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30、鉄を打ちて
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そうか…と、大きく息を抜いて、彼を急かさぬよう、半ば必死の思いでこらえ。
「鉱人、アギレオいない。エルフ、アギレオ、返してほしいと聞こえた。でも、鉱人、アギレオいない。石の中いない、教える。来た」
ああ、と、息をつき、大きく頷いてみせる。
「ありがとう、コウ。アギレオは、石の中にはいないな」
「いない」
うん、うん、と頷きが重ねられ、それでは、とでも言い出しそうな彼に、待ってくれ、と水を勧め。
「アギレオは、別のエルフが捕まえたんだ。もっと西にいるエルフが、アギレオを捕まえていて、返してもらいに行きたい」
「エルフ。エルフ、あちこちいる。西にもエルフいる、わかる。エルフも、石の中いない。鉱人、エルフ見ない。地上にいる」
水を飲みながら話してくれるのに、そうだ、と相槌を打ち。
「アギレオを返してもらうために、西のエルフに少し、大人しくなってもらいたい」
話しながら、身の内に帯びる険を声にせぬよう、ひそかに息を抜いて。
「以前アギレオと私に見せてくれた、赤鉄を貸してもらえないだろうか。アギレオを取り戻したら、必ず返す」
赤鉄、アギレオ、うんうん、と、また繰り返される頷きを、じっと待ち。
「ここ石ない。石ないと赤鉄ない」
ガタガタと椅子を押し退けて立ち上がるコウの後につき、トコトコとまた玄関から出ていってしまうのを追う。
「えッ」
玄関を出たその先で、コウが身を屈め、小石でも拾うような仕草で手にした物を、どうぞとばかりに差し出してくれるのに、目を剥いた。
手に乗せられると、不快な違和感がある。
そこにあることを森の精霊が嫌うという、赤鉄の感触に間違いない。
「そこにあったのか…!?」
「ここない。赤鉄、石の中、深い。鉱人、赤鉄、呼んでる」
もう一度屈み、また拾って掌に乗せられるのに、驚愕せざるを得ない。様々な種族の持つ能力は千差万別であると知ってはいても、あまりにも己の知る道理とは違って。
「エルフ、赤鉄、なにかたちだ?」
「なにかたち…?」
「アギレオ、鎖と輪がいる言った。エルフも鎖と輪か? 大きな輪? 小さな輪か?」
「ああ…! 形か…!」
そうだな、と、手に入らぬと諦め、考えを詰めていなかった赤鉄の使い方を考える。
アギレオは、己を拘束するため、赤鉄を枷と鎖の形にしていた。だが、谷のエルフ一人ひとりに鎖を掛けている余裕などあるはずがない。
確か、間隔を空けて配置することで結界のようにも使えるはずだ。
「そうだな。矢尻に巻きつける細い糸のようにか、塗りつける粉か…」
鉄の塊を夜明けまでに加工するとしたら、と、思案し。
「ジュウゥゥ、カーン、カーン、カーン、ジュウゥゥ」
今度はなんと言ったのか、と、見守る先で、三度その辺りの地面から拾い上げられる赤鉄が、コウの手の中で鎖の形になるのに、今度は目ばかりでなく口まで開いてしまう。
あれは製鉄の音を真似ているのだ。と、明後日に気づき。
「じ、自在に形を変えられるのか…!?」
「コンコンコン。鉱人、ドワーフ、教えてくれた。ジュウゥゥ、カーンカーン、石の形変える」
「そっ…」
そうではないと思うが、などと言う暇も惜しい。少し待ってくれ!と、声を掛け、家の中に飛び込んで、そこにあるだけの矢を全て持って出てくる。
家に置いてあるものは多くはないが、全てである必要はない。
「この、矢の先の鋼を、赤鉄に変えることはできるだろうか…!」
片腕ながら抱えるほどの矢と、今しがた預かった赤鉄を並べてみせ。
「鉱人、これ知る。石、遠く、飛んでいく」
「そうだ。これは、矢という。遠くへ飛ばせる、これなら、思うところへいくらでも…!」
必ず返すと交わした約束が守れるよう、20本きっかり、コウと二人で数を数えて赤鉄の矢を揃え。
地上うるさい、と、またトコトコと彼がどこかへ歩いていくのを見送って。
半ば呆然とした思いで少し立ち尽くしている間に、星が傾き、夜明けが近づき始めていた。
案内役を買って出たベルを先頭に、境の森を抜けて西へと馬を走らせる。
山犬の獣人であるベルの後に、山猫の獣人であるリュー、狐の獣人であるメル、続いて魔術師のレビ、それから己と、隣に並ぶよう狼の獣人であるリーがつく。
馬の消耗を避けるために歩みを早足にとどめて駆けず、その代わり道々に現状の整理と作戦を詰める。
「なるほど、真っ直ぐにベスシャッテテスタルに向かわず、北に逸れるようだな」
向かう方向と地形を見ながら思案する己に、先頭のベルが振り返り、頷く。
「そう。けっこう北だ、森と森の間みたいなとこ」
「森と森の間?」
首を捻るリーに、今度は己が頷いてみせ。
「このまま行けば、別の森にぶつかるはずだ。そこは、クリッペンヴァルトの国内でないのはもちろん、ベスシャッテテスタルのものでもない。そして、だからこそそこに、今は誰のものでもない建物が残っているのだろう」
「…なんだか回りくどい言い方だな…」
謎かけか?と、リーが片眉を上げるのに、小さく頭を振って。
「ベル、このまま真っ直ぐ進むのか? 樹人の森へは、みだりに踏み込まない方がいい」
獣人?とリーに訊き返され、樹人だ、と訂正を入れる。
同じ森の住人として、エルフである己にとっては鉱人や獣人よりも親近感のある存在であっても、樹人はエルフを始めとするヒトとは遠い種族だ。例えば昨夜会った鉱人のように、生き物というよりは“世界”の側に近い。霊力が強いために“ヒト”とも辛うじて意思疎通を許しているに過ぎない。
「大丈夫。多少気味は悪ぃけど、そんな深くまでは入らねえし、ハルがそう思うってことは、谷のエルフも樹人の森は避けるんだろ。多分」
なるほど…、と、胸の内に棘の刺さるような小さな警戒を残しながらも、何度もこの経路を往復しているという山犬たちを信頼し、先導を任せるままに馬を進めていく。
「お頭の言う通り、次のお頭を決める方が賢いな」
なんでもないことのように、不意に口にしたのは、メルだ。先日の戦闘で命を落としたフランの兄であり、近い内に父にもなる。
「負けて捕虜になったやつをわざわざ取り戻しに行くのは馬鹿だ。獣人のくせに木の下敷きになんかなるのも」
「フランはバカじゃねーよ! 頭よかった!」
牙を剥くようにして怒鳴り返しているリューの声を聞きながら、メルの言葉は間違っていないとも、無碍な言いようだなとも思う。
「お前は元々馬鹿だからな、リュー」
「ぜんぜんバカじゃねーし! そういうメルはバカじゃねーのかよ!」
「俺も馬鹿だ。谷のエルフを皆殺しにしたって弟は戻らない」
変わらぬ声に思わず、顔を上げて、先を行くメルを見る。少なくとも声と背からは、淡々としたように見え。
「…谷のエルフに復讐したいのか」
投げかける声に肩越しの目線がチラと寄越され、その目が少し細まったと思った途端、また前へと向き直って逸れてしまう。
「復讐ってものは幻だ。失くしたものの代わりに誰かのものを壊しても、失くしたものは戻らない。そんなことで釣り合いが取れた気になる痛みは、元々気のせいだ」
そうか、と頷いて。思いがけず厳しい言葉に、少し思いに沈んでしまう。
「てっきりお前は来ないと思ってたよ。怪我もまだ治りきってないだろう」
苦笑いのような声に隣のリーを振り返り、もう一度先を行くメルを見る。
「お頭は、馬鹿のリューをかばうような馬鹿の大将だが、こういう時にこそ群れにいて欲しいやつだ」
まったくだ、と、やはり苦笑いのリーとのやりとりに、言葉は上手く選べず。
「見えてきた!」
先頭を行く声に顔を上げ、みるみる沈んでいく残り陽を飲み込むような深い森の大きな陰に、唇を引き結んだ。
馬の速度を落として踏み込む、うっそうとした森の暗さに、少し眉が寄る。
乗っている馬を操り、繁る木々を避けるにはやや心許ないが、暗闇でも目の利くらしい前列へと続くようにさせ、目が慣れてくるのを待つ。
「ハルカレンディア、」
ふわりと、少し先で燐光めいた淡い光が点り。声と共にそれが投げ寄越されるのを、手綱から片手を離して受け取る。
目をやれば、同じような淡い光が僅かに照らしているのが、前を往くケレブシアの手許であろうことが見て取れた。
「ありがとう。助かる」
光の魔術の基本のひとつである光球だが、森の中で目立たぬよう、緑色をした弱い光に保たれている。
他の馬や獣人達の目を眩ませぬように馬の首の後ろに光球を留めておいて、手をかざし、自分に不自由のない程度にできるだけ光を小さくしておく。
馬とそれに乗る者達、それにわずかながら周囲の木々の輪郭が成す陰影が目に分かるようになり、胸を緩めた。
木々の間を縫うように馬を進め、少しずつ森の中へと踏み込んでいく耳に、サワサワと葉の擦れるような、けれど違和感のある音が聞こえてくる。
《――…の……犬…ぬ》
葉の擦れるささやき、木の“うろ”に風の忍びこむような笛鳴り、そういった、森にならいつもあるような音に紛れていたものが、次第に形を成し始めていく。
神経質そうに目を配っているのはリーと、リューとメルだ。
ここを何度も往復するのに慣れたのだろうベルと、聞いたことがなくとも知っているのだろうレビは、ただ黙って手綱を握っている。
《――……山犬が死ぬ…》
《――…こそ…でしまう…》
「うるさくなってきたから、もうすぐだ」
振り返るベルの、この、出所を測りがたい不穏な声と噛み合わぬ様子に、みな一様に黙ってうなずき。
《――…の山犬……夜こ……ぬ…》
《――……黒い…犬……もう…》
黒い山犬、と、姿を見せぬ樹人たちの声が、ナハトのことを示していると気づく。
「…ベル、…ナハトの様子は、…悪いのか」
レビが声を抑えて訪ねるのに、ベルが振り返りながら馬の足を緩めている。この辺に隠しとこう、と、後列へ伝達されるのに、それぞれに馬を下りて。
馬が迷わぬよう留めながら、レビとベルが交わしている会話にみなが耳を向けているのが分かる。
「あー…。よくはないんだけど、普通に。けど、レビから預かった薬も渡してるし」
こっち、と顎をしゃくって示される方向へと、ベルの後についた。
「鉱人、アギレオいない。エルフ、アギレオ、返してほしいと聞こえた。でも、鉱人、アギレオいない。石の中いない、教える。来た」
ああ、と、息をつき、大きく頷いてみせる。
「ありがとう、コウ。アギレオは、石の中にはいないな」
「いない」
うん、うん、と頷きが重ねられ、それでは、とでも言い出しそうな彼に、待ってくれ、と水を勧め。
「アギレオは、別のエルフが捕まえたんだ。もっと西にいるエルフが、アギレオを捕まえていて、返してもらいに行きたい」
「エルフ。エルフ、あちこちいる。西にもエルフいる、わかる。エルフも、石の中いない。鉱人、エルフ見ない。地上にいる」
水を飲みながら話してくれるのに、そうだ、と相槌を打ち。
「アギレオを返してもらうために、西のエルフに少し、大人しくなってもらいたい」
話しながら、身の内に帯びる険を声にせぬよう、ひそかに息を抜いて。
「以前アギレオと私に見せてくれた、赤鉄を貸してもらえないだろうか。アギレオを取り戻したら、必ず返す」
赤鉄、アギレオ、うんうん、と、また繰り返される頷きを、じっと待ち。
「ここ石ない。石ないと赤鉄ない」
ガタガタと椅子を押し退けて立ち上がるコウの後につき、トコトコとまた玄関から出ていってしまうのを追う。
「えッ」
玄関を出たその先で、コウが身を屈め、小石でも拾うような仕草で手にした物を、どうぞとばかりに差し出してくれるのに、目を剥いた。
手に乗せられると、不快な違和感がある。
そこにあることを森の精霊が嫌うという、赤鉄の感触に間違いない。
「そこにあったのか…!?」
「ここない。赤鉄、石の中、深い。鉱人、赤鉄、呼んでる」
もう一度屈み、また拾って掌に乗せられるのに、驚愕せざるを得ない。様々な種族の持つ能力は千差万別であると知ってはいても、あまりにも己の知る道理とは違って。
「エルフ、赤鉄、なにかたちだ?」
「なにかたち…?」
「アギレオ、鎖と輪がいる言った。エルフも鎖と輪か? 大きな輪? 小さな輪か?」
「ああ…! 形か…!」
そうだな、と、手に入らぬと諦め、考えを詰めていなかった赤鉄の使い方を考える。
アギレオは、己を拘束するため、赤鉄を枷と鎖の形にしていた。だが、谷のエルフ一人ひとりに鎖を掛けている余裕などあるはずがない。
確か、間隔を空けて配置することで結界のようにも使えるはずだ。
「そうだな。矢尻に巻きつける細い糸のようにか、塗りつける粉か…」
鉄の塊を夜明けまでに加工するとしたら、と、思案し。
「ジュウゥゥ、カーン、カーン、カーン、ジュウゥゥ」
今度はなんと言ったのか、と、見守る先で、三度その辺りの地面から拾い上げられる赤鉄が、コウの手の中で鎖の形になるのに、今度は目ばかりでなく口まで開いてしまう。
あれは製鉄の音を真似ているのだ。と、明後日に気づき。
「じ、自在に形を変えられるのか…!?」
「コンコンコン。鉱人、ドワーフ、教えてくれた。ジュウゥゥ、カーンカーン、石の形変える」
「そっ…」
そうではないと思うが、などと言う暇も惜しい。少し待ってくれ!と、声を掛け、家の中に飛び込んで、そこにあるだけの矢を全て持って出てくる。
家に置いてあるものは多くはないが、全てである必要はない。
「この、矢の先の鋼を、赤鉄に変えることはできるだろうか…!」
片腕ながら抱えるほどの矢と、今しがた預かった赤鉄を並べてみせ。
「鉱人、これ知る。石、遠く、飛んでいく」
「そうだ。これは、矢という。遠くへ飛ばせる、これなら、思うところへいくらでも…!」
必ず返すと交わした約束が守れるよう、20本きっかり、コウと二人で数を数えて赤鉄の矢を揃え。
地上うるさい、と、またトコトコと彼がどこかへ歩いていくのを見送って。
半ば呆然とした思いで少し立ち尽くしている間に、星が傾き、夜明けが近づき始めていた。
案内役を買って出たベルを先頭に、境の森を抜けて西へと馬を走らせる。
山犬の獣人であるベルの後に、山猫の獣人であるリュー、狐の獣人であるメル、続いて魔術師のレビ、それから己と、隣に並ぶよう狼の獣人であるリーがつく。
馬の消耗を避けるために歩みを早足にとどめて駆けず、その代わり道々に現状の整理と作戦を詰める。
「なるほど、真っ直ぐにベスシャッテテスタルに向かわず、北に逸れるようだな」
向かう方向と地形を見ながら思案する己に、先頭のベルが振り返り、頷く。
「そう。けっこう北だ、森と森の間みたいなとこ」
「森と森の間?」
首を捻るリーに、今度は己が頷いてみせ。
「このまま行けば、別の森にぶつかるはずだ。そこは、クリッペンヴァルトの国内でないのはもちろん、ベスシャッテテスタルのものでもない。そして、だからこそそこに、今は誰のものでもない建物が残っているのだろう」
「…なんだか回りくどい言い方だな…」
謎かけか?と、リーが片眉を上げるのに、小さく頭を振って。
「ベル、このまま真っ直ぐ進むのか? 樹人の森へは、みだりに踏み込まない方がいい」
獣人?とリーに訊き返され、樹人だ、と訂正を入れる。
同じ森の住人として、エルフである己にとっては鉱人や獣人よりも親近感のある存在であっても、樹人はエルフを始めとするヒトとは遠い種族だ。例えば昨夜会った鉱人のように、生き物というよりは“世界”の側に近い。霊力が強いために“ヒト”とも辛うじて意思疎通を許しているに過ぎない。
「大丈夫。多少気味は悪ぃけど、そんな深くまでは入らねえし、ハルがそう思うってことは、谷のエルフも樹人の森は避けるんだろ。多分」
なるほど…、と、胸の内に棘の刺さるような小さな警戒を残しながらも、何度もこの経路を往復しているという山犬たちを信頼し、先導を任せるままに馬を進めていく。
「お頭の言う通り、次のお頭を決める方が賢いな」
なんでもないことのように、不意に口にしたのは、メルだ。先日の戦闘で命を落としたフランの兄であり、近い内に父にもなる。
「負けて捕虜になったやつをわざわざ取り戻しに行くのは馬鹿だ。獣人のくせに木の下敷きになんかなるのも」
「フランはバカじゃねーよ! 頭よかった!」
牙を剥くようにして怒鳴り返しているリューの声を聞きながら、メルの言葉は間違っていないとも、無碍な言いようだなとも思う。
「お前は元々馬鹿だからな、リュー」
「ぜんぜんバカじゃねーし! そういうメルはバカじゃねーのかよ!」
「俺も馬鹿だ。谷のエルフを皆殺しにしたって弟は戻らない」
変わらぬ声に思わず、顔を上げて、先を行くメルを見る。少なくとも声と背からは、淡々としたように見え。
「…谷のエルフに復讐したいのか」
投げかける声に肩越しの目線がチラと寄越され、その目が少し細まったと思った途端、また前へと向き直って逸れてしまう。
「復讐ってものは幻だ。失くしたものの代わりに誰かのものを壊しても、失くしたものは戻らない。そんなことで釣り合いが取れた気になる痛みは、元々気のせいだ」
そうか、と頷いて。思いがけず厳しい言葉に、少し思いに沈んでしまう。
「てっきりお前は来ないと思ってたよ。怪我もまだ治りきってないだろう」
苦笑いのような声に隣のリーを振り返り、もう一度先を行くメルを見る。
「お頭は、馬鹿のリューをかばうような馬鹿の大将だが、こういう時にこそ群れにいて欲しいやつだ」
まったくだ、と、やはり苦笑いのリーとのやりとりに、言葉は上手く選べず。
「見えてきた!」
先頭を行く声に顔を上げ、みるみる沈んでいく残り陽を飲み込むような深い森の大きな陰に、唇を引き結んだ。
馬の速度を落として踏み込む、うっそうとした森の暗さに、少し眉が寄る。
乗っている馬を操り、繁る木々を避けるにはやや心許ないが、暗闇でも目の利くらしい前列へと続くようにさせ、目が慣れてくるのを待つ。
「ハルカレンディア、」
ふわりと、少し先で燐光めいた淡い光が点り。声と共にそれが投げ寄越されるのを、手綱から片手を離して受け取る。
目をやれば、同じような淡い光が僅かに照らしているのが、前を往くケレブシアの手許であろうことが見て取れた。
「ありがとう。助かる」
光の魔術の基本のひとつである光球だが、森の中で目立たぬよう、緑色をした弱い光に保たれている。
他の馬や獣人達の目を眩ませぬように馬の首の後ろに光球を留めておいて、手をかざし、自分に不自由のない程度にできるだけ光を小さくしておく。
馬とそれに乗る者達、それにわずかながら周囲の木々の輪郭が成す陰影が目に分かるようになり、胸を緩めた。
木々の間を縫うように馬を進め、少しずつ森の中へと踏み込んでいく耳に、サワサワと葉の擦れるような、けれど違和感のある音が聞こえてくる。
《――…の……犬…ぬ》
葉の擦れるささやき、木の“うろ”に風の忍びこむような笛鳴り、そういった、森にならいつもあるような音に紛れていたものが、次第に形を成し始めていく。
神経質そうに目を配っているのはリーと、リューとメルだ。
ここを何度も往復するのに慣れたのだろうベルと、聞いたことがなくとも知っているのだろうレビは、ただ黙って手綱を握っている。
《――……山犬が死ぬ…》
《――…こそ…でしまう…》
「うるさくなってきたから、もうすぐだ」
振り返るベルの、この、出所を測りがたい不穏な声と噛み合わぬ様子に、みな一様に黙ってうなずき。
《――…の山犬……夜こ……ぬ…》
《――……黒い…犬……もう…》
黒い山犬、と、姿を見せぬ樹人たちの声が、ナハトのことを示していると気づく。
「…ベル、…ナハトの様子は、…悪いのか」
レビが声を抑えて訪ねるのに、ベルが振り返りながら馬の足を緩めている。この辺に隠しとこう、と、後列へ伝達されるのに、それぞれに馬を下りて。
馬が迷わぬよう留めながら、レビとベルが交わしている会話にみなが耳を向けているのが分かる。
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