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第16話 地獄の日々
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この二週間は、本当に地獄のような日々だった。
連休が終わった後も、俺は寮に帰る事を許されず授業が終われば公爵家に軟禁された。
勿論、侍従としての基礎知識と業務を叩き込まれるために。
屋敷の周りを何回走らされたか、もう覚えていない。
しかも後ろからナイフが飛んでくるし、それを避けながらとかどんな鬼畜罰ゲームだよ。
まぁティアナにもらった香袋のおかげで、体力面での疲れは何とかなった。
問題はその後だ。
公爵家の人間はどれだけ香りのついたお茶が好きなんだよと、思わず悪態をつきたくなる程のフレーバーの数々に泣きたくなった。
エレインの研究室にあった茶葉はほんの一部だったのだと思い知らされた。
一つ一つ早口で茶葉の効能を説明され、ご主人様の様子を見てフレーバーをブレンドして出しているらしい。
茶葉の効能ぐらいなら、何とか覚える事は出来た。
カモミールには優れた整肌作用や抗炎症作用、アレルギーを改善する作用など、とりあえず色んな効能があるとか。
しかし一番の問題はご主人様の様子を見て、ベストの一杯を出せという無理難題だった。
どれくらいフレーバーをブレンドしたらいいのか分かんないよ。
そこに正解はないらしく、逐一変わるご主人様の様子を見て自分で考えろときたものだ。
勿論、味も考慮しないといけない。何でもかんでも混ぜれば良いというわけでもなく、ご主人様好みの一杯を作る必要があるそうだ。
猫舌の俺には何とも辛い時間で、色々飲み比べしすぎてお腹が緩くなるし、味を覚えるのが一番大変だった。
やっと終わったと思ったら今度はコーヒーを出された。
色んなフレーバーの茶が入った胃に、コーヒーなんて追加したら俺の胃は大炎上しちまうじゃないか。
絶望の淵に居た時、「エレイン様はコーヒーは飲まれない」という鬼畜眼鏡の一言に俺は救われた。
だが侍従として、一般的な基礎知識と淹れ方だけはみっちり教えられた。
そんなこんなで、侍従としての基礎知識と業務を叩き込まれた俺は、何とかバイオレンス鬼畜眼鏡侍従長の訓練を乗り切った。
「ルーカス、これにて基礎業務訓練は終了致します。よくここまでついてこれましたね。誠心誠意エレイン様に仕えるよう精進して下さい」
「はい、クラウス様。ありがとうございました」
本当にこの二週間が辛すぎて、テオドール公爵家の正式な侍従として認められた者に与えられるピンバッジをもらった時は、感動で泣きそうだった。
やっと明日には癒しのマイホームに帰れる。あのオンボロ寮でも、俺にとっては最高の我が家だ。
気が抜けた俺はその日、ベッドに入るなりすぐに眠りについた。
「起きろ、ルーカス」
翌朝、誰かが俺の身体を揺さぶっているので起こされた。それも、かなり強い力で。目を開けると、前に居たのは長い銀髪の美少女だった。
「いつまで寝てるつもり? 主にわざわざ足を運ばせるなんて、ほんと良い度胸してるね? 何をしてもらおうかな」
主? まさか、この方は……
「エレイン様、朝から何故女装されてるんですか?」
「女装って、僕は女だ! 家でくらい普通の格好してたっていいだろ!」
そうだった、いつもエミリオの格好(男装)してたから忘れがちだけど、中身女だった。
「……何、人の顔ジロジロ見て」
「いえ……そうされていると白百合のように可憐で美しいなと思いまして」
テオドール公爵家、侍従規則第一条「朝の始まりは主を褒める事から」に則り、エレインを褒めた。
すると何故か、盛大に顔ごとプイッと視線を逸らされてしまった。やばい、怒らせてしまったのだろうか。クラウスが見てたら俺、きっと今頃ナイフで滅多差しにされてるに違いない。
「僕に対して第一条は実行しなくていい」
「はい?」
「お世辞で褒められても嬉しくないから、第一条は実行しなくていい!」
「か、かしこまりました。ですがエレイン様、今の貴方は本当にお綺麗ですよ。お世辞でもなんでもなく」
雪の結晶を連想させるような美しい銀髪に紫紺色の大きな瞳。纏っている魔力が火属性でなければ、少し幼く見える容姿も守ってあげたくあるような儚なげな美少女そのものだ。エルグランドの北方地方は寒い日が多いから、火属性の魔法は重宝されるけど、容姿と魔力は本当にミスマッチな方だよな、勿体ない。ついでに性格も。
「だから、褒めるなー!」
エレインの拳が見事に俺の鳩尾にクリーンヒット。もろにそれを受けた俺は再びベッドへ逆戻りするはめになった。褒めてなかったのが、バレたのか……くっ、火属性魔法で身体強化してからのパンチはやめて下さい、切実に。
「駄目じゃないか、レイ。折角の侍従君がまた再起不能になっちゃうよ」
「お兄様、このような所まで来られて大丈夫なのですか?!」
「リハビリがてらね。クラウスの試練を耐え抜いた新星君に、ご挨拶しとこうと思って」
ほ、本物のエミリオじゃないか。うっわ、本当にそっくりだな、普段の男装したエレインと見分けつかねぇ。
連休が終わった後も、俺は寮に帰る事を許されず授業が終われば公爵家に軟禁された。
勿論、侍従としての基礎知識と業務を叩き込まれるために。
屋敷の周りを何回走らされたか、もう覚えていない。
しかも後ろからナイフが飛んでくるし、それを避けながらとかどんな鬼畜罰ゲームだよ。
まぁティアナにもらった香袋のおかげで、体力面での疲れは何とかなった。
問題はその後だ。
公爵家の人間はどれだけ香りのついたお茶が好きなんだよと、思わず悪態をつきたくなる程のフレーバーの数々に泣きたくなった。
エレインの研究室にあった茶葉はほんの一部だったのだと思い知らされた。
一つ一つ早口で茶葉の効能を説明され、ご主人様の様子を見てフレーバーをブレンドして出しているらしい。
茶葉の効能ぐらいなら、何とか覚える事は出来た。
カモミールには優れた整肌作用や抗炎症作用、アレルギーを改善する作用など、とりあえず色んな効能があるとか。
しかし一番の問題はご主人様の様子を見て、ベストの一杯を出せという無理難題だった。
どれくらいフレーバーをブレンドしたらいいのか分かんないよ。
そこに正解はないらしく、逐一変わるご主人様の様子を見て自分で考えろときたものだ。
勿論、味も考慮しないといけない。何でもかんでも混ぜれば良いというわけでもなく、ご主人様好みの一杯を作る必要があるそうだ。
猫舌の俺には何とも辛い時間で、色々飲み比べしすぎてお腹が緩くなるし、味を覚えるのが一番大変だった。
やっと終わったと思ったら今度はコーヒーを出された。
色んなフレーバーの茶が入った胃に、コーヒーなんて追加したら俺の胃は大炎上しちまうじゃないか。
絶望の淵に居た時、「エレイン様はコーヒーは飲まれない」という鬼畜眼鏡の一言に俺は救われた。
だが侍従として、一般的な基礎知識と淹れ方だけはみっちり教えられた。
そんなこんなで、侍従としての基礎知識と業務を叩き込まれた俺は、何とかバイオレンス鬼畜眼鏡侍従長の訓練を乗り切った。
「ルーカス、これにて基礎業務訓練は終了致します。よくここまでついてこれましたね。誠心誠意エレイン様に仕えるよう精進して下さい」
「はい、クラウス様。ありがとうございました」
本当にこの二週間が辛すぎて、テオドール公爵家の正式な侍従として認められた者に与えられるピンバッジをもらった時は、感動で泣きそうだった。
やっと明日には癒しのマイホームに帰れる。あのオンボロ寮でも、俺にとっては最高の我が家だ。
気が抜けた俺はその日、ベッドに入るなりすぐに眠りについた。
「起きろ、ルーカス」
翌朝、誰かが俺の身体を揺さぶっているので起こされた。それも、かなり強い力で。目を開けると、前に居たのは長い銀髪の美少女だった。
「いつまで寝てるつもり? 主にわざわざ足を運ばせるなんて、ほんと良い度胸してるね? 何をしてもらおうかな」
主? まさか、この方は……
「エレイン様、朝から何故女装されてるんですか?」
「女装って、僕は女だ! 家でくらい普通の格好してたっていいだろ!」
そうだった、いつもエミリオの格好(男装)してたから忘れがちだけど、中身女だった。
「……何、人の顔ジロジロ見て」
「いえ……そうされていると白百合のように可憐で美しいなと思いまして」
テオドール公爵家、侍従規則第一条「朝の始まりは主を褒める事から」に則り、エレインを褒めた。
すると何故か、盛大に顔ごとプイッと視線を逸らされてしまった。やばい、怒らせてしまったのだろうか。クラウスが見てたら俺、きっと今頃ナイフで滅多差しにされてるに違いない。
「僕に対して第一条は実行しなくていい」
「はい?」
「お世辞で褒められても嬉しくないから、第一条は実行しなくていい!」
「か、かしこまりました。ですがエレイン様、今の貴方は本当にお綺麗ですよ。お世辞でもなんでもなく」
雪の結晶を連想させるような美しい銀髪に紫紺色の大きな瞳。纏っている魔力が火属性でなければ、少し幼く見える容姿も守ってあげたくあるような儚なげな美少女そのものだ。エルグランドの北方地方は寒い日が多いから、火属性の魔法は重宝されるけど、容姿と魔力は本当にミスマッチな方だよな、勿体ない。ついでに性格も。
「だから、褒めるなー!」
エレインの拳が見事に俺の鳩尾にクリーンヒット。もろにそれを受けた俺は再びベッドへ逆戻りするはめになった。褒めてなかったのが、バレたのか……くっ、火属性魔法で身体強化してからのパンチはやめて下さい、切実に。
「駄目じゃないか、レイ。折角の侍従君がまた再起不能になっちゃうよ」
「お兄様、このような所まで来られて大丈夫なのですか?!」
「リハビリがてらね。クラウスの試練を耐え抜いた新星君に、ご挨拶しとこうと思って」
ほ、本物のエミリオじゃないか。うっわ、本当にそっくりだな、普段の男装したエレインと見分けつかねぇ。
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