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第四章
第四章第54話 公太后さまの治療を始めます
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午後になり、ツェツィーリエ先生がやってきました。そこであたしたちは公子さまに案内され、公太后さまが静養している離宮にやってきました。
「公太后陛下、マルダキア魔法王国よりマレスティカ公爵令嬢ローザ様、並びにイオネスク準男爵夫人ツェツィーリエ様がいらっしゃいました」
「どうぞ」
警備をしている兵士の人が中にそう伝えると、中からちょっとしわがれた声で返事がありました。
すぐに扉が開かれ、あたしたちは中に入ります。
部屋の奥に大きなベッドがあり、その上でおばあさんが上体を起こしてこちらを見ています。そんなおばあさんのところに、あたしたちは公子さまと一緒に近づいていきます。
「公太后陛下、こちらがマレスティカ公爵令嬢ローザ様、こちらがイオネスク準男爵夫人ツェツィーリエ様です」
公子様がおばあさんにあたしたちのことを紹介しました。公子さまと公太后さまって、家族なのになんだか堅苦しい感じです。
すると公太后さまは、優しく微笑みかけてくれました。
「よく来てくださいましたね。わたくしがカルリア公国公太后のソフィヤですわ」
「ローザ・マレスティカと申します」
「ツェツィーリエ・イオネスクと申します」
あたしたちはカーテシーをします。
「楽になさってください。わたくしがお願いして、お越しいただいたんですもの」
「はい」
あたしたちはカーテシーを止めます。
「わたくしの病気については、きちとんと伝わっていまして?」
するとツェツィーリエ先生がそれに答えます。
「慢性的な手足のしびれと、足が攣ったときのような痛みがお腹全体に出ていると伺っています」
「ええ。それと最近は胸や背中にも痛みが出ていて、食欲もあまりなくなってしまったのですわ。医者は瀉血をしろと言うのだけれど、瀉血した後はいつも調子が悪くなるの。それでどうしようかと思っていたところにちょうど、瀉血は体に害があるという画期的な話を聞いたのです」
「そうでしたか……」
「ええ。お二人のうちどちらが治療してくれるのかしら?」
「こちらのローザが魔法での治療を試みます。わたしができるのは治癒魔術ですので、病気には効果がありません」
「ええ、そうですわね。それじゃあ、ローザさん。よろしくね」
「は、はい。頑張ります」
緊張してきました。でも、どうやって治療したらいいんでしょう?
「公太后陛下、ローザはまだ学生です。魔法による治療はかなり難しく、効果があるかどうかはわかりません。それでも本当によろしいですね?」
「ええ、もちろんですわ。ローザさん、気楽になさって? 責任を問うようなことはいたしませんし、ましてや両国の友情に影を落とすこともありませんわ」
ツェツィーリエ先生がそう断りを入れてくれ、公太后さまもそう言って私に微笑みかけてくれました。
えっと、そう、ですよね。何もしないよりはマシなはずです。
「じゃ、じゃあ、手の痺れを治してみますね。その、手を……」
「ええ」
差し出された公太后さまの右手をそっと握り、痺れが無くなるように念じながら魔法を発動しようとしました。
「……あ、あれ?」
ダメです。どうしましょう? 発動してくれません。
「え、えっと……」
じゃ、じゃあ、痺れを感じないように……。
すると魔法が発動しました。
「あら? なんだか楽になってきましたわ」
「本当ですか?」
やりました。上手くできたみたいです。
安心して手を離すと、公太后さまはすぐに顔をしかめました。
「……ダメですわね。痺れが戻ってしまいましたわ」
「え? そんなぁ……」
ど、どうしてでしょう……。
それからあたしは一生懸命に治療しようと頑張りましたが、痺れも痛みも治せたのは魔法を掛けている間だけで、根本的に治療することはできなかったのでした。
◆◇◆
それから毎日公太后さまのところに行って治療しようとして、今日で四日目になりました。
梅毒を治したときのように体の中の呪いを取り出すイメージでやっても上手くいきませんし、どうすればいいのかさっぱり見当がつきません。
やっぱり、根本的な原因が分かっていないと完全に治すことはできないみたいです。
それにツェツィーリエ先生も帰っちゃいましたし……。
あ! もちろんツェツィーリエ先生はただの付き添いで、数日だけって約束だったので仕方ないんですけど……。
でもやっぱり不安じゃないですか。
それにダメでも仕方ないって言われてますけど、やっぱり公太后さまには元気になって欲しいんです。
だって、公太后さまはすごく優しくて、偉い人特有の、こう、なんて言えばいいんでしょうか?
特有のオーラというか雰囲気というか、圧のようなものがなくて、すごく感じがいいんですよね。
あと、ほら。いつもお世話になっている公子さまのおばあさんですし、ここで恩返しをしておきたいって思っているんです。
でも、上手くいかないんですよね。今日も失敗でしたし……。
「はぁ」
あたしは庭園で噴水を眺めながら、大きくため息をついてしまいました。すると背後から声が聞こえてきます。
「ふん! 治せもしないくせに!」
「え?」
振り返るとそこには公女さまがいました。
「大公の間までもらったくせに!」
「こ、公女さま……」
「お医者様は瀉血すれば治るって言ってるの! 治せもしないなら治療の邪魔をしないで早く帰ってよ! そうすればレフお兄さまだって!」
「え?」
公女さまはそう言うと、そのままつかつかと立ち去っていきました。
あたしが茫然自失していると、足元に柔らかい感覚が纏わりついてきました。
「あ、ユキ……」
「ミャー」
そうですよね。落ち込んでる場合じゃないですよね。
あたしは公太后さまの治療に来たんです。なんとか原因を見つけないと!
「公太后陛下、マルダキア魔法王国よりマレスティカ公爵令嬢ローザ様、並びにイオネスク準男爵夫人ツェツィーリエ様がいらっしゃいました」
「どうぞ」
警備をしている兵士の人が中にそう伝えると、中からちょっとしわがれた声で返事がありました。
すぐに扉が開かれ、あたしたちは中に入ります。
部屋の奥に大きなベッドがあり、その上でおばあさんが上体を起こしてこちらを見ています。そんなおばあさんのところに、あたしたちは公子さまと一緒に近づいていきます。
「公太后陛下、こちらがマレスティカ公爵令嬢ローザ様、こちらがイオネスク準男爵夫人ツェツィーリエ様です」
公子様がおばあさんにあたしたちのことを紹介しました。公子さまと公太后さまって、家族なのになんだか堅苦しい感じです。
すると公太后さまは、優しく微笑みかけてくれました。
「よく来てくださいましたね。わたくしがカルリア公国公太后のソフィヤですわ」
「ローザ・マレスティカと申します」
「ツェツィーリエ・イオネスクと申します」
あたしたちはカーテシーをします。
「楽になさってください。わたくしがお願いして、お越しいただいたんですもの」
「はい」
あたしたちはカーテシーを止めます。
「わたくしの病気については、きちとんと伝わっていまして?」
するとツェツィーリエ先生がそれに答えます。
「慢性的な手足のしびれと、足が攣ったときのような痛みがお腹全体に出ていると伺っています」
「ええ。それと最近は胸や背中にも痛みが出ていて、食欲もあまりなくなってしまったのですわ。医者は瀉血をしろと言うのだけれど、瀉血した後はいつも調子が悪くなるの。それでどうしようかと思っていたところにちょうど、瀉血は体に害があるという画期的な話を聞いたのです」
「そうでしたか……」
「ええ。お二人のうちどちらが治療してくれるのかしら?」
「こちらのローザが魔法での治療を試みます。わたしができるのは治癒魔術ですので、病気には効果がありません」
「ええ、そうですわね。それじゃあ、ローザさん。よろしくね」
「は、はい。頑張ります」
緊張してきました。でも、どうやって治療したらいいんでしょう?
「公太后陛下、ローザはまだ学生です。魔法による治療はかなり難しく、効果があるかどうかはわかりません。それでも本当によろしいですね?」
「ええ、もちろんですわ。ローザさん、気楽になさって? 責任を問うようなことはいたしませんし、ましてや両国の友情に影を落とすこともありませんわ」
ツェツィーリエ先生がそう断りを入れてくれ、公太后さまもそう言って私に微笑みかけてくれました。
えっと、そう、ですよね。何もしないよりはマシなはずです。
「じゃ、じゃあ、手の痺れを治してみますね。その、手を……」
「ええ」
差し出された公太后さまの右手をそっと握り、痺れが無くなるように念じながら魔法を発動しようとしました。
「……あ、あれ?」
ダメです。どうしましょう? 発動してくれません。
「え、えっと……」
じゃ、じゃあ、痺れを感じないように……。
すると魔法が発動しました。
「あら? なんだか楽になってきましたわ」
「本当ですか?」
やりました。上手くできたみたいです。
安心して手を離すと、公太后さまはすぐに顔をしかめました。
「……ダメですわね。痺れが戻ってしまいましたわ」
「え? そんなぁ……」
ど、どうしてでしょう……。
それからあたしは一生懸命に治療しようと頑張りましたが、痺れも痛みも治せたのは魔法を掛けている間だけで、根本的に治療することはできなかったのでした。
◆◇◆
それから毎日公太后さまのところに行って治療しようとして、今日で四日目になりました。
梅毒を治したときのように体の中の呪いを取り出すイメージでやっても上手くいきませんし、どうすればいいのかさっぱり見当がつきません。
やっぱり、根本的な原因が分かっていないと完全に治すことはできないみたいです。
それにツェツィーリエ先生も帰っちゃいましたし……。
あ! もちろんツェツィーリエ先生はただの付き添いで、数日だけって約束だったので仕方ないんですけど……。
でもやっぱり不安じゃないですか。
それにダメでも仕方ないって言われてますけど、やっぱり公太后さまには元気になって欲しいんです。
だって、公太后さまはすごく優しくて、偉い人特有の、こう、なんて言えばいいんでしょうか?
特有のオーラというか雰囲気というか、圧のようなものがなくて、すごく感じがいいんですよね。
あと、ほら。いつもお世話になっている公子さまのおばあさんですし、ここで恩返しをしておきたいって思っているんです。
でも、上手くいかないんですよね。今日も失敗でしたし……。
「はぁ」
あたしは庭園で噴水を眺めながら、大きくため息をついてしまいました。すると背後から声が聞こえてきます。
「ふん! 治せもしないくせに!」
「え?」
振り返るとそこには公女さまがいました。
「大公の間までもらったくせに!」
「こ、公女さま……」
「お医者様は瀉血すれば治るって言ってるの! 治せもしないなら治療の邪魔をしないで早く帰ってよ! そうすればレフお兄さまだって!」
「え?」
公女さまはそう言うと、そのままつかつかと立ち去っていきました。
あたしが茫然自失していると、足元に柔らかい感覚が纏わりついてきました。
「あ、ユキ……」
「ミャー」
そうですよね。落ち込んでる場合じゃないですよね。
あたしは公太后さまの治療に来たんです。なんとか原因を見つけないと!
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