お父様」

 そう答えた娘の声に嘘偽りはなく、いつだって変わらない真摯な瞳で父を見る。
 それは紛れもなく娘の良いところで、同時に悪いところだ。真面目な彼女らしい嘘のない態度と、それ故に本当にこちらの言ってることが守られるか怪しい気合の入り方が。

 正直その姿に思う感情は少し複雑なものだが、マルクスはリリーナを信じてその肩から手を離し、それからディードリヒを見る。

「殿下、改めて娘をどうかよろしくお願いします。我がルーベンシュタイン家はいつであってもお二人を受け入れると約束しましょう。何かあれば遠慮なくご連絡ください」
「ありがとうございます、ルーベンシュタインさん。僕はこの約束をしかと受け止め、リリーナと歩む努力を忘れないと…彼女を一人にしないと誓います」

 ディードリヒの一言に、マルクスは穏やかな笑みを見せた。それでも彼の心情は寂しさを隠しきれていないのが伝わってくる。

「その言葉を聞けて、安心しました。さぁ、移動のお時間も長いでしょうからお二人はご出発なさってください」

 マルクスはドアのから一番近い場所にいた侍従に声をかけ、玄関ドアを開かせた。リリーナは笑顔で両親に手を振り、両親もまた笑顔を返し、それから両親に背中をむけ歩き出したリリーナは、決して振り向かなかった。
 
 ***
 
 乗り込んだ馬車に揺られながら、リリーナはずっと窓の外に視線を向けようとしては落とすということを繰り返している。それこそ、先ほどまでの強気はどこに行ってしまったのだろうと自らに問いながら。

 結婚してしまえば公務も増え、元より忙しいヴァイスリリィの運営も重なってこの地に帰るのは本当に難しくなるだろう。
 そう思えば思うほど目の前の景色を焼き付けておきたいと思うのに、なぜか視線は下へ落ちていく。

「リリーナ」

 不意にかけられた隣の声にはっとして、反射的に視線を向ける。そのリリーナの視界に映るディードリヒは、いつも彼女へ向ける優しく穏やかな笑顔を彼女に向けていた。

「泣こう、リリーナ」
「!」

 その言葉はなんの脈絡もない言葉で、驚いたリリーナは目を見開く。

「ここで泣いて、リリーナ。僕が隣にいていいなら」
「…」

 “泣いていい”ではなくて“泣いて”という言葉は、自分にだからかけられているのだとすぐにわかったというのに、返事をすることができなかった。
 ただその言葉で初めて何かが自分の中で腑に落ちて、

「…っ」

 涙が一つ、溢れ落ちる。

「…ぅ、うぅ…っ」

 それだけで、次の瞬間には整えていた顔さえぐちゃぐちゃに崩れて、直せない。
 ディードリヒはその崩れた彼女を包むようにそっと肩に触れ、抱き寄せる。

「う、ぅ…ふ…」

 泣くつもりなどなかったのに。
 泣いてしまったら、笑顔で見送ってくれた両親に申し訳が立たない。しっかり前を向いて、背中を見送ってくれた両親にしっかりと地に足をつけた自分を見せたかったのに。

 自分は何をしているんだろう。これでは次に進む準備がまるでできてないみたいではないか。
 こんなに後ろ髪惹かれて、本当はあの腕から離れたくなかったみたいなそんなことは、あの頃の自分にはきっとなかったのに。

「…やっぱり君は綺麗だよ、リリーナ」

 そう、優しく語りかける声をした彼の指が自分の髪を滑る。自分の体を引き寄せた時と同じ、自分の卑しくて醜いところまで内側に受け入れてしまうみたいに、貴方は私のそばにいる。

(貴方がいなければ、私は…っ)

 貴方がいなければ私は、こんなに弱くなることなんてなかった。
 でもそれと同じだけ、貴方がいなければもうあの温かさに触れることはできなくて。

 貴方がいなければ、貴方がいなければ、

「う、あぁ…あぁぁあ…っ」

 私はきっと、弱い自分を認めてあげることはできなかった。

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