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Ep.7-4《乙女達の復讐》
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ふと目を開くと、そこには先程と同じ廃墟の景色が広がっていた。
『せっかくなのでアーニャさんには少し、ハンデを設けさせていただきますね』
転送の直前にオペ子が残したその言葉が頭の中を反芻する。
(あれはどういう……)
まだ頭の整理がつかぬままアーニャが頭を抱えていると、高速で何かが近づいてくる気配を感じ即座に振り向く。
「先手必勝! っすよ!」
「はやッ――」
不意に、人間の力を超えた跳躍力で飛んできたメルカが、アーニャの目の前に着地する。
そのまま彼女は武器すら持たずに、アーニャの胸を目掛けて拳を打ち込んだ。
「うぐ……ッ!」
アーニャはそれを両腕でガードするが強い衝撃で足が浮き、数歩後ろに突き飛ばされる。
(な、何この一撃、重い……ッ!?)
メルカの小柄な体型からは想像できない重さの一撃に、アーニャの両腕がじんじんと熱くなる。
そんな時、フィールド内にオペ子のアナウンスが響いた。
『アーニャさんは強すぎるので、今回他の3人には運動能力強化の設定を追加させて頂きました』
淡々と告げられる追加ルール。
「そ、そう言うのは戦闘開始前に言ってよ……!」
苛立ちながらそう呟くアーニャ。
だがメルカの猛攻は止まらない。
「そうは言ってもアーニャさんならこの程度のハンデ、大したことないっすよね!」
そう言ってメルカはアーニャの体めがけ、幾度も拳を打ち込んでくる。
圧倒的にこちらが不利なルールだが、それでもアーニャはメルカの動きになんとか食らいつこうとする。
(運動能力の強化と言っても、いつもと違う自身の動きにすぐには順応できないはず……!)
そう考えたアーニャはメルカの拳をギリギリのところで回避し、メルカの腕と胸ぐらを掴む。
そしてそのまま背負い投げをする。
「せやぁああッ!!」
「わっ、わわっ!?」
運動能力が上がったところで小柄で軽いメルカの体はいとも容易く宙を舞い、背中から地面に叩きつけられる。
「ぅあぐッ!」
体を仰け反らせ痛みに体を捩らせているメルカを横目に、アーニャはすぐさまその場から離れた。
(今のうちに武器を探さなくちゃ……)
なんとか不意を打つことはできたが、このまま運動能力が強化されたメルカと肉弾戦を続けても勝ち目は薄い。
それにたとえメルカと泥沼の殴り合いを続けたところで、敵はまだ二人残っていることを忘れてはいけない。
一瞬で敵を倒せる、殺傷能力の高い武器が必要だ。
「よし、アイテムボックスみっけ」
前方にアイテムボックスを発見し、すぐさま中身を確認する。
「おっ、いつものナイフ……これならいける」
使い慣れた武器を手に入れホッとしたのも束の間――
「みーつっけた!」
背後から金属バットを持ったショーコが忍び寄り、アーニャの体目掛けてスイングする。
「ドーンッ!」
「くぁ……ッ!」
アーニャはその一撃をナイフで受け止めるも、運動能力が上昇したショーコの一撃を完全に受け切ることはできない。
ナイフを持つ手に強い衝撃が走り、吹き飛ばされ、地面を転がる。
「なーんか私、この武器に愛されてるみたい。アイテムボックス開くたびにこれが出てくるんだよねッ!」
ショーコはまだ立ち上がれていないアーニャに近づくと、バットを両手で強く握り、アーニャの体めがけ振りかぶる。
だがその直前、アーニャはショーコの足首を狙い足払いをする。
「うわっ!?」
「そこッ!」
体勢を崩し前のめりになるショーコ。
そんな彼女の腹部を狙い、ナイフを強く突き刺した。
「……え?」
完全に勝利を確信したアーニャだったが、その瞳に映る光景に驚愕する。
ショーコの腹部にナイフを突き刺したその瞬間、ナイフはまるでガラスのようにパリンと割れてしまう。
それは武器の耐久値が0になった時の武器消滅エフェクトだった。
『あっ、言い忘れてたことがもう一つ。アーニャさんは強すぎるのでアーニャさんが使用する武器はその耐久値の消費量が高くなるよう設定しました』
「は、はぁあッ!?」
不意にアナウンスされる追加ルールに、今まで冷静さを保っていたアーニャも流石に声を上げてしまう。
そんな困惑するアーニャの顔を見て、ショーコはニィっと邪悪な笑みをこぼす。
ナイフはショーコの体を貫く前に消滅してしまったため彼女にダメージはない。
それが意味することはつまり、アーニャは武器を持たない無防備な状態で、ショーコの反撃の一撃を受けなければならないということ。
「そーりゃ!」
――ドゴッ!
「ガァッ……!?」
打ち上げるように腹部に叩き込まれる鈍い衝撃。
内臓が潰されたかのような錯覚を覚えた直後、一瞬視界が真っ白になり、気づいた時には居心地の悪い浮遊感に包まれる。
運動能力強化により人並み以上の力で打ち上げられたアーニャの体は、3メートル近く上空に吹き飛ばされていた。
(ま、まずい……ちゃんとした体勢で、着地しないと…………って、え……?)
着地の衝撃を少しでも和らげようと視線を地面に向けた時、そこにはエリィの姿があった。
そして彼女の手には、鞭のようにしなる蛇腹剣が握られていた。
「アーニャ様の可憐に舞う姿、見せていただきますわね」
そう言ってエリィはアーニャに向けて蛇腹剣を振る。
(だ、だめっ、避けられな――)
空中に打ち上げられた状態のアーニャがその攻撃を避けられるはずもなく、鞭のようにしなる剣がアーニャの体に絡みつき、締め上げる。
「あ”あ”――ッ!!」
胸や腕、太ももの刃が食い込んで、アーニャの衣服を切り刻んでいく。
「そーれッ!」
そしてそのままエリィは蛇腹剣で拘束したアーニャの体を、勢いよく地面に叩きつけた。
「がぁああああッ!!」
体が切り刻まれる鋭い痛みと、地面に叩きつけられる鈍痛が同時にやってきて、そのまま蛇腹剣の拘束から解放されたアーニャは力なく地面を転がる。
「おやー? 流石に死んじゃった?」
うつ伏せに倒れたまま顔を上げないアーニャを見て、寄ってきたショーコが声を掛ける。
「いえ、ショーコさん。死にはしませんわ。そういう設定になっているんですもの。ね、オペ子さん」
『はい、どんなにダメージを与えようとアーニャ選手にはダウン判定が出ないように設定されています』
あまりにも多すぎる追加ルール。
アーニャは初戦こそルールを全て確認したが、2回戦目のルールは確認していないことに気づく。
一体どれだけアーニャにとって不利なルールが追加されているのか、検討もつかない。
「く、あっ……なん、で……」
だが、アーニャにダウン判定がないというルールは奇妙だった。
それだけは決してアーニャにとって不利なルールではないのだから。
「言ったじゃないありませんか。これはアーニャ様にベータマイルを渡すための手合わせ。だからアーニャ様が負けてしまっては困るでしょう? そうならないようルールを追加してもらったんですわ」
顔を上げると、ニヤニヤとした表情でこちらを見下す3人の姿があった。
「なのでアーニャ様……手合わせを、続けましょうか……」
アーニャはようやく確信する。
彼女たちの邪悪さを。
まんまと嵌められた自分の愚かさを。
『せっかくなのでアーニャさんには少し、ハンデを設けさせていただきますね』
転送の直前にオペ子が残したその言葉が頭の中を反芻する。
(あれはどういう……)
まだ頭の整理がつかぬままアーニャが頭を抱えていると、高速で何かが近づいてくる気配を感じ即座に振り向く。
「先手必勝! っすよ!」
「はやッ――」
不意に、人間の力を超えた跳躍力で飛んできたメルカが、アーニャの目の前に着地する。
そのまま彼女は武器すら持たずに、アーニャの胸を目掛けて拳を打ち込んだ。
「うぐ……ッ!」
アーニャはそれを両腕でガードするが強い衝撃で足が浮き、数歩後ろに突き飛ばされる。
(な、何この一撃、重い……ッ!?)
メルカの小柄な体型からは想像できない重さの一撃に、アーニャの両腕がじんじんと熱くなる。
そんな時、フィールド内にオペ子のアナウンスが響いた。
『アーニャさんは強すぎるので、今回他の3人には運動能力強化の設定を追加させて頂きました』
淡々と告げられる追加ルール。
「そ、そう言うのは戦闘開始前に言ってよ……!」
苛立ちながらそう呟くアーニャ。
だがメルカの猛攻は止まらない。
「そうは言ってもアーニャさんならこの程度のハンデ、大したことないっすよね!」
そう言ってメルカはアーニャの体めがけ、幾度も拳を打ち込んでくる。
圧倒的にこちらが不利なルールだが、それでもアーニャはメルカの動きになんとか食らいつこうとする。
(運動能力の強化と言っても、いつもと違う自身の動きにすぐには順応できないはず……!)
そう考えたアーニャはメルカの拳をギリギリのところで回避し、メルカの腕と胸ぐらを掴む。
そしてそのまま背負い投げをする。
「せやぁああッ!!」
「わっ、わわっ!?」
運動能力が上がったところで小柄で軽いメルカの体はいとも容易く宙を舞い、背中から地面に叩きつけられる。
「ぅあぐッ!」
体を仰け反らせ痛みに体を捩らせているメルカを横目に、アーニャはすぐさまその場から離れた。
(今のうちに武器を探さなくちゃ……)
なんとか不意を打つことはできたが、このまま運動能力が強化されたメルカと肉弾戦を続けても勝ち目は薄い。
それにたとえメルカと泥沼の殴り合いを続けたところで、敵はまだ二人残っていることを忘れてはいけない。
一瞬で敵を倒せる、殺傷能力の高い武器が必要だ。
「よし、アイテムボックスみっけ」
前方にアイテムボックスを発見し、すぐさま中身を確認する。
「おっ、いつものナイフ……これならいける」
使い慣れた武器を手に入れホッとしたのも束の間――
「みーつっけた!」
背後から金属バットを持ったショーコが忍び寄り、アーニャの体目掛けてスイングする。
「ドーンッ!」
「くぁ……ッ!」
アーニャはその一撃をナイフで受け止めるも、運動能力が上昇したショーコの一撃を完全に受け切ることはできない。
ナイフを持つ手に強い衝撃が走り、吹き飛ばされ、地面を転がる。
「なーんか私、この武器に愛されてるみたい。アイテムボックス開くたびにこれが出てくるんだよねッ!」
ショーコはまだ立ち上がれていないアーニャに近づくと、バットを両手で強く握り、アーニャの体めがけ振りかぶる。
だがその直前、アーニャはショーコの足首を狙い足払いをする。
「うわっ!?」
「そこッ!」
体勢を崩し前のめりになるショーコ。
そんな彼女の腹部を狙い、ナイフを強く突き刺した。
「……え?」
完全に勝利を確信したアーニャだったが、その瞳に映る光景に驚愕する。
ショーコの腹部にナイフを突き刺したその瞬間、ナイフはまるでガラスのようにパリンと割れてしまう。
それは武器の耐久値が0になった時の武器消滅エフェクトだった。
『あっ、言い忘れてたことがもう一つ。アーニャさんは強すぎるのでアーニャさんが使用する武器はその耐久値の消費量が高くなるよう設定しました』
「は、はぁあッ!?」
不意にアナウンスされる追加ルールに、今まで冷静さを保っていたアーニャも流石に声を上げてしまう。
そんな困惑するアーニャの顔を見て、ショーコはニィっと邪悪な笑みをこぼす。
ナイフはショーコの体を貫く前に消滅してしまったため彼女にダメージはない。
それが意味することはつまり、アーニャは武器を持たない無防備な状態で、ショーコの反撃の一撃を受けなければならないということ。
「そーりゃ!」
――ドゴッ!
「ガァッ……!?」
打ち上げるように腹部に叩き込まれる鈍い衝撃。
内臓が潰されたかのような錯覚を覚えた直後、一瞬視界が真っ白になり、気づいた時には居心地の悪い浮遊感に包まれる。
運動能力強化により人並み以上の力で打ち上げられたアーニャの体は、3メートル近く上空に吹き飛ばされていた。
(ま、まずい……ちゃんとした体勢で、着地しないと…………って、え……?)
着地の衝撃を少しでも和らげようと視線を地面に向けた時、そこにはエリィの姿があった。
そして彼女の手には、鞭のようにしなる蛇腹剣が握られていた。
「アーニャ様の可憐に舞う姿、見せていただきますわね」
そう言ってエリィはアーニャに向けて蛇腹剣を振る。
(だ、だめっ、避けられな――)
空中に打ち上げられた状態のアーニャがその攻撃を避けられるはずもなく、鞭のようにしなる剣がアーニャの体に絡みつき、締め上げる。
「あ”あ”――ッ!!」
胸や腕、太ももの刃が食い込んで、アーニャの衣服を切り刻んでいく。
「そーれッ!」
そしてそのままエリィは蛇腹剣で拘束したアーニャの体を、勢いよく地面に叩きつけた。
「がぁああああッ!!」
体が切り刻まれる鋭い痛みと、地面に叩きつけられる鈍痛が同時にやってきて、そのまま蛇腹剣の拘束から解放されたアーニャは力なく地面を転がる。
「おやー? 流石に死んじゃった?」
うつ伏せに倒れたまま顔を上げないアーニャを見て、寄ってきたショーコが声を掛ける。
「いえ、ショーコさん。死にはしませんわ。そういう設定になっているんですもの。ね、オペ子さん」
『はい、どんなにダメージを与えようとアーニャ選手にはダウン判定が出ないように設定されています』
あまりにも多すぎる追加ルール。
アーニャは初戦こそルールを全て確認したが、2回戦目のルールは確認していないことに気づく。
一体どれだけアーニャにとって不利なルールが追加されているのか、検討もつかない。
「く、あっ……なん、で……」
だが、アーニャにダウン判定がないというルールは奇妙だった。
それだけは決してアーニャにとって不利なルールではないのだから。
「言ったじゃないありませんか。これはアーニャ様にベータマイルを渡すための手合わせ。だからアーニャ様が負けてしまっては困るでしょう? そうならないようルールを追加してもらったんですわ」
顔を上げると、ニヤニヤとした表情でこちらを見下す3人の姿があった。
「なのでアーニャ様……手合わせを、続けましょうか……」
アーニャはようやく確信する。
彼女たちの邪悪さを。
まんまと嵌められた自分の愚かさを。
応援ありがとうございます!
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