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プロローグ
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いつもこうだ。
おままごとをすると、ティアナとダリウスが夫婦役で、俺はその子供役。
あいつ等にとって俺は、いつも可愛い年下の弟分。ティアナとは一つ、ダリウスとは二つ年が離れているから、それも仕方の無い事なのかもしれない。
だけど、何か心にもやもやしたものが生まれる。
「子供役ばっかり嫌だ!」
俺が駄々をこねると、根が優しいあいつ等は役を譲ってくれる。でもそうすると俺は、自分よりも大きな子供二人を抱えた父親兼母親役になる。
なんか間違ってるだろ、これ。
俺もダリウスみたいにティアナのお婿さん役をやりたかったのに。でも、本人を目の前にしてそんな事いえない。仕方なくそのままおままごと続行だ。
だけど、こうやって三人で過ごす時間は嫌いじゃ無かった。ティアナもダリウスも、俺にとっては大事な幼馴染であることに変わりなかったから。
◇
俺達の関係に変化が訪れたのは、ダリウスが十五歳になった頃、一足先に王都にあるルフェーブル魔法学園に通い始めてからだ。
雑貨屋の息子である俺と、仕立屋の娘であるティアナ、憲兵の息子であるダリウス。
紛れもなく両親ともに普通の平民だが、魔法の素養があると分かった俺達は、平民ながらに魔法学園に通う義務があった。魔法の正しい知識や使い方、制御方法などを学び、暴発事故を防ぐために国が取っている措置だ。
基本、平民に魔力はない。高貴な血筋を引く者だけが魔力を持っている。
だから貴族は貴族同士結婚して、魔力の損失を防ぐのが普通だ。
ただ何らかの理由で高貴な血筋が先祖に交じっていた場合、平民でもまれに魔力を持って生まれる事がある。
「先祖返り」と言われ、ご先祖様が使っていた魔法と同じ能力を使えるのだ。
俺は心の中にイメージしたものを具現化できる光属性の創造魔法
ティアナは魔法をかけた物の魅力を最大限に引き出せる闇属性の魅了魔法
ダリウスは自在に雷を召喚し操る事ができる雷属性の召雷魔法
稀にみる魔力持ちラッシュの誕生で、村長がびっくりしていたっけな。
しかも俺たちが使える魔法が、現代ではほぼ失われた光魔法と闇魔法、王族のみが使える雷魔法だった事がさらに皆を驚かせた。
小さい頃、ダリウスは色んな所に雷落とすし、ティアナは触れたものの魅力を無意識のうちに高めて人集りを作るし、俺は想像したものを何でも具現化してしまって道路にガラクタを散らかすしで、結構迷惑をかけまくってた。
それなら皆のためになる事をしようと、俺が創造魔法で適当に作ったオブジェに、ティアナが魅了魔法をかけて、威厳を出すためにその周りにダリウスが雷を纏わせて、広場にある偉人の石像の横に飾ってたら、村長から拳骨をもらったのは、苦い思い出だ。
そんな俺達は、エルグランド王国の北方にあるスノーリーフ村という田舎町で育った。
ここから王都にある学園までは、馬車で片道五日はかかる。
子供の俺達にとってそれは、とても遠くにダリウスが行ってしまうことと同じだった。
頑張ってね、と笑顔で見送るティアナの目には涙が浮かんでいた。
ダリウスが旅だった後、ティアナの落ち込みようといったら半端なかった。
それなのに、俺の前では何事もなかったかのように振る舞うその笑顔が痛々しくて見てられなかった。
それと同時に思い知らされた。ティアナにとってダリウスがどれだけ大きな存在だったかを。
毎日ポストを覗いてはその結果に一喜一憂して、ダリウスからの手紙が入っていた日には本当に嬉しそうに報告してくる。同じ内容の手紙が俺の所にも来ていたとは、口が裂けても言えなかった。
入学の時期が近付くにつれ、学園への準備を楽しそうに始めていたティアナ。ダリウスが大好きだったメルムの実をたくさん鞄に詰め込んで、俺の元から笑顔で旅立っていった。
人生の中のほんの一年に過ぎない期間が、俺にとっては永遠に感じられるほど長く感じた。
ダリウスもティアナも居なくなったスノーリーフ村は、色を失ったように味気なくて張り合いがなかった。
でもこれは逆に、ティアナを見返すチャンスかもしれない。
この一年で大きく成長し弟分を脱却して、一人の男として見てもらえるように頑張ろう。
そう思って励んだ一年後、俺は逆に打ちのめされることとなる。
ほんの一年の間にティアナは見違える程可愛くなっていた。
それだけじゃない。学生用の大きなサロンで、ティアナの周りには眉目秀麗なイケメン集団が群がっていたのだ。
「ティアナ、隣いいか?」
「殿下には特別席をご用意しておりますのでどうぞあちらへ。ティアナの隣はこの私が……」
「じゃあこっちは僕がもらうね!」
「騒がしいぞ。邪魔になるから散れ!」
その様子を唖然と見つめる俺に、俺のクラスを取り仕切っているリッチモンド伯爵子息ゲルマンが意地汚い笑みを浮かべて話しかけてきた。
「いいか、貧乏人。あのお方達はルフェーブル学園を取り仕切っていらっしゃるとても偉いお方達だ。あそこにおられる一番の……」
横で、聞いてもないのにゲルマンが勝手に奴等の紹介をしてくれた。
最初にティアナに声をかけた美男子は、このエルグランド王国の第一王子ハイネル。
類い希なる魔力の才能を持ち、入学以来常に主席をキープして君臨するこの学園のリーダー。
国宝級のイケメンと称されるルックスの持ち主で、学年はダリウスと同じ三年生。
そんな第一王子ハイネルを特別席へ跳ね除けティアナの隣に座ろうとしたのが、宰相の子息、リヒテンシュタイン侯爵家の嫡男シリウス。
優れた目利き能力と審美眼を持ち併せ、芸術家としての一面も持つらしい。
かけられた眼鏡が知的な印象を受けるイケメンで、学年はハイネルと同じ三年生。
人懐っこい笑みを浮かべてティアナの逆隣に馴れ馴れしく腰掛けたのが、テオドール公爵家嫡男のエミリオ。
温室でよく花やハーブの水やりをしていて園芸が趣味らしい。
そこまで高くない身長と中性的な顔立ちを持ち、無邪気なあどけなさを残した美少年だ。学年はティアナと同じ二年生。
眉間に皺を寄せて騒がしいと注意しているのが、王国騎士団長の子息、ローレンツ公爵家嫡男のレオンハルト。
正義感が強く、文武両道を地で行く優等生らしく、周りからの信頼も厚いらしい。
大柄で引き締まった体躯に、精悍な顔つきの男らしい武闘派イケメンだ。学年はティアナと同じ二年生。
「分かったか? あのお方達には決して粗相がないようするんだぞ。連帯責任でとばっちりが俺にまで来るからな!」
横でゲルマンが何かわめいてたけど、適当に返事をして聞き流しておいた。
次期エルグランド王国を担う眉目秀麗なエリート集団が、ティアナの周りにハエのように群がっている。明らかに異常な光景だった。
周囲にはピリピリとした空気が漂っていて、女子生徒の大半がその様子を面白くないといった様子で遠巻きに眺めていた。
しかし表立って苦言を呈する者はいない。
格差社会のこの学園で、第一王子ハイネルが実質的な一番の権力保持者だと皆理解しているからだ。
おままごとをすると、ティアナとダリウスが夫婦役で、俺はその子供役。
あいつ等にとって俺は、いつも可愛い年下の弟分。ティアナとは一つ、ダリウスとは二つ年が離れているから、それも仕方の無い事なのかもしれない。
だけど、何か心にもやもやしたものが生まれる。
「子供役ばっかり嫌だ!」
俺が駄々をこねると、根が優しいあいつ等は役を譲ってくれる。でもそうすると俺は、自分よりも大きな子供二人を抱えた父親兼母親役になる。
なんか間違ってるだろ、これ。
俺もダリウスみたいにティアナのお婿さん役をやりたかったのに。でも、本人を目の前にしてそんな事いえない。仕方なくそのままおままごと続行だ。
だけど、こうやって三人で過ごす時間は嫌いじゃ無かった。ティアナもダリウスも、俺にとっては大事な幼馴染であることに変わりなかったから。
◇
俺達の関係に変化が訪れたのは、ダリウスが十五歳になった頃、一足先に王都にあるルフェーブル魔法学園に通い始めてからだ。
雑貨屋の息子である俺と、仕立屋の娘であるティアナ、憲兵の息子であるダリウス。
紛れもなく両親ともに普通の平民だが、魔法の素養があると分かった俺達は、平民ながらに魔法学園に通う義務があった。魔法の正しい知識や使い方、制御方法などを学び、暴発事故を防ぐために国が取っている措置だ。
基本、平民に魔力はない。高貴な血筋を引く者だけが魔力を持っている。
だから貴族は貴族同士結婚して、魔力の損失を防ぐのが普通だ。
ただ何らかの理由で高貴な血筋が先祖に交じっていた場合、平民でもまれに魔力を持って生まれる事がある。
「先祖返り」と言われ、ご先祖様が使っていた魔法と同じ能力を使えるのだ。
俺は心の中にイメージしたものを具現化できる光属性の創造魔法
ティアナは魔法をかけた物の魅力を最大限に引き出せる闇属性の魅了魔法
ダリウスは自在に雷を召喚し操る事ができる雷属性の召雷魔法
稀にみる魔力持ちラッシュの誕生で、村長がびっくりしていたっけな。
しかも俺たちが使える魔法が、現代ではほぼ失われた光魔法と闇魔法、王族のみが使える雷魔法だった事がさらに皆を驚かせた。
小さい頃、ダリウスは色んな所に雷落とすし、ティアナは触れたものの魅力を無意識のうちに高めて人集りを作るし、俺は想像したものを何でも具現化してしまって道路にガラクタを散らかすしで、結構迷惑をかけまくってた。
それなら皆のためになる事をしようと、俺が創造魔法で適当に作ったオブジェに、ティアナが魅了魔法をかけて、威厳を出すためにその周りにダリウスが雷を纏わせて、広場にある偉人の石像の横に飾ってたら、村長から拳骨をもらったのは、苦い思い出だ。
そんな俺達は、エルグランド王国の北方にあるスノーリーフ村という田舎町で育った。
ここから王都にある学園までは、馬車で片道五日はかかる。
子供の俺達にとってそれは、とても遠くにダリウスが行ってしまうことと同じだった。
頑張ってね、と笑顔で見送るティアナの目には涙が浮かんでいた。
ダリウスが旅だった後、ティアナの落ち込みようといったら半端なかった。
それなのに、俺の前では何事もなかったかのように振る舞うその笑顔が痛々しくて見てられなかった。
それと同時に思い知らされた。ティアナにとってダリウスがどれだけ大きな存在だったかを。
毎日ポストを覗いてはその結果に一喜一憂して、ダリウスからの手紙が入っていた日には本当に嬉しそうに報告してくる。同じ内容の手紙が俺の所にも来ていたとは、口が裂けても言えなかった。
入学の時期が近付くにつれ、学園への準備を楽しそうに始めていたティアナ。ダリウスが大好きだったメルムの実をたくさん鞄に詰め込んで、俺の元から笑顔で旅立っていった。
人生の中のほんの一年に過ぎない期間が、俺にとっては永遠に感じられるほど長く感じた。
ダリウスもティアナも居なくなったスノーリーフ村は、色を失ったように味気なくて張り合いがなかった。
でもこれは逆に、ティアナを見返すチャンスかもしれない。
この一年で大きく成長し弟分を脱却して、一人の男として見てもらえるように頑張ろう。
そう思って励んだ一年後、俺は逆に打ちのめされることとなる。
ほんの一年の間にティアナは見違える程可愛くなっていた。
それだけじゃない。学生用の大きなサロンで、ティアナの周りには眉目秀麗なイケメン集団が群がっていたのだ。
「ティアナ、隣いいか?」
「殿下には特別席をご用意しておりますのでどうぞあちらへ。ティアナの隣はこの私が……」
「じゃあこっちは僕がもらうね!」
「騒がしいぞ。邪魔になるから散れ!」
その様子を唖然と見つめる俺に、俺のクラスを取り仕切っているリッチモンド伯爵子息ゲルマンが意地汚い笑みを浮かべて話しかけてきた。
「いいか、貧乏人。あのお方達はルフェーブル学園を取り仕切っていらっしゃるとても偉いお方達だ。あそこにおられる一番の……」
横で、聞いてもないのにゲルマンが勝手に奴等の紹介をしてくれた。
最初にティアナに声をかけた美男子は、このエルグランド王国の第一王子ハイネル。
類い希なる魔力の才能を持ち、入学以来常に主席をキープして君臨するこの学園のリーダー。
国宝級のイケメンと称されるルックスの持ち主で、学年はダリウスと同じ三年生。
そんな第一王子ハイネルを特別席へ跳ね除けティアナの隣に座ろうとしたのが、宰相の子息、リヒテンシュタイン侯爵家の嫡男シリウス。
優れた目利き能力と審美眼を持ち併せ、芸術家としての一面も持つらしい。
かけられた眼鏡が知的な印象を受けるイケメンで、学年はハイネルと同じ三年生。
人懐っこい笑みを浮かべてティアナの逆隣に馴れ馴れしく腰掛けたのが、テオドール公爵家嫡男のエミリオ。
温室でよく花やハーブの水やりをしていて園芸が趣味らしい。
そこまで高くない身長と中性的な顔立ちを持ち、無邪気なあどけなさを残した美少年だ。学年はティアナと同じ二年生。
眉間に皺を寄せて騒がしいと注意しているのが、王国騎士団長の子息、ローレンツ公爵家嫡男のレオンハルト。
正義感が強く、文武両道を地で行く優等生らしく、周りからの信頼も厚いらしい。
大柄で引き締まった体躯に、精悍な顔つきの男らしい武闘派イケメンだ。学年はティアナと同じ二年生。
「分かったか? あのお方達には決して粗相がないようするんだぞ。連帯責任でとばっちりが俺にまで来るからな!」
横でゲルマンが何かわめいてたけど、適当に返事をして聞き流しておいた。
次期エルグランド王国を担う眉目秀麗なエリート集団が、ティアナの周りにハエのように群がっている。明らかに異常な光景だった。
周囲にはピリピリとした空気が漂っていて、女子生徒の大半がその様子を面白くないといった様子で遠巻きに眺めていた。
しかし表立って苦言を呈する者はいない。
格差社会のこの学園で、第一王子ハイネルが実質的な一番の権力保持者だと皆理解しているからだ。
応援ありがとうございます!
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