テイマー少女の逃亡日記

一色孝太郎

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第三章

第三章第34話 賭博なんていいんでしょうか?

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 お昼の一番忙しい時間が終わったので、あたしはこれからリリアちゃんとピーちゃんと一緒に学園祭の見学に行きます。

 ユキとホーちゃんは窓辺の陽だまりで気持ちよさそうに眠っているので、そっとしておいてあげようと思います。二人とも料理研究会には馴染んでいるので、あたしがいないくても大丈夫だと思います。

「ローザちゃん、着替え終わった?」
「はい」
「じゃあ、行こ」

 いつもの制服に着替えたので出発です。

 あ、あたしはもうあの制服は着ませんよ。あれから何回か接客に出たんですけど、決まって同じようなトラブルになるのでこれからは裏方に回ることになったんです。

「ローザちゃん、大変だったね」
「はい」

 それにしても、不思議ですよね。あたしよりも背が高くて胸の大きい先輩だっているのに、どうしてあたしにばっかり来るんでしょうか?

「ローザちゃん、モテてるのは知ってたけど、あんなになるなんてね」
「え?」

 あたしがモテる? 一体なんのことでしょうか?

「え? ローザちゃん、気付いてなかったの?」
「……?」

 全く知りませんでした。あたしなんて背は低いですし、貴族のお嬢様たちのほうがよっぽど美人だと思うんですけど……。

 ですが、リリアちゃんは大きくため息をつきました。

「本当に気付いてなかったんだ。レジーナ様がにらみを利かせてくれていたのと、その、ほら、王太子殿下がアレだったからみんなローザちゃんに声を掛けていなかっただけで……」
「そうだったんですか」

 えっと、どうしましょう。あたし、クラスの人たちにはあまり好かれていないんだと思っていました。

「あ、でもじゃあ、どうしてクラスの女の子たちは……」
「イングリーさんの件があったでしょ? そのことでレジーナ様がかなりお怒りになっていて、それであたしとローザちゃんに話しかけづらくなっていたらしいの。ヴィーシャはほら、クラスよりも剣術部だし……」
「そんな……」

 ずっと壁を感じていたのはそういうことだったんですね。ショックです。

「えへへ、偉そうに言ってるけどあたしも昨日知ったんだけどね」
「そうなんですか?」
「うん。なんか従魔科の男の子がローザちゃんのことが気になってるらしくて、それでうちのクラスの女の子に紹介してって言っていたのをたまたま聞いて、そうしたらその子がレジーナ様に怒られるからイヤだって断っていたの」

 えっと? あたし、変な目で見られたり変なことされたりしないんならお友達を増やしたいんですけど……。

「えっと、じゃあ、あとでレジーナ様に聞いてみますね」
「うん。あたしもレジーナ様になんでそんなことをしているのか聞きたかったんだけど、まだ聞けてないんだ」

 でも、なんだかイングリーさんのときと一緒で周りの人が勝手にやっているだけな気もします。

 それからしばらく沈黙が流れますが、リリアちゃんがおずおずと口を開きました。

「ほら、ローザちゃん、行こ?」
「あ、はい。そうですね」

 こうしてあたしたちは学園祭の見学に出発したのでした。

◆◇◆

 魔法学園だけあって魔術関係の研究会が多いのは知っていましたが、どこも展示をしていません。どうやら魔術関係の研究会はどこも魔術選手権に参加するようです。

 それとびっくりしたんですが、なんと魔術選手権では学園公認で賭博が行われるみたいです。

 賭博をするとお金が無くなって子供が孤児院に捨てられるって孤児院の先生が言っていましたけど、学園でやっていいんでしょうか?

 優勝者を予想するものから一試合ごとに勝利を予想するものまでたくさんありますけど、そんなに賭博ってたくさんやるものなんでしょうか?

 と、思っているとリリアちゃんが熱心に何かを読んでいます。

「ねぇねぇ、優勝候補は実戦魔術部部長のナルドゥス選手で、そのライバルは魔術研究会三年のラズヴァン選手なんだって! 誰が勝つかなぁ」
「何を読んでいるんですか?」
「もちろん優勝予想の新聞だよ。魔法学園の魔術選手権って有名だから、あたし生で見て見たかったんだぁ。お父さんはいつも負けてたけど」
「え? リリアちゃんのお父さんもこの学園の生徒なんですか?」
「え? 何言ってるの? そんなわけないじゃん」
「え?」
「え?」

 それから微妙な沈黙が流れます。

「あ、えっと、だって、リリアちゃんのお父さん、負けたんですよね?」
「え? ああ、そういうことね。ローザちゃん、負けたっていうのは優勝予想を外したってことだよ」
「ええっ!? 学園の生徒じゃないのに賭博に参加するんですか?」
「そりゃそうだよ。この町のあちこちで賭け札を買えるからね」
「ええっ? そんなことしたらみんなお金が無くなってたくさんの子供が孤児院に捨てられちゃいませんか?」
「え? 何言ってるの? そんなわけないじゃん。そこまでのめり込む人はほとんどいないよ」
「そうなんですか?」
「そりゃそうだよ。オーデルラーヴァってギャンブルの町なんだっけ?」
「あ、えっと、そういうわけでは……」
「オーデルラーヴァではどうかは知らないけど、マルダキアでは国の管理していない賭博は違法なの。それに国が管理してるちゃんとした賭博は年に何回かしかないから、お金を賭け過ぎて破産するような人なんていないんだよ」
「そうなんですね」

 知りませんでした。子供が捨てられない賭博もあるんですね。

「それでさ、ローザちゃんは誰が優勝すると思う?」
「え? えっと、誰でしょう……」
「もー、それじゃ予想にならないでしょ。やっぱりナルドゥス選手? それともラズヴァン選手?」
「え、えっと、あたし、その人知らないですし……」
「あ! このラズヴァン選手ってあたしたち会ったことあるよ! ほら」

 そうして見せられた新聞にはラズヴァン選手の似顔絵が描かれていました。なんとなく爽やかな感じの人ですけど、記憶にありません。

「ほら、クラブを探していたときに勧誘してくれた先輩だよ」
「……あ! そういえば、会ったことある……よう、な……?」

 えっと、なんとなく普通の人が一人いて、他の人たちがあたしの胸ばかりジロジロみていて気持ち悪かった記憶があります。

 そのときの普通の人のほうでしょうか?

 えっと、そんな気もしますね。

「ほら、あたしたちも一票買おうよ。そのほうが応援してて楽しいよ。ねぇねぇ、誰にする?」

 リリアちゃんはあたしを賭け札売り場に連れていこうとします。

「えっと、まだ選手のエントリーができるんですよね? 王太子様が言っていました」
「うん、できるけど、有力選手は最初のうちからエントリーしてるもん」
「そうなんですか?」
「そうだよ。だって、エントリーが遅れると当日予選からのスタートだから、ものすごく不利になるもん。それこそ生徒会の人たちが出てきたりしない限り優勝は変わらないよ」
「はぁ」
「ほらほら」

 こうしてあたしはリリアちゃんに押し切られ、賭け札売り場に連れていかれるのでした。
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