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05 運命共同体
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魔王マリシャール、と妹は名乗った。
もう妹ではないのかもしれない。
名前のとおりに、半分は魔王になったということだろうか。
(でも……それでも、わたしは姉だわ。
お姉ちゃんなのは変わりない。
それに、こうなった責任はわたしにあるから)
フェリシアは下唇をぐっと噛んだ。
あのとき魔石を見せなければマリーはこの塔に入ることはなかった。
逃げる彼女に追いつく体力があれば、話をして落ち着かせることができた。
(それから、さっきの加護の光も。
鎧の彼を護ろうとして発動した力に、魔王が巻き込まれてこうなったように見えたわ。
もっと魔王のほうに集中していたら、全部の力を向けていたら、きっと結果は違ったはず)
マリシャールは塔の上空を飛んでいる。
結界に守られたこの空間で、彼女はどうするというのだろうか。
「ねえ、リシャール。
ここからどうやって出るつもりだった?」
マリーの声で言う。
ひとりごとのように聞こえるが、身体に宿る魔王リシャールに問いかけているようだ。
魔王が答えないでいると、マリーはいたずらっぽい口調で言葉を続けた。
「出られないならお姉ちゃんに捕まるだけだよ。
さっきのすごい力をあなたも見たでしょう。
運命共同体って言葉、わかるかな?
わかるならさっさと手伝って」
「ぐうう、貴様……。
我を手下のように扱うつもりか」
「それはあなた次第。
嫌々やれば手下かもしれないけど、自分で考えてアタシを助ければ、それは仲間よ?
さあ、どっちを選ぶ?」
「ぐうううう」
魔王はひと声うなると、観念した。
切り替えは早いほうらしい。
「わかった、教えるとしよう」
そう言って、マリーと意識を共有したのだろう。
彼女の声で「なるほどね」と聞こえたかと思うと、直後、マリシャールは高く翔んだ。
「いけない!」
フェリシアは空に手を伸ばすが、飛んでいるマリシャールには当然届かない。
だが、近衛兵には彼女の焦りが伝わった。
「どうした?
あの方向も結界に守られているのではないのか?」
「半球状になった結界の頂点に、結界石があります。
そこから結界が始まっているので、その一点を狙われるとどうしても弱いのです。
なんとかして、阻止しないと……」
近衛兵は持っていた剣を上空に投げたが、槍のようにはいかなかった。
突き刺さることなく、あっけなくマリシャールに弾かれる。
「じゃあね、お姉ちゃん。
アタシはサミュエルを殺すけど、できればお姉ちゃんとは争いたくない。
あいつを縛って王都の加護のそとに捨てておいてくれたらとっても助かるのだけれど」
「それは……できないわ」
「残念」
フェリシアには、マリシャールが一瞬だけ傷ついた少女の顔になった気がした。
だが次の瞬間には、彼女は全身に黒いオーラをまとい、弾丸のように結界の始点に激突した。
塔を囲んでいた結界が、割れた氷のように砕け散る。
砕けた結界は役目を終えて空中で消滅するが、近衛兵はフェリシアを破片から守るように全身で彼女を覆った。
王都を守護する聖女であり、姉でもあるフェリシアは、魔王となったマリーが飛んでゆく様子を、彼の腕のあいだからじっと見つめていた。
もう妹ではないのかもしれない。
名前のとおりに、半分は魔王になったということだろうか。
(でも……それでも、わたしは姉だわ。
お姉ちゃんなのは変わりない。
それに、こうなった責任はわたしにあるから)
フェリシアは下唇をぐっと噛んだ。
あのとき魔石を見せなければマリーはこの塔に入ることはなかった。
逃げる彼女に追いつく体力があれば、話をして落ち着かせることができた。
(それから、さっきの加護の光も。
鎧の彼を護ろうとして発動した力に、魔王が巻き込まれてこうなったように見えたわ。
もっと魔王のほうに集中していたら、全部の力を向けていたら、きっと結果は違ったはず)
マリシャールは塔の上空を飛んでいる。
結界に守られたこの空間で、彼女はどうするというのだろうか。
「ねえ、リシャール。
ここからどうやって出るつもりだった?」
マリーの声で言う。
ひとりごとのように聞こえるが、身体に宿る魔王リシャールに問いかけているようだ。
魔王が答えないでいると、マリーはいたずらっぽい口調で言葉を続けた。
「出られないならお姉ちゃんに捕まるだけだよ。
さっきのすごい力をあなたも見たでしょう。
運命共同体って言葉、わかるかな?
わかるならさっさと手伝って」
「ぐうう、貴様……。
我を手下のように扱うつもりか」
「それはあなた次第。
嫌々やれば手下かもしれないけど、自分で考えてアタシを助ければ、それは仲間よ?
さあ、どっちを選ぶ?」
「ぐうううう」
魔王はひと声うなると、観念した。
切り替えは早いほうらしい。
「わかった、教えるとしよう」
そう言って、マリーと意識を共有したのだろう。
彼女の声で「なるほどね」と聞こえたかと思うと、直後、マリシャールは高く翔んだ。
「いけない!」
フェリシアは空に手を伸ばすが、飛んでいるマリシャールには当然届かない。
だが、近衛兵には彼女の焦りが伝わった。
「どうした?
あの方向も結界に守られているのではないのか?」
「半球状になった結界の頂点に、結界石があります。
そこから結界が始まっているので、その一点を狙われるとどうしても弱いのです。
なんとかして、阻止しないと……」
近衛兵は持っていた剣を上空に投げたが、槍のようにはいかなかった。
突き刺さることなく、あっけなくマリシャールに弾かれる。
「じゃあね、お姉ちゃん。
アタシはサミュエルを殺すけど、できればお姉ちゃんとは争いたくない。
あいつを縛って王都の加護のそとに捨てておいてくれたらとっても助かるのだけれど」
「それは……できないわ」
「残念」
フェリシアには、マリシャールが一瞬だけ傷ついた少女の顔になった気がした。
だが次の瞬間には、彼女は全身に黒いオーラをまとい、弾丸のように結界の始点に激突した。
塔を囲んでいた結界が、割れた氷のように砕け散る。
砕けた結界は役目を終えて空中で消滅するが、近衛兵はフェリシアを破片から守るように全身で彼女を覆った。
王都を守護する聖女であり、姉でもあるフェリシアは、魔王となったマリーが飛んでゆく様子を、彼の腕のあいだからじっと見つめていた。
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