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極悪チャイルドマーケット殲滅戦!四人四様の催眠術のかかり方!

「交流戦」

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「交流戦」
 9月29日交流戦の前日の午後八時、西沢米穀特設リング会場のリング上に夏子、陽菜と稀世、まりあの四人の姿があった。リングコーナーで片膝をついている稀世とまりあをリング中央で夏子と陽菜が見下ろしている。
「うん、これならいけるで!体重差なんか関係あれへん!ねえ、まりあさん。」
「せやな、ふたりでひとつの合体技!もしかしたら女子プロレス、いや、プロレス界に一大ムーブメントを起こす伝説の技になるかもしれへんよ。私と、稀世があんたらふたりの攻撃の前になんもできへんかったんやからなぁ。」
「なっちゃん、陽菜ちゃん、すごいで!よくこんな技考え付いたなぁ。私とまりあさんを同時に吹っ飛ばすんやから、明日の交流戦の相手やったら、その場でダウンするか、リング下までぶっ飛ばせんのとちゃうか。これやったら。50キロまでしか持ち上げられへんでも大丈夫や!」
「あぁ、夏子と陽菜にしたらようやった。普通の女子レスラーでこの技を受け切れる奴は今の日本の女子プロの中には絶対に居れへんぞ!」
 稀世とまりあが夏子と陽菜を褒め倒した。まりあが、技のダメージを感じながら、ゆっくりと立ち上がりふたりに聞いた。
「ところで、あんたら、どうやってこの技を開発したんや?シングルマッチでは絶対にできへん技をタッグマッチでの必殺技に仕上げてくるとは、なかなか感心するわ。」
「そうそう、普通やないで。まりあさんが言うように、普通のプロレス感覚じゃ絶対に思いつけへん。なっちゃんと陽菜ちゃんやないと思いつけへんでなぁ。」
稀世が続いた。
「うん、陽菜ちゃんと「運動力量」についてちょっと勉強してん。私ら、まりあさんや稀世姉さんみたいに「デブ」、あっ、いや、「体重」が無いから、どうしても攻撃が軽いねんな。衝撃力って「重さ」×「加速度」と「スピード」×「回数」やから。」
「せやねん、軽い攻撃を数出すか、重い攻撃を一発出すか、どっちがええのかを、ふたりで考えたんよ。そしたら、結論が出たんです。なんやったと思います?」
夏子、陽菜が稀世、まりあに聞き返す。
「わ、私、物理とか数学とか全然あかんかったから…、まりあさん、なんやと思います?」
「稀世、なに私にふってんねん。たかが、夏子と陽菜の考えやぞ、そんな難しいことあれへんやろ…。でも、わからん。」
稀世もまりあも答えが分からない。

 夏子と陽菜がどや顔で解説する。
「もう、まりあさんも稀世姉さんも「感覚派」というか、根っから「肉体派」やから、私らみたいな「頭脳派」の考えは、わからないですよねぇ。」
「そうそう、中学校の理科レベルの話なんですよ。答えはですねぇ、「重い攻撃」を「多数出す」ですわ。そのための回転運動なんです。直線運動はどうしてもパンチのように腕を伸ばして出し切ったところと、引き付けて出す前って加速度が「ゼロ」になるときがあるやないですか。ピストン運動の「上死点」、「下死点」みたいなもんですよね。それが回転運動にはあれへんのです。」
「たとえて言うと、自動車エンジンの「直線運動」をベースにするクランク運動のピストンエンジンより、「回転運動」のロータリーエンジンの方が小型で高出力が出るっていうことですね。」
「まぁ、格好つけて話しましたけど、ネタ元は、ふたりでDVDで見た「俺たちフィギュアスケーターズ」っていう男子選手ふたりのペアスケートの映画に出てきた「アイアンロータス」っていう技なんですけどね。」
 夏子と陽菜は笑った。(ん?男子ペアスケートの技?)稀世とまりあは、わかったようなわからないような顔をして夏子、陽菜の話を聞いている。まりあが、腕組みをして、夏子と陽菜に励ましの言葉をかけた。
「夏子、陽菜、新技を思いっきりぶちかましてやれ!明日の交流戦で無事に初勝利を挙げられたら、BARまりあで祝勝会するから頑張るんやで!」
「うん、私とまりあさんでセコンドにつくからしっかりね!応援してるで!」
稀世が、夏子と陽菜の手を取る。
「はい!頑張って、「交流戦初勝利」勝ち取ります!」
「今までの「なつ&陽菜」じゃない私たちのファイトを見てくださいね!」

 9月30日午後四時、大阪ニコニコプロレスの控室で、夏子と陽菜が入念にストレッチをしている。稀世が、大阪スポーツを持ってきて、嬉しそうにふたりに話しかけた。
「なっちゃん、陽菜ちゃん、今日の大スポの星占い見た?なっちゃんは、「今日はハッピーデイ!あなたの夢が叶います。」。陽菜ちゃんは、「やりすぎに注意しましょう!」やて。
 なっちゃんは、やっぱり交流戦初勝利が「夢」やろうし、陽菜ちゃんは、「新必殺技」で相手をぼこぼこにしすぎんようにってことやろうな。」
とご機嫌だ。館内放送で「第二試合開始です。第三試合のタッグチームは準備お願いします。」とコールがかかった。
「よっしゃ、陽菜ちゃん行くで!」
「あいよ!なっちゃん、今日こそ勝とな!」
ふたりは、元気にガウンを羽織り、プラカードを担いで控室を出て行った。
 第二試合が早めの終了となったため、予定よりも早い試合開始になった。今日の相手タッグは、デビュー二ケ月の新人だが、ふたりとも体重60キロ台の大型女子レスラーペアだった。共に50キロに満たない夏子と陽菜の勝ちを予想するものは、ニコニコプロレスファンにも少なかった。
 今日の夏子は、いつもの「YASUKIYO2」の入場パフォーマンスの後、リングガウンを脱ぐと、夏子は真っ黒な光沢を放つ皮製のボンテージコスチュームだった。先端に六本の皮帯がついたSM用の鞭を夏子は振り回し、その後ろを陽菜が「M男募集中」のプラカードを持ち、夏子についていく。プラカードには、「ただしイケメンに限る!」とのポップがテープ止めされている。
 会場にこの日一番の、大きな歓声と笑いが起こった。リングを一周する間に夏子の振り回す鞭先が、プラカードのボードにかすり、「ただしイケメンに限る」のポップが剥がれ落ちた。相手タッグは、夏子と陽菜を「イロモノ」を見るような目で見て、小さく鼻で笑った。
 自コーナーに戻り、プラカードと鞭をセコンドの稀世に渡した。
「よし、遊びはここまでや。必殺技の「アイアンロータス改」があると思って油断すんなよ!まずは、技を出すチャンスを作るんや。」
まりあは、真剣に夏子と陽菜にアドバイスをしている。
  リングアナが両タッグの紹介を行い、レフリーがコスチュームチェックを終え、ゴングが鳴った。試合開始から、短い間隔でタッチを交わし、夏子と陽菜は相手選手ふたりの力量を確認した。
「陽菜ちゃん、相手ふたりとも、まりあさん、稀世姉さんと比べたら全然カスや!」
「せやな、技のキレはないし、動きも鈍い。ただのデブやな。これならいけるで、なっちゃん!」
タッチを交わす際に、ふたりは勝利を確信していた。
「夏子、陽菜!気を抜くんやないで!油断して大技食らわんようにな!」
「なっちゃん、陽菜ちゃん頑張れ!相手はスタミナ切れかかってるで!」
セコンド陣も大きな声で喝を入れる。

 セコンドから注意を受けた直後、夏子がリング中央で相手選手のラリアットを受け仰向けに倒れた。相手選手はコーナーのトップロープからフライングニードロップ攻撃に出た。ロープに上るのに手間取ったため、夏子は十分かわす余裕があった。相手の技を外し、自爆した膝を抱えて立ち上がる相手に対して、助走なしのドロップキックをかましたが、体重差から効き目が薄い。ボディースラムをかけようと相手の肩と股間に手を入れ持ち上げようとするが持ち上がらない。(くそっ!こいつ重過ぎるで、「このデブ!」)
 ボディースラムをあきらめ、延髄切りを繰り出した。これはうまくツボにはまり、相手は倒れた。今日初のフォール体制に入るがカウント2でタッグパートナーが入ってきて、夏子の背中にストンピングを入れる。二対一の状況となり、夏子は集中攻撃を受ける。肩ひものない皮ボンテージの胸の部分に相手の指先が引っ掛かり、「胸ポロリ」してしまう。
  「おおーっ!」観客席から大きな歓声が湧き上がった。あわてて、胸を直す間も、二対一で一方的に蹴りを入れられ続ける。
「陽菜!行け!好き勝手させるな!」
セコンドのまりあが叫び、夏子を助けに陽菜がリングに入った。
 相手の背後からふたりに思いっきり助走をつけてのブランチャーをかました。相手ふたりが前のめりに倒れた。
「なっちゃん、やるで!」
「任せた!陽菜ちゃん!」
仰向けに倒れた夏子の両太ももを陽菜の腰の左右に抱え上げると、ジャイアントスイングの体勢に入った。
「アイアンロータス改!決めたれーっ!」
稀世がセコンドで叫ぶ。

 本来、相手にかける大技であるジャイアントスイングを味方の夏子にかけたことで、リングアナは混乱し、裏返った声で、
「なんだ、これは!夏子選手ひとりに対する一対三の状態!ニコニコプロレスチーム、仲間割れか?いったい何が起こっているんだー!」
と絶叫している。相手選手も状況が把握できず、立ち上がったもののボーっとしている。そこに夏子を抱えて回転する陽菜が突っ込んだ。一回、二回、三回と回転する夏子が相手選手ふたりの脇腹、背中、そして肩口と交互に当たる。夏子の体重に陽菜の回転加速度が加わり、プロフィール上、60キロ以上ある相手選手が吹っ飛ぶ。五回転目、夏子の頭と相手選手ふたりの頭がぶつかり、相手はふたりとも泡を吹いてリング上に大の字になり倒れた。
  レフリーがふたりの瞼に人差し指と親指をかけ、開き、意識がないことを確認すると、両手を頭上でクロスさせた!ゴングが打ち鳴らされ、夏子陽菜組の交流戦初勝利が決まった瞬間だ!
「やったぜ、夏子!」
「やったね、陽菜ちゃん!」
とまりあと稀世が喜び歓喜の声を上げてリングに入った瞬間、「ボコッ!」、「バコッ!」っと回転を続ける夏子の頭がまりあと稀世に襲い掛かった。
「バカ!陽菜、試合は終わったんや!止めろ!」
まりあが叫ぶが、陽菜は止まらない。二発、三発とまりあと稀世に回転攻撃が続いた。
「こいつ、意識がぶっ飛んでやがる!」
  まりあと稀世が、体を張って陽菜にタックルをかまそうと飛び込んだところ、偶然、夏子の頭がまりあと稀世のあごにヒットし、不意に脳を横方向に揺さぶられたふたりは脳震盪を起こしリングに倒れた。止まらない夏子と陽菜を止めようとレフリーが飛び込むも、レフリーも吹っ飛ばされ、ロープに跳ね返され、稀世に重なって倒れた。誰も立っているものがいなくなったリングでさらに五回転した陽菜は、腕のホールドが緩み、夏子を放り投げた。放り投げられた夏子が、ふらふらと起き上がったまりあの頭に直撃し、再びまりあは倒れ込んだ。陽菜も完全に目を回し、倒れた稀世の足に引っ掛かり、仰向けに倒れ込み動かなくなった。リング上には、大の字に倒れ動かなくなった七体の屍が残った。リング下最前列の席で、直がひまわりを抱っこして
「あーあ、やっぱり、夏子、陽菜は、「夏子、陽菜」以上でもなければ、以下でもあれへんなぁ…。ひまちゃんは、あんな「アホ」な女になったらあかんでなぁ。」
と微笑みかけた。その横で、三朗と舩阪は真っ青になっていた。



おまけ
久しぶりというか、めったに出ない「ファイトシーン」回でした(笑)!

「プロレス小説」じゃなくて「プロレスラーの出てくる小説」なんで勘弁してください!
80’sのプロレスファンなんで、今の技とかよくわかってないんですよ(笑)

他の「プロレス作品」では、ファイトシーンは他の人に任せてたりします。
ほんと、めったにファイトシーンは書かないんですよ!
リアルレスラーが登場する作品は、各々の得意技を描くんですけど、この作品では、稀世ちゃん以外、「得意技」の設定もしてない(笑)!
いい加減ですみません。

お詫びに、「リンコス」のなっちゃんと陽菜ちゃんをアップしておきます。
今回も「ひいちゃん」さんにいただいた作品です!
なっちゃんは、この試合限定のボンテージバージョンですね(笑)!





かっこよく描いてくれてますね!ヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪
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