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第四章
第四章第22話 騎士の真似をしてきます
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新学期が始まってひと月が経ちました。あたしは結局、従魔科の授業は受けていません。だってあたし、あんな風にお友達をいじめるようなこと、したくありませんから。
それと、ラレス先生に言われた来年の授業も受けないつもりです。
だって、ユキたちはあたしのお友達なんですよ?
大切なお友達を弱らせるなんて考えられないですし、そもそも弱らせなきゃいけないのってあんな風にいじめて無理やり従わせたからなんじゃないかって思うんです。いじめられたら逃げ出したくなるって、気持ちはよく分かりますから。
だから、ユキたちと今までどおり仲良くしていればきっと大丈夫……。
そんなことを考えていると、部屋の扉が開きました。剣術部の練習を終えたヴィーシャさんが買ってきたみたいです。
「ヴィーシャさん、おかえりなさい」
「お嬢様、ただいま戻りました。お傍を離れる時間が長くなり申し訳ございません」
ヴィーシャさんはそう言ってあたしの前で跪きました。
「ちょ、ちょっと、ヴィーシャさん。あたしは平民ですからそんな……」
そういうとヴィーシャさんはいたずらっ子のような笑みを浮かべ、あたしの手を取り、その甲に口付けを落とす真似をしました。チュッとわざとらしい音まで立てています。
「お嬢様、そのようなことを仰らないでください。我が剣はお嬢様に捧げております。お嬢様のためであればこの命すら惜しくはありません」
「命って! ダメです。ヴィーシャさん、いい加減にしてください」
あたしが怒るとようやく騎士の真似をやめてくれました。
「あはは、冗談だよ。そんなに怒らないでよ」
「もう……」
そうなんです。なんだか最近、ヴィーシャさんがよくこうやって騎士とお嬢様の真似をしてくるんです。ヴィーシャさんはあたしがマレスティカ公爵家の養女になる予定なのは知らないでしょうから、予行演習とかじゃなくって単にからかっているだけでしょうけど。
あ、でもあたしたちがマレスティカ公爵家に保護してもらっていて、女性騎士を探しているのは知ってるんでしたね。
うーん、でもやっぱりなんだか変な気分です。
「あの、ヴィーシャさん」
「なんだい?」
「どうしていつもあたしにお嬢様って言ってくるんですか?」
「え? だってさ。なんだかローザ、最近見違えてきたからさ」
「え? 見違えたって、どういうことですか?」
するとヴィーシャさんはなんだかちょっと困ったような表情になりました。
「うーん、なんだろう? 言葉で説明するのはすごく難しいんだけど、こう、なんて言うかさ。最近のローザ、ちょっと違うんだよね。なんださ。うーん? そう。なんだか違うんだよね」
「えっと……」
ヴィーシャさんは一体何を言っているんでしょうか?
「ほら、そう。あれだよ。前はこう、なんていうかさ。優しいけどちょっと臆病な女の子って感じだったんだけどさ。今はこう、ほら。こう、違うんだよ。そう、お嬢様って言いたくなるような感じ? あ、でも優しいけどちょっと臆病なのは今もそうなんだけどさ」
……どうしましょう。やっぱり何を言っているのか分かりません。えっと、えっと……。
「まあまあ、そんな顔しないでよ。なんとなくローザがお嬢様だったら騎士になってみたいなって、そんな感じだから」
そういってヴィーシャさんは朗らかな笑みを浮かべました。
う……そんないい笑顔をされたら怒れないじゃないですか。
「あ! それよりさ。ピーちゃんにいつもの、お願いできるかい?」
「はい。ピーちゃん」
「ピッ!」
ピーちゃんはいつの間にかヴィーシャさんの足元にいて、待ってましたとばかりにヴィーシャさんの体を綺麗にしていくのでした。
◆◇◆
朝食を食べ、授業に出るため寮を出ようすると寮母のアリアドナさんがいました。
「おはようございます」
「ローザさん。おはよう。あら? 今日は騎士様と一緒ではないのですね」
「ヴィーシャさんは剣術部の朝練があるそうです」
「あらあら、レディーを置いて訓練だなんて、いけない護衛騎士ですこと」
アリアドナさんはくすくすと楽しそうに笑いました。
「べ、別にヴィーシャさんはあたしの護衛騎士じゃないですよ」
「知っていますよ。でも騎士を目指す大抵の学生は通る道ですからねぇ」
アリアドナさんは遠い目をしました。
あれ? もしかして?
「身近にこんな素敵なレディーがいたらつい、騎士になってみたいと思うのではないかしら?」
「えっ?」
一瞬あたしが素敵なレディーと言われたのかとも思いましたが、そんなわけないですよね。ただのお世辞に決まっています。だってマナーも所作もダンスも、いつも指摘されてばかりですから。
「何かしら? その表情は。わたくしはお世辞を言ったのではありませんよ。以前のローザさんとは比べ物にならないほど所作が洗練されてきていますもの。きっと大変な努力をしてきたのでしょうねぇ」
「え?」
「ただ、そうしてすぐに顔に出てしまうところはまだまだですけれど」
「あ……す、すみません」
するとアリアドナさんはお淑やかに微笑みました。
「いいえ。それよりも、あまりゆっくりしていると授業に遅れてしまいますよ」
「あ! そうでした。いってきます」
「ええ、いってらっしゃい」
こうしてアリアドナさんに見送られ、あたしは教室を目指すのでした。
それと、ラレス先生に言われた来年の授業も受けないつもりです。
だって、ユキたちはあたしのお友達なんですよ?
大切なお友達を弱らせるなんて考えられないですし、そもそも弱らせなきゃいけないのってあんな風にいじめて無理やり従わせたからなんじゃないかって思うんです。いじめられたら逃げ出したくなるって、気持ちはよく分かりますから。
だから、ユキたちと今までどおり仲良くしていればきっと大丈夫……。
そんなことを考えていると、部屋の扉が開きました。剣術部の練習を終えたヴィーシャさんが買ってきたみたいです。
「ヴィーシャさん、おかえりなさい」
「お嬢様、ただいま戻りました。お傍を離れる時間が長くなり申し訳ございません」
ヴィーシャさんはそう言ってあたしの前で跪きました。
「ちょ、ちょっと、ヴィーシャさん。あたしは平民ですからそんな……」
そういうとヴィーシャさんはいたずらっ子のような笑みを浮かべ、あたしの手を取り、その甲に口付けを落とす真似をしました。チュッとわざとらしい音まで立てています。
「お嬢様、そのようなことを仰らないでください。我が剣はお嬢様に捧げております。お嬢様のためであればこの命すら惜しくはありません」
「命って! ダメです。ヴィーシャさん、いい加減にしてください」
あたしが怒るとようやく騎士の真似をやめてくれました。
「あはは、冗談だよ。そんなに怒らないでよ」
「もう……」
そうなんです。なんだか最近、ヴィーシャさんがよくこうやって騎士とお嬢様の真似をしてくるんです。ヴィーシャさんはあたしがマレスティカ公爵家の養女になる予定なのは知らないでしょうから、予行演習とかじゃなくって単にからかっているだけでしょうけど。
あ、でもあたしたちがマレスティカ公爵家に保護してもらっていて、女性騎士を探しているのは知ってるんでしたね。
うーん、でもやっぱりなんだか変な気分です。
「あの、ヴィーシャさん」
「なんだい?」
「どうしていつもあたしにお嬢様って言ってくるんですか?」
「え? だってさ。なんだかローザ、最近見違えてきたからさ」
「え? 見違えたって、どういうことですか?」
するとヴィーシャさんはなんだかちょっと困ったような表情になりました。
「うーん、なんだろう? 言葉で説明するのはすごく難しいんだけど、こう、なんて言うかさ。最近のローザ、ちょっと違うんだよね。なんださ。うーん? そう。なんだか違うんだよね」
「えっと……」
ヴィーシャさんは一体何を言っているんでしょうか?
「ほら、そう。あれだよ。前はこう、なんていうかさ。優しいけどちょっと臆病な女の子って感じだったんだけどさ。今はこう、ほら。こう、違うんだよ。そう、お嬢様って言いたくなるような感じ? あ、でも優しいけどちょっと臆病なのは今もそうなんだけどさ」
……どうしましょう。やっぱり何を言っているのか分かりません。えっと、えっと……。
「まあまあ、そんな顔しないでよ。なんとなくローザがお嬢様だったら騎士になってみたいなって、そんな感じだから」
そういってヴィーシャさんは朗らかな笑みを浮かべました。
う……そんないい笑顔をされたら怒れないじゃないですか。
「あ! それよりさ。ピーちゃんにいつもの、お願いできるかい?」
「はい。ピーちゃん」
「ピッ!」
ピーちゃんはいつの間にかヴィーシャさんの足元にいて、待ってましたとばかりにヴィーシャさんの体を綺麗にしていくのでした。
◆◇◆
朝食を食べ、授業に出るため寮を出ようすると寮母のアリアドナさんがいました。
「おはようございます」
「ローザさん。おはよう。あら? 今日は騎士様と一緒ではないのですね」
「ヴィーシャさんは剣術部の朝練があるそうです」
「あらあら、レディーを置いて訓練だなんて、いけない護衛騎士ですこと」
アリアドナさんはくすくすと楽しそうに笑いました。
「べ、別にヴィーシャさんはあたしの護衛騎士じゃないですよ」
「知っていますよ。でも騎士を目指す大抵の学生は通る道ですからねぇ」
アリアドナさんは遠い目をしました。
あれ? もしかして?
「身近にこんな素敵なレディーがいたらつい、騎士になってみたいと思うのではないかしら?」
「えっ?」
一瞬あたしが素敵なレディーと言われたのかとも思いましたが、そんなわけないですよね。ただのお世辞に決まっています。だってマナーも所作もダンスも、いつも指摘されてばかりですから。
「何かしら? その表情は。わたくしはお世辞を言ったのではありませんよ。以前のローザさんとは比べ物にならないほど所作が洗練されてきていますもの。きっと大変な努力をしてきたのでしょうねぇ」
「え?」
「ただ、そうしてすぐに顔に出てしまうところはまだまだですけれど」
「あ……す、すみません」
するとアリアドナさんはお淑やかに微笑みました。
「いいえ。それよりも、あまりゆっくりしていると授業に遅れてしまいますよ」
「あ! そうでした。いってきます」
「ええ、いってらっしゃい」
こうしてアリアドナさんに見送られ、あたしは教室を目指すのでした。
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