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件名はいつも「そういえば」
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「うわ、またきた……」
届いたメールの件名、『そういえば』を見た瞬間、わたしはスマホを閉じたくなりました。
でも、婚約者の母親からのメールなので、開かないわけにはいきません。
おそるおそる開くと――
『あなた、子どもは作るつもり? 作るとしたら何人?』
「全然、そういえばレベルの話題じゃない!」
思いっきりコアな話題です。
彼とも、まだはっきりとした結論は出していないことなのに。
『絶対に要らないとは思っていません。彼とも相談して決めたいと思っています』
本当は、「うるさい」とだけ返したいところを、オブラートを丁重に包んだ文章にして返しました。
こういったメールが、毎日ではないのですが、わりとちょくちょくあります。
『そういえば、身内に無職の人はいない?』
『そういえば、あなた貯金は?』
『そういえば、がん家系だったりしない?』
そういえば、そういえば、そういえば……。
おかげで、『そういえば』の文字を見ただけで背中に汗をかくようになっています。
気疲れしながらメールを返したあと、わたしは婚約者に電話をかけました。
「これ、どうにかならないの?」
「うーん……」
実家住まいの彼が、そばにいる母親にひと言「やめろ」と言ってくれればそれで済む話です。
なのに彼は、まともに取りあってくれません。
「悪気があってやってるわけじゃないんだからさ」
「いや、こっちは迷惑してんの。やめさせて」
「でも全部必要な質問だよね?」
「夫婦にとってはそうかもね。でも、あなたのお母さんには関係ない」
そうかな、と言う彼に、
「そうなの! 次に『そういえば』メールきたら婚約自体を考えなおすかもしれないからね」
脅しつけて電話を切りました。
本当に、この件に関してだけは彼と意見が合いません。
彼とはもともと、共通の友だちを介して知り合いました。
浮気が原因で元カレと別れたわたしが、冗談で「絶対浮気しないイケメンいない?」と言ったら、彼を紹介されたのです。
会った印象はたしかに、
「あ、浮気とかしなさそう」
でした。
なぜだかわかりませんが、浮気をするようには見えなかったのです。
実直というのはこういうことなのかなと思いました。
イケメン判定はそうとう甘くしましたが、いろんな話題でやたらと気が合ったこともあり、気づけばスピード婚約をしていました。
でも――
「おいっ、今日は2通めかよ!」
『そういえば、息子の元気がありません。何か困っていることがあれば言ってください』
わたしはがっくりとうなだれました。
元気がないのはさっきの電話のせいで、そのおおもとの原因はあなたです。
彼は母親に注意できずに、ただ婚約破棄の話にショックを受けているのでしょう。
さすがのわたしも気づきました。
「これ、マザコンというやつなのでは……?」
現実にいるというのを想像したことがなかったので、まるで思い当たりませんでした。
でもたしかに、彼のまとっているオーラというか雰囲気というか、どこかしら「他人の判断待ち」のようなところがあります。
浮気しなさそう、という印象もきっとこれです。
自分の欲望で動かない人間で、ある意味これも実直とは言えるのかもしれませんが。
話がやたらと合うのも、わたしの言いぶんを一切否定してこないからのように思えてきました。
女性に話を合わせるクセがついているだけなのかも……?
なんだかうすら寒く感じたわたしは、
『婚約破棄したいと伝えたからではないでしょうか。マザコンはお断りします』
そう書いて送信しました。
すると、すこししてから着信があり、取り乱した彼の声で、
「ママが別れろって怒ってる。メールに何書いたんだよ!」
ママを大切にね、さようなら、とだけ伝えてわたしは切りました。
マザコン怖い……。
いえ、お母さんを軽く扱えということではありません。
でも、彼のように「しっかり話を聞いてくれる」男性が、必ずしも優しいだけとはかぎらないので、注意したほうがいいと思います。
彼のママと結婚するくらいの覚悟があればいいのでしょうが、あいにく、わたしにはそこまでの覚悟はありませんでした。
届いたメールの件名、『そういえば』を見た瞬間、わたしはスマホを閉じたくなりました。
でも、婚約者の母親からのメールなので、開かないわけにはいきません。
おそるおそる開くと――
『あなた、子どもは作るつもり? 作るとしたら何人?』
「全然、そういえばレベルの話題じゃない!」
思いっきりコアな話題です。
彼とも、まだはっきりとした結論は出していないことなのに。
『絶対に要らないとは思っていません。彼とも相談して決めたいと思っています』
本当は、「うるさい」とだけ返したいところを、オブラートを丁重に包んだ文章にして返しました。
こういったメールが、毎日ではないのですが、わりとちょくちょくあります。
『そういえば、身内に無職の人はいない?』
『そういえば、あなた貯金は?』
『そういえば、がん家系だったりしない?』
そういえば、そういえば、そういえば……。
おかげで、『そういえば』の文字を見ただけで背中に汗をかくようになっています。
気疲れしながらメールを返したあと、わたしは婚約者に電話をかけました。
「これ、どうにかならないの?」
「うーん……」
実家住まいの彼が、そばにいる母親にひと言「やめろ」と言ってくれればそれで済む話です。
なのに彼は、まともに取りあってくれません。
「悪気があってやってるわけじゃないんだからさ」
「いや、こっちは迷惑してんの。やめさせて」
「でも全部必要な質問だよね?」
「夫婦にとってはそうかもね。でも、あなたのお母さんには関係ない」
そうかな、と言う彼に、
「そうなの! 次に『そういえば』メールきたら婚約自体を考えなおすかもしれないからね」
脅しつけて電話を切りました。
本当に、この件に関してだけは彼と意見が合いません。
彼とはもともと、共通の友だちを介して知り合いました。
浮気が原因で元カレと別れたわたしが、冗談で「絶対浮気しないイケメンいない?」と言ったら、彼を紹介されたのです。
会った印象はたしかに、
「あ、浮気とかしなさそう」
でした。
なぜだかわかりませんが、浮気をするようには見えなかったのです。
実直というのはこういうことなのかなと思いました。
イケメン判定はそうとう甘くしましたが、いろんな話題でやたらと気が合ったこともあり、気づけばスピード婚約をしていました。
でも――
「おいっ、今日は2通めかよ!」
『そういえば、息子の元気がありません。何か困っていることがあれば言ってください』
わたしはがっくりとうなだれました。
元気がないのはさっきの電話のせいで、そのおおもとの原因はあなたです。
彼は母親に注意できずに、ただ婚約破棄の話にショックを受けているのでしょう。
さすがのわたしも気づきました。
「これ、マザコンというやつなのでは……?」
現実にいるというのを想像したことがなかったので、まるで思い当たりませんでした。
でもたしかに、彼のまとっているオーラというか雰囲気というか、どこかしら「他人の判断待ち」のようなところがあります。
浮気しなさそう、という印象もきっとこれです。
自分の欲望で動かない人間で、ある意味これも実直とは言えるのかもしれませんが。
話がやたらと合うのも、わたしの言いぶんを一切否定してこないからのように思えてきました。
女性に話を合わせるクセがついているだけなのかも……?
なんだかうすら寒く感じたわたしは、
『婚約破棄したいと伝えたからではないでしょうか。マザコンはお断りします』
そう書いて送信しました。
すると、すこししてから着信があり、取り乱した彼の声で、
「ママが別れろって怒ってる。メールに何書いたんだよ!」
ママを大切にね、さようなら、とだけ伝えてわたしは切りました。
マザコン怖い……。
いえ、お母さんを軽く扱えということではありません。
でも、彼のように「しっかり話を聞いてくれる」男性が、必ずしも優しいだけとはかぎらないので、注意したほうがいいと思います。
彼のママと結婚するくらいの覚悟があればいいのでしょうが、あいにく、わたしにはそこまでの覚悟はありませんでした。
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