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29、つわものたち
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砦を離れていた間の、経緯を話してくれるリーの声を聞きながら、エールで流し込むように食事を摂る。リーも同じような様子であると気づいて、胸苦しくなるような感覚を今は堪え。
「ナハトが…」
「そうなんだ。そのままそこにいる」
雨のように降らせる魔術で傷を負いながらも、木々の影に身を潜めて反撃の隙をうかがっていたナハトが、谷のエルフ達に連れ去られたアギレオの後を追ったのだという。
彼自身の傷も浅くはないようで、残った血と匂いの痕跡を他の山犬達が見つけたのは、翌日遅くなってからだという。
リーが指揮を執り、人間達で負傷者の手当と戦いの後始末を手分けする間、山犬の獣人達は二手に分かれ、駆け回ってくれたらしい。
一方はナハトの足跡を追い、一方は以前の砦があった峠へ、その傍におかれた彼らの集落へと助けを求めたらしい。
幾人か山犬の男女がやってきて砦を手伝い、元々砦に身を置いていた獣人達は、交代でナハトの元へと行き来し、様子を伝えてくれている。
「ナハトから最後の伝言は昨夜で、アギレオの声が聞こえるという報告と、…そのことも、ハルに訊いてみたくてな」
頷いて続きを促し、エールのカップを空にしてしまう。
「アギレオの声がするというのが、どうも、破棄された塔?か、城?のような場所だというんだ。俺はベスシャッテテスタルの建物だろうと言ったんだが、実際に場所を見た山犬の連中も、地図を確認したレビも、ベスシャッテテスタルの外じゃないかって。そんなことあるか? たとえ俺達がエルフにとって相手にならんとしても、自分たちの縄張りの外に捕虜を置いとくか?」
エルフのルールか何かなのか?と首をひねるリーに、いいや、と否を唱え。
口許を手で覆い、思案する。
守護地の外に捕虜をおけば、見張りも立てねばならない。逃亡の可能性を考えても、仲間の復讐や奪還を考えても効率が悪く、危険も多い。
アギレオ達が自分を捕らえた時も砦の奥、生活圏からも立ち寄らぬ場所に閉じ込められ、自国自軍の場合を想定しても、当然森の中に投獄するだろう。
そこまで考えてふいに、二つの考えが一度によぎり、同時に両方を話そうとしてしまって、言葉に詰まる。
一度息を抜いて頭を整理し。
リーに向き直るところへ、ダイナが、エールのカップをおかわりと交換してくれるのに気づいて、ありがとう、と声を掛ける。
うん、とばかりに、声もなく短く頷きだけが返され、精一杯の晴れない笑顔に少し、喉が詰まるようで。
エールを飲み直し、改めてリーに目を向け。なんだとばかり琥珀の瞳が食いつくのに、頷いて返す。
「谷のエルフ、ベスシャッテテスタルは、我が国クリッペンヴァルトよりも保守的、悪くいえば排他的だ。王都でも、森へエルフ以外が頻繁に行き来するのは好まれないが…、…もしかしたら」
口を開きかけ、言葉を探すようにその口に拳を当てて思案げに伏せる琥珀の瞳を、少し待ち。
「なるほど…。王都に行こうと思ったこともないから、ちょっと想像がつかないが…。…縄張りに入られるのが極端に嫌な連中だと思えば、獣人にもいなくもない、かもな…」
獣人の事情の方が分からないなりに、想像しているものはそう違わなそうだと、同意を示し。
「その通りだとしたら、……正直、エルフの感覚としても、ベスシャッテテスタルは度を超している。罠である可能性も捨てずにいこう」
そうだな、と返される頷きに、それよりも、ともう一つの話を持ち出しにかかる。
「前の砦に、私が捕らわれていた時のことを覚えているだろうか」
…ああ。と、互いが対立していた時分の話を持ち出したせいか、躊躇するような相槌が返されて。少し焦れったいような気持ちをこらえ、話を続け。
「その時に私を拘束していた金属には、エルフの力を削ぐ効果があるのだと、アギレオが説明してくれたことがあるんだ」
「……、ああ、あ~…、そうだな。そんなこと言ってたな」
確かに、と、リーが目を向けるのが、前の砦のあった峠の方向なのが分かる。
「エルフってのは魔術を使うから、生け捕りにしとくんなら、普通の鎖じゃ駄目なんだとか言ってたか」
魔術というのもそれほど万能なものでもないが、例えば人間を捕らえるように簡単にはいかないだろう。もう一度頷き。
「エルフに力を与えているのは、森の精霊の守護だ。アギレオは、精霊の守護を薄める赤鉄という金属を、地中に住む鉱人から借りていた」
なるほど、と、浅く目で頷くリーの様子に、これは思ったよりも周知された話ではないようだと、わずかずつ疑念が混じっていく。
「アギレオが持っていた分は鉱人に返すのを見たから、少なくともここにはない。…リーは、鉱人と話す方法を知らないだろうか。手に入れば、魔術師の多いベスシャッテテスタルに対抗するには、有利になるかもしれない」
えっ、と、声を上げるリーに、えっとこちらでも同じような声がこぼれてしまう。
「谷のエルフにも、その…森の守護の妨害が効くのか?」
「ああ…!」
そこか…!と、こちらでは思いつかなかったような着眼点に、頷く頬が思わずゆるむ。なるほど、確かに。
「私達クリッペンヴァルトのエルフが森のエルフ、ベスシャッテテスタルのエルフが谷のエルフと呼ばれるのは、単純に守護地の地形から採っている。守護地が違っても、エルフがみな森の子で、森の精霊から守護を受けて力を得ているのは同じなんだ」
「へえ…! 俺はてっきり…!」
「谷の精霊というものがあるかどうかは私の知識にはないが、ベスシャッテテスタルのエルフとクリッペンヴァルトのエルフは、別の種族ではないんだ」
なるほど、森のエルフ、谷のエルフと聞けば、と、思いがけない考えに触れ、少し胸が緩む。
なんの話だったっけ…、と、こちらを見つめるリーに、鉱人と話したい、と改めて告げ。
「鉱人か…。俺でもアギレオに聞いたことがあるだけだな…。覚えている限り、前の頭とアギレオしか鉱人に会ったことはないと思う」
「……そうか」
落胆しながらも、そんな気はしていた、というような、納得もある。
山中の深くに生まれ、獣人でいうところの祖霊として鉱石を系譜とする、鉱人という種族。彼らは希有な存在だ。
エルフをはじめとする“ヒト”と交流があったという記録はほとんどなく、己も、実際に目にするまでは伝承の類なのだと思っていた。
精霊の守護を薄める赤鉄にしても、以前の砦に戻ればいくらかは残っている可能性がある。だが、そこへ行って帰ればまた一昼夜を費やしてしまう。
「あてにするわけにはいかないな…」
「そうだな。ちょっと曖昧すぎるかもな…」
分かった、と、頷き。頭を切り替え、ナハトが留まったきりでいるという、その廃墟へ向かう相談に取り掛かった。
馬を走らせれば一昼夜足らずで着きそうだという目的地へ、夜が明ける前に出発と決め。リーと別れて食堂を後にする頃には、陽が傾いていた。
ひどい顔色だとリーに指摘すれば、お前に言われたくないと笑われ、互いに今夜は眠っておこうと苦笑し合った。
森の奥に湧いた泉まで行く時間を惜しみ、今日は川の下流で水浴びを済ませようと、家の扉を開き。
音のない室内に、我知らず、立ち尽くしてしまう。
アギレオとビーネンドルフへ向かうためにこの家を離れ、もう幾日も帰ってきておらず。
その上、ここにアギレオがいないのだと思い知り。
叫び出しそうになるのを歯を食い縛ってこらえ、縋るよう、開いたままの玄関扉の枠を、思わず握り締めてしまう。
まだだ。
まだ終わってはいない。
ナハトは傷を負った身体を引きずり、アギレオの後を追った。その声を聞いたと山犬達が伝え、諦めろと言った頭領の言葉に背き、リーは明日、共にアギレオの奪還へと向かう。
一昨夜は生きていた。その先は分からないが、だが。明日は、明日になればその痕跡へと駆けつけられる。
それでも堪えがたく、家に入らず再び扉を閉じて、踵を返す。
「コウ…ッ!」
ずいぶん昔のことのようだ。アギレオが会わせてくれた鉱人の名を、絞り出すように呼ぶ。
「コウ、頼む! 頼む、聞いてくれ…! アギレオを助けるのに力を借りたい! 頼む…!」
応えはなく、傾いていく陽の名残に、むなしい己の声ばかりが溶けていく。
「コウ…! アギレオを取り戻したいんだ…!」
どちらを向けばいいのか、何をもって彼に語りかければいいのかも、知らない。
もっと詳しく、アギレオに尋ねてみればよかったのだ。もっと話したいことがあった。尋ねたいことがあったのに。
今、この時の痛みが、過去の全てを後悔に塗り替えていく。
「アギレオ…!」
無理に作った笑顔を曇らせたダイナ、目の下に隈をつくったリーの顔、青ざめたリュー。涙を流しながら息を引き取ったフランを思い出し。これ以上彼らに聞かせてはならないと、己の声を口の中に押し止め。
せめて水にすすいでしまおうと、早足に川へと向かった。
洗ったものに取り替えたシーツも枕も、よく知った匂いがする。
泥に足を取られるような重く気怠い夢と、曖昧で幸福な記憶が交互に訪れる浅い眠りから、ふいに意識が持ち上がり。
微かに聞こえる音に、跳ね起きる。
玄関の扉を小さくノックする音と、声。アギレオ、アギレオ、と、どこか拙いような話し方。
飛び起きて衣服を身に着け、ランプに火を入れる。
「すぐに行く! 待ってくれ、すぐだ!」
叩きつけるように開きそうになった扉の向こうに、目を丸くして己を見上げる、灰色の肌の。
「コウ…!」
エルフの長い生涯にも、もう一度出会うことはないかと思っていた。アギレオが会わせてくれた、伝承の中の種族。
少し背を丸めた身体、体毛がなくどこかゴツゴツとした質感の肌。
初めて見た時はオークなのかと驚いた、だが、美しい瑠璃紺の瞳を持った、鉱人。
入ってくれ、と、急かすように招き入れ、食卓へと案内して。
「会えないかと思っていた…!」
水でよかっただろうか、と、記憶を頼りにカップを配り、彼の向かいへと腰を下ろして。
うん、うん、と言葉少なく頷く彼に、胸があふれるようで。
「地上、声、聞こえない。聞こえても、よく、知らない。けど、けど、エルフ、声、聞こえた」
「ナハトが…」
「そうなんだ。そのままそこにいる」
雨のように降らせる魔術で傷を負いながらも、木々の影に身を潜めて反撃の隙をうかがっていたナハトが、谷のエルフ達に連れ去られたアギレオの後を追ったのだという。
彼自身の傷も浅くはないようで、残った血と匂いの痕跡を他の山犬達が見つけたのは、翌日遅くなってからだという。
リーが指揮を執り、人間達で負傷者の手当と戦いの後始末を手分けする間、山犬の獣人達は二手に分かれ、駆け回ってくれたらしい。
一方はナハトの足跡を追い、一方は以前の砦があった峠へ、その傍におかれた彼らの集落へと助けを求めたらしい。
幾人か山犬の男女がやってきて砦を手伝い、元々砦に身を置いていた獣人達は、交代でナハトの元へと行き来し、様子を伝えてくれている。
「ナハトから最後の伝言は昨夜で、アギレオの声が聞こえるという報告と、…そのことも、ハルに訊いてみたくてな」
頷いて続きを促し、エールのカップを空にしてしまう。
「アギレオの声がするというのが、どうも、破棄された塔?か、城?のような場所だというんだ。俺はベスシャッテテスタルの建物だろうと言ったんだが、実際に場所を見た山犬の連中も、地図を確認したレビも、ベスシャッテテスタルの外じゃないかって。そんなことあるか? たとえ俺達がエルフにとって相手にならんとしても、自分たちの縄張りの外に捕虜を置いとくか?」
エルフのルールか何かなのか?と首をひねるリーに、いいや、と否を唱え。
口許を手で覆い、思案する。
守護地の外に捕虜をおけば、見張りも立てねばならない。逃亡の可能性を考えても、仲間の復讐や奪還を考えても効率が悪く、危険も多い。
アギレオ達が自分を捕らえた時も砦の奥、生活圏からも立ち寄らぬ場所に閉じ込められ、自国自軍の場合を想定しても、当然森の中に投獄するだろう。
そこまで考えてふいに、二つの考えが一度によぎり、同時に両方を話そうとしてしまって、言葉に詰まる。
一度息を抜いて頭を整理し。
リーに向き直るところへ、ダイナが、エールのカップをおかわりと交換してくれるのに気づいて、ありがとう、と声を掛ける。
うん、とばかりに、声もなく短く頷きだけが返され、精一杯の晴れない笑顔に少し、喉が詰まるようで。
エールを飲み直し、改めてリーに目を向け。なんだとばかり琥珀の瞳が食いつくのに、頷いて返す。
「谷のエルフ、ベスシャッテテスタルは、我が国クリッペンヴァルトよりも保守的、悪くいえば排他的だ。王都でも、森へエルフ以外が頻繁に行き来するのは好まれないが…、…もしかしたら」
口を開きかけ、言葉を探すようにその口に拳を当てて思案げに伏せる琥珀の瞳を、少し待ち。
「なるほど…。王都に行こうと思ったこともないから、ちょっと想像がつかないが…。…縄張りに入られるのが極端に嫌な連中だと思えば、獣人にもいなくもない、かもな…」
獣人の事情の方が分からないなりに、想像しているものはそう違わなそうだと、同意を示し。
「その通りだとしたら、……正直、エルフの感覚としても、ベスシャッテテスタルは度を超している。罠である可能性も捨てずにいこう」
そうだな、と返される頷きに、それよりも、ともう一つの話を持ち出しにかかる。
「前の砦に、私が捕らわれていた時のことを覚えているだろうか」
…ああ。と、互いが対立していた時分の話を持ち出したせいか、躊躇するような相槌が返されて。少し焦れったいような気持ちをこらえ、話を続け。
「その時に私を拘束していた金属には、エルフの力を削ぐ効果があるのだと、アギレオが説明してくれたことがあるんだ」
「……、ああ、あ~…、そうだな。そんなこと言ってたな」
確かに、と、リーが目を向けるのが、前の砦のあった峠の方向なのが分かる。
「エルフってのは魔術を使うから、生け捕りにしとくんなら、普通の鎖じゃ駄目なんだとか言ってたか」
魔術というのもそれほど万能なものでもないが、例えば人間を捕らえるように簡単にはいかないだろう。もう一度頷き。
「エルフに力を与えているのは、森の精霊の守護だ。アギレオは、精霊の守護を薄める赤鉄という金属を、地中に住む鉱人から借りていた」
なるほど、と、浅く目で頷くリーの様子に、これは思ったよりも周知された話ではないようだと、わずかずつ疑念が混じっていく。
「アギレオが持っていた分は鉱人に返すのを見たから、少なくともここにはない。…リーは、鉱人と話す方法を知らないだろうか。手に入れば、魔術師の多いベスシャッテテスタルに対抗するには、有利になるかもしれない」
えっ、と、声を上げるリーに、えっとこちらでも同じような声がこぼれてしまう。
「谷のエルフにも、その…森の守護の妨害が効くのか?」
「ああ…!」
そこか…!と、こちらでは思いつかなかったような着眼点に、頷く頬が思わずゆるむ。なるほど、確かに。
「私達クリッペンヴァルトのエルフが森のエルフ、ベスシャッテテスタルのエルフが谷のエルフと呼ばれるのは、単純に守護地の地形から採っている。守護地が違っても、エルフがみな森の子で、森の精霊から守護を受けて力を得ているのは同じなんだ」
「へえ…! 俺はてっきり…!」
「谷の精霊というものがあるかどうかは私の知識にはないが、ベスシャッテテスタルのエルフとクリッペンヴァルトのエルフは、別の種族ではないんだ」
なるほど、森のエルフ、谷のエルフと聞けば、と、思いがけない考えに触れ、少し胸が緩む。
なんの話だったっけ…、と、こちらを見つめるリーに、鉱人と話したい、と改めて告げ。
「鉱人か…。俺でもアギレオに聞いたことがあるだけだな…。覚えている限り、前の頭とアギレオしか鉱人に会ったことはないと思う」
「……そうか」
落胆しながらも、そんな気はしていた、というような、納得もある。
山中の深くに生まれ、獣人でいうところの祖霊として鉱石を系譜とする、鉱人という種族。彼らは希有な存在だ。
エルフをはじめとする“ヒト”と交流があったという記録はほとんどなく、己も、実際に目にするまでは伝承の類なのだと思っていた。
精霊の守護を薄める赤鉄にしても、以前の砦に戻ればいくらかは残っている可能性がある。だが、そこへ行って帰ればまた一昼夜を費やしてしまう。
「あてにするわけにはいかないな…」
「そうだな。ちょっと曖昧すぎるかもな…」
分かった、と、頷き。頭を切り替え、ナハトが留まったきりでいるという、その廃墟へ向かう相談に取り掛かった。
馬を走らせれば一昼夜足らずで着きそうだという目的地へ、夜が明ける前に出発と決め。リーと別れて食堂を後にする頃には、陽が傾いていた。
ひどい顔色だとリーに指摘すれば、お前に言われたくないと笑われ、互いに今夜は眠っておこうと苦笑し合った。
森の奥に湧いた泉まで行く時間を惜しみ、今日は川の下流で水浴びを済ませようと、家の扉を開き。
音のない室内に、我知らず、立ち尽くしてしまう。
アギレオとビーネンドルフへ向かうためにこの家を離れ、もう幾日も帰ってきておらず。
その上、ここにアギレオがいないのだと思い知り。
叫び出しそうになるのを歯を食い縛ってこらえ、縋るよう、開いたままの玄関扉の枠を、思わず握り締めてしまう。
まだだ。
まだ終わってはいない。
ナハトは傷を負った身体を引きずり、アギレオの後を追った。その声を聞いたと山犬達が伝え、諦めろと言った頭領の言葉に背き、リーは明日、共にアギレオの奪還へと向かう。
一昨夜は生きていた。その先は分からないが、だが。明日は、明日になればその痕跡へと駆けつけられる。
それでも堪えがたく、家に入らず再び扉を閉じて、踵を返す。
「コウ…ッ!」
ずいぶん昔のことのようだ。アギレオが会わせてくれた鉱人の名を、絞り出すように呼ぶ。
「コウ、頼む! 頼む、聞いてくれ…! アギレオを助けるのに力を借りたい! 頼む…!」
応えはなく、傾いていく陽の名残に、むなしい己の声ばかりが溶けていく。
「コウ…! アギレオを取り戻したいんだ…!」
どちらを向けばいいのか、何をもって彼に語りかければいいのかも、知らない。
もっと詳しく、アギレオに尋ねてみればよかったのだ。もっと話したいことがあった。尋ねたいことがあったのに。
今、この時の痛みが、過去の全てを後悔に塗り替えていく。
「アギレオ…!」
無理に作った笑顔を曇らせたダイナ、目の下に隈をつくったリーの顔、青ざめたリュー。涙を流しながら息を引き取ったフランを思い出し。これ以上彼らに聞かせてはならないと、己の声を口の中に押し止め。
せめて水にすすいでしまおうと、早足に川へと向かった。
洗ったものに取り替えたシーツも枕も、よく知った匂いがする。
泥に足を取られるような重く気怠い夢と、曖昧で幸福な記憶が交互に訪れる浅い眠りから、ふいに意識が持ち上がり。
微かに聞こえる音に、跳ね起きる。
玄関の扉を小さくノックする音と、声。アギレオ、アギレオ、と、どこか拙いような話し方。
飛び起きて衣服を身に着け、ランプに火を入れる。
「すぐに行く! 待ってくれ、すぐだ!」
叩きつけるように開きそうになった扉の向こうに、目を丸くして己を見上げる、灰色の肌の。
「コウ…!」
エルフの長い生涯にも、もう一度出会うことはないかと思っていた。アギレオが会わせてくれた、伝承の中の種族。
少し背を丸めた身体、体毛がなくどこかゴツゴツとした質感の肌。
初めて見た時はオークなのかと驚いた、だが、美しい瑠璃紺の瞳を持った、鉱人。
入ってくれ、と、急かすように招き入れ、食卓へと案内して。
「会えないかと思っていた…!」
水でよかっただろうか、と、記憶を頼りにカップを配り、彼の向かいへと腰を下ろして。
うん、うん、と言葉少なく頷く彼に、胸があふれるようで。
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