親友のために悪役令嬢やってみようと思います!

はるみさ

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第一章

9.ジョシュア

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 ライル様からの呼び出しが終わり、私が戻ると、会場は落ち着きを取り戻していた。

 隅ですましながら、一人飲み物を飲んでいるソフィアを見つけて、駆け寄る…と怒られるので、上品に歩いて向かう。

 「ソフィア。」

 「アンナ。殿下とのお話は終わったの?」

 今度は怒られなかった!良かったぁ~。

 「えぇ。もう帰るって。」

 「そう。随分と殿下と仲良くやっているのね。」

 「どうだろう。普通の会話しかしてないけどね。

 それより、さっきはごめんね。私のせいでソフィアが注意されるみたいになっちゃって。」

 私は思わず俯く。しかし、ソフィアは私に優しい。

 「いいのよ。私も良くなかったわ。殿下の言う通り、アンナはもう王子妃みたいなものだもの。あんな風に忠告するべきじゃなかった。」

 少し距離を置かれたみたいで寂しくなり、つい声が大きくなる。

 「そんなことないよ!
 ソフィアが言ってたのは正しいことなんだし!」

 「ありがとう。でも、もうやめましょう?
 みんなが私たちに注目してる。」

 「…ごめん。」

 ソフィアはクスクスと笑う。私たちは人が少ないところに二人移動した。

 「そういえば、アンナ最近お茶会に参加し始めたんでしょ?」

 「そうなの!今度、ソフィアのお茶会にも招いてくれたら嬉しいな。そして、いつか私が開くお茶会にも来てね。」

 やる予定は全くないが、入学前に一度くらいは頑張りたいところだ。私がそう言って笑うと、アンナは寂しそうに笑った。

 「私、お茶会はあまり開かないの。

 ……お茶会に出たならもう気付いたでしょう?私が令嬢たちの間でどれだけ嫌われているか。本当は…友人の一人もいないの。今まで嘘をついてごめんなさい。

 アンナ…他の令嬢と仲良くしたいなら、私と仲良くしない方がいいわ。貴女まで悪く言われてしまう。」

 ソフィアはそうやって目を伏せる。涙こそ流していないが、私にはソフィアが泣いているように見えた。

 「別になんて言われても構わないわ。私、仲良くする人は自分で決める。誰がなんと言おうとソフィアは私の親友よ!」

 「アンナ…。」

 顔を上げたソフィアの目には涙が滲んでいた。
 私はその涙を自分のハンカチで軽く拭う。

 いつもしっかり者のソフィアがこんな風に弱い姿を見せてくれることが不謹慎ながらも可愛く思えてしまう。

 「でも、お茶会に出て、ソフィアの独特な言い回しがみんなに誤解を与えてしまうことは認識したわ。そこを改善していったら、ソフィアは美しいし、優しいし、すぐに人気者になるわよ。」

 「……そうよね。
 言い方が良くないことは分かってるんだけどー」

 その時、聞いたことのない少し低い声が響いた。

 「ソフィア。」

 その声の先には、ソフィアと同じ水色の髪と紺碧の瞳を持った少年がいた。……ん?この人何処かで…。

 「お兄様…。」

 おにいさま?

 「あーっ!!」

 私が大声を出すと、その少年は私を怪訝な目でみる。

 「アンナ!」

 ソフィアは咎めるように私の名前を呼ぶ。

 でも、私はそれどころではない。なんたって二人目の攻略対象に会ったのだ。ゲームの中では眼鏡を掛けていたから、今の姿を見てもすぐにはわからなかったが、ソフィアの兄だと聞いてピンと来た。

 攻略対象二人目はジョシュア・ルデンス。ルデンス公爵家の嫡男で、宰相の息子、そしてソフィアの兄だ。確か年齢は一つ上だった気がする。

 挨拶もできず唖然とする私に対し、ジョシュア様は蔑むような目線を向ける。

 「挨拶の一つも出来ない猿を婚約者に据えるなんて殿下もどうかしてる。さっきからうるさくて堪らない。」

 なっ…!何この人……嫌な感じ!!見た目は良いからって調子乗って…!言っていいことと悪いことがあるのが分かってないのかしら!

 「お兄様っ!そんな言い方!!」

 ソフィアも声を荒げて、私を庇ってくれる。

 「ソフィア。いつまで仲良しごっこをしているつもりだ。お前もさっさと大人になれ。こんな奴に価値などない。」

 ソフィアはぐっと唇を噛み締める。

 「でもっ…アンナは殿下の婚約者でー」

 すると、ジョシュア様は私を一瞥し、鼻で笑った。

 「こんな奴が王子妃になどなれるものか。
 最近まで寝たきりで、マナーもろくになってない。

 王子妃はお前だ、ソフィア。全くソフィアを婚約者から辞退させるなど、父上も何を考えているのか。」

 「それは私がー」

 ソフィアが話そうとするのをジョシュア様が遮る。

 「お前の意見など聞いてない。

 …今日の収穫は何もない。もう帰るぞ。」

 「で、でも、お兄様っ!」

 ジョシュア様は、スタスタと一人歩いていってしまう。
 私がソフィアをじっと見つめると、ソフィアはそっと目を逸らした。

 「ごめん、アンナ。また連絡する。」

 そう言うとソフィアは去ってしまった。

 「ソフィア…。」

 大事な親友を呼ぶ声は、虚しくその場に響いた。

 私はただ不安な気持ちでその場に立ち尽くした。
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