「生まれ変わったら今度こそ一緒に」と非業の死を遂げた恋人が、今世ではクズ男になっていた

矢口愛留

文字の大きさ
2 / 3

第二話

しおりを挟む

 それからしばらくの時が経ち。
 学園で主催されるパーティーで、事件が起こった。

 なんと、パメラに想いを寄せる令息の一人が、刃傷沙汰を起こしてしまったのだ。

 犯人は、私の友人たちの婚約者ではなく、いつも彼女を取り巻く輪の、少し外側にいた令息である。
 私は彼の名前も知らなかったが、後で聞いた話によると、彼は婚約者も恋人もいない令息で、婚約者がいるのにパメラと懇意にしている者たちが許せなかったそうだ。

 そして。
 刺されたのは、彼の手近にいたらしい、セドリックだった。

 犯人に刺されたところから赤が広がって――、

「いやあああ!」

 その叫び声が、私から発せられたものだったと気がついたのは、騎士団長の令息に犯人が取り押さえられた後のことだった。

 私は無我夢中で、くずおれるセドリックの元に駆け寄る。

「セドリック様! 大変、血がたくさん――」
「ぐっ……、ああ、今度は……、守れた……」
「だめ、喋らないで!」

 セドリックを抱き起こして、話しかけているのは私なのに――こんな時にも、セドリックの視線はパメラに向いていた。
 そのパメラはというと、間近で刃傷沙汰に巻き込まれたのがショックだったのか、顔を青ざめさせて腰を抜かし、令息たちに介抱されている。

「セドリック様……どうしよう……!」

 私は、必死に彼の傷口を押さえる。
 けれど、赤が……恐ろしいほどの赤が、私の指の隙間からどんどん溢れてゆく。

「……俺の、天使アンジェ……、でも、約束……は、かはっ」
「だめ、だめよ! 逝かないで、お願い!」

 私は必死に、婚約者に――前世からただ一人愛し続けている人に、声をかける。
 いくら冷たくされても、結局彼への想いを諦めることができなかったのだ、私は。

「いやよ、だって、生きるって、一緒に生きるって約束したじゃない! お願いよ、ザック!」

 ――あまりにも必死で、周りの音も景色も、何もかも意識に入らなくなっていた。

 だから、私は、気がつかなかった。
 自分が何をしているのかも。

 誰に呼びかけ、何を話しているのかも――。


「……もういい。もういいよ、ローザ嬢」
「ひぐっ、よ、良くない……っ、ザックが、いないと、私、生きられな……っ、ザック、を、助け……っ」

 愛しい人を腕に抱いて泣きじゃくる私の背に、誰かの手がそっと触れた。
 温かくて、力強くて――ひどく鉄臭いけれど、とても懐かしい触れ方で。

「――もう、いいんだよ。助かったんだよ。ローザ……大切な、俺の、アンジェ」
「たす、かった……?」

 ようやく顔を上げた私の目の前にあったのは、端正な顔を歪めて泣き笑いをしている、懐かしくて愛おしい人の、かんばせだった。
 この世界で唯一大好きな赤色――甘く柔らかに細められた彼の目には、泣きはらした私の顔が映っている。

「ああ……こんなに近くにいたなんて。俺の唯一、俺の最愛……。それなのに、俺は、君を遠ざけようとして、傷つけて……俺は……っ」
「ううん、いいのよ。私、分かってるから――」

「――ローザ嬢。君が、そう・・だったのか」

 二人きりの世界に入り込んでいた私たちを現実に引き戻したのは、第一王子殿下の声だった。

「殿下……?」
「傷は内臓にまで達していただろう? そのような重傷まで一瞬で治してしまうとは、途轍もない力だな」
「……っ!」

 殿下のその言葉で、私はようやく、自分が何をしてしまったのかに気がついた。
 ――私は、瀕死のセドリックに、癒しの力を使ってしまったのだ。それも、公衆の面前で。

「ローザ嬢。それほどの強力な癒しの力、ずっと隠していたのか? セドリック、君はローザ嬢の力のことを、知っていたのか?」

 冷たいその声色に、セドリックが私を抱き込む力が強くなる。
 私も、怖くなって震えながら、彼にぎゅっとしがみついた。

 ――私も、知らなかったのだ。
 アンジェリカだった頃は本当に些少な力しか持っていなかったのだが、ローザに生まれ変わってから、癒しの力がこんなに強くなっていたとは。

 私は、再び不思議な力を持って生まれてきたことに気がづいてから、これまで一切力を使ったことがなかった。
 自身の力が露見するのが怖くて、たとえ自分や家族が怪我をしても、ぎゅっと目をつぶり見て見ぬ振りをして、やり過ごしてきたのだ。

「わ、わた、私は……申し訳……っ」
「殿下……どうか、どうかお見逃しを……」
「見逃すわけがないだろう」

 殿下はぴしゃりと言い放ち、突然、ふうと息を吐き出して相好を崩した。
 私とセドリックは、その「安心した」と言わんばかりの表情を見て、混乱する。

「ようやく見つけたよ、白の《聖女》。ああ、これでやっと、父上も私の立太子をお認め下さるだろう」
「え……《聖女》? え?」
「立太子……?」

 殿下は、完璧な笑顔を浮かべて頷いた。
 どうやら、《聖女》を見つけることが、国王陛下から課せられた課題だったらしい。

「幸い、目撃者も多数いる。ローザ嬢の力は、ここにいる皆が証明してくれるだろう。君たちは、身を清め、着替えて、ゆっくり休むといい」

 周りを見渡すと、皆が目を輝かせて、私に拍手を送っていた。
 理解が及んでいないのは、輪の中心でいまだ凄惨な赤色に染まっている、私とセドリックだけだ。

「あ、あの……皆さん、私が……《魔女》が怖くはないのですか?」
「はは、かつて《魔女》が迫害されていた時代ならともかく、今は《魔女》は崇められ、敬われる時代ではないか。特に、癒しの力を持つ《魔女》は白の《聖女》と呼ばれ、赤、青、黒の《聖女》と並び、非常に希少な人材だ」

 その言葉に、私とセドリックは顔を見合わせた。
 私は《魔女》の現状を知るのが怖くて、ずっとその話題を避けていたのだが、それはセドリックも同じだったらしい。

「事情は、後で必ず説明する。今は、湯浴みをしてくると良い」

 私とセドリックは、盛大な拍手に見送られ、困惑しながら、パーティー会場を後にしたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〖完結〗愛しているから、あなたを愛していないフリをします。

藍川みいな
恋愛
ずっと大好きだった幼なじみの侯爵令息、ウォルシュ様。そんなウォルシュ様から、結婚をして欲しいと言われました。 但し、条件付きで。 「子を産めれば誰でもよかったのだが、やっぱり俺の事を分かってくれている君に頼みたい。愛のない結婚をしてくれ。」 彼は、私の気持ちを知りません。もしも、私が彼を愛している事を知られてしまったら捨てられてしまう。 だから、私は全力であなたを愛していないフリをします。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全7話で完結になります。

世話焼き幼馴染と離れるのが辛いので自分から離れることにしました

小村辰馬
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢、エリス・カーマインに転生した。 幼馴染であるアーロンの傍にに居続けると、追放エンドを迎えてしまうのに、原作では俺様だった彼の世話焼きな一面を開花させてしまい、居心地の良い彼のそばを離れるのが辛くなってしまう。 ならば彼の代わりに男友達を作ろうと画策するがーー

〖完結〗親友だと思っていた彼女が、私の婚約者を奪おうとしたのですが……

藍川みいな
恋愛
大好きな親友のマギーは、私のことを親友だなんて思っていなかった。私は引き立て役だと言い、私の婚約者を奪ったと告げた。 婚約者と親友をいっぺんに失い、失意のどん底だった私に、婚約者の彼から贈り物と共に手紙が届く。 その手紙を読んだ私は、婚約発表が行われる会場へと急ぐ。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 前編後編の、二話で完結になります。 小説家になろう様にも投稿しています。

やり直し令嬢は何もしない

黒姫
恋愛
逆行転生した令嬢が何もしない事で自分と妹を死の運命から救う話

運命の番より真実の愛が欲しい

サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。 ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。 しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。 運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。 それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

そんな世界なら滅んでしまえ

キマイラ
恋愛
魔王を倒す勇者パーティーの聖女に選ばれた私は前世の記憶を取り戻した。貞操観念の厳しいこの世界でパーティーの全員と交合せよだなんてありえないことを言われてしまったが絶対お断りである。私が役目をほうきしたくらいで滅ぶ世界なら滅んでしまえばよいのでは? そんなわけで私は魔王に庇護を求めるべく魔界へと旅立った。

感情の無い聖女様は、公爵への生贄にされてしまいました

九条 雛
恋愛
「――私など、ただの〝祈り人形〟でございます。人形に感情はありませぬ……」 悪逆非道の公爵の元へと生贄として捧げられてしまった聖女は、格子の付いた窓を見上げてそう呟く。 公爵は嗜虐に満ちた笑みを浮かべ言い放つ。 「これからは、三食きちんと食べてもらおう。こうして俺のモノとなったからには、今までのような生活を送れるとは思わぬことだな」 ――これは、不幸な境遇で心を閉ざしてしまった少女と、その笑顔を取り戻そうとする男の物語。

処理中です...