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第四章
第四章第58話 出国しました
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プレシキンを出発してから三日目、あたしたちはカルリア公国を出国しました。といってもまだマルダキア魔法王国に入国したわけじゃなくて、今は国境にある深い森の中をゆっくり進んでいます。
それでですね。この森なんですけど、なんとユキたちと出会った魔の森と繋がっているそうです。
魔の森といえば、恐ろしい魔物たちが闊歩しているものすごく危険な森です。だから、このあたりにも魔の森から出てきた恐ろしい魔物がたまに出て、街道を通る人たちが犠牲になることもあるらしいんです。
じゃあなんでそんな危険な場所を通っているのかっていうと、ここを迂回するとものすごい遠回りをしなきゃいけなくなるんです。たしか、倍くらい時間が掛かるって言っていたと思います。
なのでマルダキア魔法王国とカルリア公国は共同で定期的に魔物を退治して、大事な街道を守っているんだそうです。
といっても、今のところはなんにもない普通の森ですけどね。
ここを抜ければ、あとちょっとでマルダキア魔法王国ですね。マルダキア魔法王国に来たってなると、なんだか帰ってきたって気がしてきます。
そう感じるってことは、あたしにとってお家はベルーシでもオーデルラーヴァでもなくって、マルダキア魔法王国になったってことですよね。
えへへ。なんだかそう考えると不思議な気分です。
そんなことを考えながらボーっと窓の外の風景を眺めていると、膝の上で丸まっていたユキが突然顔を上げました。なぜか耳がピンと立っていて、ものすごい警戒しています。
「え? ユキ? どうしたんですか?」
ですがユキは返事もせず、外を警戒しています。
えっと……。
ヒヒーン!
突然馬車の外から馬のいななく声が聞こえてきました。
えっ?
「ローザお嬢様! 決して馬車から出ないでください! 襲撃です!」
「えっ!? ラダさん? しゅ、襲撃ですか?」
「はい。ですが必ず我々がお守りいたします! 決して馬車から顔を出さないでください!」
「は、はい」
あたしは馬車の椅子で身を固めるのでした。
◆◇◆
ローザたちの車列が一列になって森の中をゆっくり進んでいると、突然北側の森の中から一本の矢が飛んできた。その矢はタルヴィア子爵夫妻の乗る馬車の馬の尻に命中する。
ヒヒーン!
突然のことにパニックを起こした馬は暴走し、前を歩いていた護衛の兵士たちを次々に撥ねていく。
突然の襲撃に兵士たちの反応は一瞬遅れ、その後まるで雨のように矢が兵士たちを襲う。
「うわっ!?」
「ぐっ!」
「何者だ!」
「落ち着け! 態勢を立て直せ! 敵襲だ! 散開して反撃しろ!」
すると兵士たちは少しずつ落ち着きを取り戻し、矢の飛来する方向に向かって矢や魔術で反撃を始める。
一方、タルヴィア子爵夫妻を乗せた馬車は少し先で道を外れ、横転していた。そこに黒ずくめの男たちが群がり、馬車の上に乗って扉を開ける。
そこには血まみれで気絶するタルヴィア子爵夫人と、頭から血を流しながらもしっかりとその男を見据えるタルヴィア子爵の姿があった。
「な、何者だ。私をタルヴィア子爵と知っ――」
「……外れだ」
一人の男がそう言うと、タルヴィア子爵の首に剣を突き立てた。
「っ……かはっ……」
男が剣を引き抜くとタルヴィア子爵はそのままがっくりとうなだれた。
続いて男は気絶するタルヴィア子爵夫人の首にも剣を突き立てると、すぐさま馬車から離れていった。
それから少しして、ようやく兵士たちが追いついてきた。
「タルヴィア子爵! ご無事ですか!」
兵士たちが馬車に近寄ったそのときだった。
ドォォォォォン!
突如、馬車が大爆発を起こし、粉々に吹き飛んだ。
その爆音に馬たちはパニックになり、思い思いの方向に走り始める。それはローザの乗った馬車も例外ではなく、ローザの馬車は魔の森のほうへと向かって暴走するのだった。
◆◇◆
ひ、ひぇぇぇ。ゆ、揺れます。と、止まって! 止まってください! どうなってるんですか!
ものすごい音がしたかと思ったら、突然馬車がものすごいスピードで動いてます。
こ、これ、絶対暴走していますよね?
ひゃんっ!?
び、ビックリしました。突然こんなに跳ねるなんて!
「と、止まってください! 御者さん!」
あたしは頑張って御者さんにお願いしますが、止まってくれる様子がありません。
「御者さーん!」
全力で叫んでみましたがダメです。
ううっ。窓の外の風景が……。
えっ!?
突然ふわりと浮かんだかと思うと、ドシンというものすごい衝撃が伝わってきます。
こ、怖い……!
あ、あれ? この馬車、ものすごく傾いているような?
なんだか三十度くらい傾いて……ひっ!?
ま、また傾きました。
こ、これってもしかして横転仕掛けてるんじゃ!?
え、えっと……ど、ど、ど、どうすれば?
あっ!?
馬車はさらに傾いてきました。
え? え? ああっ! 倒れる!
あたしはキュッと目を瞑って身を固くします。
そして……
ドシャァァァァァァァ!
ものすごい音と共に馬車が止まり、あたしは座席から投げ出されるのでした。
================
あけましておめでとうございます。本年も毎週土曜日 20:00 更新を目指して執筆を進めて参りますので、応援のほど何卒よろしくお願い申し上げます。
次回更新は通常どおり、2024/01/13 (土) 20:00 を予定しております。
それでですね。この森なんですけど、なんとユキたちと出会った魔の森と繋がっているそうです。
魔の森といえば、恐ろしい魔物たちが闊歩しているものすごく危険な森です。だから、このあたりにも魔の森から出てきた恐ろしい魔物がたまに出て、街道を通る人たちが犠牲になることもあるらしいんです。
じゃあなんでそんな危険な場所を通っているのかっていうと、ここを迂回するとものすごい遠回りをしなきゃいけなくなるんです。たしか、倍くらい時間が掛かるって言っていたと思います。
なのでマルダキア魔法王国とカルリア公国は共同で定期的に魔物を退治して、大事な街道を守っているんだそうです。
といっても、今のところはなんにもない普通の森ですけどね。
ここを抜ければ、あとちょっとでマルダキア魔法王国ですね。マルダキア魔法王国に来たってなると、なんだか帰ってきたって気がしてきます。
そう感じるってことは、あたしにとってお家はベルーシでもオーデルラーヴァでもなくって、マルダキア魔法王国になったってことですよね。
えへへ。なんだかそう考えると不思議な気分です。
そんなことを考えながらボーっと窓の外の風景を眺めていると、膝の上で丸まっていたユキが突然顔を上げました。なぜか耳がピンと立っていて、ものすごい警戒しています。
「え? ユキ? どうしたんですか?」
ですがユキは返事もせず、外を警戒しています。
えっと……。
ヒヒーン!
突然馬車の外から馬のいななく声が聞こえてきました。
えっ?
「ローザお嬢様! 決して馬車から出ないでください! 襲撃です!」
「えっ!? ラダさん? しゅ、襲撃ですか?」
「はい。ですが必ず我々がお守りいたします! 決して馬車から顔を出さないでください!」
「は、はい」
あたしは馬車の椅子で身を固めるのでした。
◆◇◆
ローザたちの車列が一列になって森の中をゆっくり進んでいると、突然北側の森の中から一本の矢が飛んできた。その矢はタルヴィア子爵夫妻の乗る馬車の馬の尻に命中する。
ヒヒーン!
突然のことにパニックを起こした馬は暴走し、前を歩いていた護衛の兵士たちを次々に撥ねていく。
突然の襲撃に兵士たちの反応は一瞬遅れ、その後まるで雨のように矢が兵士たちを襲う。
「うわっ!?」
「ぐっ!」
「何者だ!」
「落ち着け! 態勢を立て直せ! 敵襲だ! 散開して反撃しろ!」
すると兵士たちは少しずつ落ち着きを取り戻し、矢の飛来する方向に向かって矢や魔術で反撃を始める。
一方、タルヴィア子爵夫妻を乗せた馬車は少し先で道を外れ、横転していた。そこに黒ずくめの男たちが群がり、馬車の上に乗って扉を開ける。
そこには血まみれで気絶するタルヴィア子爵夫人と、頭から血を流しながらもしっかりとその男を見据えるタルヴィア子爵の姿があった。
「な、何者だ。私をタルヴィア子爵と知っ――」
「……外れだ」
一人の男がそう言うと、タルヴィア子爵の首に剣を突き立てた。
「っ……かはっ……」
男が剣を引き抜くとタルヴィア子爵はそのままがっくりとうなだれた。
続いて男は気絶するタルヴィア子爵夫人の首にも剣を突き立てると、すぐさま馬車から離れていった。
それから少しして、ようやく兵士たちが追いついてきた。
「タルヴィア子爵! ご無事ですか!」
兵士たちが馬車に近寄ったそのときだった。
ドォォォォォン!
突如、馬車が大爆発を起こし、粉々に吹き飛んだ。
その爆音に馬たちはパニックになり、思い思いの方向に走り始める。それはローザの乗った馬車も例外ではなく、ローザの馬車は魔の森のほうへと向かって暴走するのだった。
◆◇◆
ひ、ひぇぇぇ。ゆ、揺れます。と、止まって! 止まってください! どうなってるんですか!
ものすごい音がしたかと思ったら、突然馬車がものすごいスピードで動いてます。
こ、これ、絶対暴走していますよね?
ひゃんっ!?
び、ビックリしました。突然こんなに跳ねるなんて!
「と、止まってください! 御者さん!」
あたしは頑張って御者さんにお願いしますが、止まってくれる様子がありません。
「御者さーん!」
全力で叫んでみましたがダメです。
ううっ。窓の外の風景が……。
えっ!?
突然ふわりと浮かんだかと思うと、ドシンというものすごい衝撃が伝わってきます。
こ、怖い……!
あ、あれ? この馬車、ものすごく傾いているような?
なんだか三十度くらい傾いて……ひっ!?
ま、また傾きました。
こ、これってもしかして横転仕掛けてるんじゃ!?
え、えっと……ど、ど、ど、どうすれば?
あっ!?
馬車はさらに傾いてきました。
え? え? ああっ! 倒れる!
あたしはキュッと目を瞑って身を固くします。
そして……
ドシャァァァァァァァ!
ものすごい音と共に馬車が止まり、あたしは座席から投げ出されるのでした。
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