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Ep.7-3《乙女達の復讐》
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姿勢を低くしながら、アーニャは廃墟ステージの中を駆け巡る。
途中何度か銃声が響いたが、周囲に散らばった瓦礫を遮蔽物にしつつ、アーニャはあるものを探す。
(あった……!)
瓦礫の中に紛れたアイテムボックスを見つけ出し、アーニャはそれを手にする。
(ハンドガン……弾は6つだけか、渋いな……)
箱の中身はアタリともハズレとも言えない内容の物資。
だが少なくともこれで、逃げることしかできない今の状況は打開できる。
丁度二時の方向から発砲音が聞こえた直後、牽制でアーニャは一発だけそちらに向けて発砲し返す。
「わっ! 反撃されたっす!」
「武器を取る前に仕留められたらと思いましたが。流石はアーニャ様! そう簡単に勝たせてはくれませんわね!」
大声を上げて連携を取っているおかげで、彼女たちのおおよその位置は特定できた。
平気で自身の位置を特定されるような行動を取るのは戦闘経験の未熟さから来るものなのか、あるいはこちらを誘っているのか。
とにかくアーニャは銃を持っているだろうメルカに目をつける。
(多分、あの遮蔽物の裏……ッ!)
十歩ほど先にある折れた柱の裏を目指して、アーニャは足音を消して走り出す。
だが柱の真横まで来た瞬間、丁度アーニャの右斜め後ろ方向から何者かの気配を感じて振り返る。
「ほーら、やっぱ来た!」
「――ッ!」
物陰から現れたのはショーコだった。
相変わらずの着崩した制服姿で、さらにその手には金属バットが握られていた。
そしてショーコは出会い頭、その金属バットを両手で強く握りアーニャの胴を目がけて勢いよく振り抜く。
咄嗟にアーニャはスライディングするように身をかがめ、その一撃を回避する。
「捉えたっすよ!」
直後、前方から聞こえるメルカの声。
その手には小柄な少女の体型とは不釣り合いなアサルトライフルが握られていた。
「このッ!」
その銃口が自身の体に向けられるより先に、アーニャは彼女に向けてハンドガンを発砲した。
「うぁッ!」
バランスの取れていない体勢から咄嗟の判断で発砲したハンドガンの銃弾は、メルカの胸を貫通した。
そのままメルカの体がその場に崩れ落ち、動かなくなる。
『メルカ選手ダウン!』
オペ子の声でアナウンスが響く。
まずは一人。
そう思ったのも束の間、アーニャの横腹に鈍い衝撃が走った。
「隙ありッ!!」
「ぁが……ッ!?」
金属バットが横腹に食い込み、その凄まじい衝撃で足が地面から離れる。
「ホームランッ、てね!」
背後から金属バットでアーニャの体を殴打したショーコは、そのまま勢いを殺すことなくバットを振り抜いた。
アーニャの体は2メートルほど吹き飛ばされ、瓦礫が散らばる地面の上を転がる。
「ぐぁ……かっ、はっ……」
肋骨が折れたような痛みに加え、呼吸がままならない感覚と胃液が逆流するような吐き気が入り混じる。
快楽の感覚こそ遮断されているものの、相変わらずリアルな痛覚のフィードバックにアーニャは苦悶の表情を浮かべる。
「おーっしクリーンヒット! やっぱり3対1じゃこっちに分があったかな~?」
アーニャはうつ伏せに倒れ、その場から立ち上がれない。
だが右手は動く。
そしてゆっくりとうつ伏せの体勢のまま、右手に握ったハンドガンを油断しきっているショーコの方へ向ける。
「ダメですわよ」
「――ぎッ!?」
ガコンッ、と肩の関節が外れる音がした。
戦闘が始まってから一度もその姿を見せていなかったエリィが不意に背後から現れ、アーニャの背中を踏みつけ、さらにその右腕に関節技を決める。
「い……ッ!? あがぁあああああッ!!」
右肩に激痛が走り、もはやアーニャは悲鳴を抑えることができない。
「油断禁物ですわアーニャ様。それにショーコさんも。それと、これは危ないので没収させていただきますわね」
そう言ってエリィはアーニャの右手に手を伸ばす。
右肩から先に一切力が入らないアーニャは、右手に握っていたハンドガンをいとも容易く奪われてしまう。
「ごめんごめ~ん、一発当てた時点でもう勝ったと思い込んでた。でも流石は黒ずきんのアーニャ。あのバットの一撃を受けてまだ動けるなんて、かなりタフだねぇ~」
武器を奪われ、右腕の自由を失い、もはやアーニャの敗北は必至。
誰もがそう思う中、アーニャだけはまだ勝利を諦めていなかった。
(まだ、左手は動く……抵抗するなら、今しかない……!)
武器は奪われたが、ダメージを与える手段なら残っている。
アーニャは周囲に散らばる瓦礫の中から比較的鋭利なガラス片を手に取り、エリィの足を切り付けた。
「いたぁ……ッ!」
エリィは悲鳴を上げ、後ろに数歩後退する。
背中を踏みつけていた足が退かされ、その瞬間アーニャは即座に立ち上がり、左手でハンドガンを奪う。
「暴れるなっての!」
抵抗するアーニャを見たショーコはその手に持った金属バットで大きく振りかぶり、アーニャの体にバットの一撃を叩き込む。
「あ”あ”あ”あ”ーーーーッ!?」
背後から響く鈍痛に、アーニャは鈍い悲鳴を上げる。
よりにもよって、バットの一撃は関節技を受けた右肩に直撃した。
(痛いッ……痛いッ、けど……ただ痛いだけだッ!)
顔を歪ませ、目からは涙があふれるが、アーニャは止まらない。
――バンッ! バンッ!
二発の銃声が鳴り響く。
そして少し遅れて二人の体がどさりと地面に倒れる。
最後に立っていたのはアーニャ一人であった。
『ショーコ選手、エリィ選手ダウン! 試合終了! アーニャ選手の勝利です!』
フィールド内にオペ子のアナウンスが響く。
「はぁ……はぁ……勝った……」
想定を超えた激戦に、アーニャは肩で息をする。
少しすると体が光に包まれ、気づいた時にはファンルームに戻っていた。
アーニャの体を覆う全身の苦痛が一瞬で消え去り、擦り切れていた衣服も元に戻っていた。
「いたた、流石はアーニャ様、まさかあの状態から負けるとは思いませんでしたわ」
頭を抱えながら、隣で屈んでいたエリィがゆっくりと立ち上がる。
「うう~、絶対勝ったと思ったのに……あそこから逆転されるなんて……」
「た、対戦してよく分かったっす! やっぱアーニャさん次元の違う強さっすね!」
ショーコとメルカの二人も立ち上がり、アーニャの方へと寄ってくる。
「そ、それほどでも……」
実力をベタ褒めされて、嬉しさと気恥ずかしさでアーニャは視線を泳がせる。
「ねぇねぇ、もう一戦! もう一戦しない?」
「しょーこさん、欲張りすぎですわよ」
「えーいいじゃん! ね、ね!」
しょーこが目を輝かせながらグイグイとアーニャに顔を近づかせ、それをエリィが止めに入る。
「まぁ……良いですよ」
たがの外れたベータアリーナ基準の痛覚フィードバックにはまだ抵抗があるが、それでベータマイルが手に入るなら少しくらいはサービスしてあげてもいい。
そう思ったアーニャは快く首を縦に振る。
「やった! じゃあオペ子ちゃん、さっきのルールでもっかいお願い!」
しょーこはそう言ってガッツポーズを決めると、端末の前に座っているオペ子の肩をゆさゆさと揺さぶる。
「もう、しょーこさんったら…………アーニャ様、私たちのわがままに付き合っていただき感謝致しますわ。本当のところは私も、できればもう一戦したいと思ってたんですけどね」
「私もやる気まんまんっすよ! 次は負けないんで!」
和気藹々とした空気であふれるファンルーム。
普段はギルドのメンバーくらいしか集団での絡みがないアーニャは、こんな空気感も悪くないなとしみじみ感じていた。
「それじゃあもう一戦ということで、転送開始しますね」
「はい」
オペ子の言葉に返事をすると、アーニャの体がまた光に包まれていく。
「せっかくなのでアーニャさんには少し、ハンデを設けさせていただきますね」
「え……」
転送が始まる寸前、ニヤリとオペ子の口角が上がったように見えた。
途中何度か銃声が響いたが、周囲に散らばった瓦礫を遮蔽物にしつつ、アーニャはあるものを探す。
(あった……!)
瓦礫の中に紛れたアイテムボックスを見つけ出し、アーニャはそれを手にする。
(ハンドガン……弾は6つだけか、渋いな……)
箱の中身はアタリともハズレとも言えない内容の物資。
だが少なくともこれで、逃げることしかできない今の状況は打開できる。
丁度二時の方向から発砲音が聞こえた直後、牽制でアーニャは一発だけそちらに向けて発砲し返す。
「わっ! 反撃されたっす!」
「武器を取る前に仕留められたらと思いましたが。流石はアーニャ様! そう簡単に勝たせてはくれませんわね!」
大声を上げて連携を取っているおかげで、彼女たちのおおよその位置は特定できた。
平気で自身の位置を特定されるような行動を取るのは戦闘経験の未熟さから来るものなのか、あるいはこちらを誘っているのか。
とにかくアーニャは銃を持っているだろうメルカに目をつける。
(多分、あの遮蔽物の裏……ッ!)
十歩ほど先にある折れた柱の裏を目指して、アーニャは足音を消して走り出す。
だが柱の真横まで来た瞬間、丁度アーニャの右斜め後ろ方向から何者かの気配を感じて振り返る。
「ほーら、やっぱ来た!」
「――ッ!」
物陰から現れたのはショーコだった。
相変わらずの着崩した制服姿で、さらにその手には金属バットが握られていた。
そしてショーコは出会い頭、その金属バットを両手で強く握りアーニャの胴を目がけて勢いよく振り抜く。
咄嗟にアーニャはスライディングするように身をかがめ、その一撃を回避する。
「捉えたっすよ!」
直後、前方から聞こえるメルカの声。
その手には小柄な少女の体型とは不釣り合いなアサルトライフルが握られていた。
「このッ!」
その銃口が自身の体に向けられるより先に、アーニャは彼女に向けてハンドガンを発砲した。
「うぁッ!」
バランスの取れていない体勢から咄嗟の判断で発砲したハンドガンの銃弾は、メルカの胸を貫通した。
そのままメルカの体がその場に崩れ落ち、動かなくなる。
『メルカ選手ダウン!』
オペ子の声でアナウンスが響く。
まずは一人。
そう思ったのも束の間、アーニャの横腹に鈍い衝撃が走った。
「隙ありッ!!」
「ぁが……ッ!?」
金属バットが横腹に食い込み、その凄まじい衝撃で足が地面から離れる。
「ホームランッ、てね!」
背後から金属バットでアーニャの体を殴打したショーコは、そのまま勢いを殺すことなくバットを振り抜いた。
アーニャの体は2メートルほど吹き飛ばされ、瓦礫が散らばる地面の上を転がる。
「ぐぁ……かっ、はっ……」
肋骨が折れたような痛みに加え、呼吸がままならない感覚と胃液が逆流するような吐き気が入り混じる。
快楽の感覚こそ遮断されているものの、相変わらずリアルな痛覚のフィードバックにアーニャは苦悶の表情を浮かべる。
「おーっしクリーンヒット! やっぱり3対1じゃこっちに分があったかな~?」
アーニャはうつ伏せに倒れ、その場から立ち上がれない。
だが右手は動く。
そしてゆっくりとうつ伏せの体勢のまま、右手に握ったハンドガンを油断しきっているショーコの方へ向ける。
「ダメですわよ」
「――ぎッ!?」
ガコンッ、と肩の関節が外れる音がした。
戦闘が始まってから一度もその姿を見せていなかったエリィが不意に背後から現れ、アーニャの背中を踏みつけ、さらにその右腕に関節技を決める。
「い……ッ!? あがぁあああああッ!!」
右肩に激痛が走り、もはやアーニャは悲鳴を抑えることができない。
「油断禁物ですわアーニャ様。それにショーコさんも。それと、これは危ないので没収させていただきますわね」
そう言ってエリィはアーニャの右手に手を伸ばす。
右肩から先に一切力が入らないアーニャは、右手に握っていたハンドガンをいとも容易く奪われてしまう。
「ごめんごめ~ん、一発当てた時点でもう勝ったと思い込んでた。でも流石は黒ずきんのアーニャ。あのバットの一撃を受けてまだ動けるなんて、かなりタフだねぇ~」
武器を奪われ、右腕の自由を失い、もはやアーニャの敗北は必至。
誰もがそう思う中、アーニャだけはまだ勝利を諦めていなかった。
(まだ、左手は動く……抵抗するなら、今しかない……!)
武器は奪われたが、ダメージを与える手段なら残っている。
アーニャは周囲に散らばる瓦礫の中から比較的鋭利なガラス片を手に取り、エリィの足を切り付けた。
「いたぁ……ッ!」
エリィは悲鳴を上げ、後ろに数歩後退する。
背中を踏みつけていた足が退かされ、その瞬間アーニャは即座に立ち上がり、左手でハンドガンを奪う。
「暴れるなっての!」
抵抗するアーニャを見たショーコはその手に持った金属バットで大きく振りかぶり、アーニャの体にバットの一撃を叩き込む。
「あ”あ”あ”あ”ーーーーッ!?」
背後から響く鈍痛に、アーニャは鈍い悲鳴を上げる。
よりにもよって、バットの一撃は関節技を受けた右肩に直撃した。
(痛いッ……痛いッ、けど……ただ痛いだけだッ!)
顔を歪ませ、目からは涙があふれるが、アーニャは止まらない。
――バンッ! バンッ!
二発の銃声が鳴り響く。
そして少し遅れて二人の体がどさりと地面に倒れる。
最後に立っていたのはアーニャ一人であった。
『ショーコ選手、エリィ選手ダウン! 試合終了! アーニャ選手の勝利です!』
フィールド内にオペ子のアナウンスが響く。
「はぁ……はぁ……勝った……」
想定を超えた激戦に、アーニャは肩で息をする。
少しすると体が光に包まれ、気づいた時にはファンルームに戻っていた。
アーニャの体を覆う全身の苦痛が一瞬で消え去り、擦り切れていた衣服も元に戻っていた。
「いたた、流石はアーニャ様、まさかあの状態から負けるとは思いませんでしたわ」
頭を抱えながら、隣で屈んでいたエリィがゆっくりと立ち上がる。
「うう~、絶対勝ったと思ったのに……あそこから逆転されるなんて……」
「た、対戦してよく分かったっす! やっぱアーニャさん次元の違う強さっすね!」
ショーコとメルカの二人も立ち上がり、アーニャの方へと寄ってくる。
「そ、それほどでも……」
実力をベタ褒めされて、嬉しさと気恥ずかしさでアーニャは視線を泳がせる。
「ねぇねぇ、もう一戦! もう一戦しない?」
「しょーこさん、欲張りすぎですわよ」
「えーいいじゃん! ね、ね!」
しょーこが目を輝かせながらグイグイとアーニャに顔を近づかせ、それをエリィが止めに入る。
「まぁ……良いですよ」
たがの外れたベータアリーナ基準の痛覚フィードバックにはまだ抵抗があるが、それでベータマイルが手に入るなら少しくらいはサービスしてあげてもいい。
そう思ったアーニャは快く首を縦に振る。
「やった! じゃあオペ子ちゃん、さっきのルールでもっかいお願い!」
しょーこはそう言ってガッツポーズを決めると、端末の前に座っているオペ子の肩をゆさゆさと揺さぶる。
「もう、しょーこさんったら…………アーニャ様、私たちのわがままに付き合っていただき感謝致しますわ。本当のところは私も、できればもう一戦したいと思ってたんですけどね」
「私もやる気まんまんっすよ! 次は負けないんで!」
和気藹々とした空気であふれるファンルーム。
普段はギルドのメンバーくらいしか集団での絡みがないアーニャは、こんな空気感も悪くないなとしみじみ感じていた。
「それじゃあもう一戦ということで、転送開始しますね」
「はい」
オペ子の言葉に返事をすると、アーニャの体がまた光に包まれていく。
「せっかくなのでアーニャさんには少し、ハンデを設けさせていただきますね」
「え……」
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