15 / 121
第一部 無能聖女編
14. 褒められるのには慣れていません
契約の話を済ませた後、私は早速、失敗ポーション改め琥珀珈琲を、ギルバート様の前で精製していた。
最初から琥珀珈琲を精製すると決めていれば、初級ポーションの精製を試みる時ほど魔力を込めなくてもいいので、あまり難しい作業ではない。
「完成しました」
「ほう、琥珀珈琲はそのように精製するのだな」
ギルバート様は、私のポーション精製の過程を見て、感心したように頷いている。
「薬草などは入れないのか?」
「はい。薬草を入れたら、それこそ飲める代物じゃなくなっちゃいますよ」
「それもそうか」
薬草は、もちろん食べても毒ではないのだが、とても強いえぐみがあって、不味いのだという。
「魔力はどのぐらい込めている?」
「ええと、初級ポーションを作るときは出力全開でやらないとダメなんですけど、失敗……じゃなくて琥珀珈琲を作るって最初から決めて精製するなら、定着をそこまで気にしなくてもいいので、そんなにたくさんの魔力はいらないんです」
「なるほど、理解した。なぜ触媒を使わないのか疑問だったが、水に溶ける分の魔力を込めれば良いから、触媒も不要ということか」
ギルバート様は一人でなにやら納得している様子だ。
触媒というのが何かは知らないが、彼が納得したのならいいだろう。
「それで、琥珀珈琲は日に何本ぐらい作れる?」
「初級ポーションは一日に二本以上作れたことはないんですけど、琥珀珈琲なら、十本以上作っても余裕だと思います。これまで需要がなかったので、上限まで試したことはないんですけど」
「なるほど。ちなみに、日持ちはするのか?」
「水を浄化してから作っているので、数日は持つはずです。それ以上は、魔力が抜けてしまって、ただの水に戻っちゃいます」
「ふむ、数日も持つのか。それは良いな」
ギルバート様は琥珀珈琲の瓶を持ち上げ、照明にかざしてゆっくりと揺らす。
魔道具の照明が薄い色の薬液を透す。琥珀色の光が、彼の白い頬の上できらきらと揺れていた。
ギルバート様は思う存分琥珀珈琲を眺めると、瓶をテーブルの上に戻し、満足そうに頷いた。
「では、私の分と、ジェーンの分。予備も含めて、毎日三本ほど貰っても良いか? もちろん、君の体調が悪い時や休みの日などは、用意しなくて構わない」
「はい、喜んで! それに、余った分の琥珀珈琲も、いつでも新しい物に交換させていただきます」
「そうか。ありがたい申し出だ、感謝する。では、出勤日は毎朝、この部屋を訪ねてくれると嬉しい」
「かしこまりました!」
私が元気よく返事をすると、ギルバート様はふっと目を細め、美しい笑みを浮かべたのだった。
*
ギルバート様の部屋から退出した頃には、もうお昼近い時間になっていた。
ジェーンさんから渡された昼食を置くために、一旦離れに戻ろうとしたところで、庭の草刈りをしているアンディが目に留まった。
「あっ、アンディ、おはよう」
「おはよ、ティーナ……って、うわ……!」
アンディはいつもの通り、私の方を向いて挨拶をしてくれたが、そのまま驚きの声を上げて固まってしまう。
「どうしたの?」
「い、いや、その」
アンディは何故か私を見つめて、耳を真っ赤にしている。
何かおかしなところがあっただろうかと、私は自分の服装を目視で点検するが、別に破れたり着崩れたりしているわけではなさそうだった。
「アンディ、私、何か変?」
「い、いや、とんでもない! その、今日のティーナは綺麗だなって……」
「ええっ?」
そう言われて初めて、今日の私は髪を結い、お化粧をしてもらっていたのだということに思い至る。
「な、何でもない! 気にしないでくれ!」
「んー、社交辞令なんていいのに」
そういえば、ジェーンさんも綺麗と言ってくれていたが、あれもアンディと同じく社交辞令だろう。私だって、そのぐらいは弁えている。
神殿にいた頃から、「みすぼらしい、紛い物の無能聖女」とか「人前に立つには恥ずかしい容姿」とか、散々言われてきたのだから。
けれど、真に大切なのは容姿ではなく、心の方なのだ。
女神様は、正しい心を持つ者を幸せに導いてくれる――私はそう信じて生きてきた。
現に、神殿を出てすぐに、運良く好条件の依頼を見つけることができたし、素敵な人たちに巡り合い、自由でやりがいのある素晴らしい仕事を得ることができた。
女神様は、どんなに価値がなくても、正しくあろうとする心を持つ私を、見捨てなかったのだ。
「……ティーナは社交辞令って思ってるかもしれないけど、オレは」
「えっ?」
どういうことだろう。もしかして、アンディは本気でそう思ってくれているのだろうか?
けれど、私はその考えを即座に打ち消した。
――先ほどギルバート様からも優秀な聖女だなんて褒められたけれど、やっぱり、褒め言葉を素直に受け入れることなんて、私にはできない。
だって、私は十三年間、無価値でみすぼらしい、無能聖女だったのだから。
「えっと、その、アンディ」
「悪い、忘れてくれ! 変なのは、オレの方だな! オレ、向こうの草刈りしてくる!」
なんだか変な空気になり、アンディは別の場所に移動してしまったのだった。
「急に褒められても……どうしていいかわかんないよ……」
私が小さく呟くと、それまでそっと見守っていたらしい視線さん――いや、ギルバート様の魔法の気配は、アンディを追って離れていった。
おそらくギルバート様は、例の魔法を使って、今度はアンディの審査に入っているのだろう。
「さて、私もお仕事しなくちゃ」
ランチボックスを置いたら、昼食の前に、今日掃除する部屋の埃を払っておこう。換気をしている間に昼食を取ればいい。
私は気を取り直して、離れの方へ向かったのだった。
あなたにおすすめの小説
【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。
キーノ
恋愛
わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。
ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。
だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。
こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、推しと穏やかに過ごしますわ。
※さくっと読める悪役令嬢モノです。
2月14~15日に全話、投稿完了。
感想、誤字、脱字など受け付けます。
沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です!
恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。
あなたが運命の相手、なのですか?
gacchi(がっち)
恋愛
運命の相手以外の異性は身内であっても弾いてしまう。そんな体質をもった『運命の乙女』と呼ばれる公爵令嬢のアンジェ。運命の乙女の相手は賢王になると言われ、その言い伝えのせいで第二王子につきまとわられ迷惑している。そんな時に第二王子の側近の侯爵子息ジョーゼルが訪ねてきた。「断るにしてももう少し何とかできないだろうか?」そんなことを言うくらいならジョーゼル様が第二王子を何とかしてほしいのですけど?
【完結】慰謝料は国家予算の半分!?真実の愛に目覚めたという殿下と婚約破棄しました〜国が危ないので返して欲しい?全額使ったので、今更遅いです
冬月光輝
恋愛
生まれつき高い魔力を持って生まれたアルゼオン侯爵家の令嬢アレインは、厳しい教育を受けてエデルタ皇国の聖女になり皇太子の婚約者となる。
しかし、皇太子は絶世の美女と名高い後輩聖女のエミールに夢中になりアレインに婚約破棄を求めた。
アレインは断固拒否するも、皇太子は「真実の愛に目覚めた。エミールが居れば何もいらない」と口にして、その証拠に国家予算の半分を慰謝料として渡すと宣言する。
後輩聖女のエミールは「気まずくなるからアレインと同じ仕事はしたくない」と皇太子に懇願したらしく、聖女を辞める退職金も含めているのだそうだ。
婚約破棄を承諾したアレインは大量の金塊や現金を規格外の収納魔法で一度に受け取った。
そして、実家に帰ってきた彼女は王族との縁談を金と引き換えに破棄したことを父親に責められて勘当されてしまう。
仕事を失って、実家を追放された彼女は国外に出ることを余儀なくされた彼女は法外な財力で借金に苦しむ獣人族の土地を買い上げて、スローライフをスタートさせた。
エデルタ皇国はいきなり国庫の蓄えが激減し、近年魔物が増えているにも関わらず強力な聖女も居なくなり、急速に衰退していく。
聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~
夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力!
絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。
最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り!
追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?
実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです
サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!
近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。
「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」
声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています。