無能聖女の失敗ポーション〜働き口を探していたはずなのに、何故みんなに甘やかされているのでしょう?〜

矢口愛留

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第一部 無能聖女編

2. 冒険者登録することになりました

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 早速私は初級ポーションの入った鞄を胸にぎゅっと抱えて、冒険者ギルドの買い取りカウンターに向かう。

「すみません、買い取りカウンターはこちらですか?」
「ん? お嬢ちゃん、見ない顔だが、冒険者登録は済んでるのか?」
「いいえ、してないですけど」

 ギルドのおじさんの話によると、冒険者登録をすると発行されるギルドカードがないと、買い取り記録をつけられないらしい。
 登録料は無料だし、ランクを上げなければ、緊急依頼などに駆り出されることもないそうだ。

 一度作れば冒険者としての身分証明書にもなるギルドカードは、依頼料や買い取り料の振込先として登録され、好きなときにお金を引き出せるシステムだ。
 依頼料や買い取り料が高額になる場合もあり、一気に大金を用意できないこともあるため、そのような仕組みが作られたという。
 お金は王国内の冒険者ギルドなら、どこでも引き出せるそうだ。

「じゃあ、登録します」
「なら、まずはこの書類に記入してくれ」

 私は書類の記入を始める。名前と年齢、職業。
 クリスティーナ、十八歳。職業は……元聖女でいいか、後で変えられるみたいだし。

 特技、技能。
 特技は……うーん、掃除に洗濯、炊事、繕い物?
 困った。武芸も魔法もからっきしで、それしか書くことがない。いいや、書いちゃえ。

 技能欄には、一応、初級ポーション作製と書いておこう。
 直接の治癒もできなくはないが、ほとんど効果がないと思われる……というかやらせてもらったことがないので、それを期待されて戦場に連れ出されても困る。

 次に。
 住所、もしくは拠点としている宿――。

「……あの。住所の欄なんですけど。私、家もないし宿も決まってなくて」
「あー、もしかして王都に来たばっかりなのか? なら、実家の住所でいいぞ」
「実家……えっと、神殿って書くわけにはいかないですよね」
「んん?」

 そこでようやくおじさんは書類を覗き込む。
 職業欄に記した『元聖女』の文言を見て、何事か察したらしい。

「お嬢ちゃんも苦労してるんだな……。じゃあ、ここは一旦空欄でいい」
「すみません……」
「とりあえずこの内容でギルドカードを作ってくるから、ちょっと待ってろ」

 そう言ってギルドのおじさんは、カウンターの奥へと入っていった。
 私はその間に、カウンターに貼られていた、アイテム・素材の料金表を眺める。

 どうやら、買い取り価格は店頭販売価格の半額になるようだ。
 例えば、薬草は販売価格が50ゴルドで、買い取り価格が25ゴルド。解毒草は販売価格が120ゴルドで、買い取り価格が60ゴルド。
 中級ポーションは販売価格が500ゴルドで、買い取り価格が250ゴルド。中級ポーションに解毒草を調合した解毒ポーションは販売価格が1000ゴルド、買い取り価格が500ゴルド。

 そして、初級ポーションは――。

「……販売価格100ゴルド、買い取り価格50ゴルド……」

 私はがっくりと肩を落とした。50ゴルドでは、宿代どころか、食事代にもならない。
 ちなみにポーション用の空き瓶は、販売価格10ゴルド。空き瓶を五本買って一本しかポーションが作れなかったら、利益が全く出ない。

「……どうしよう……失敗ポーションは捨てて、瓶を買い足しながら作るとしても、初級ポーションは一日に二本以上作れたことないし。これじゃあ生活できないよ」

 私の視線は、ふらふらと依頼用の掲示板へと向かう。掲示板の前には人だかりができていた。
 受けたい依頼を発見したら、貼ってある依頼書を掲示板から剥がして、受注カウンターに持って行くようだ。

「やっぱりポーションは当てにしないで、普通にお仕事探すしかないか」

 そもそも、私は落ちこぼれ聖女だから神殿を追い出されたのだ。最初から期待するだけ無駄だった。

「私が働けそうな場所はあるかなあ」

 冒険者たちの後ろから掲示板を覗き込もうと頑張ってみるが、全然見えない。皆身体も大きいし、武器やら大きな荷物やらを携えているのだ。
 私は諦めて、混雑が落ち着いてからゆっくり眺めることに決めた。

「待たせたな、お嬢ちゃん。ギルドカードができたぞ」

 ちょうどその時、カウンターの奥からギルドのおじさんが戻ってきた。あとはこの小さなカードに私の魔力を流し込んで、魔力認証をしたら、冒険者登録は完了である。

「これで登録完了だ。それで、お嬢ちゃんは素材の買い取り希望だったか?」
「あ、えっと、初級ポーションを売ろうと思ってたんですけど……ちょっと保留にして、お仕事の依頼を見てもいいですか?」
「ああ、わかった。なら、誰か説明できそうな奴……お、ちょうどいい奴がいるな。おーい、アンディ」
「はいはーい」

 ギルドのおじさんが辺りをざっと見回して、一人の若者を手招きする。
 おじさんの声に応えてこちらを振り返ったのは、ふわふわの茶髪に緑色の瞳をした、愛嬌のある顔立ちの青年だった。
 年の頃は、私と同じくらいだろうか。身長も体格も平均的で、溌剌とした親しみやすい雰囲気を醸し出している。
 防具は、革の胸当てで胸部を守る程度の軽装だ。ナイフを二本、腰の後ろでクロスさせるように装備している。

「おっちゃん、オレに何か用?」
「ちょっと頼みたいことがあってな。どうせ暇なんだろ?」
「ひっでえ! オレだって忙しい時はあるんだぜ!」
「あん? なんだ、珍しく忙しいのか? こちらの綺麗なお嬢ちゃんの案内を頼みたかったんだけどなあ」

 ギルドのおじさんがそう言って私に視線を向けると、アンディと呼ばれた若者は、所在なくきょろきょろしている私に気がついたようだ。
 私と目が合うと、アンディは緑色の目をちょっぴり見開いて、耳を赤くする。

「忙しいなら、他の奴に――」
「いやいや、ちょうど暇で退屈してたんだ! いいぜ、頼まれてやるよ!」

 おじさんが他の冒険者たちの方へ視線を巡らせようとしたところで、アンディは慌てておじさんの肩を叩き、そう言った。

「ってことで、オレはアンディ! よろしくな、お姉さん、えっと……」
「あ、私はクリスティーナ。長いから、ティーナでいいよ。それより、忙しいんじゃないの?」
「いいや、全然! じゃあおっちゃん、後はオレに任せてくれよな!」
「ああ、頼んだぜ」

 おじさんはそれだけ言って、次のお客さんの対応に入る。アンディはどう見てもギルド職員ではなさそうだが、忙しいときはこうやって冒険者と助け合ったりするらしい。

 そうしている間に、掲示板の人だかりも少しはけたようだ。

「さあ、依頼を見るんだろ? こっちこっち」

 アンディは冒険者たちの隙間をぬって、私を掲示板の前に連れ出してくれた。

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