107 / 227
第三章
第三章第23話 病院で見学しました
しおりを挟む
公子様にアドバイスを貰ったあたしは早速ツェツィーリエ先生にお願いして、病院に連れてきてもらいました。もちろん、リリアちゃんも一緒です。
ここはツェツィーリエ先生のお友達が運営しているそうで、けがや病気の人を治療しているんだそうです。
「ローザちゃん、リリアちゃん。彼がこの病院の責任者であるコーネル医師ですよ」
ツェツィーリエ先生はそう言って白衣を着たおじいさんを紹介してくれました。
「は、はじめまして。ローザです」
「リリアです」
「はい、ようこそいらっしゃいました。こんなにお若いのに町の病院に興味を持っていただけるとは、さすがツェツィーリエ様のお弟子さんですね」
そう言ってコーネル先生は優しい笑みを浮かべました。なんだか、とっても優しそうなおじいちゃんって感じです。
「それではコーネル、よろしく頼みますよ」
「お任せください。それじゃあみなさん、どうぞこちらへ」
コーネル先生はそう言って病院の奥へと歩き始めたので、あたしたちもその後を追います。ツェツィーリエ先生はあたしたちが見学している間は別の用事があるそうなので、ここでいったんお別れです。
そうしてコーネル先生に案内されて向かった先の部屋には具合の悪そうな人たちがずらりと並んで列を作っていました。
「はい。では診察を始めます。先頭の人から来てください」
コーネル先生に呼ばれて出てきたのは少し小太りの男性です。
「どうしましたか?」
「最近どうにも頭痛がひどく……」
「なるほど。それでは瀉血をしましょう」
あれ? しゃけつ? ってなんですか?
「お願いします」
小太りの男性はさも当然と言った感じで頭を差し出しました。そんな彼のこめかみあたりにコーネル先生は小さなナイフを当ると、見事な手つきて切開しました。
ツーっと血が流れ落ち、それを助手らしい人がボウルのようなもので受け止めています。
あれ? えっと? 血を抜いているんですか?
しばらくすると別の助手らしいお姉さんが白い布を持ってやってきました。
「はい。終わりです。血が止まるまで布でしっかり押さえておいてください」
「ありがとうございます」
小太りの男性はそうお礼を言って部屋を出ていきます。
「はい、次の方」
今後はちょっと痩せ気味の男性です。
「どうしましたか?」
「どうも熱っぽくて……」
「そうでしたか。では瀉血しましょう」
「お願いします」
えっと? 熱があるときも血を抜くんですか?
「二人とも、よく見ていてくださいね。人の体には血が流れている部分とそうでない部分があります。しっかりと血の流れている部分を見極め、手早く適切に瀉血してやることが大切です」
そう言ってコーネル先生は先ほどのナイフを布で拭いてきれいにすると、今度は肘の内側の柔らかい部分を慣れた手つきで切開しました。
ツーっと血が流れ落ちてきて、先ほどの助手さんがそれを受け止めます。
それからしばらくして白い布を渡して治療は完了したようです。
「お大事に」
「ありがとうございました」
「では、次の人」
今度は足を引きずった若い男性が歩いてきました。
「どうしましたか?」
「馬から落ちてしまいまして、足が痛く出たまらないのです」
「そうですか。少し見せてもらいますね」
そう言ってコーネル先生は男性の服を脱がせていきます。
「ああ、これは痛いでしょうね」
その男性の左の足首はパンパンに腫れ上がっています。それと全身にも無数のあざや傷があります。
「これは一度には治せませんね。まずは足首の瀉血をしましょう」
「お願いします」
そう言ってコーネル先生は腫れ上がっている足首を先ほどのナイフで切開しました。
見事な手さばきですが、病院の治療って血を抜くだけなんでしたっけ?
でもあたしは病院なんて行ったことないはずなのに、どうして違和感があるんでしょう?
「あの、あたしも手伝います」
リリアちゃんが手伝いを申し出ましたが、コーネル先生はそれを断りました。
「さすがツェツィーリエ様のお弟子さんですね。ですが、今回はいけません」
「え?」
断られると思っていなかったリリアちゃんが驚いた様子でコーネル先生を見ています。
「彼は命に関わる怪我をしているわけではありません。それに今回は見学としてツェツィーリエ様より預かっています。ツェツィーリエ様のいない場所で患者の治療をさせるわけにはいきません」
「あ、はい……」
えっと、中途半端に治癒を掛けちゃダメってことでしょうか?
「ですから今度ツェツィーリエ様のご一緒のときはぜひ、お手伝いしてくださいね」
コーネル先生は優しい笑顔を浮かべ、まるで諭すようにそう言いました。
「わかりました」
「はい。ああ、そろそろいいですね。あとは……ああ、ここも今瀉血しておきましょう」
そう言ってコーネル先生は男性の治りかけの傷をスパっと切開しました。すると今度は血にまじって膿のようなものが出てきました。
それからコーネル先生は傷口の周りをぎゅっと絞るように押し始めます。
「痛っ! いたたたた!」
「我慢してください。体内に溜まった悪いものを全て抜き出すのです」
「はい……いたたたた!」
ものすごく痛そうな治療でしたが、しばらくすると膿のようなものが出てこなくなりました。
「はい。よく頑張りましたね」
「あ、ありがとうございます……」
「残る部分は次回治療します。明日以降にまた来てください」
「はい」
そう言って男性は白い布を瀉血した部分に巻くと出ていきました。
「次の方、どうぞ」
「はい」
そうしてあたしたちは半日ほど病院での治療を見学してから寮へと戻ったのでした。
え? どうだったのか、ですか?
えっと、そうですね。コーネル先生はほとんど全員に瀉血していましたよ。
瀉血がなんにでも効く治療だなんてあたし、知りませんでした。
でもそのおかげでちょっと深く切開することもあって、人の体のことがちょっとだけ分かった気がします。
まだイメージは上手くできませんけど、あの瀉血をきちんとイメージできるようになれば治癒魔法も使えるようになるんじゃないでしょうか。
あれ? でもなんだか違うような気がするんですけど……。
================
瀉血は十八世紀くらいまでは治療として行われていました。当然ながら限定された一部の症状以外には効果がないだけでなく、患者の体力を消耗するだけの無意味な行為です。瀉血は度々犠牲者を出してきたとされており、たとえばアメリカ合衆国初代大統領ジョージ・ワシントンの死因も瀉血による大量失血が原因であるとする説もあります。
ちなみに床屋で赤白青のポールがぐるぐる回っているのは、理髪店で行われていた瀉血サービスの名残だったりします。
ここはツェツィーリエ先生のお友達が運営しているそうで、けがや病気の人を治療しているんだそうです。
「ローザちゃん、リリアちゃん。彼がこの病院の責任者であるコーネル医師ですよ」
ツェツィーリエ先生はそう言って白衣を着たおじいさんを紹介してくれました。
「は、はじめまして。ローザです」
「リリアです」
「はい、ようこそいらっしゃいました。こんなにお若いのに町の病院に興味を持っていただけるとは、さすがツェツィーリエ様のお弟子さんですね」
そう言ってコーネル先生は優しい笑みを浮かべました。なんだか、とっても優しそうなおじいちゃんって感じです。
「それではコーネル、よろしく頼みますよ」
「お任せください。それじゃあみなさん、どうぞこちらへ」
コーネル先生はそう言って病院の奥へと歩き始めたので、あたしたちもその後を追います。ツェツィーリエ先生はあたしたちが見学している間は別の用事があるそうなので、ここでいったんお別れです。
そうしてコーネル先生に案内されて向かった先の部屋には具合の悪そうな人たちがずらりと並んで列を作っていました。
「はい。では診察を始めます。先頭の人から来てください」
コーネル先生に呼ばれて出てきたのは少し小太りの男性です。
「どうしましたか?」
「最近どうにも頭痛がひどく……」
「なるほど。それでは瀉血をしましょう」
あれ? しゃけつ? ってなんですか?
「お願いします」
小太りの男性はさも当然と言った感じで頭を差し出しました。そんな彼のこめかみあたりにコーネル先生は小さなナイフを当ると、見事な手つきて切開しました。
ツーっと血が流れ落ち、それを助手らしい人がボウルのようなもので受け止めています。
あれ? えっと? 血を抜いているんですか?
しばらくすると別の助手らしいお姉さんが白い布を持ってやってきました。
「はい。終わりです。血が止まるまで布でしっかり押さえておいてください」
「ありがとうございます」
小太りの男性はそうお礼を言って部屋を出ていきます。
「はい、次の方」
今後はちょっと痩せ気味の男性です。
「どうしましたか?」
「どうも熱っぽくて……」
「そうでしたか。では瀉血しましょう」
「お願いします」
えっと? 熱があるときも血を抜くんですか?
「二人とも、よく見ていてくださいね。人の体には血が流れている部分とそうでない部分があります。しっかりと血の流れている部分を見極め、手早く適切に瀉血してやることが大切です」
そう言ってコーネル先生は先ほどのナイフを布で拭いてきれいにすると、今度は肘の内側の柔らかい部分を慣れた手つきで切開しました。
ツーっと血が流れ落ちてきて、先ほどの助手さんがそれを受け止めます。
それからしばらくして白い布を渡して治療は完了したようです。
「お大事に」
「ありがとうございました」
「では、次の人」
今度は足を引きずった若い男性が歩いてきました。
「どうしましたか?」
「馬から落ちてしまいまして、足が痛く出たまらないのです」
「そうですか。少し見せてもらいますね」
そう言ってコーネル先生は男性の服を脱がせていきます。
「ああ、これは痛いでしょうね」
その男性の左の足首はパンパンに腫れ上がっています。それと全身にも無数のあざや傷があります。
「これは一度には治せませんね。まずは足首の瀉血をしましょう」
「お願いします」
そう言ってコーネル先生は腫れ上がっている足首を先ほどのナイフで切開しました。
見事な手さばきですが、病院の治療って血を抜くだけなんでしたっけ?
でもあたしは病院なんて行ったことないはずなのに、どうして違和感があるんでしょう?
「あの、あたしも手伝います」
リリアちゃんが手伝いを申し出ましたが、コーネル先生はそれを断りました。
「さすがツェツィーリエ様のお弟子さんですね。ですが、今回はいけません」
「え?」
断られると思っていなかったリリアちゃんが驚いた様子でコーネル先生を見ています。
「彼は命に関わる怪我をしているわけではありません。それに今回は見学としてツェツィーリエ様より預かっています。ツェツィーリエ様のいない場所で患者の治療をさせるわけにはいきません」
「あ、はい……」
えっと、中途半端に治癒を掛けちゃダメってことでしょうか?
「ですから今度ツェツィーリエ様のご一緒のときはぜひ、お手伝いしてくださいね」
コーネル先生は優しい笑顔を浮かべ、まるで諭すようにそう言いました。
「わかりました」
「はい。ああ、そろそろいいですね。あとは……ああ、ここも今瀉血しておきましょう」
そう言ってコーネル先生は男性の治りかけの傷をスパっと切開しました。すると今度は血にまじって膿のようなものが出てきました。
それからコーネル先生は傷口の周りをぎゅっと絞るように押し始めます。
「痛っ! いたたたた!」
「我慢してください。体内に溜まった悪いものを全て抜き出すのです」
「はい……いたたたた!」
ものすごく痛そうな治療でしたが、しばらくすると膿のようなものが出てこなくなりました。
「はい。よく頑張りましたね」
「あ、ありがとうございます……」
「残る部分は次回治療します。明日以降にまた来てください」
「はい」
そう言って男性は白い布を瀉血した部分に巻くと出ていきました。
「次の方、どうぞ」
「はい」
そうしてあたしたちは半日ほど病院での治療を見学してから寮へと戻ったのでした。
え? どうだったのか、ですか?
えっと、そうですね。コーネル先生はほとんど全員に瀉血していましたよ。
瀉血がなんにでも効く治療だなんてあたし、知りませんでした。
でもそのおかげでちょっと深く切開することもあって、人の体のことがちょっとだけ分かった気がします。
まだイメージは上手くできませんけど、あの瀉血をきちんとイメージできるようになれば治癒魔法も使えるようになるんじゃないでしょうか。
あれ? でもなんだか違うような気がするんですけど……。
================
瀉血は十八世紀くらいまでは治療として行われていました。当然ながら限定された一部の症状以外には効果がないだけでなく、患者の体力を消耗するだけの無意味な行為です。瀉血は度々犠牲者を出してきたとされており、たとえばアメリカ合衆国初代大統領ジョージ・ワシントンの死因も瀉血による大量失血が原因であるとする説もあります。
ちなみに床屋で赤白青のポールがぐるぐる回っているのは、理髪店で行われていた瀉血サービスの名残だったりします。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
905
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる