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第四章
第四章第11話 ヤニスくんだそうです
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皆さんこんにちは。ローザです。終末病院からお屋敷に戻ってきました。
出迎えのメイドさんや執事さんの間を通ってお屋敷の中に入ると、すぐにリリアちゃんとレジーナさんがやってきました。
「ローザちゃん! どうだった?」
「お兄さま、いかがでしたか?」
「あ、えっと……」
なんて答えたらいいかわからずにマルセルさんを見上げると、マルセルさんはにっこりと微笑みました。
「ローザが正しかったことが証明されたよ」
「っ! それじゃあ!」
「瀉血は当然禁止ですわね」
「もちろん。今後は瀉血で人が死んだ場合、殺人と同様に罪を問うよ。これで多少は死亡率も下がるだろう」
「ただ、頭の固い医者たちは逃げていきそうですわね」
あ、それもそうですね。お医者さんがいなくなったら困るのは患者さん……あれ? でも瀉血しかしないお医者さんって、いなくなって困るんでしたっけ?
「それで逃げるような医者はマレスティカ公爵領には必要ないからね」
マルセルさんはきっぱりと、笑顔のまま言い切りました。
「むしろ、瀉血をしない治療を発展させていけばマレスティカ公爵領は医学でも先んじることができるんだ。これをチャンスとしないとね」
「そうですわね」
マルセルさんとレジーナさんはお互いに頷き合うと、あたしのほうを見てきました。
えっと……?
よく分からずに首を傾げると、二人はなぜか仕方ないといった感じの表情になりました。
えっと、どういうことでしょうか? 算数にも苦労しているあたしに医学なんて難しいこと、できるわけないと思うんですけど……。
「お兄さま、お義姉さまは今、起きていらっしゃいますわ」
「お! 本当かい? それじゃあちょっと顔を見に行こうかな。ローザとリリアも一緒にどうだい?」
「え? いいんですか?」
「もちろん。二人はアデリナとヤニスの恩人だからね」
「ヤニス? あ! もしかして赤ちゃんの名前って……」
「ん? そうか。そういえば言っていなかったね。うちの子の名前はヤニスになったんだ。神の恵みが多くいただけますように、ってね」
「わぁ、素敵なお名前ですね」
「そういう意味があるんですね」
「ああ、そうなんだ。何せ初めての子供だからね。だから――」
「お兄さま、ローザとリリアも、玄関は冷えますわ。それに立ち話をしているよりもお義姉さまのところに行ったほうが良いのではなくて?」
「おっと、そうだね。それじゃあ行こうか」
「「はい」」
こうしてあたしたちはアデリナさんのお部屋へと向かうのでした。
◆◇◆
「いらっしゃい。ローザちゃん、リリアちゃん、わたくしとヤニスを治療してくれたそうね。ありがとう」
「あ、えっと、そんな……」
「お元気そうで何よりです。その、ヤニス様も……?」
「ええ、元気よ。リリアちゃんが治癒魔術を使ってくれたおかげね」
するとリリアちゃんはえへへ、と嬉しそうにはにかみました。
「抱っこしてみるかしら?」
「はい!」
リリアちゃんはアデリナさんに言われ、恐る恐るベビーベッドで眠るヤニスくんを抱っこしました。
うわぁ、ちっちゃいです。
「すごい。なんだかふにゃふにゃだ……」
「ふふ、そうね。まだ首もすわっていないものね」
リリアちゃんはまるで宝物を抱いているかのように優しくヤニスくんを抱っこしています。
いいなぁ……。
「ローザちゃんも抱っこしてみる?」
「え? いいんですか?」
「もちろん。わたくしがヤニスをこの手で抱けたのはローザちゃんのおかげだもの」
「あ、はい……」
必死でしたけど、なんだかこうやって感謝されるのって気持ちいいですね。
「ほら、ローザちゃん」
「はい」
あたしはリリちゃんからヤニスくんを受けとります。
「あ、えっと、なんだか首が……」
「あっ! そうじゃなくて、頭の後ろに手を」
「えっと、こうですか?」
「そうそう、そんな感じ」
リリアちゃんに言われて、頭が動かないようにきっちりと支えてあげるとようやくちゃんと抱っこしてあげられました。
えっと、ものすごくちっちゃいです。それにちょっと力を入れたら簡単に壊れてしまいそうです。
孤児院には赤ちゃんもいましたけど、ここまで小さい子はいませんでした。あたしなんかが抱っこして大丈夫でしょうか?
あと、なんとなくですけど少しミルクっぽい甘い匂いがする気もします。やっぱり赤ちゃんはミルクを飲むから体臭もミルクっぽくなるんでしょうか?
不思議ですね。
マルセルさんそっくりの緑色の瞳がじっとあたしのことを見つめてきています。
あ、目が合っちゃいました。えへへ、なんだかとっても可愛いです。
あたしももし結婚したら、こんな風に可愛い赤ちゃんを授かることができるんでしょうか?
そんなことを思っていると、なんだかヤニスくんが突然泣きだしてしまいました。
え? え? えっと、ゆすってあげればいいんでしたっけ? あ! 子守歌を歌うんでしたっけ?
「ローザお嬢様、失礼いたします」
「あ、はい」
アデリナさんよりも少し年上らしいメイドさんがヤニスくんをあたしから受け取り、そのまま抱っこして奥へと連れて行きます。
「あ、えっと……」
「ああ、彼女は乳母よ。赤ちゃんのお世話には慣れているから、任せておけば安心よ」
「あ、はい。そうなんですね」
「ええ、ちょっと心配ではあるのだけれどね」
アデリナさんはそう言うと、とても優しい表情で乳母さんとヤニスくんが向かった先を見つめるのでした。
出迎えのメイドさんや執事さんの間を通ってお屋敷の中に入ると、すぐにリリアちゃんとレジーナさんがやってきました。
「ローザちゃん! どうだった?」
「お兄さま、いかがでしたか?」
「あ、えっと……」
なんて答えたらいいかわからずにマルセルさんを見上げると、マルセルさんはにっこりと微笑みました。
「ローザが正しかったことが証明されたよ」
「っ! それじゃあ!」
「瀉血は当然禁止ですわね」
「もちろん。今後は瀉血で人が死んだ場合、殺人と同様に罪を問うよ。これで多少は死亡率も下がるだろう」
「ただ、頭の固い医者たちは逃げていきそうですわね」
あ、それもそうですね。お医者さんがいなくなったら困るのは患者さん……あれ? でも瀉血しかしないお医者さんって、いなくなって困るんでしたっけ?
「それで逃げるような医者はマレスティカ公爵領には必要ないからね」
マルセルさんはきっぱりと、笑顔のまま言い切りました。
「むしろ、瀉血をしない治療を発展させていけばマレスティカ公爵領は医学でも先んじることができるんだ。これをチャンスとしないとね」
「そうですわね」
マルセルさんとレジーナさんはお互いに頷き合うと、あたしのほうを見てきました。
えっと……?
よく分からずに首を傾げると、二人はなぜか仕方ないといった感じの表情になりました。
えっと、どういうことでしょうか? 算数にも苦労しているあたしに医学なんて難しいこと、できるわけないと思うんですけど……。
「お兄さま、お義姉さまは今、起きていらっしゃいますわ」
「お! 本当かい? それじゃあちょっと顔を見に行こうかな。ローザとリリアも一緒にどうだい?」
「え? いいんですか?」
「もちろん。二人はアデリナとヤニスの恩人だからね」
「ヤニス? あ! もしかして赤ちゃんの名前って……」
「ん? そうか。そういえば言っていなかったね。うちの子の名前はヤニスになったんだ。神の恵みが多くいただけますように、ってね」
「わぁ、素敵なお名前ですね」
「そういう意味があるんですね」
「ああ、そうなんだ。何せ初めての子供だからね。だから――」
「お兄さま、ローザとリリアも、玄関は冷えますわ。それに立ち話をしているよりもお義姉さまのところに行ったほうが良いのではなくて?」
「おっと、そうだね。それじゃあ行こうか」
「「はい」」
こうしてあたしたちはアデリナさんのお部屋へと向かうのでした。
◆◇◆
「いらっしゃい。ローザちゃん、リリアちゃん、わたくしとヤニスを治療してくれたそうね。ありがとう」
「あ、えっと、そんな……」
「お元気そうで何よりです。その、ヤニス様も……?」
「ええ、元気よ。リリアちゃんが治癒魔術を使ってくれたおかげね」
するとリリアちゃんはえへへ、と嬉しそうにはにかみました。
「抱っこしてみるかしら?」
「はい!」
リリアちゃんはアデリナさんに言われ、恐る恐るベビーベッドで眠るヤニスくんを抱っこしました。
うわぁ、ちっちゃいです。
「すごい。なんだかふにゃふにゃだ……」
「ふふ、そうね。まだ首もすわっていないものね」
リリアちゃんはまるで宝物を抱いているかのように優しくヤニスくんを抱っこしています。
いいなぁ……。
「ローザちゃんも抱っこしてみる?」
「え? いいんですか?」
「もちろん。わたくしがヤニスをこの手で抱けたのはローザちゃんのおかげだもの」
「あ、はい……」
必死でしたけど、なんだかこうやって感謝されるのって気持ちいいですね。
「ほら、ローザちゃん」
「はい」
あたしはリリちゃんからヤニスくんを受けとります。
「あ、えっと、なんだか首が……」
「あっ! そうじゃなくて、頭の後ろに手を」
「えっと、こうですか?」
「そうそう、そんな感じ」
リリアちゃんに言われて、頭が動かないようにきっちりと支えてあげるとようやくちゃんと抱っこしてあげられました。
えっと、ものすごくちっちゃいです。それにちょっと力を入れたら簡単に壊れてしまいそうです。
孤児院には赤ちゃんもいましたけど、ここまで小さい子はいませんでした。あたしなんかが抱っこして大丈夫でしょうか?
あと、なんとなくですけど少しミルクっぽい甘い匂いがする気もします。やっぱり赤ちゃんはミルクを飲むから体臭もミルクっぽくなるんでしょうか?
不思議ですね。
マルセルさんそっくりの緑色の瞳がじっとあたしのことを見つめてきています。
あ、目が合っちゃいました。えへへ、なんだかとっても可愛いです。
あたしももし結婚したら、こんな風に可愛い赤ちゃんを授かることができるんでしょうか?
そんなことを思っていると、なんだかヤニスくんが突然泣きだしてしまいました。
え? え? えっと、ゆすってあげればいいんでしたっけ? あ! 子守歌を歌うんでしたっけ?
「ローザお嬢様、失礼いたします」
「あ、はい」
アデリナさんよりも少し年上らしいメイドさんがヤニスくんをあたしから受け取り、そのまま抱っこして奥へと連れて行きます。
「あ、えっと……」
「ああ、彼女は乳母よ。赤ちゃんのお世話には慣れているから、任せておけば安心よ」
「あ、はい。そうなんですね」
「ええ、ちょっと心配ではあるのだけれどね」
アデリナさんはそう言うと、とても優しい表情で乳母さんとヤニスくんが向かった先を見つめるのでした。
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