親友のために悪役令嬢やってみようと思います!

はるみさ

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第二章 

17.目障り

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 私は再び資料室への荷物運びを先日の女教師に頼まれていた。今日は荷物が多いため、ソフィアが手伝ってくれる。

 「すっかりイーラ先生に目をつけられちゃったわね。」

 「いいよ。荷物運びくらい。
 そんなに重いわけではないし。」

 ソフィアが信じられないという目で私を見る。

 「いや…私、アンナの半分の量だけど、十分重いわよ?」

 「そう?ソフィアは非力だなぁ。」

 私がクスクスと笑うと、ソフィアは頬を膨らませる。

 「そんなことないわよ!
 私が普通で、アンナが特別なんでしょ!」

 「ふふっ。そうかもね。いつかお父様みたいにムキムキになったりして~。」

 「嫌だわ、アンナがこんなに可愛いのに、ドレスが似合わなくなっちゃうじゃない。」

 ひどいしかめ面で私を見るソフィア。
 その顔が面白くて私は吹き出した。

 「ぷっ…!ふふっ…私も流石に嫌かも。」

 そんなことを話し、二人で笑い合いながら、廊下を進むと、途中でソフィアが教師に呼び止められた。急ぎ確認したいことがあるらしい。

 「ごめん、アンナ。
 後から追いかけるから、先に行っててくれる?」

 「うん、勿論。
 ソフィアの荷物も持って行っちゃうね。」

 「いいわよ。重いから。」

 「大丈夫…っと。ほら。
 じゃあ、先に行ってるねー!」

 「え、ちょっとアンナー」

 ソフィアの呼び止める声が聞こえたが、その後、すぐに教師の声がして、教員室の方に歩いていくのが見えた。どっちにしろ資料室はすぐそこだ。大した負担ではない。

 私は資料室に荷物を運び込むと、資料を元に戻し始める。

 すると、ガラッと勢いよく扉が開いた。

 「ソフィア、早かっー

 ……あれ?リィナ、さん?」

 そこには無言でこちらを睨みつけるリィナがいた。

 「ど、どうしたの?こんなところに…。」

 いつもと違う様子のリィナに恐る恐る話しかける。
 すると、リィナは扉を閉め、キッと私を睨みつけた。

 「あなたは…何者なの?」

 「え?」

 「マジフラの中にはアンナなんてキャラはいなかったわ。」

 やっぱりリィナはゲームのことを知ってるんだ。だからと言って、ここでゲームのことを知っていると言って良いものか…。私は知らないふりをすることにした。

 「リィナさん…な、何を言ってー」

 「ねぇ…ここがマジフラの中だって分かってるんでしょ?」

 「な、なんのことー」

 「あなたは、ライル様と私の出会いのシーンを知ってた。あの時、私は校章を無くしたなんて言ってないのに、あなたは私が校章を探しているって言ったわ。
 それはゲーム内でライル様が校章をくれることを知っていたからよね?」

 「……そ、それは。」

 ……失敗した。そんなことでバレるとは思わなかった。
 私は唇をキュッと噛む。

 「……いい加減、目障りなのよ。」

 リィナの表情は鬼気迫るものがあった。この人がゲームのヒロインだなんて信じられない……。

 「あなたのせいで私のゲームがめちゃくちゃよ!ヒロインなのに何一つ思い通りにならない!全部、あなたがシナリオに関わってくるせいよ!!

 私がトマスとジョシュアを仲直りさせるはずだったのに…あなたが入学前に余計なことをするから、私とジョシュアとの再会が台無しになったわ!!

 ルフトとは補習を通して仲良くなるはずだったのに、あなたと最近はあのユーリって奴まで補習に参加してくるし!

 ライルは話してくれないどころか、近づくことだって叶わない!!せめて前期試験で二位になれればと思ったのに、なんであなたが二位なのよ!あそこは私の順位だったのに!!」

 「リ、リィナさん…?」

 興奮しすぎだ…。この場面を誰かに見られたらまずいとか思わないのだろうか。」

 それに試験に関しては本人の頑張り次第だから、私は全く関係ないと思うのだが……私の言い分など聞いてもらえなそうだった。普段可愛く微笑むリィナがこんなに激昂するなんて…。

 「はぁ……。
 唯一、ゲーム通りに私を好きなのはウィルガくらいよ。

 …顔がいいから仲良くしてやってるけど、公爵家の跡取りじゃないウィルガなんて何の意味もないわ。それも全部、あなたがいるせいよ…。

 あなたがいなければ、あなたが死ねば…!
 全て私の思う通りに進むのにっ!!」

 私が死ねば……なんてー
 自分の思い通りに行かないからって、人の死を願うなんて酷すぎる。こんなの頭がおかしいとしか思えない。

 「……酷い。」

 「何が酷いのよ!!モブであるあなたが生きて、このゲームをめちゃくちゃにしてるほうがよっぽど酷いじゃない!おかげで私は未だに平民上がりのただの惨めな男爵令嬢よ!」

 私は怒りで強く拳を握る。
 リィナを真っ直ぐに見つめ、彼女に届くように…
 自分に言い聞かせるように…私は言った。

 「……貴女のために死んでいい人なんて一人もいない。
 私の命は私のものよ。」

 それでもリィナには私の言葉は届かない。
 彼女は子供のように足を踏み鳴らす。

 「ここはゲームの中なの!私が中心の世界よ!
 あなたはここにいちゃいけない人間なの!

 今すぐ存在を消して、この国から出て行ってよ!」

 ……こんな酷い人がヒロインなはずない。こんな人の思い通りになんてさせたくない。

 リィナが誰と結ばれようと構わないと思っていたけど…ライル様もジョシュア様もウィルガもルフト先生も皆、良い人だ。こんな人と一緒になったって幸せなはずがない。

 「私は……
 この世界でこれからも生きていく。
 死んだりなんて絶対にしてやらない。
 貴女になんて……絶対に負けない。」

 リィナは私の言葉を聞くと、呆然とした。

 そして、暫くすると大きく深呼吸して、今度は微笑んだ。

 「すんなり見えない所に消えてくれれば命くらいは助けてあげようと思ってたのに残念。でも、あなたがそのつもりなら、私だって容赦しないわ。
 絶対にあなたを破滅させてやる……。」

 「破滅……。」

 リィナが一歩一歩私に近付いてくる。

 「私、お気に入りのライルを譲ってくれるなら国外追放で勘弁してやろうと思ったけどー

 生意気な貴女には完全にこの世から消えてもらいましょう。そうね…どのルートがいいかしら……。あなたはどんな風に殺されたい?」

 「ころ、される…。」

 馬車の事故で死ぬとかではなく、殺されるなんて、そんな恐ろしいルートがあるのか…。そして、それをリィナは知っているということが一番恐ろしかった。

 リィナは私の反応を見ると、ニタァと笑った。

 「あら、まさか悪役令嬢が殺されるルートは見てないのかしら?」

 何も言い返せない私にリィナは嬉しそうだ。

 「……フフッ。アハハっ!!
 図星なのね。死なないルートしか見てないってことは、王道のライルルートしかクリアしてないのかしら?国外追放くらいなら親友の代わりに引き受けてあげようとでも思ったの?残念だったわね。

 どこまで知ってるかわかんないからしばらく様子を見てたけど……私はあなたの知らない情報を沢山持ってる。あなたに勝ち目はないわ。」

 勝ち目はなくても、こんな人に負けたくない。
 それにー

 「……たとえ私がいなくても、誰も貴女なんて好きにならないわ。貴女はゲームのリィナなんかじゃない!」

 「…なっ!」

 「容姿はリィナでも、貴女の内面の醜さまでは隠せないわ。貴女はゲームのような美しいリィナにはなれない。」

 「……言わせておけばっ!ただのモブのくせに!!」

 リィナが手を振り上げる。
 ーーと、同時に資料室の扉が開いた。

 パァンッ…と私の頬を打ち付ける音が部屋に響く。

 ……扉の奥には唖然とするソフィアが立っていた。

 
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