45 / 99
第二章
18.挑発
しおりを挟む
刹那の沈黙の後、最初に動いたのはソフィアだった。
「アンナッ!!」
ソフィアが私に駆け寄る。
「どうしたの?!
今、叩かれていたわよね!?」
「だ、大丈夫よ、ソフィア。」
頬はジンジンとするものの、私はソフィアに心配をかけたくなくて、笑顔を貼り付けた。
しかし、ソフィアは目を吊り上げて、リィナを睨む。
「リィナさん。これはどういうつもりですか?
……貴女の返答次第では…許しません。」
「……アンナ様がこの学園を辞めろと脅してきたんですぅ。嫌だって拒んでいたら、たまたま手が当たってしまって……。」
リィナは同情を誘うように俯き、鼻を啜り始める。
もちろんソフィアがそんな演技に騙されるはずもなく、厳しい視線をリィナに向けたまま、問い詰める。
「嘘をつかないで下さい。
アンナはそんな人間ではありません。」
そうすると、今度はリィナがクスクスと笑い始めた。嘘泣きをしたり、笑い始めたりと不気味な人だ。リィナは顔を上げると、ソフィアに言った。
「結局何を話しても、ソフィア様は私の言葉なんて何一つ信じてくださらないでしょう?何があったのか知りたいのなら、アンナ様に聞いたらどうですかー?」
「……アンナ、何があったの?」
振り返って、私に問いかけるソフィアの瞳は真剣だ。本気で私のことを心配していることがよく伝わってくる。
でも……だからこそ、ソフィアには言えない。
「な、何でもないわ。
ソフィアが気にすることじゃないのよ。
本当に偶然リィナさんの手が私にぶつかっただけでー」
「ふざけないで!そんなはずないでしょう!
こんなに赤くなっているのに!」
ソフィアは眉を上げて、私の頬に手を添えた。その瞳は潤んでいる……また、心配してさせてしまった。
リィナが蔑んだような目で私たちを見つめる。
「はっ……、馬鹿らしい。あなた…巻き込みたくないからって、何も話してないのね。友情ごっこなんてして楽しい?」
「黙って。」
私は思わずリィナを睨み付ける。
リィナは私の視線を無視して、ソフィアに笑いかけた。
「ねぇ、ソフィア様?
私、アンナ様が大嫌いなんです。
思わず虐めたくなっちゃうくらい。」
……リィナは何を言ってるの?
ソフィアも訝しげにリィナを見つめる。
「……なんですって?」
「だーかーらー、これからアンナ様のこと、たーくさん虐めちゃうかもって。私、可愛いからぁ…味方してくれる男性が沢山いるんです。」
……頭がおかしい。
「何を言ってるの……?アンナはクウェス公爵家の令嬢なのよ?そんなことしてタダで済むとー」
「タダで済まないですよねぇ。でも、私、やめるつもりないですから。……やめさせたかったら、私に嫌がらせでもしてみたらどうですか?」
「……貴女は何が言いたいの?!」
「嫌がらせでも何でも受けて立ちますよってことです。
では、また。」
呆然とする私たちを残して、それだけ言うとリィナは資料室から出て行った。
ソフィアはどこか悲しそうな顔で私を見て、ため息を吐いた。
「…ソ、ソフィア……。」
「先に頬を冷やしましょう。腫れたら大変だから。」
私とソフィアは無言のまま保健室に向かった。
◆ ◇ ◆
「アンナ、何があったのか話してくれない?」
保健室で手当てを終えた私たちは庭園のベンチに並んで座っていた。少し日差しが強いものの、真上にある大きな木が陽を遮ってくれていた。
ソフィアは私が話すのを待っている。
けれど……話すつもりはなかった。
現実的なソフィアがこの話を信じてくれるとは思えないし、心配かけたくない。
「はぁ……。話すつもりはないのね。」
「ごめん。」
「……いいわ。話したくないことなら、仕方ない。
でも、リィナさんだったのね。アンナがずっと気にしてたのは。」
それは真実なので、私はコクンと頷いた。
「今までもあぁいうことをされてたの?」
私は首を横に振る。
「そう……。
でも、これからは容赦しないって言ってたわ。舐められる前に公爵令嬢としてリィナさんに躾をー」
「それはダメ!!」
私はソフィアの腕を強く掴む。ソフィアは私の突然の行動に目を丸くする。
だって、ダメだ……。きっとリィナは自分を虐めさせて……私が無理ならソフィアを悪役令嬢に仕立て上げるつもりなんだろう。ソフィアが挑発に乗って、リィナに文句を付けるようになったら、リィナの思う壺だ。
「アンナ……。」
「お願い、リィナさんには関わらないで!
私は……大丈夫だから。」
ソフィアが悪役令嬢になったらどうしようと不安で堪らない。それが怖くて……私の視界は滲む。
涙目で懇願する私の手にそっとソフィアは手を添えた。
「駄目よ。アンナが良くても、リィナさんに好き勝手やらせるのは間違っている。」
「お願い…。ダメなの、ソフィア……。」
「いいえ、アンナ。貴女がやらないなら、私がリィナさんに教えてあげなくては。
……それに私の方法で貴女を守ると言ったでしょう?」
「お願いだから…あの子に関わらないで……。」
もう涙を堪えることは出来なかった。ポロッと零れ落ちる涙をソフィアは自分のハンカチで拭ってくれた。
「アンナ……何をそんなに怖がっているの?」
私はぐっと口を噤む。
その私を見て、ソフィアが傷付いたのが分かる。
「……私じゃ駄目、なのね。」
ソフィアはハンカチを私の手に押し付けて、ベンチから立ち上がる。
「ソフィア!!」
「私、先に行くわね。資料室の片付けが終わってないでしょ。アンナはもう少しここで休んでなさい。残りは私がやっておくから。」
「なら、私もー」
そう言って私が立ち上がろうとすると、ソフィアは呟くように私に告げた。
「ごめんなさい。少し、一人になりたいの。」
ソフィアは一人歩き出す。
鼻がツンとなって、ソフィアの後ろ姿が滲む。
「……どうしたらいいの…。」
そう呟いた時、木の上から何かが落ちてきた。
「きゃぁっ!!」
気まずそうに私の隣に上手く着地したのは、ユーリだった。
「アンナッ!!」
ソフィアが私に駆け寄る。
「どうしたの?!
今、叩かれていたわよね!?」
「だ、大丈夫よ、ソフィア。」
頬はジンジンとするものの、私はソフィアに心配をかけたくなくて、笑顔を貼り付けた。
しかし、ソフィアは目を吊り上げて、リィナを睨む。
「リィナさん。これはどういうつもりですか?
……貴女の返答次第では…許しません。」
「……アンナ様がこの学園を辞めろと脅してきたんですぅ。嫌だって拒んでいたら、たまたま手が当たってしまって……。」
リィナは同情を誘うように俯き、鼻を啜り始める。
もちろんソフィアがそんな演技に騙されるはずもなく、厳しい視線をリィナに向けたまま、問い詰める。
「嘘をつかないで下さい。
アンナはそんな人間ではありません。」
そうすると、今度はリィナがクスクスと笑い始めた。嘘泣きをしたり、笑い始めたりと不気味な人だ。リィナは顔を上げると、ソフィアに言った。
「結局何を話しても、ソフィア様は私の言葉なんて何一つ信じてくださらないでしょう?何があったのか知りたいのなら、アンナ様に聞いたらどうですかー?」
「……アンナ、何があったの?」
振り返って、私に問いかけるソフィアの瞳は真剣だ。本気で私のことを心配していることがよく伝わってくる。
でも……だからこそ、ソフィアには言えない。
「な、何でもないわ。
ソフィアが気にすることじゃないのよ。
本当に偶然リィナさんの手が私にぶつかっただけでー」
「ふざけないで!そんなはずないでしょう!
こんなに赤くなっているのに!」
ソフィアは眉を上げて、私の頬に手を添えた。その瞳は潤んでいる……また、心配してさせてしまった。
リィナが蔑んだような目で私たちを見つめる。
「はっ……、馬鹿らしい。あなた…巻き込みたくないからって、何も話してないのね。友情ごっこなんてして楽しい?」
「黙って。」
私は思わずリィナを睨み付ける。
リィナは私の視線を無視して、ソフィアに笑いかけた。
「ねぇ、ソフィア様?
私、アンナ様が大嫌いなんです。
思わず虐めたくなっちゃうくらい。」
……リィナは何を言ってるの?
ソフィアも訝しげにリィナを見つめる。
「……なんですって?」
「だーかーらー、これからアンナ様のこと、たーくさん虐めちゃうかもって。私、可愛いからぁ…味方してくれる男性が沢山いるんです。」
……頭がおかしい。
「何を言ってるの……?アンナはクウェス公爵家の令嬢なのよ?そんなことしてタダで済むとー」
「タダで済まないですよねぇ。でも、私、やめるつもりないですから。……やめさせたかったら、私に嫌がらせでもしてみたらどうですか?」
「……貴女は何が言いたいの?!」
「嫌がらせでも何でも受けて立ちますよってことです。
では、また。」
呆然とする私たちを残して、それだけ言うとリィナは資料室から出て行った。
ソフィアはどこか悲しそうな顔で私を見て、ため息を吐いた。
「…ソ、ソフィア……。」
「先に頬を冷やしましょう。腫れたら大変だから。」
私とソフィアは無言のまま保健室に向かった。
◆ ◇ ◆
「アンナ、何があったのか話してくれない?」
保健室で手当てを終えた私たちは庭園のベンチに並んで座っていた。少し日差しが強いものの、真上にある大きな木が陽を遮ってくれていた。
ソフィアは私が話すのを待っている。
けれど……話すつもりはなかった。
現実的なソフィアがこの話を信じてくれるとは思えないし、心配かけたくない。
「はぁ……。話すつもりはないのね。」
「ごめん。」
「……いいわ。話したくないことなら、仕方ない。
でも、リィナさんだったのね。アンナがずっと気にしてたのは。」
それは真実なので、私はコクンと頷いた。
「今までもあぁいうことをされてたの?」
私は首を横に振る。
「そう……。
でも、これからは容赦しないって言ってたわ。舐められる前に公爵令嬢としてリィナさんに躾をー」
「それはダメ!!」
私はソフィアの腕を強く掴む。ソフィアは私の突然の行動に目を丸くする。
だって、ダメだ……。きっとリィナは自分を虐めさせて……私が無理ならソフィアを悪役令嬢に仕立て上げるつもりなんだろう。ソフィアが挑発に乗って、リィナに文句を付けるようになったら、リィナの思う壺だ。
「アンナ……。」
「お願い、リィナさんには関わらないで!
私は……大丈夫だから。」
ソフィアが悪役令嬢になったらどうしようと不安で堪らない。それが怖くて……私の視界は滲む。
涙目で懇願する私の手にそっとソフィアは手を添えた。
「駄目よ。アンナが良くても、リィナさんに好き勝手やらせるのは間違っている。」
「お願い…。ダメなの、ソフィア……。」
「いいえ、アンナ。貴女がやらないなら、私がリィナさんに教えてあげなくては。
……それに私の方法で貴女を守ると言ったでしょう?」
「お願いだから…あの子に関わらないで……。」
もう涙を堪えることは出来なかった。ポロッと零れ落ちる涙をソフィアは自分のハンカチで拭ってくれた。
「アンナ……何をそんなに怖がっているの?」
私はぐっと口を噤む。
その私を見て、ソフィアが傷付いたのが分かる。
「……私じゃ駄目、なのね。」
ソフィアはハンカチを私の手に押し付けて、ベンチから立ち上がる。
「ソフィア!!」
「私、先に行くわね。資料室の片付けが終わってないでしょ。アンナはもう少しここで休んでなさい。残りは私がやっておくから。」
「なら、私もー」
そう言って私が立ち上がろうとすると、ソフィアは呟くように私に告げた。
「ごめんなさい。少し、一人になりたいの。」
ソフィアは一人歩き出す。
鼻がツンとなって、ソフィアの後ろ姿が滲む。
「……どうしたらいいの…。」
そう呟いた時、木の上から何かが落ちてきた。
「きゃぁっ!!」
気まずそうに私の隣に上手く着地したのは、ユーリだった。
1
あなたにおすすめの小説
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる