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第三章
第三章第36話 ヴィーシャさんの試合が始まりました
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試合が始まりましたが、二人とも向かい合ったまま動きません。一体どういうことなんでしょうか?
何かお話しでもしているんでしょうか?
あたしたちは最前列にいますけど、舞台の中央までは距離があるのでさすがに何を話しているのかまではわかりません。
ユキにでもお願いして近くに行ってもらえば聞こえるかもしれませんけど、今は喫茶店でお昼寝してますし……。
えっと、そうですね。そんなことよりあたしたちがやるべきは応援することですね。
「リリアちゃん」
「うん、せーのっ!」
「「ヴィーシャさん! がんばれー!」」
◆◇◆
「ヴィクトリアさん、応援されていますよ。さあ、どこからでもかかってきなさい」
ソリナは余裕たっぷりな様子でヴィクトリアに対してそう宣言した。
「っ! よろしくお願いします!」
緊張した面持ちのヴィクトリアはじりじりとソリナとの間合いを詰めていくが、中々攻撃に移る素振りは見せない。
「どうしましたか? 攻撃していいのですよ?」
余裕そうな表情のソリナとは対照的に、ヴィクトリアの表情には焦りの色が浮かんでいる。
というのもヴィクトリアはソリナの構えの中に打ち込む隙を見つけられていないのだ。
「仕方ありませんね。ではこちらから攻撃しますよ」
ソリナはそう言って一歩前に踏み出した。ヴィクトリアは気圧されて半歩下がってしまう。
「右を攻撃します」
ソリナは攻撃する方向を宣言すると、目にも止まらない速さでヴィクトリアの右側に向けて打ち込んだ。
ヴィクトリアはそれをなんとか自身の剣で受けとめ、甲高い金属音が闘技場に鳴り響く。
「いい反応ですね」
「う、あ……」
攻撃を受け止められたソリナはすでに元の間合いに戻り、構えを取っていた。一方のヴィクトリアはというと、驚いたようにソリナのほうを見ている。
「ですが、戦場では待ってくれませんよ。さあ、早く構えなさい」
「……っ!」
ヴィクトリアは慌てて構え直すが、その剣先はわずかに震えている。
「それほどまでに私の一撃が重かったですか?」
「そ、そんなことは……」
図星を突かれたのか、ヴィクトリアは狼狽えたような表情を浮かべた。
「……言葉に動揺し、実力差を認めるなど騎士として失格ですよ。騎士たるもの、どのようなことがあろうとも涼しい顔で主を守らなければなりません」
「っ!」
ヴィクトリアはハッとしたような表情を浮かべ、それからキッとソリナを睨む。
「いい表情です。さあ、打ち込んできなさい」
「い、言われなくたって!」
ヴィクトリアは一気に距離を詰めると怒涛の連撃を放つ。
上段から剣を振り下ろすと続いて右から左から、さらに突きも交えて流れるように剣を振るっていく。
しかしソリナは涼しい顔でその全てを受け流していく。
「筋は悪くありません。ですが、あまりにも素直すぎますね」
そう言ってソリナはヴィクトリアの剣を受け止めると見せかけて、力を抜いてするりと受け流した。
「あっ!?」
ヴィクトリアはバランスを崩してそのまま前に数歩よろめいた。
「ああっ!?」
観客席からはローザたちの悲鳴が聞こえてくる。その方向をちらりと確認したソリナは追撃せず、数歩下がってヴィクトリアとの距離を取った。
「え? どうして……?」
ヴィクトリアは自らの敗北を覚悟していたようで、またもや驚いたような表情でソリナを見ている。
「ヴィクトリアさん、あなたはマレスティカ公爵家の騎士を目指しているのでしたね?」
「は、はい……」
「はっきり言って、あなたでは力不足です」
「う……」
「残念ですが、今のまま剣術部で腕を磨いてもマレスティカ公爵家で騎士ができるレベルにはならないでしょう」
「そ、それは……」
「どうしてもマレスティカ公爵にお仕えしたいのなら、侍女でも目指したほうが良いのではありませんか?」
「で、でも!」
「悔しいのであればその片鱗を見せてください。あそこで声援を送っているのが、マレスティカ公爵家の庇護する光属性の少女たちですよね」
「は、はい」
「ヴィクトリアさん、私はレジーナお嬢様より事情を伺っています」
「……」
「そこで提案です。あなたが負けたならば彼女たちの庇護者をマレスティカ公爵家から王家に移すというのはいかがですか?」
「え?」
ソリナの提案にヴィクトリアは怪訝そうな顔をする。
「大丈夫ですよ。私に一撃でも当てることが出来たら私は敗北を認めましょう」
「でも、そんなこと勝手に……」
「ええ。ですが、希少な光属性の少女をマレスティカ公爵家が独占するということに風当たりが強いことも事実です。その点、王家が庇護者であれば誰も文句はいいませんよ。そもそもレジーナお嬢様が庇護なさっているのですから、少なくともテイマーの少女の庇護者はいずれは王家へと移るでしょうね」
「ええっ?」
「もっとも、そうなったときに王太子殿下が何をするかはわかりませんがね」
ソリナは意味深な表情を浮かべた。それを見たヴィクトリアの顔は青くなる。
「それが嫌なら、あなたが実力を証明してみせてください。マレスティカ公爵家の騎士となるに足る才があると」
「くっ!」
ヴィクトリアは血相を変え、再び剣を構えた。
「いい目つきになりましたね。今度はこちらから攻撃しましょう」
ソリナはそう言うと、ヴィクトリアとの間合いを一気に詰めるのだった。
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次回更新は通常どおり、2022/04/25 (土) 20:00 を予定しております。
何かお話しでもしているんでしょうか?
あたしたちは最前列にいますけど、舞台の中央までは距離があるのでさすがに何を話しているのかまではわかりません。
ユキにでもお願いして近くに行ってもらえば聞こえるかもしれませんけど、今は喫茶店でお昼寝してますし……。
えっと、そうですね。そんなことよりあたしたちがやるべきは応援することですね。
「リリアちゃん」
「うん、せーのっ!」
「「ヴィーシャさん! がんばれー!」」
◆◇◆
「ヴィクトリアさん、応援されていますよ。さあ、どこからでもかかってきなさい」
ソリナは余裕たっぷりな様子でヴィクトリアに対してそう宣言した。
「っ! よろしくお願いします!」
緊張した面持ちのヴィクトリアはじりじりとソリナとの間合いを詰めていくが、中々攻撃に移る素振りは見せない。
「どうしましたか? 攻撃していいのですよ?」
余裕そうな表情のソリナとは対照的に、ヴィクトリアの表情には焦りの色が浮かんでいる。
というのもヴィクトリアはソリナの構えの中に打ち込む隙を見つけられていないのだ。
「仕方ありませんね。ではこちらから攻撃しますよ」
ソリナはそう言って一歩前に踏み出した。ヴィクトリアは気圧されて半歩下がってしまう。
「右を攻撃します」
ソリナは攻撃する方向を宣言すると、目にも止まらない速さでヴィクトリアの右側に向けて打ち込んだ。
ヴィクトリアはそれをなんとか自身の剣で受けとめ、甲高い金属音が闘技場に鳴り響く。
「いい反応ですね」
「う、あ……」
攻撃を受け止められたソリナはすでに元の間合いに戻り、構えを取っていた。一方のヴィクトリアはというと、驚いたようにソリナのほうを見ている。
「ですが、戦場では待ってくれませんよ。さあ、早く構えなさい」
「……っ!」
ヴィクトリアは慌てて構え直すが、その剣先はわずかに震えている。
「それほどまでに私の一撃が重かったですか?」
「そ、そんなことは……」
図星を突かれたのか、ヴィクトリアは狼狽えたような表情を浮かべた。
「……言葉に動揺し、実力差を認めるなど騎士として失格ですよ。騎士たるもの、どのようなことがあろうとも涼しい顔で主を守らなければなりません」
「っ!」
ヴィクトリアはハッとしたような表情を浮かべ、それからキッとソリナを睨む。
「いい表情です。さあ、打ち込んできなさい」
「い、言われなくたって!」
ヴィクトリアは一気に距離を詰めると怒涛の連撃を放つ。
上段から剣を振り下ろすと続いて右から左から、さらに突きも交えて流れるように剣を振るっていく。
しかしソリナは涼しい顔でその全てを受け流していく。
「筋は悪くありません。ですが、あまりにも素直すぎますね」
そう言ってソリナはヴィクトリアの剣を受け止めると見せかけて、力を抜いてするりと受け流した。
「あっ!?」
ヴィクトリアはバランスを崩してそのまま前に数歩よろめいた。
「ああっ!?」
観客席からはローザたちの悲鳴が聞こえてくる。その方向をちらりと確認したソリナは追撃せず、数歩下がってヴィクトリアとの距離を取った。
「え? どうして……?」
ヴィクトリアは自らの敗北を覚悟していたようで、またもや驚いたような表情でソリナを見ている。
「ヴィクトリアさん、あなたはマレスティカ公爵家の騎士を目指しているのでしたね?」
「は、はい……」
「はっきり言って、あなたでは力不足です」
「う……」
「残念ですが、今のまま剣術部で腕を磨いてもマレスティカ公爵家で騎士ができるレベルにはならないでしょう」
「そ、それは……」
「どうしてもマレスティカ公爵にお仕えしたいのなら、侍女でも目指したほうが良いのではありませんか?」
「で、でも!」
「悔しいのであればその片鱗を見せてください。あそこで声援を送っているのが、マレスティカ公爵家の庇護する光属性の少女たちですよね」
「は、はい」
「ヴィクトリアさん、私はレジーナお嬢様より事情を伺っています」
「……」
「そこで提案です。あなたが負けたならば彼女たちの庇護者をマレスティカ公爵家から王家に移すというのはいかがですか?」
「え?」
ソリナの提案にヴィクトリアは怪訝そうな顔をする。
「大丈夫ですよ。私に一撃でも当てることが出来たら私は敗北を認めましょう」
「でも、そんなこと勝手に……」
「ええ。ですが、希少な光属性の少女をマレスティカ公爵家が独占するということに風当たりが強いことも事実です。その点、王家が庇護者であれば誰も文句はいいませんよ。そもそもレジーナお嬢様が庇護なさっているのですから、少なくともテイマーの少女の庇護者はいずれは王家へと移るでしょうね」
「ええっ?」
「もっとも、そうなったときに王太子殿下が何をするかはわかりませんがね」
ソリナは意味深な表情を浮かべた。それを見たヴィクトリアの顔は青くなる。
「それが嫌なら、あなたが実力を証明してみせてください。マレスティカ公爵家の騎士となるに足る才があると」
「くっ!」
ヴィクトリアは血相を変え、再び剣を構えた。
「いい目つきになりましたね。今度はこちらから攻撃しましょう」
ソリナはそう言うと、ヴィクトリアとの間合いを一気に詰めるのだった。
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次回更新は通常どおり、2022/04/25 (土) 20:00 を予定しております。
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