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第四章
第四章第43話 体験入会
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ローザが料理研究会を退会した翌日、料理研究会の調理室には中途入会を希望する大勢の生徒たちが集まっていた。もはや人混みといっても過言ではないほどの密集具合にもかかわらず、もともとの料理研究会のメンバーの姿はカルミナとジェニカだけだ。
そのせいもあってか入会希望者たちは思い思いにおしゃべりをしており、調理室は喧騒に包まれている。
そんな彼らに対し、カルミナが大きな声で呼び掛ける。
「入会希望の皆さん、ようこそお集まりくださいました。料理研究会会長のカルミナ・ヨシペルです」
しかし、カルミナから遠い場所にいる入会希望者にその声は届いてないようだ。するとカルミナの隣にいたジェニカが持っていた鍋をお玉でカンカンと鳴らした。
「静粛に!」
ジェニカの鋭い声が響き、調理室はようやく静かになる。
「では改めまして、入会希望の皆さん、ようこそお集まりくださいました。料理研究会会長のカルミナ・ヨシペルです。本日は体験入会ということで、中途入会を希望する方全員にあえて一度にお集まりいただきました」
すると入会希望者たちは少しざわつく。
「ご覧のとおり、私たちの調理室はこれだけの広さしかありません。ですので、皆さん全員が一度に調理をすることはできません。この点については、入会前に知っていただきたくあえて全員にお集まりいただきました。このような現状ですので、入会希望を取り下げる方がいらっしゃいましたら、どうぞこのままご退室ください」
すると入会希望者たちに動揺が走り、室内がざわついたものの、退室する者は現れない。
するとカンカンという音が響き渡り、調理室は静かになる。
「皆さんの希望は分かりました。では、本日の体験入会の内容をご説明します。まず、今日はラズベリーパイを焼きます。入会希望者の皆さんの中でラズベリーパイを焼けるという方は挙手をお願いします」
入会希望者たちは再びざわついたが、挙手する者は現れなかった。すると再びカンカンという音が響き渡る。
「わかりました。では、皆さん五名を一班とし、料理研究会のメンバーが一名、補助につきます。また、この状態で料理はできませんので、三組に分かれて順に調理を行ってもらいます。二回目以降のグループの皆さんは担当のメンバーと休憩をしてもらいます。その際に質問などあればその者にご質問ください。では、まず料理研究会のメンバーを紹介します。先ほどご紹介しましたが、私が会長のカルミナ・ヨシペル、隣で鍋を鳴らしてくれているのが副会長のジェニカです」
するとジェニカは鍋を叩いてカンカンと鳴らした。
「続いてメンバーたちを紹介します」
そうして一人ずつメンバーが紹介されるが、退会したローザが姿を現すことはなかった。
「以上となります」
その一言に入会希望者は驚いたのか、一気に調理室が騒がしくなる。
「それでは班分けに……皆さん! 静かにしてください!」
だがカルミナの声はざわめきにかき消される。ジェニカも鍋を鳴らすが、ざわめきが収まる様子はない。
「静粛に!」
ジェニカは何度も鍋を鳴らし、声を張り上げるとようやく静かになった。
「あの、すみません」
入会希望者の男子生徒の一人が手を挙げた。どうやら彼は普通科の三年生のようだ。
「テオドル様、なんでしょうか?」
「カルミナ嬢、料理研究会のメンバーはこれで全員でしょうか?」
どうやらカルミナとテオドルと呼ばれた彼は知り合いのようだ。
「どういう意味でしょうか?」
「いえ、単に休みの人もいるのかと……」
カルミナは表情を保ったまま、ぐるりと周囲を見回した。どうやらテオドルと同じ疑問を持っている入会希望者は多いようで、カルミナに視線が集中している。
「お答えします。現在、料理研究会に在籍しているメンバーは今紹介した者のみです」
「えっ?」
「どういうことだ?」
入会希望者は周囲の者たちと顔を見合わせ、一気に騒がしくなった。それをジェニカが鍋を鳴らして、静かにさせる。
「なお、ローザ・マレスティカさんがメンバーとして在籍していましたが、生徒会からの提案で昨日退会しました。本日からローズ・マレスティカさんは生徒会のメンバーとしてご活動されています」
カルミナの発言に調理室は騒然となり、様々な声が聞こえてくる。
「ええっ!?」
「なんだって?」
「そんな!」
「いないのかよ!」
「じゃあここに入る意味って……」
「ないよなぁ」
「だよな。どうして俺が料理なんて……」
カンカンカンカン!
ジェニカが鍋を何度も鳴らし、ようやく静かになった。
「皆さんのお話をお聞きする限り、入会を希望されない方がいらっしゃるようです。入会を希望されない方はそのままご退室ください。なお、ローザ・マレスティカさんにつきましては生徒会までお問い合わせください」
すると入会希望者たちは一斉に退出していく。だが退出せずに残った女子生徒が二人いた。そのうちの一人は魔物討伐演習でローザと同じ班だった園芸同好会のベティーナで、もう一人は普通科一年生だ。
「お二人は入会を希望されるのですか?」
「はい。普通科二年のベティーナといいます。実は園芸同好会にも所属しているんですが、兼部させてほしいんです」
「兼部ですか? 大変だと思いますよ?」
「はい。ですが前にザビーネ先輩が畑で獲れた野菜をすごく美味しく調理してくれたので、私も興味が出てきたんです。料理をするときのことが分かれば野菜のことがよりよく分かると思って。それで園芸同好会がない日だけですけど、活動させてもらえたら嬉しいです」
「……分かりました。あなたは?」
「あたしはビタ、普通科の一年です。刺繍同好会に入ってみたんですけどちょっと合わなくて……それで料理にも興味があったので入ってみようと思ったんです。刺繍同好会にはもう退会届を出してきました」
「そう。分かりました。それじゃあ、ラズベリーパイ作りを始めましょう。まずは手洗いから……」
こうして料理研究会はその日の活動を始めるのだった。
そのせいもあってか入会希望者たちは思い思いにおしゃべりをしており、調理室は喧騒に包まれている。
そんな彼らに対し、カルミナが大きな声で呼び掛ける。
「入会希望の皆さん、ようこそお集まりくださいました。料理研究会会長のカルミナ・ヨシペルです」
しかし、カルミナから遠い場所にいる入会希望者にその声は届いてないようだ。するとカルミナの隣にいたジェニカが持っていた鍋をお玉でカンカンと鳴らした。
「静粛に!」
ジェニカの鋭い声が響き、調理室はようやく静かになる。
「では改めまして、入会希望の皆さん、ようこそお集まりくださいました。料理研究会会長のカルミナ・ヨシペルです。本日は体験入会ということで、中途入会を希望する方全員にあえて一度にお集まりいただきました」
すると入会希望者たちは少しざわつく。
「ご覧のとおり、私たちの調理室はこれだけの広さしかありません。ですので、皆さん全員が一度に調理をすることはできません。この点については、入会前に知っていただきたくあえて全員にお集まりいただきました。このような現状ですので、入会希望を取り下げる方がいらっしゃいましたら、どうぞこのままご退室ください」
すると入会希望者たちに動揺が走り、室内がざわついたものの、退室する者は現れない。
するとカンカンという音が響き渡り、調理室は静かになる。
「皆さんの希望は分かりました。では、本日の体験入会の内容をご説明します。まず、今日はラズベリーパイを焼きます。入会希望者の皆さんの中でラズベリーパイを焼けるという方は挙手をお願いします」
入会希望者たちは再びざわついたが、挙手する者は現れなかった。すると再びカンカンという音が響き渡る。
「わかりました。では、皆さん五名を一班とし、料理研究会のメンバーが一名、補助につきます。また、この状態で料理はできませんので、三組に分かれて順に調理を行ってもらいます。二回目以降のグループの皆さんは担当のメンバーと休憩をしてもらいます。その際に質問などあればその者にご質問ください。では、まず料理研究会のメンバーを紹介します。先ほどご紹介しましたが、私が会長のカルミナ・ヨシペル、隣で鍋を鳴らしてくれているのが副会長のジェニカです」
するとジェニカは鍋を叩いてカンカンと鳴らした。
「続いてメンバーたちを紹介します」
そうして一人ずつメンバーが紹介されるが、退会したローザが姿を現すことはなかった。
「以上となります」
その一言に入会希望者は驚いたのか、一気に調理室が騒がしくなる。
「それでは班分けに……皆さん! 静かにしてください!」
だがカルミナの声はざわめきにかき消される。ジェニカも鍋を鳴らすが、ざわめきが収まる様子はない。
「静粛に!」
ジェニカは何度も鍋を鳴らし、声を張り上げるとようやく静かになった。
「あの、すみません」
入会希望者の男子生徒の一人が手を挙げた。どうやら彼は普通科の三年生のようだ。
「テオドル様、なんでしょうか?」
「カルミナ嬢、料理研究会のメンバーはこれで全員でしょうか?」
どうやらカルミナとテオドルと呼ばれた彼は知り合いのようだ。
「どういう意味でしょうか?」
「いえ、単に休みの人もいるのかと……」
カルミナは表情を保ったまま、ぐるりと周囲を見回した。どうやらテオドルと同じ疑問を持っている入会希望者は多いようで、カルミナに視線が集中している。
「お答えします。現在、料理研究会に在籍しているメンバーは今紹介した者のみです」
「えっ?」
「どういうことだ?」
入会希望者は周囲の者たちと顔を見合わせ、一気に騒がしくなった。それをジェニカが鍋を鳴らして、静かにさせる。
「なお、ローザ・マレスティカさんがメンバーとして在籍していましたが、生徒会からの提案で昨日退会しました。本日からローズ・マレスティカさんは生徒会のメンバーとしてご活動されています」
カルミナの発言に調理室は騒然となり、様々な声が聞こえてくる。
「ええっ!?」
「なんだって?」
「そんな!」
「いないのかよ!」
「じゃあここに入る意味って……」
「ないよなぁ」
「だよな。どうして俺が料理なんて……」
カンカンカンカン!
ジェニカが鍋を何度も鳴らし、ようやく静かになった。
「皆さんのお話をお聞きする限り、入会を希望されない方がいらっしゃるようです。入会を希望されない方はそのままご退室ください。なお、ローザ・マレスティカさんにつきましては生徒会までお問い合わせください」
すると入会希望者たちは一斉に退出していく。だが退出せずに残った女子生徒が二人いた。そのうちの一人は魔物討伐演習でローザと同じ班だった園芸同好会のベティーナで、もう一人は普通科一年生だ。
「お二人は入会を希望されるのですか?」
「はい。普通科二年のベティーナといいます。実は園芸同好会にも所属しているんですが、兼部させてほしいんです」
「兼部ですか? 大変だと思いますよ?」
「はい。ですが前にザビーネ先輩が畑で獲れた野菜をすごく美味しく調理してくれたので、私も興味が出てきたんです。料理をするときのことが分かれば野菜のことがよりよく分かると思って。それで園芸同好会がない日だけですけど、活動させてもらえたら嬉しいです」
「……分かりました。あなたは?」
「あたしはビタ、普通科の一年です。刺繍同好会に入ってみたんですけどちょっと合わなくて……それで料理にも興味があったので入ってみようと思ったんです。刺繍同好会にはもう退会届を出してきました」
「そう。分かりました。それじゃあ、ラズベリーパイ作りを始めましょう。まずは手洗いから……」
こうして料理研究会はその日の活動を始めるのだった。
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