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第二章
15.初恋の人
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研究棟から講義棟に向かう間の庭園のベンチに私たちは並んで座っていた。お昼時には賑わうこの中央庭園だが、もう夕刻で帰っている生徒も多いので、庭園には殆ど人がいなかった。
「うぅ~~。」
ソフィアがらしくないうめき声を上げ、頭を抱えている。
「そんなに落ち込むくらいなら普通に話したら良かったのに。」
「……それが出来たら苦労してないわ。
ルフト様を意識すればするほど、ひどいことばかり言ってしまうの。こんなの可愛くないってわかってるのに。」
ソフィアはグスッと鼻を鳴らす。
ジュリーの話し方矯正により最近ツンデレは鳴りを潜めていたのに、こんなところで炸裂するとは。
でも、ルフト先生はソフィアのああいった言い回しにも慣れているようだったし、問題なさそうだけど。
「ソフィアは可愛いわ。大丈夫。
ルフト先生も大して気にしていないようだったし問題ないわよ。」
「……毎回あんな風に悪口ばかり言って大丈夫なはずないわ。妹分だから優しく接してくれてるだけで、本当は私なんか相手にもしたくないと思う……。」
「そんなことないよ。ソフィアならレミリー様のことを任せられるって言ってたし、ルフト先生はソフィアの良さをちゃんとわかってくれてると思う。」
「……そう、かな。」
「うん。だから、ソフィアのことを嫌ってなんかいないと思うわ。元気出して。」
「うん……ありがとう。」
ソフィアは瞳に滲ませた涙を拭って、ようやく笑顔を見せてくれた。
「でも、よかったね。レミリー様のお陰で先生との接点が出来たじゃない。」
「もう、そんな気持ちで引き受けたわけじゃないわ。私は少しでもレミリー様に元気になって欲しいだけよ。」
ソフィアは女神のように微笑む。やっぱりソフィアは優しくて可愛い。私はソフィアこそこの世界のヒロインであるべきだと思う。
「ふふっ。そうね。
そういえばレミリー様はおいくつなのかしら?」
「私たちの一つ下じゃなかったかしら。レミリー様は、ルフト様とはお母様が違うせいもあって、歳が離れているの。」
「お母様が違う?」
「うん。少し複雑なご家庭なの。でも、ルフト様はとっても妹さんのことを可愛がっているわ。妹さんのお陰でようやく本物の家族を手に入れられたって。」
「へぇ…。」
なにか事情があるなら、尚更文通相手を引き受けなくて良かったと私は密かに胸を撫で下ろした。
「でも、ソフィアはなんというか……余裕?のある感じの男性が好きなのね。真面目な方が好きなのかと思ってたから、すごい意外。」
「ふふっ。そうね…でもそういう人がっていうよりもルフト様が好きなだけよ。
しかも、馬鹿みたいに単純な理由でね。
どんな女性にも言ってるんだろうけど……
ルフト様は私のことを可愛いって言ってくれたの。
私、キツい顔立ちをしているから、権力を目当てにした男性しか寄って来ないし、美人とは言われても可愛いなんて殆ど言われて来なかったから……。
初めて会った時に『可愛いお姫様』って言って、手の甲にキスをしてくれたの。ルフト様と初めて会ったのは八歳の頃だったんだけど、私の目にはまるでルフト様は王子様のように見えたわ。……その頃からずっと好き。」
ソフィアの色んな表情を見てきた私だけど…そう話すソフィアは今までで一番可愛かった。
「それからも一緒にいればいるほど、好きになっていったわ。私がメソメソしていると戯けたフリして励ましてくれる優しさや、お祖父様の厳しい訓練にも耐えた強さ、凄い存在なのにそんな名声なんて気にかけない謙虚さ……全てが私にはキラキラして見えた。」
「……本当に好きなのね。」
「ふふっ。二人だけの秘密よ?」
ソフィアはそう言うと、唇に人差し指を当てた。
「あぁ……ソフィアが可愛い…。」
「……っな!!からかわないでよ!」
ソフィアにそう言われ、思わず心の声が漏れてしまっていたことに気付く。
「ごめん、つい。」
「はぁ。それにしても、さっきは何であんなことになってたの?ルフト様がアンナに迫っているように見えたけどー
……ルフト様もアンナのことが好きなのかしら…?」
しゅん、と俯くソフィアを見て、私は慌てて否定した。
「それはない!絶対ない!!」
「そんなの分からないじゃない…。アンナは可愛いもの。みんな、アンナを好きになるわ……。」
みんなとは一体…?
だが、今は誤解を解くことが先決だ。
「ルフト先生はあの時、私にソフィアのことを尋ねてきたの。」
「私のこと?」
首を傾げるソフィアに私は頷いた。
「そう。ソフィアの好きな人は誰だ?って。」
「えっ!嘘?!…アンナ、まさか…っ!!」
「言ってない!言ってないよ!」
慌てて否定する私にアンナは、フゥと息を吐いた。
「そ、そうよね……。ありがとう、黙っててくれて。」
「当たり前じゃない。」
「ありがとう。
でも、なんで私の好きな人なんてー」
私は横目でチラッとソフィアを伺う。
「ソフィアのこと、好きだったりして。」
「ないからっ!」
案の定、ソフィアは顔を真っ赤にして否定する。
「そう?」
「お願いだから、期待させないで!期待なんかして失恋したら立ち直れなくなっちゃう……。」
「ふふっ。ごめんごめん。
…でも、恋してるソフィア、とっても可愛い。
私もそんな気持ち、分かる日が来るかなぁ。」
「そうねぇ…。案外自覚してないだけで、もう恋してるかもしれないわよ?」
ソフィアがニコニコと私を見つめる。
「……恋してる。」
「ま、それが殿下以外だったら、大変なことになりそうだけどねぇ…。」
「……それは確かに。」
「愛されるのも大変ね。」
「あはは……。」
私は苦笑いを浮かべた。
「うぅ~~。」
ソフィアがらしくないうめき声を上げ、頭を抱えている。
「そんなに落ち込むくらいなら普通に話したら良かったのに。」
「……それが出来たら苦労してないわ。
ルフト様を意識すればするほど、ひどいことばかり言ってしまうの。こんなの可愛くないってわかってるのに。」
ソフィアはグスッと鼻を鳴らす。
ジュリーの話し方矯正により最近ツンデレは鳴りを潜めていたのに、こんなところで炸裂するとは。
でも、ルフト先生はソフィアのああいった言い回しにも慣れているようだったし、問題なさそうだけど。
「ソフィアは可愛いわ。大丈夫。
ルフト先生も大して気にしていないようだったし問題ないわよ。」
「……毎回あんな風に悪口ばかり言って大丈夫なはずないわ。妹分だから優しく接してくれてるだけで、本当は私なんか相手にもしたくないと思う……。」
「そんなことないよ。ソフィアならレミリー様のことを任せられるって言ってたし、ルフト先生はソフィアの良さをちゃんとわかってくれてると思う。」
「……そう、かな。」
「うん。だから、ソフィアのことを嫌ってなんかいないと思うわ。元気出して。」
「うん……ありがとう。」
ソフィアは瞳に滲ませた涙を拭って、ようやく笑顔を見せてくれた。
「でも、よかったね。レミリー様のお陰で先生との接点が出来たじゃない。」
「もう、そんな気持ちで引き受けたわけじゃないわ。私は少しでもレミリー様に元気になって欲しいだけよ。」
ソフィアは女神のように微笑む。やっぱりソフィアは優しくて可愛い。私はソフィアこそこの世界のヒロインであるべきだと思う。
「ふふっ。そうね。
そういえばレミリー様はおいくつなのかしら?」
「私たちの一つ下じゃなかったかしら。レミリー様は、ルフト様とはお母様が違うせいもあって、歳が離れているの。」
「お母様が違う?」
「うん。少し複雑なご家庭なの。でも、ルフト様はとっても妹さんのことを可愛がっているわ。妹さんのお陰でようやく本物の家族を手に入れられたって。」
「へぇ…。」
なにか事情があるなら、尚更文通相手を引き受けなくて良かったと私は密かに胸を撫で下ろした。
「でも、ソフィアはなんというか……余裕?のある感じの男性が好きなのね。真面目な方が好きなのかと思ってたから、すごい意外。」
「ふふっ。そうね…でもそういう人がっていうよりもルフト様が好きなだけよ。
しかも、馬鹿みたいに単純な理由でね。
どんな女性にも言ってるんだろうけど……
ルフト様は私のことを可愛いって言ってくれたの。
私、キツい顔立ちをしているから、権力を目当てにした男性しか寄って来ないし、美人とは言われても可愛いなんて殆ど言われて来なかったから……。
初めて会った時に『可愛いお姫様』って言って、手の甲にキスをしてくれたの。ルフト様と初めて会ったのは八歳の頃だったんだけど、私の目にはまるでルフト様は王子様のように見えたわ。……その頃からずっと好き。」
ソフィアの色んな表情を見てきた私だけど…そう話すソフィアは今までで一番可愛かった。
「それからも一緒にいればいるほど、好きになっていったわ。私がメソメソしていると戯けたフリして励ましてくれる優しさや、お祖父様の厳しい訓練にも耐えた強さ、凄い存在なのにそんな名声なんて気にかけない謙虚さ……全てが私にはキラキラして見えた。」
「……本当に好きなのね。」
「ふふっ。二人だけの秘密よ?」
ソフィアはそう言うと、唇に人差し指を当てた。
「あぁ……ソフィアが可愛い…。」
「……っな!!からかわないでよ!」
ソフィアにそう言われ、思わず心の声が漏れてしまっていたことに気付く。
「ごめん、つい。」
「はぁ。それにしても、さっきは何であんなことになってたの?ルフト様がアンナに迫っているように見えたけどー
……ルフト様もアンナのことが好きなのかしら…?」
しゅん、と俯くソフィアを見て、私は慌てて否定した。
「それはない!絶対ない!!」
「そんなの分からないじゃない…。アンナは可愛いもの。みんな、アンナを好きになるわ……。」
みんなとは一体…?
だが、今は誤解を解くことが先決だ。
「ルフト先生はあの時、私にソフィアのことを尋ねてきたの。」
「私のこと?」
首を傾げるソフィアに私は頷いた。
「そう。ソフィアの好きな人は誰だ?って。」
「えっ!嘘?!…アンナ、まさか…っ!!」
「言ってない!言ってないよ!」
慌てて否定する私にアンナは、フゥと息を吐いた。
「そ、そうよね……。ありがとう、黙っててくれて。」
「当たり前じゃない。」
「ありがとう。
でも、なんで私の好きな人なんてー」
私は横目でチラッとソフィアを伺う。
「ソフィアのこと、好きだったりして。」
「ないからっ!」
案の定、ソフィアは顔を真っ赤にして否定する。
「そう?」
「お願いだから、期待させないで!期待なんかして失恋したら立ち直れなくなっちゃう……。」
「ふふっ。ごめんごめん。
…でも、恋してるソフィア、とっても可愛い。
私もそんな気持ち、分かる日が来るかなぁ。」
「そうねぇ…。案外自覚してないだけで、もう恋してるかもしれないわよ?」
ソフィアがニコニコと私を見つめる。
「……恋してる。」
「ま、それが殿下以外だったら、大変なことになりそうだけどねぇ…。」
「……それは確かに。」
「愛されるのも大変ね。」
「あはは……。」
私は苦笑いを浮かべた。
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