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第三章
第三章第46話 魔物討伐演習にやってきました
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ついに魔物討伐演習の日がやってきました。
早朝、学園へとやってきた大型の馬車に班ごとに分かれて乗り込み、会場となる森へとやってきました。
時間はもうお昼頃です。
馬車が着いた場所には小さな小屋があり、そこで御者さんや引率の先生たちは寝泊りするみたいです。
「それでは諸君、健闘を祈る」
ゲラシム先生がそう言ったのを合図に、あたしたちは森の中へと足を踏み入れます。
「さあ、魔物を狩るぞ」
マリウスさんがやたらと張り切ってずんずんと進んでいきます。
あんなに張り切って大丈夫でしょうか?
それに魔物を倒すよりも早くキャンプする場所を見つけたほうがいいと思うんですけど……。
そんなことを思いつつもあたしたちは細い道を進んでいきます。この道が人の通る道なのか獣道なのかは分かりませんが、森のかなり奥のほうまで続いているみたいです。
マリウスさんたちはずんずん歩いていきますけど、みんな自分たちの荷物の他に野営の道具や武器防具を持っているので大変そうです。
あたしも【収納】が使えることは秘密にしていますので、重たい荷物は力持ちのピーちゃんに持ってもらっています。
ただちょっと気がかりなのは、アレックさんがみんなの分のテントを担がされていることです。
これ、マリウスさんたちがアレックさんに対して怒りが爆発しちゃってこうなってるんです。
ほら、この間テントを張れなかったじゃないですか。それでテントを張るのもできないならせめて荷物持ちくらいはしろって。
でも、かなり辛そうなんですよね。大丈夫でしょうか?
「あ、あの? アレックさん、良かったら少しくらい持ちましょうか?」
「い、いえ……大丈夫です」
そう声を掛けますが、アレックさんは愛想笑いを浮かべて断ってきました。
「チッ」
ヴァシリオスさんが聞こえるように大きく舌打ちをしました。
……たしかにアレックさんは頼りないですけど、その態度はどうなんでしょう?
そんなこんなで雰囲気の悪いままあたしたちは森の中をしばらく歩いていましたが、魔物に会うことはありませんでした。
「ちっ。魔物、中々いないな」
「本当に魔物がいるのか?」
先頭を歩くヴァシリオスさんとアイオネルさんがそう悪態を付いていますが、魔物がいないのはいいことだと思うんです。
それにですね。少しずつ暗くなってきてるので、そろそろ野営の準備をしないと危険です。
えっと、やっぱりちゃんと言うべきですよね?
でもマリウスさんに言うのはちょっと怖いですし……。
「あ、あのっ!」
「なんですの?」
あたしは近くを歩いていたロクサーナさんに声を掛けました。
「そろそろ野営の準備をしないと危険です」
「あら、そうですの?」
「はい。野営しやすい場所を見つけて、お水も確保しないと……」
「そうなんですのね。マリウス様、野営の準備をする時間だそうですわ」
「む? そうなのか。では野営の準備を始めよう。ローザ、ここでいいのか?」
「あ、はい。えっと、広い場所と水場を見つけないといけないんです」
「水場か……魔術で出す水ではダメなのか?」
「えっと、魔物もいる場所なので……」
「そうか。ならば仕方ないな。みんな! これから野営の場所を探す! 川を探すのと、野営できる広い場所を探す」
こうしてあたしたちは野営場所を探すことになったのでした。
◆◇◆
しばらくすると、運よく小川を見つけることができました。しかもそんなに離れていないところに少し開けた平らな場所がありましたので、今日はそこで野営することになりました。
ただ、問題はもう日が落ちかかっていることです。
急いでテントを張らないといけません。
「あ、あのっ! コンラートさん!」
「ああ、テントの手伝いね」
コンラートさんはアレックさんのところに歩いていきました。
「なあ、早くテント降ろしてくれよ。何ぼさっと突っ立ってんだよ」
「ひっ。は、はいっ」
アレックさんは慌てて背負っていたテントを地面に降ろしましたが、その拍子でアレックさんは転んでしまいます。
「ああ、もう! なんでそうなんだよ」
コンラートさんはひょいと借りてきたテントを三張り担ぐと、アレックさんを放ってあたしのところに戻ってきました。
「あの、アレックさんは……」
まだ蹲っているアレックさんがちょっと心配になったのですが、コンラートさんはうんざりした表情をしました。
「単にコケただけだから大丈夫でしょ。それより早くテントを張らないと。どういう配置にするの?」
「あ、はい」
そうでした。いくらなんでも暗い中でテントを張るのは危ないですもんね。
それにアレックさんがもし怪我をしていてもあとで治療すれば大丈夫でしょう。
「はい。えっと、ここに火を焚きます。それで、ここと、ここと、あとここにテントを張ります」
「女子用はここでいいの?」
「え? あ、はい」
女子用とか考えていませんでしたけど、たき火の近くのほうがお料理しやすいですもんね。
「OK。じゃ、女子用から張ってくか」
コンラートさんはあたしの指定した場所にテントのセットをそれぞれ置いて、それから一つ目のテントの設置を始めました。
えっと、あたしもお手伝いします。
力のいる作業はできませんけど、シートを広げるくらいならできますからね。
そう思って一ヵ所のテントに近づくと、なんとピーちゃんがグランドシートを広げ始めました。
「え?」
それから器用に体の一部を伸ばすと、この前練習したのと同じ手順で杭を打ち込む場所を決めます。
さらにピーちゃんは杭を打ち込むためのハンマーを持ち、杭を次々と打ち込んでいきます。
うそっ! すごくないですか?
驚いて見ていると、あれよあれよという間にテントが張られてしまいました。
「ピッ」
「あ、えっと、ピーちゃん。すごいです。ありがとうございます」
「ピピッ」
ピーちゃんは褒められて嬉しいのか、体をぷるぷると揺らしています。
「あれ? ローザさん、それどうやったの?」
あたしたちのテントを張ってくれたコンラートさんがあたしのほうに近寄ってきます。
「あ、その、ピーちゃんが……」
あたしは足元でぷるぷるしているピーちゃんをそっと撫でてあげました。
「へぇ。スライムがテントを張るなんて聞いたことないけど、従魔ってすごいんだな」
「えへへ。そうですよね。あたしもピーちゃんがこんなことできるなんて知りませんでした」
「そっか……じゃあ、もう一張りやるけど、その子にも手伝ってもらっていい?」
「あの、ピーちゃん……」
「ピッ」
「あ、やってくれるみたいです」
「……すごいな。まるで言葉が分かるみたいだ。こんな従魔なら俺も欲しいかもな」
「ピピッ!?」
それを聞いたピーちゃんはあたしの後ろにさっと隠れます。
「ははっ。別に君をくれって言ってるわけじゃないよ。君のご主人様がすごいから俺も真似したいって言ってるだけだよ」
「ピー」
するとピーちゃんは安心したかのように出てきました。
「じゃ、テント張ろうぜ?」
「ピッ!」
こうしてコンラートさんとピーちゃんが協力して最後のテントを張っていきます。
あ、そういえば転んだアレックさんは……あれ?
尻もちをついています。なんだか目を見開いて驚いていますけど、何かあったんでしょうか?
不思議に思ってその視線の先を確認しますが、ピーちゃんとコンラートさんが協力してテントを張っています。
えっと、ピーちゃんがテントを張ったのにはびっくりしましたけど、そんないつまでも驚いているようなことじゃないと思うんですけど……。
早朝、学園へとやってきた大型の馬車に班ごとに分かれて乗り込み、会場となる森へとやってきました。
時間はもうお昼頃です。
馬車が着いた場所には小さな小屋があり、そこで御者さんや引率の先生たちは寝泊りするみたいです。
「それでは諸君、健闘を祈る」
ゲラシム先生がそう言ったのを合図に、あたしたちは森の中へと足を踏み入れます。
「さあ、魔物を狩るぞ」
マリウスさんがやたらと張り切ってずんずんと進んでいきます。
あんなに張り切って大丈夫でしょうか?
それに魔物を倒すよりも早くキャンプする場所を見つけたほうがいいと思うんですけど……。
そんなことを思いつつもあたしたちは細い道を進んでいきます。この道が人の通る道なのか獣道なのかは分かりませんが、森のかなり奥のほうまで続いているみたいです。
マリウスさんたちはずんずん歩いていきますけど、みんな自分たちの荷物の他に野営の道具や武器防具を持っているので大変そうです。
あたしも【収納】が使えることは秘密にしていますので、重たい荷物は力持ちのピーちゃんに持ってもらっています。
ただちょっと気がかりなのは、アレックさんがみんなの分のテントを担がされていることです。
これ、マリウスさんたちがアレックさんに対して怒りが爆発しちゃってこうなってるんです。
ほら、この間テントを張れなかったじゃないですか。それでテントを張るのもできないならせめて荷物持ちくらいはしろって。
でも、かなり辛そうなんですよね。大丈夫でしょうか?
「あ、あの? アレックさん、良かったら少しくらい持ちましょうか?」
「い、いえ……大丈夫です」
そう声を掛けますが、アレックさんは愛想笑いを浮かべて断ってきました。
「チッ」
ヴァシリオスさんが聞こえるように大きく舌打ちをしました。
……たしかにアレックさんは頼りないですけど、その態度はどうなんでしょう?
そんなこんなで雰囲気の悪いままあたしたちは森の中をしばらく歩いていましたが、魔物に会うことはありませんでした。
「ちっ。魔物、中々いないな」
「本当に魔物がいるのか?」
先頭を歩くヴァシリオスさんとアイオネルさんがそう悪態を付いていますが、魔物がいないのはいいことだと思うんです。
それにですね。少しずつ暗くなってきてるので、そろそろ野営の準備をしないと危険です。
えっと、やっぱりちゃんと言うべきですよね?
でもマリウスさんに言うのはちょっと怖いですし……。
「あ、あのっ!」
「なんですの?」
あたしは近くを歩いていたロクサーナさんに声を掛けました。
「そろそろ野営の準備をしないと危険です」
「あら、そうですの?」
「はい。野営しやすい場所を見つけて、お水も確保しないと……」
「そうなんですのね。マリウス様、野営の準備をする時間だそうですわ」
「む? そうなのか。では野営の準備を始めよう。ローザ、ここでいいのか?」
「あ、はい。えっと、広い場所と水場を見つけないといけないんです」
「水場か……魔術で出す水ではダメなのか?」
「えっと、魔物もいる場所なので……」
「そうか。ならば仕方ないな。みんな! これから野営の場所を探す! 川を探すのと、野営できる広い場所を探す」
こうしてあたしたちは野営場所を探すことになったのでした。
◆◇◆
しばらくすると、運よく小川を見つけることができました。しかもそんなに離れていないところに少し開けた平らな場所がありましたので、今日はそこで野営することになりました。
ただ、問題はもう日が落ちかかっていることです。
急いでテントを張らないといけません。
「あ、あのっ! コンラートさん!」
「ああ、テントの手伝いね」
コンラートさんはアレックさんのところに歩いていきました。
「なあ、早くテント降ろしてくれよ。何ぼさっと突っ立ってんだよ」
「ひっ。は、はいっ」
アレックさんは慌てて背負っていたテントを地面に降ろしましたが、その拍子でアレックさんは転んでしまいます。
「ああ、もう! なんでそうなんだよ」
コンラートさんはひょいと借りてきたテントを三張り担ぐと、アレックさんを放ってあたしのところに戻ってきました。
「あの、アレックさんは……」
まだ蹲っているアレックさんがちょっと心配になったのですが、コンラートさんはうんざりした表情をしました。
「単にコケただけだから大丈夫でしょ。それより早くテントを張らないと。どういう配置にするの?」
「あ、はい」
そうでした。いくらなんでも暗い中でテントを張るのは危ないですもんね。
それにアレックさんがもし怪我をしていてもあとで治療すれば大丈夫でしょう。
「はい。えっと、ここに火を焚きます。それで、ここと、ここと、あとここにテントを張ります」
「女子用はここでいいの?」
「え? あ、はい」
女子用とか考えていませんでしたけど、たき火の近くのほうがお料理しやすいですもんね。
「OK。じゃ、女子用から張ってくか」
コンラートさんはあたしの指定した場所にテントのセットをそれぞれ置いて、それから一つ目のテントの設置を始めました。
えっと、あたしもお手伝いします。
力のいる作業はできませんけど、シートを広げるくらいならできますからね。
そう思って一ヵ所のテントに近づくと、なんとピーちゃんがグランドシートを広げ始めました。
「え?」
それから器用に体の一部を伸ばすと、この前練習したのと同じ手順で杭を打ち込む場所を決めます。
さらにピーちゃんは杭を打ち込むためのハンマーを持ち、杭を次々と打ち込んでいきます。
うそっ! すごくないですか?
驚いて見ていると、あれよあれよという間にテントが張られてしまいました。
「ピッ」
「あ、えっと、ピーちゃん。すごいです。ありがとうございます」
「ピピッ」
ピーちゃんは褒められて嬉しいのか、体をぷるぷると揺らしています。
「あれ? ローザさん、それどうやったの?」
あたしたちのテントを張ってくれたコンラートさんがあたしのほうに近寄ってきます。
「あ、その、ピーちゃんが……」
あたしは足元でぷるぷるしているピーちゃんをそっと撫でてあげました。
「へぇ。スライムがテントを張るなんて聞いたことないけど、従魔ってすごいんだな」
「えへへ。そうですよね。あたしもピーちゃんがこんなことできるなんて知りませんでした」
「そっか……じゃあ、もう一張りやるけど、その子にも手伝ってもらっていい?」
「あの、ピーちゃん……」
「ピッ」
「あ、やってくれるみたいです」
「……すごいな。まるで言葉が分かるみたいだ。こんな従魔なら俺も欲しいかもな」
「ピピッ!?」
それを聞いたピーちゃんはあたしの後ろにさっと隠れます。
「ははっ。別に君をくれって言ってるわけじゃないよ。君のご主人様がすごいから俺も真似したいって言ってるだけだよ」
「ピー」
するとピーちゃんは安心したかのように出てきました。
「じゃ、テント張ろうぜ?」
「ピッ!」
こうしてコンラートさんとピーちゃんが協力して最後のテントを張っていきます。
あ、そういえば転んだアレックさんは……あれ?
尻もちをついています。なんだか目を見開いて驚いていますけど、何かあったんでしょうか?
不思議に思ってその視線の先を確認しますが、ピーちゃんとコンラートさんが協力してテントを張っています。
えっと、ピーちゃんがテントを張ったのにはびっくりしましたけど、そんないつまでも驚いているようなことじゃないと思うんですけど……。
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