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第三章
Side. マレスティカ公爵
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その夜ローザが眠りについたころ、アロンとレジーナ、そしてシモーナはマレスティカ公爵邸の一室に集まっていた。
「やれやれ、とんでもないことになったね」
「はい。ですが、成り行きとはいえわたくしたちの側に引き込めていて幸いでしたわ」
「そうだね。レジーナ、よくやってくれた。変な連中に目をつけられる前で本当に良かったよ。本当ならどこかの片田舎で目立たないように過ごさせてあげるのが一番なのだろうけれど……」
アロンはそう言って一度言葉を切ると小さく息を吐いた。
「でも、ローザちゃんはもう世に出てきてしまったからね」
「はい」
「とはいえ、オフェリア殿がなんと言うかはまだ分からないけれど」
「あなた、オフェリア様は信頼できるお方ですわ。きっとオフェリア様はローザちゃんの魔法に気付いていて、だから国から出したに違いありません。何しろあの国は……」
「……そうだね。平民しかいないはずなのにあの国の上は選民意識の塊のような連中ばかりだからね。それに……」
「……」
アロンの言葉にシモーナはため息を吐き、レジーナは不愉快そうに眉をひそめた。
「ところでレジーナ」
「なんですの?」
「ローザちゃんは【収納】と強力な魔法、そして普通では従えられないはずの魔物を従魔として従えられているね?」
「ええ、そのとおりですわ。お父さま」
「しかもその従魔が見たことを自分の目で見たかのように把握する能力を持っているよね」
「ええ。何を仰りたいんですの?」
「いや、ローザちゃんはまだ何かを隠しているんじゃないかと思ってね。レジーナは何か心当たりは無いかい? 何かが普通ではないレベルで得意だとか」
「え? そう、ですわね……」
アロンにそう問われてレジーナは少し考えるような素振りを見せる。
「ローザはかなりキノコに詳しいようでしたわ」
「キノコ?」
「ええ。素人には見分けにくいはずの毒キノコをいとも簡単に見分けていましたわ。それこそまるで【鑑定】でも持っているかのように一目見ただけで。ローザは否定していましたけれど」
「……」
レジーナの返事にアロンは腕組みをし、シモーナと顔を見合わせた。
「あなた、【収納】だけでなく【鑑定】まで持っているというのは……」
「ますます難しくなるね。ただ、その他にも何か感じなかったかい?」
「いえ、わたくしは特に感じませんでしたわ」
それを聞いたアロンは少しの間何かを考えるような仕草をする。
「そうだ。ローザちゃんは殿下とお会いしたのだよね? 何かなかっ……いや、これは聞くだけ無駄だったね」
「ええ。ご想像のとおりですわ」
苦笑いをしたアロンにレジーナはため息交じりでそう答える。
「じゃあ、学園ではどうだい? やたらと友達が多かったり、人気があったりしていないかい?」
そう問われたレジーナは再び考えるような仕草をする。
「いえ、そんなことはありませんわ。むしろ、ローザはあまり他人とのコミュニケーションが得意ではない様子です。現に殿下とエルネスト様のことを極端に怖がっていましたもの。ローザと仲がいいのは……そうですわね。寮で同室のコドルツィ騎士爵令嬢ヴィクトリア、それから光属性に適性がある平民のリリアくらいですわ」
「そうかぁ。だとすると今日会ったときのあれはなんだったんだろうなぁ」
「え? ローザが何かしていましたの?」
「そんな素振りはなかったんだけどね。ただ、なぜかは分からないけれどローザちゃんが妙にいい子に見えたんだ」
「いい子?」
「そうなんだ。ローザちゃんはかなり怯えていた様子だったし、冷静に考えればこういった印象を受けることはないはずなんだ」
「あなた、わたくしのローザちゃんに対する印象は貴族に対して必要以上に怯えている平民の女の子ですわ」
「そうだよなぁ」
アロンは納得が言っていないといった様子で首をひねっている。
「あなた、ローザちゃんはこのまま成長すればとんでもない美人に成長しますわ。しかもあの年であのスタイルですもの。あなたも男性ですから、そういった女の子にはどうしても甘くなるんじゃなくて?」
「ううん、そうかなぁ? 上手く説明できないけれど、そういうものとは少し違うような気がするんだよなぁ」
アロンはそう呟いてはしきりに首を傾げている。
「ああ、そうだ。護衛につけた騎士たちの様子はどうだった? 何か変なところはなかったかい?」
「え? ええ、そうですわね……。特におかしな様子はありませんでしたわ。ああ、そういえばローザの水着姿はいやらしい目で――」
そこまで言いかけてレジーナはハッとした表情を浮かべた。
「お父さま? まさかローザが【魅了】のスキルを使っていると仰いますの?」
「いや、【魅了】とは明らかに違うよ。それに私たちが【魅了】を受けたならすぐに分かるというのはレジーナも知っているだろう?」
「そうですわね。では、お父さまはなんだと仰いますの?」
「それが分からないから困っているんだ」
「……」
それを聞いたレジーナとシモーナは顔を見合わせると、やれやれ、といった様子で笑みを浮かべる。
「あなた、それはきっと単にローザちゃんを気に入ったということですわ。ローザちゃんが義娘になってくれるといいですわね」
「そう、なのかな?」
「ええ、きっとそうですわ」
そう笑顔でシモーナに言われたアロンはまだ納得していない様子ではあるものの、小さく頷いたのだった。
================
次回更新は通常どおり、2021/12/18 (土) 20:00 を予定しております。
「やれやれ、とんでもないことになったね」
「はい。ですが、成り行きとはいえわたくしたちの側に引き込めていて幸いでしたわ」
「そうだね。レジーナ、よくやってくれた。変な連中に目をつけられる前で本当に良かったよ。本当ならどこかの片田舎で目立たないように過ごさせてあげるのが一番なのだろうけれど……」
アロンはそう言って一度言葉を切ると小さく息を吐いた。
「でも、ローザちゃんはもう世に出てきてしまったからね」
「はい」
「とはいえ、オフェリア殿がなんと言うかはまだ分からないけれど」
「あなた、オフェリア様は信頼できるお方ですわ。きっとオフェリア様はローザちゃんの魔法に気付いていて、だから国から出したに違いありません。何しろあの国は……」
「……そうだね。平民しかいないはずなのにあの国の上は選民意識の塊のような連中ばかりだからね。それに……」
「……」
アロンの言葉にシモーナはため息を吐き、レジーナは不愉快そうに眉をひそめた。
「ところでレジーナ」
「なんですの?」
「ローザちゃんは【収納】と強力な魔法、そして普通では従えられないはずの魔物を従魔として従えられているね?」
「ええ、そのとおりですわ。お父さま」
「しかもその従魔が見たことを自分の目で見たかのように把握する能力を持っているよね」
「ええ。何を仰りたいんですの?」
「いや、ローザちゃんはまだ何かを隠しているんじゃないかと思ってね。レジーナは何か心当たりは無いかい? 何かが普通ではないレベルで得意だとか」
「え? そう、ですわね……」
アロンにそう問われてレジーナは少し考えるような素振りを見せる。
「ローザはかなりキノコに詳しいようでしたわ」
「キノコ?」
「ええ。素人には見分けにくいはずの毒キノコをいとも簡単に見分けていましたわ。それこそまるで【鑑定】でも持っているかのように一目見ただけで。ローザは否定していましたけれど」
「……」
レジーナの返事にアロンは腕組みをし、シモーナと顔を見合わせた。
「あなた、【収納】だけでなく【鑑定】まで持っているというのは……」
「ますます難しくなるね。ただ、その他にも何か感じなかったかい?」
「いえ、わたくしは特に感じませんでしたわ」
それを聞いたアロンは少しの間何かを考えるような仕草をする。
「そうだ。ローザちゃんは殿下とお会いしたのだよね? 何かなかっ……いや、これは聞くだけ無駄だったね」
「ええ。ご想像のとおりですわ」
苦笑いをしたアロンにレジーナはため息交じりでそう答える。
「じゃあ、学園ではどうだい? やたらと友達が多かったり、人気があったりしていないかい?」
そう問われたレジーナは再び考えるような仕草をする。
「いえ、そんなことはありませんわ。むしろ、ローザはあまり他人とのコミュニケーションが得意ではない様子です。現に殿下とエルネスト様のことを極端に怖がっていましたもの。ローザと仲がいいのは……そうですわね。寮で同室のコドルツィ騎士爵令嬢ヴィクトリア、それから光属性に適性がある平民のリリアくらいですわ」
「そうかぁ。だとすると今日会ったときのあれはなんだったんだろうなぁ」
「え? ローザが何かしていましたの?」
「そんな素振りはなかったんだけどね。ただ、なぜかは分からないけれどローザちゃんが妙にいい子に見えたんだ」
「いい子?」
「そうなんだ。ローザちゃんはかなり怯えていた様子だったし、冷静に考えればこういった印象を受けることはないはずなんだ」
「あなた、わたくしのローザちゃんに対する印象は貴族に対して必要以上に怯えている平民の女の子ですわ」
「そうだよなぁ」
アロンは納得が言っていないといった様子で首をひねっている。
「あなた、ローザちゃんはこのまま成長すればとんでもない美人に成長しますわ。しかもあの年であのスタイルですもの。あなたも男性ですから、そういった女の子にはどうしても甘くなるんじゃなくて?」
「ううん、そうかなぁ? 上手く説明できないけれど、そういうものとは少し違うような気がするんだよなぁ」
アロンはそう呟いてはしきりに首を傾げている。
「ああ、そうだ。護衛につけた騎士たちの様子はどうだった? 何か変なところはなかったかい?」
「え? ええ、そうですわね……。特におかしな様子はありませんでしたわ。ああ、そういえばローザの水着姿はいやらしい目で――」
そこまで言いかけてレジーナはハッとした表情を浮かべた。
「お父さま? まさかローザが【魅了】のスキルを使っていると仰いますの?」
「いや、【魅了】とは明らかに違うよ。それに私たちが【魅了】を受けたならすぐに分かるというのはレジーナも知っているだろう?」
「そうですわね。では、お父さまはなんだと仰いますの?」
「それが分からないから困っているんだ」
「……」
それを聞いたレジーナとシモーナは顔を見合わせると、やれやれ、といった様子で笑みを浮かべる。
「あなた、それはきっと単にローザちゃんを気に入ったということですわ。ローザちゃんが義娘になってくれるといいですわね」
「そう、なのかな?」
「ええ、きっとそうですわ」
そう笑顔でシモーナに言われたアロンはまだ納得していない様子ではあるものの、小さく頷いたのだった。
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