パーティーを追放された落ちこぼれ死霊術士だけど、五百年前に死んだ最強の女勇者(18)に憑依されて最強になった件

九葉ユーキ

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第一章

第26話 死霊術士の特等席

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 リリスに貰った身体能力と魔法だけでは、俺はジョーキットに勝てない。

 だが俺にはまだあった。

 俺にしかないもの。
 俺にしかできないこと。

 そう――死霊術が。

「クラウス! まさかこのまま凍死しようなんて考えているんじゃないだろうな! 安心しろ! お前には凍死なんかよりもっと惨い死にざまを与えてやるからな!」

 ジョーキットはそう言っているが、吹雪はおさまるどころかより強さを増している。
 時間がない。

 死霊術には探知、会話、使役、憑依、実体化の五つの術がある。
 俺が今からやるのは使役の術だ。
 使役とは、死者の肉体――すなわち骸を操る術。
 過去、死霊術士が忌み嫌われるもっとも大きな要因となった術だ。

 俺は目を閉じた。
 意識を集中させ、道場内の霊魂を探知する。

 ――いた。

 暗闇の中に、青白く光る点が二つ、俺の脳内に映し出された。

 霊魂はまだ肉体を離れていない。きっと自分が死んだことをまだ理解していないのだろう。
 これならいける。

「迷いし霊魂よ。未だ死界への道を知らぬ霊魂よ。我が汝に道を示さん。霊魂よ、我に追従せよ」

 使役の術を発動すると、俺の脳内に二つの映像が同時に入ってきた。
 これは視界だ。俺が使役する二つの骸が見ている視界。

 瞳を閉じ、俺はその二つの映像に集中する。
 一つはジョーキットの側面を、もう一つはジョーキットの背中を捉えている。

 ……よし、この位置ならいける。

 この位置なら――ジョーキットを倒せる。

 映像と同時に、骸を操作するときの独特の感覚もやってきた。脳内にある自分の両手を使い、糸に吊られたマリオネットを操るような感覚だ。
 ハエやネズミしか操作したことがなかったから人間の骸をうまく操作できるか少し心配だが、ぶっつけ本番でやるしかない。

 そうだな、まずは――。

「いつまでもそんな板の後ろに隠れてるんじゃないぞ! C級のカスらしく、潔く惨めに散りやがれ!」

 残念ながら散るのはお前だジョーキット。

「俺があえてヘルブリザードしか使っていない理由がわかるかクラウス! お前をいたぶり尽くし、皮を剥ぎ、最後にはフローリアと同じ死に方を味わわせてやる為だ!」

 行け、骸よ。

 ジョーキットを八つ裂きにしてやれ。

「あのアサルドの趣味の悪い殺し方を見ていてこれほど良かったと思うことはないぞクラウス! お陰でどうやれば死なない程度にいたぶれるのか知ることができたからな! 感謝するぞアサル――」

 ザクッ。
 恐らくそんな音がしたのだろう。
 霊魂とは映像しか共有していないので、この激しい吹雪の中、俺の位置からは聴こえるはずのない音だ。

「な、何で……? おま、えが……?」

 驚愕の色を浮かべてこちらを振り返るジョーキットの顔が脳内に映し出される。
 これはもちろん霊魂が見ている映像だ。

「アサルド……お前、生きていたのか……?」

 そう――俺はアサルドの骸を操作し、ジョーキットの背後から近づいて背中を大剣で一突きしてやったのだ。

 激痛からか、ジョーキットは両手に持っていた特大剣と剣を床に落とした。
 それに伴ってジョーキットの剣から発せられていたヘルブリザードの魔法はピタリと止んだ。

 ジョーキットは俺が死霊術を使えることを知らない。
 というより、俺が死霊術士であるということは故郷の集落の人たちとリリスしか知らない。
 死んだはずのアサルドが動き出したという事実をジョーキットは呑み込めないはずだ。

「ぐっ……うおおぉぉぉぉぉ!!!!」

 ジョーキットは胴体に剣が刺さったままアサルドの腹に前蹴りを入れて突き飛ばした。

「うぐ……うぐごあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 そして腹に刺さった剣を抜き、その剣を仰向けのアサルドの首に突き立てた。
 その瞬間、映像が荒れると同時に操作の糸がプツリと切れる感覚がした。

 アサルドの骸はもはや死霊術を用いても動かせないほどの損傷を負ってしまったようだ。

 それにしても、アサルドの大剣が胴体を貫通したというのに……なんてタフな奴だ。

「ぐぅ……一体何が起きたというんだ……どうしてアサルドが……いや、そんなことよりクラウスは!?」

 俺はもう一つの霊魂に意識を集中し、骸の操作を開始した。

「俺ならここだ! ジョーキット!!!」

 ボロボロの板を横に放り投げ、俺は姿を晒した。

 いつの間にか外野にいた兵士たちが道場からいなくなっている。全員逃げ出したのか。
 まぁ、あれだけの吹雪が吹いていればこんなところにはいられないはずだよな。

 奥のグラッドレイは目を丸くしてこちらを見ている。
 エレナは無事なようだ。良かった。俺のヘルファイアやジョーキットのヘルブリザードが当たってしまっていたらどうしようかと思っていた。

「ジョーキット! それだけの怪我だ、もう勝負はついたろう。きっとアサルドも俺たちの不毛な戦いを止めようと、最期の力を振り絞ってくれたんだ!」

 まぁ、そんなわけないけどね。
 死体を動かしたうえに、死者の気持ちをでっち上げて勝手に語るなんて、我ながら悪趣味だとは思う。
 大昔に死霊術士が忌み嫌われた理由がちょっとわかった気がした。

 だが、悪趣味なのは奴らも同じ。
 目には目を。悪趣味には悪趣味をだ。

「貴様、何を世迷言を……!」

 ジョーキットは床に落とした自分の剣を拾い、再び俺にその刃先を向けた。

 時間を稼ぐんだ。気取られてはまずい。

「今なら兵士たちはいない! 一緒にグラッドレイを消して逃げよう、ジョーキット」

「貴様、俺をコケにするか!!! C級の分際でよくもこのクソカスがあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 熱くなりすぎだ。
 背後に近づいている気配にまったく気がついていない。

「おっと……ジョーキット! 後ろを見ろよ?」

「誰がそんな手に……」

 激昂するジョーキットの言葉は途切れた。
 単に背中の感触に気を取られたからなのか、あるいはその感触に特別なものを覚えたからなのかはわからない。

 視線をゆっくりと背後へとやるジョーキット。

 そこには――

「フロー……リア?」

 ジョーキットに背中から抱きつくフローリアの姿があった。
 もちろん俺が操作したのだが。
 フローリアの死体はジョーキットの手によって道場の壁際に置かれていたので、ジョーキットのところまで運ぶのに会話で時間稼ぎをする必要があったのだ。

 ジョーキットはフローリアの方へ向き直り、剣を持っていない左腕でフローリアを抱きしめた。

「フローリア……!? 生きていたのか? ああ、フローリア!」

 フローリアの視界では、ジョーキットが涙をボロボロと零してこちらを見ている。
 こいつのこんな表情は初めて見たな。

「ジョー……もう、こんな戦いはやめて、二人で……どこか遠いところで暮らしましょう……?」

「ああ! もう、俺には君さえいればいい!! 爵位なんていらない! 二人で生きてゆこう!」

「そう……よ。二人で、手を取り合って……生きていきましょう……」

「ああ、もちろんだ! 手を取り合って……」

 フローリアの両手を、ジョーキットが剣を握っている右手に当てる。

「これからもお互い……きっと過ちを犯すことはたくさんあるわ……でも、こうして、間違った方の手を、どちらかが正してあげればいいの……」

 フローリアの手を動かし、ジョーキットの右手を掴む。
 そして右手に握られた剣の刃先をゆっくりとジョーキットの心臓部へと向ける。

「ああ、ああ! それこそが俺が望んだ関係だ! 俺はずっと一人で生きていけると思っていた! でも、それは違ったんだ! 君という女性がそれを教えてくれた! 俺は君と共に人生を切り開いてゆきたいと思ったんだ!」

 名演説、ご苦労さん。

「そうね、ジョー……あたしがあなたの人生と……ハラワタを切リ開イテアゲル!!!!!」

 剣はジョーキットの左胸部に綺麗に刺さった。

「え……?」

 自分の手を優しく握っていたはずの最愛の女性の手が自分の胸に剣を突き立てている光景は、ジョーキットにはどのように見えているのだろう。
 残念ながら、俺には完全に死んだ人間の視界しか見ることができないので確かめようがないが。

 だが、きっとその光景は絶望に染まったものであったに違いない。
 胸を貫かれた痛みと、最愛の女性とこれからも歩んでいけるという希望を一瞬にして打ち砕かれた痛みに歪む男の表情。
 そんな悲痛な表情を、その最愛の女性の視界という特等席で眺めることができた俺が言うのだから、間違いない。

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