25 / 74
23、防衛戦
しおりを挟む
買い付けてきた武具を砦の面々へと渡し、それぞれに仲間内へと戻っていくのを見守る。
留守にした五日の間にも、弓術の習得を希望した者達は自ら訓練を重ね、意気も高い。弓矢を配り、今の内に的を射って弓と身体を慣らしておくように勧めれば、例外なく全員が射場へと向かうのを見送った。
アギレオとリーとルー、それからレビで、斥候から戻った獣人の報告を元に、配置と作戦を詰め直している輪へ加わり。獣人達と先遣に出るよりも、砦に残って人間達を守る役を請け負う。
リーとアギレオで獣人達を指揮して、森の向こう、まさに今進軍しているオーク達に当たり、被害を避けつつ進行の向きを逸らすよう、脇腹から敵軍を削る。
それでも恐らく、目的のある進軍は目的を目指し、森へと踏み込む向きを大きくは変えない。そのままでいけば砦へと突き抜けるところを、また森の中で可能な限り減らしていく。
そこで削りきって殲滅してしまえたら、と、願うところではあるが、願うに留まらず期待しては甘い。
獣人達に追われ、また追いながら森から現れるオーク軍を、人数が多くとも総戦力では劣るだろう人間達で食い止め、今度こそ全て潰してしまわなければならない。
オークは、ヒトの扱う武器であれば同じように扱う。弓を持つものも珍しくない。
こちらが射られぬよう、屈めば隠れられる防御柵を築いて、その後ろに立ち、可能な限り浴びせ矢に遭わせる。
――だが、その先は乱戦になる。
息をひとつついて。興奮して渦中に飛び込まぬよう馬たちを小屋に入れ、建物の配置を詳しく確認しながら、人間達と協力して防御柵を築いていく。
距離を取って打撃を与えられるもの、弓、槍、剣の順でオークを減らし、あとは必ず固まって徹底防戦でこらえ、獣人達を中心に最後を仕留める。
そのイメージが湧くよう、出会う一人ひとりに声を掛け、己の思い知る彼らの強さを語り励まして歩いた。
「手筈通りであれば、南の端、あの辺りからオークが現れる」
一通りの準備を終え、防御柵の内側へと集まる人間達に、その方向を指し示した。
「まずは弓隊だ。向こうの数が多いから、矢が多少逸れてもどれかに当たる。落ち着いて、自分の矢がどこに飛んだかしっかり見守り、逸れた方向とは逆を狙えば、今度は狙い通りいくだろう」
「夜の連中が戦いながら来るんだろ? 味方に当たっちまわねえかな」
矢のない弓を構え、さきほど示した方向を睨みながら首を捻る射手に、頷く。
「獣人が自分でかわす方が確かだ。もちろん“オークを”射ってもらうが、まずは他のことまで気にせずいこう」
ああ…、と、納得したような、していないような声に、振り返って今度は笑みを見せ。
「弓を射っていられる時間は短い。早い者でも三度射てるかどうかだ。練習通りやって、上手くいかなければ諦めてくれ」
ドッと、控えめながら笑いが起こるのにまた頷く。
「弓隊は、オークとの距離が縮んだらすぐに後ろに下がって、普段の武器に持ち替える。次は槍手だ」
槍を扱うのは、他の武器よりも普段の修練が必要だ。人数も少ない。
彼らが頷くのを見てから、もう一度防御柵の向こうを視線で示す。
「オークは動きが荒い。大抵は柵の隙間を抜けるか、破壊を試みるだろうが、乗り越えてくるものが必ずいる。こちらからは動かず待ち構え、目についたものをどれでもいい、貫いてくれ。だが、そこまでくればもう、向こうもたやすく近づける距離だ」
今度は彼ら全員を振り返り、一人ひとりの顔を確かめ、見つめる。
「身を守ることに専念して欲しい。生き残る以上の戦果はない」
わかった!おう!と、力強い声が返されるのに、頷いて返して。
「おっしゃあ、行くぜ者どもォ」
どこか気の抜けそうな明るい声が聞こえて、柵の向こうへと進んでいく先遣隊を振り返る。
緊張を解させるためであろう、声を上げたアギレオを見れば、けれどもちろん、表情に緩みは欠片もない。リーと二人並んで獣人達を率い、彼らには動きやすさが何よりの鎧なのだろう、みなが簡素な防具をつけ、それぞれに武装している。
固唾を呑んで見守る人間達と並んで、陣形について、森を指さしながら最後の確認をしている彼らを見つめ。
すぐに伝達も一段落したのだろう、少し息を吸い込んでから、「よし!」と活を入れるリーの声が響く。
「さあ獣人ども! 森に入る前に後ろを振り返れ! これが俺達の群れだ!」
その声に、みなが森の方を向いていた獣人達が振り返る。16人だとリーが言ってた、今では己ですらその全員の名を言える。
ジリ、ザリ、と近くで地を躙る音がいくつか聞こえる。目を向けずとも、それが後退りではなく、戦いに出る仲間達に向け、駆け寄ろうとする足を堪えているのだと、分かる。
続くリーの声に風のような音が混じり始め、それが次第に大きくなり、獣の唸り声に似る。
「魔物にやるものなどひとつもないッ!! 我らの群れの何ひとつ、傷つけさせんッ!!」
行くぞ!と、声を合図に、昼の面々を振り返る獣人達が、その姿や顔を確かめるように目を寄越して。それから、ある者は笑みを浮かべ、ある者は頷き、また別の者は隣の獣人と顔を見合わせ、笑い合って。行ってくる、とでも言うよう、手を振る者もある。
そうして、次々に森へと駆け込んでいき、名残惜しさも追い着かぬよう、その姿はまたたく間に見えなくなる。
獣人達の最後に、灰色の毛並みをした大きな狼が、森へと踏み込みかけて、もう一度振り返り。こちらを見渡すと、また身を翻し、やはりあっという間に見えなくなる。
「ルー、ダイナ、」
腰の鞘から幅広の曲刀をそれぞれ両手で抜きながら、アギレオがお得意の片笑いを浮かべている。
「今日の晩飯は豪華にしようぜ」
その声にみなが振り返る先に。弓を握り締めたダイナがうんうんと大きく頷き、歴戦の風情で腰の短刀に手を預けるリーが、ふふと吐息で笑う。
「ちょうど買い出しも戻ったところだしね。食べきれないほどのご馳走を作りましょ」
ニィ、とひとつ笑えば、もう次の句はなく。土を蹴って駆け出すアギレオの足は、本当に獣人達に負けず劣らすの速さで。
すぐに、生い茂る木々の向こうへと、見えなくなった。
「さあ!」
声を上げたのは、リーの妻で、二人目の人狼であるルーだ。
「みんな武器を取って。男も女も、若くても年でもみんなよ。まずは自分の身を、自分の命を守ってちょうだい」
夜行性の獣人でありながら、夜となく昼となく獣人達と人間達の間を取り持ち、気を配るルーの、心強さ。みながそう感じているのが、あちこちから聞こえる応や吐息で分かる。
「余裕のある者は家族を、仲間を守りましょう! 奪われてはならない!」
彼女の声が、昼の面々の緊張を和らげ、意気を上げていく。
先のリーとそっくりに、彼女自身の昂揚にしたがい、声は風のうなりを孕み。
「ここは我らの家ッ!! 我らの家は我らが守るッ!!」
オオッ!!と、声が上がり、皆が自然と拳を振り上げる。
さあ持ち場へ、と、揚々たる意気を削がぬよう促し、時が来るまで声を掛け合い、自分の隣には誰がいるのかよく見ておくようにと伝え。
己は己で、防御柵の前に並ぶ弓隊一人ひとりの顔がいつでも見られるよう、柵の端辺りに陣取った。
「なあハル、オークはすぐにも来るのかな?」
隣で落ち着かなく、クルクルと弓を回してしまっているゼンガーに、うん?と振り返り、また森の方を見る。
「いや、すぐではない。思いがけぬ襲撃を受け、混乱もし、対処に手も取られ、進軍は格段に遅くなる。…用を足す時間くらいは、充分にあるぞ」
ええっ、と、途中までは引き結ばれていたゼンガーの口が思わず開き、それから苦笑いして、少し顔を赤くしながら弓を回すのをやめる。
俺、行っとこ、と本当に用を足しに離れていく者があって笑いが起こり、最前列を守る弓隊にも少し余裕のような気配が満ちる。
「手強い獣人達に襲われ、おろおろと逃げ惑いながら現れる。離れた距離からも、近付く声が聞こえるはずだ」
現れる前に予兆があるだろうと言うのに、そうか、と、それぞれに頷き合う。
もちろん、オークの襲撃はそう生ぬるくない。だがまだ、昼の面々にとっては、気の緩みよりも張り詰めすぎる方が多く、それが足枷になろうことも想像にかたくない。
安心できる材料があるなら、少しでも与えておきたい。
用の済んだ者が戻り、また笑いが起こって、それから静まり返る。
その集中を邪魔せぬように声を低くしながら、留守の間の鍛錬の様子を尋ねてみる。こうして、そうして、何ができるようになって、何が難しく、と、最初はぽつぽつであったのが、次第にそれぞれが熱心に語り、自然と腕を上げて弓を構え、調子を確かめる様子になって。
後方、あるいは身を隠した別の場所で、最前列の弓隊のほぐれた熱気が伝播するよう、各々の武装や修練について囁き合うのが聞こえてくる。
女性達にいたっては、しまいに豪華な夕飯についての会議まで混じっているようで、声にせず笑ってしまう。
だが。
「――来るぞ。聞け」
ルーは少し後ろだ。すでに聞こえているかもしれないが、己の声が真っ先になる。
「武器を構え、物音を聞くんだ。左前方、交戦の音が多数。まだ遠い、だが、こちらへ向かっている」
聞こえた通りを伝え、構えろ、と後ろを振り返り頷いてみせる。頷きが返され、音のする方へと向き直って、矢を番え弓を構える。
はじめは木々のざわめきや、葉擦れの音に紛れそうだったそれが、次第に近く、大きくなってくる。
そうして、近付いてくれば分かる、激しい戦闘の音と、喉でも破れたような、オークのけたたましい喚き声に、背にした味方達の慄く気配を感じる。
構わず、弦を引き絞り、待つ。
留守にした五日の間にも、弓術の習得を希望した者達は自ら訓練を重ね、意気も高い。弓矢を配り、今の内に的を射って弓と身体を慣らしておくように勧めれば、例外なく全員が射場へと向かうのを見送った。
アギレオとリーとルー、それからレビで、斥候から戻った獣人の報告を元に、配置と作戦を詰め直している輪へ加わり。獣人達と先遣に出るよりも、砦に残って人間達を守る役を請け負う。
リーとアギレオで獣人達を指揮して、森の向こう、まさに今進軍しているオーク達に当たり、被害を避けつつ進行の向きを逸らすよう、脇腹から敵軍を削る。
それでも恐らく、目的のある進軍は目的を目指し、森へと踏み込む向きを大きくは変えない。そのままでいけば砦へと突き抜けるところを、また森の中で可能な限り減らしていく。
そこで削りきって殲滅してしまえたら、と、願うところではあるが、願うに留まらず期待しては甘い。
獣人達に追われ、また追いながら森から現れるオーク軍を、人数が多くとも総戦力では劣るだろう人間達で食い止め、今度こそ全て潰してしまわなければならない。
オークは、ヒトの扱う武器であれば同じように扱う。弓を持つものも珍しくない。
こちらが射られぬよう、屈めば隠れられる防御柵を築いて、その後ろに立ち、可能な限り浴びせ矢に遭わせる。
――だが、その先は乱戦になる。
息をひとつついて。興奮して渦中に飛び込まぬよう馬たちを小屋に入れ、建物の配置を詳しく確認しながら、人間達と協力して防御柵を築いていく。
距離を取って打撃を与えられるもの、弓、槍、剣の順でオークを減らし、あとは必ず固まって徹底防戦でこらえ、獣人達を中心に最後を仕留める。
そのイメージが湧くよう、出会う一人ひとりに声を掛け、己の思い知る彼らの強さを語り励まして歩いた。
「手筈通りであれば、南の端、あの辺りからオークが現れる」
一通りの準備を終え、防御柵の内側へと集まる人間達に、その方向を指し示した。
「まずは弓隊だ。向こうの数が多いから、矢が多少逸れてもどれかに当たる。落ち着いて、自分の矢がどこに飛んだかしっかり見守り、逸れた方向とは逆を狙えば、今度は狙い通りいくだろう」
「夜の連中が戦いながら来るんだろ? 味方に当たっちまわねえかな」
矢のない弓を構え、さきほど示した方向を睨みながら首を捻る射手に、頷く。
「獣人が自分でかわす方が確かだ。もちろん“オークを”射ってもらうが、まずは他のことまで気にせずいこう」
ああ…、と、納得したような、していないような声に、振り返って今度は笑みを見せ。
「弓を射っていられる時間は短い。早い者でも三度射てるかどうかだ。練習通りやって、上手くいかなければ諦めてくれ」
ドッと、控えめながら笑いが起こるのにまた頷く。
「弓隊は、オークとの距離が縮んだらすぐに後ろに下がって、普段の武器に持ち替える。次は槍手だ」
槍を扱うのは、他の武器よりも普段の修練が必要だ。人数も少ない。
彼らが頷くのを見てから、もう一度防御柵の向こうを視線で示す。
「オークは動きが荒い。大抵は柵の隙間を抜けるか、破壊を試みるだろうが、乗り越えてくるものが必ずいる。こちらからは動かず待ち構え、目についたものをどれでもいい、貫いてくれ。だが、そこまでくればもう、向こうもたやすく近づける距離だ」
今度は彼ら全員を振り返り、一人ひとりの顔を確かめ、見つめる。
「身を守ることに専念して欲しい。生き残る以上の戦果はない」
わかった!おう!と、力強い声が返されるのに、頷いて返して。
「おっしゃあ、行くぜ者どもォ」
どこか気の抜けそうな明るい声が聞こえて、柵の向こうへと進んでいく先遣隊を振り返る。
緊張を解させるためであろう、声を上げたアギレオを見れば、けれどもちろん、表情に緩みは欠片もない。リーと二人並んで獣人達を率い、彼らには動きやすさが何よりの鎧なのだろう、みなが簡素な防具をつけ、それぞれに武装している。
固唾を呑んで見守る人間達と並んで、陣形について、森を指さしながら最後の確認をしている彼らを見つめ。
すぐに伝達も一段落したのだろう、少し息を吸い込んでから、「よし!」と活を入れるリーの声が響く。
「さあ獣人ども! 森に入る前に後ろを振り返れ! これが俺達の群れだ!」
その声に、みなが森の方を向いていた獣人達が振り返る。16人だとリーが言ってた、今では己ですらその全員の名を言える。
ジリ、ザリ、と近くで地を躙る音がいくつか聞こえる。目を向けずとも、それが後退りではなく、戦いに出る仲間達に向け、駆け寄ろうとする足を堪えているのだと、分かる。
続くリーの声に風のような音が混じり始め、それが次第に大きくなり、獣の唸り声に似る。
「魔物にやるものなどひとつもないッ!! 我らの群れの何ひとつ、傷つけさせんッ!!」
行くぞ!と、声を合図に、昼の面々を振り返る獣人達が、その姿や顔を確かめるように目を寄越して。それから、ある者は笑みを浮かべ、ある者は頷き、また別の者は隣の獣人と顔を見合わせ、笑い合って。行ってくる、とでも言うよう、手を振る者もある。
そうして、次々に森へと駆け込んでいき、名残惜しさも追い着かぬよう、その姿はまたたく間に見えなくなる。
獣人達の最後に、灰色の毛並みをした大きな狼が、森へと踏み込みかけて、もう一度振り返り。こちらを見渡すと、また身を翻し、やはりあっという間に見えなくなる。
「ルー、ダイナ、」
腰の鞘から幅広の曲刀をそれぞれ両手で抜きながら、アギレオがお得意の片笑いを浮かべている。
「今日の晩飯は豪華にしようぜ」
その声にみなが振り返る先に。弓を握り締めたダイナがうんうんと大きく頷き、歴戦の風情で腰の短刀に手を預けるリーが、ふふと吐息で笑う。
「ちょうど買い出しも戻ったところだしね。食べきれないほどのご馳走を作りましょ」
ニィ、とひとつ笑えば、もう次の句はなく。土を蹴って駆け出すアギレオの足は、本当に獣人達に負けず劣らすの速さで。
すぐに、生い茂る木々の向こうへと、見えなくなった。
「さあ!」
声を上げたのは、リーの妻で、二人目の人狼であるルーだ。
「みんな武器を取って。男も女も、若くても年でもみんなよ。まずは自分の身を、自分の命を守ってちょうだい」
夜行性の獣人でありながら、夜となく昼となく獣人達と人間達の間を取り持ち、気を配るルーの、心強さ。みながそう感じているのが、あちこちから聞こえる応や吐息で分かる。
「余裕のある者は家族を、仲間を守りましょう! 奪われてはならない!」
彼女の声が、昼の面々の緊張を和らげ、意気を上げていく。
先のリーとそっくりに、彼女自身の昂揚にしたがい、声は風のうなりを孕み。
「ここは我らの家ッ!! 我らの家は我らが守るッ!!」
オオッ!!と、声が上がり、皆が自然と拳を振り上げる。
さあ持ち場へ、と、揚々たる意気を削がぬよう促し、時が来るまで声を掛け合い、自分の隣には誰がいるのかよく見ておくようにと伝え。
己は己で、防御柵の前に並ぶ弓隊一人ひとりの顔がいつでも見られるよう、柵の端辺りに陣取った。
「なあハル、オークはすぐにも来るのかな?」
隣で落ち着かなく、クルクルと弓を回してしまっているゼンガーに、うん?と振り返り、また森の方を見る。
「いや、すぐではない。思いがけぬ襲撃を受け、混乱もし、対処に手も取られ、進軍は格段に遅くなる。…用を足す時間くらいは、充分にあるぞ」
ええっ、と、途中までは引き結ばれていたゼンガーの口が思わず開き、それから苦笑いして、少し顔を赤くしながら弓を回すのをやめる。
俺、行っとこ、と本当に用を足しに離れていく者があって笑いが起こり、最前列を守る弓隊にも少し余裕のような気配が満ちる。
「手強い獣人達に襲われ、おろおろと逃げ惑いながら現れる。離れた距離からも、近付く声が聞こえるはずだ」
現れる前に予兆があるだろうと言うのに、そうか、と、それぞれに頷き合う。
もちろん、オークの襲撃はそう生ぬるくない。だがまだ、昼の面々にとっては、気の緩みよりも張り詰めすぎる方が多く、それが足枷になろうことも想像にかたくない。
安心できる材料があるなら、少しでも与えておきたい。
用の済んだ者が戻り、また笑いが起こって、それから静まり返る。
その集中を邪魔せぬように声を低くしながら、留守の間の鍛錬の様子を尋ねてみる。こうして、そうして、何ができるようになって、何が難しく、と、最初はぽつぽつであったのが、次第にそれぞれが熱心に語り、自然と腕を上げて弓を構え、調子を確かめる様子になって。
後方、あるいは身を隠した別の場所で、最前列の弓隊のほぐれた熱気が伝播するよう、各々の武装や修練について囁き合うのが聞こえてくる。
女性達にいたっては、しまいに豪華な夕飯についての会議まで混じっているようで、声にせず笑ってしまう。
だが。
「――来るぞ。聞け」
ルーは少し後ろだ。すでに聞こえているかもしれないが、己の声が真っ先になる。
「武器を構え、物音を聞くんだ。左前方、交戦の音が多数。まだ遠い、だが、こちらへ向かっている」
聞こえた通りを伝え、構えろ、と後ろを振り返り頷いてみせる。頷きが返され、音のする方へと向き直って、矢を番え弓を構える。
はじめは木々のざわめきや、葉擦れの音に紛れそうだったそれが、次第に近く、大きくなってくる。
そうして、近付いてくれば分かる、激しい戦闘の音と、喉でも破れたような、オークのけたたましい喚き声に、背にした味方達の慄く気配を感じる。
構わず、弦を引き絞り、待つ。
0
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
シスルの花束を
碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年
~人物紹介~
○氷室 三門(ひむろ みかど)
・攻め(主人公)
・23歳、身長178cm
・モデル
・俺様な性格、短気
・訳あって、雨月の所に転がり込んだ
○寒河江 雨月(さがえ うげつ)
・受け
・26歳、身長170cm
・常に無表情で、人形のように顔が整っている
・童顔
※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。
※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。
※基本、三門視点で進みます。
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる