テイマー少女の逃亡日記

一色孝太郎

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第四章

第四章第68話 緊急事態のようです

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「お嬢様! 申し訳ございませんでした! うちの主人と息子がなんて真似を!」

 飛んできたアンナさんが顔面蒼白になって謝ってきました。

 えっと……そう、ですね。

 これってあたしが寝ている間に侵入してきたこいつらを、ユキたちがやっつけてくれたってことですよね?

 しかもこいつがズボンを脱いでいるってことは、あたしにイヤらしいことをしようとしたってことだと思います。

 ううん。こんなことをするなんて……まるでゴブリンみたいな奴です。

「今すぐにこのゴミを片付けます。地下牢に入れ、どのような罰でも必ず受けさせます。ですからどうかパドゥレ・ランスカに暮らす民の命だけはどうか!」

 はい?

 えっと、アンナさんは何を言っているんでしょうか?

 悪いことをしたのはこいつらなのに、なんで村の人たちの話になるんでしょうか?

「えっと、はい」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 よく分からずに返事をすると、アンナさんは涙を流しながらお礼を言ってきたのでした。

◆◇◆

 それからあいつらは地下牢に入れられ、アンナさんは隣町に伝令を送ってくれました。隣町までは一日掛かるそうで、明後日には迎えの人が来てこの村を出発できるそうです。

 それまではこの村でゆっくりして欲しいって言われているんですけど……なんだかちょっと居心地が悪いです。

 あいつらが地下牢に入れられたっていう話はすぐに村中に広まったみたいで、外に出ると男の人たちがあからさまにあたしをジロジロと見てくるんです。

 しかもですね。どうやら領主のあいつらがあんなだからだと思うんですが、この村の男の人たちって、女の人をものすごく下に見ているみたいなんです。それで、中にはあたしがあいつらを誘惑したのが悪い、なんてことを言ってくる人もいました。

 だからアンナさんの家に戻ってきたんですけど、そうするとあいつらの声がかすかに聞こえてきて、やっぱり落ち着きません。

 ほら。今もここから出せって騒いでいます。

 あ、それからアンナさんの声も微かに聞こえてきますね。言い合いになっているようです。

 はぁ。やっぱりお迎えなんて待たずに出発しちゃったほうがいいんでしょうか?

 そんなこと考えが頭をよぎったちょうどそのときでした。

 カンカンカンカン!

 突然、村中に鐘が鳴り響きます。

 えっ? なんですか? これ? 何度も何度も、ずっと鳴り響いていて、なんだか不安になってきます。

 するとどたどたと廊下を走ってくる音が聞こえてきました。そして扉の向こうから声を掛けられます。

「お嬢様!」
「あ! バルバラさん、これは?」
「魔物の襲撃です! 危険ですから、どうかこのままお部屋の中にいてください」
「え? えっと……」

 あたしも協力したほうがいい気もしますけど……。

「危険ですから! どうか!」
「あ、はい」

 そうですね。慣れている村の人たちに任せたほうがいいのかもしれません。

 邪魔しちゃうかもしれませんし、バルバラさんもああ言ってますし。

 こうしてあたしは不安を覚えつつも、部屋に残ることに決めたのでした。

 えっと、そうですね。一応制服には着替えておこうと思います。

◆◇◆

「ゴブリンだ! 森からゴブリンの群れが来ているぞ!」
「戦える者は武器を取れ!」

 警鐘が鳴り響く中、村人たちは大慌てであちこちを走り回っている。ある者は農具を手に、ある者は斧を手に、またある者は包丁や鍋を手に持ち、続々と領主の家に面した広場に集まってきた。

 また、戦えない老人や女子供は領主邸の中へと避難していく。

 そうして村人たちが集まったものの、広場に集まった男たちは何もせずにお互いに顔を見合わせている。

「……なあ、この後俺らはどうすればいいんだ?」
「領主様が決めるんじゃね?」
「でも領主様、たしか偉いお貴族様のお嬢様になんかして、地下牢にいるって話じゃないか」
「あー、そうだったな。でも、領主様もお貴族様なんだろ?」
「お貴族様っつってもうちの領主様は親が男爵様なだけだって」
「そうなのか? ってことは、領主様も男爵? なんだろ?」
「ちげぇよ。ここは自治領だから、男爵領なんだけど、うちの領主様が治めていいって特別に男爵様が認めてくれたってだけだ」
「え? じゃあ、領主様って平民なのか?」
「いや、だから話聞いてたか? 親がお貴族様なんだからお貴族様なんだって」
「はぁ……難しくて分かんね」

 村人たちはそんな会話をしていたが、すぐに根本的な問題を思い出して不安げな表情となる。

「そんなことより、俺らどうすりゃいいんだ?」
「ゴブリンの大群って、どんくらいいるんだ?」
「さぁ。見張りの奴はうじゃうじゃって言ってたぜ」
「うじゃうじゃ? でもゴブリンって普通、うじゃうじゃいるもんじゃね?」
「そりゃあそうだけど……」

 と、そこへアンナがやってきた。

「皆さん!」
「あ! アンナさん! 領主様は?」
「夫は罪を犯したので外に出ることはできません」
「ええっ!?」
「あの噂、やっぱり本当だったのか!」
「罪って、あのチビ巨乳の女だろ? 女なんかより領主様のが大事だろうが」
「何を言っているんですか! お嬢様に何かあればこの村は終わりです!」
「はぁ?」
「そんなことより! 早くゴブリンを追い払いましょう! いつものように! ヴァシレ、アハロン、ステファン、正門の応援に行ってください! エミールは――」
「は? なんでアンナさんが仕切ってるんだよ? 男の仕事に女が口を出すなんて」
「エミール! 今はそんなことを言ってる場合じゃ!」
「は? 俺らと同じ平民のアンナさんが何を偉そうに」
「エミール!」
「俺は領主様に仕切ってほしいんでね」
「ちょっと!」
「はっ! 何が罪を犯した、だ。俺は領主様を助けに行くからな。お前ら! 行くぞ! 領主様を助けるんだ!」
「え? ああ、ええと……」
「ならこの平民の、しかも女なんかに仕切られたいのか?」
「う……それはちょっと……」
「だろ? なら行こうぜ」
「……そう、だな」
「そうこなくちゃ!」
「ああ。今は緊急事態だしな」
「ちょっと! あなたたち!」
「アンナさんは黙っててくれ。よし! 行くぞ!」
「「「おう!」」」

 こうして広場に集まった男たちはアンナの指示に従わず、領主邸へと押し入る。

 一方その頃、押し寄せた大量のゴブリンたちは正門を破り、村の中に雪崩れ込むのだった。

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 次回更新は通常どおり、2024/03/23 (土) 20:00 を予定しております。
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