婚約破棄された妹が魔王になったので、聖女のわたしも悪女になります

monaca

文字の大きさ
6 / 15

06 王都の加護

しおりを挟む
「それでおまえたちは、すごすごと引き下がったというわけか?」

 サミュエルが心底馬鹿にした口調で吐き捨てた。
 王都に戻ったフェリシアたちを、彼は魔王の復活をただ見ていた者として糾弾したのだ。

「殿下、しかし――」
「おまえに発言権があると思うな!
 近衛兵など、ほかにいくらでも代わりがいる。
 命を失うことなく戻ってきたことが、おまえの無能さをそのまま証明しているではないか」

 ひどい言いようだ、とフェリシアは思った。
 愛を受けて生まれてきた以上、人にはその命を大切にする責任がある。
 無駄死にする理由などひとつもないのだ。

 玉座のまえで膝をついていた彼女は、我慢できずにすっと立ち上がった。

「サミュエル様、彼は命を惜しんだわけではありません。
 身をていしてわたしを守ってくださいました。
 どうか、ご慈悲を」
「ふん、聖女といえど女というわけか。
 おおかた、このでくの坊の兜の下の顔でも見たのだろう」
「それはどういう意味でしょう?」

 そういえば、この近衛兵は王太子のまえにいるにもかかわらず兜をとっていない。
 フェリシアがふしぎに思って視線を向けると、彼はそれを避けるかのようにそっぽを向いた。

 サミュエルが鼻を鳴らして笑う。

「ははは、そいつは騎士らしからぬ女たらしの顔をしているからな。
 夜の街ではいったいなにをしているかわかったものじゃない。
 そうだな、では罰として去勢してやろうか。
 命よりも大切なモノなんじゃあないか?」
「サミュエル様、彼は罰など受けるいわれはありません。
 いまは王都を挙げて、魔王からの襲撃に備えるべきときです。
 魔王はあなたの命を狙っているのですよ?」

 フェリシアが強く言うと、王太子はあざ笑うかのように彼女を見下ろし、

「魔王? おまえはあれが魔王だと言うのか?
 城の塔から見ていた者の報告によると、羽の生えたマリーだったそうだぞ。
 不完全にもほどがある。
 ただの小娘の癇癪など、おまえの加護さえあればどうということはない」

 フェリシアのほうを指さしてつまらなそうに言った。
 あんなに慌てて塔から退散したというのに、魔王が不完全な形で復活したと知って、彼は心から安堵しているようだった。

 王都を護る聖女の加護。
 それは、この国に生を受けた聖女が、神から祝福される力を応用したものだ。
 聖女を王都の要職に任命し、国と個人とを結びつけて同一視させることで、まとめて両方を護るという仕組みだった。

 いまは、もっとも力のある聖女としてフェリシアが選ばれている。
 彼女がいるかぎり王都は護られるだろう。
 そしてそれは、魔王自身が言っていたように、そう簡単に破れるものではない。

「聖女よ、せいぜい身体を清めて神に祈って暮らしてくれ。
 このでくの坊の無事を祈るのでも構わないぞ。
 そういう純粋な気持ちほど、神とやらには受けがいいらしいから。
 おまえが神に愛されれば愛されるほど、おれは枕を高くして眠れるというわけだ」

 フェリシアは王太子の高笑いを聞きながら、何ごとか考え込んでいた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

私を見下していた婚約者が破滅する未来が見えましたので、静かに離縁いたします

ほーみ
恋愛
 その日、私は十六歳の誕生日を迎えた。  そして目を覚ました瞬間――未来の記憶を手に入れていた。  冷たい床に倒れ込んでいる私の姿。  誰にも手を差し伸べられることなく、泥水をすするように生きる未来。  それだけなら、まだ耐えられたかもしれない。  だが、彼の言葉は、決定的だった。 「――君のような役立たずが、僕の婚約者だったことが恥ずかしい」

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。 広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。 「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」 震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。 「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」 「無……属性?」

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

「価値がない」と言われた私、隣国では国宝扱いです

ゆっこ
恋愛
「――リディア・フェンリル。お前との婚約は、今日をもって破棄する」  高らかに響いた声は、私の心を一瞬で凍らせた。  王城の大広間。煌びやかなシャンデリアの下で、私は静かに頭を垂れていた。  婚約者である王太子エドモンド殿下が、冷たい眼差しで私を見下ろしている。 「……理由を、お聞かせいただけますか」 「理由など、簡単なことだ。お前には“何の価値もない”からだ」

処理中です...