ガチャで破滅した男は異世界でもガチャをやめられないようです

一色孝太郎

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第二章

第二章第37話 MP求めて三百連(後編)

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「ねえ。まだフラウを出せるようにならないの?」
「い、いや。今日はちょっと調子が……」

 エレナがうんざりした表情で俺にそう言ってきた。それもそのはずで、すでに六十連続けて爆死しているのだ。

 もちろんこれまでに馬の糞はたくさんでているわけで、トーニャちゃんと支部長は臭いからと少し離れた場所に避難しており、セリアさんはガチャから出てきた外れアイテムの査定を始めている。

「調子? ギフトを使うのに調子なんてあるの?」
「いや。こう、集中して向き合えていないのといつもはフラウが応援してくれるんだがそれがないとどうも……」
『もー。ディーノったらあたしがいないとダメなんだからっ』
「フラウ。この状況でそれを拾うのはきついかも……」
『えー? 前にもやったよ?』
「いや、今は――」
「何? フラウはなんて言ってるの?」
「ああ、もう。ほら」
「何よ?」
「フラウがいつものノリでボケてくれたんだけど反応しづらいって話しだよ」
『えー? ボケたんじゃないよ? あたし、本気なのにっ』

 そういってフラウは楽しそうに笑いながら顔を両手で覆って泣き真似をする。

 ああ、もう! 俺はどうすればいいんだ?

 困り果てているとエレナが大きくため息をついた。

「もう。何言ってるのよ。さっさとフラウを召喚できるようになればいいの。わかる? ホント、あんたは昔からダメなんだから」
「そう都合よくいかないから困ってるんだよ」

 するとエレナは再び大きくため息をついた。

「だからあんたはいつもダメなのよ。絶対上手くいくって思ってやらなきゃ失敗するのよ。そんな簡単なことも分からないわけ?」
「え?」
「え、じゃないわよ。ダメかもって思ってたら体が動かないのなんて当然でしょ? あんたのギフトだって同じなんじゃないの?」
「あ……」

 まさかエレナにガチャの真髄を諭されるとは思わなかったが、そのとおりだ。

 これまで神引きしてきたときはいつだってガチャに集中できていたし、必ず神引きできると信じて引いていた。

 それに引き換え今回のガチャはどうだ!

 集中はできてない。気合は入っていない。そのうえ何を引きたいのかの狙いも曖昧なままずるずると惰性で引いたじゃないか!

 そんな姿勢では☆5を神引けないのは当然のことだ。

「ありがとう。エレナ。目が覚めたよ」
「は?」
「よし。エレナ、フラウ。俺は、必ず『 MP強化(大)』と『精霊花の蜜』を引くよ。大船に乗ったつもりでいてくれ!」
「はぁ。よくわからないけど、がんばって?」
『うんっ。ありがとうっ! ディーノならできるよ』
「ああ。ありがとう。気合が入ってきた。よし、引ける!」

 俺は人目を気にせず気合を入れるとガチャを引くボタンをタップした。

 いつもと変わらぬ様子で妖精たちが宝箱を運んでくる。木箱、銀箱、木箱、木箱、木箱、木箱、木箱、木箱、木箱、木箱だ。

「よし! 銀箱が一つある!」
『やったね!』
「はあ」
「さあ、来い! 金箱に変われ!」

 俺は気合を入れるが、残念ながら銀箱のままだ。

「ああっ! ダメか!?」
『ディーノ! まだだよっ!』

 箱が開き中からは『☆4 MP強化』が出てきた。

「お!」
『やったね! おめでとうっ!』
「何? 何なの? 一体どうしたの?」
「ああ。MP強化が出て 1 だけだけどMPが増えたんだ」
「そう。じゃあ、フラウを召喚できるようになったのね?」
「ほんの少しだけどな」
「なんだ。やっぱりあたしの言うとおりだったじゃない。どう? あたしはいつだって正しいんだから」
「ああ。そうだな。すごいな。ありがとう」
「ふふん。そうよ。もっと褒めなさい?」

 そう言ってエレナは嬉しそうに微笑んで胸を張った。

 言っていることはウザいことこの上極まりないが、エレナがこんな風に笑っている姿を見たのは一体何年ぶりだろうか?

 あまりにも久しぶりで不覚にも少しドキッとしてしまった。

 こうしていればエレナはやはり可愛い……って、俺は何を考えてるんだ!?

 相手はあのエレナだぞ?

 見た目に騙されちゃダメだ。落ち着け! 俺!

 落ち着こうと大きく深呼吸をしたが、馬の糞の匂いを思い切り吸い込んでしまって少し気分が悪くなってしまった。

「ちょっと。何百面相してるのよ?」
「え? あ、いや。ちょっと馬の糞の匂いが……」
「それもそうね。じゃあ、早く片付けなさい」
「ああ」

 俺はいったん汚物を片づけるとガチャを再開する。

 そしてそれから俺は爆死を続け、気が付けばもう残すところあと十連にまでなってしまった。

 ここまで出た☆5は何とゼロだ。まさかここまで爆死するとは予想外だった。

 ☆4はそれなりに引けており、『AGI強化』とミゲルに盗まれた『ショートボウ』がそれぞれ二つずつ出たのは当たりと言えるだろう。だが、他には目ぼしいものは出ず、他の☆4は『鉄の兜』が一つと『鉄の槍』が一本だ。

「や、やばい」
「ねぇ。まだなの?」
「いや、ここまで引けないことは今までなかったんだが……」
「で? あと何回できるの?」
「いや、次で最後なんだ」
「はあ? 何それ? お金を捨てただけじゃない!」
「ま、まあ。でも神引きは最後にやってくるって言うじゃないか」
「そうなの?」
「ああ。そうだよ。そうに決まってる。俺はこれまでだってそうやって乗り越えてきたんだからな。今度こそ、ラスト十連で『MP強化(大)』と『精霊花の蜜』を神引きしてやる」
「ホントかしら?」
『ディーノ。あんまり無理はしないほうが良いよ?』
「いや、フラウ。無理なんかしてないさ。爆死の後には神引きが待っている。それがガチャってものじゃないか」
『……うん。わかったよ。ディーノ、がんばって!』
「ああ、頑張るよ。さあ、来い!」

 俺はタイミングを見計らってガチャを引くボタンをタップする。画面の中では普段と変わらない様子で妖精たちが宝箱を運んでくる。

 木箱、木箱、木箱、木箱、木箱、木箱、木箱、木箱、木箱、木箱だ。

「あ……」
『あっ……』

 俺は膝から崩れ落ちたのだった。

────
今回のガチャの結果:
☆5:
 なし
☆4:
 AGI強化x2
 DEX強化
 MP強化
 STR強化
 VIT強化
 ショートボウ×2
 鉄の兜
 鉄の槍×3
☆3:
 テント(小)×6
 火打石×4
 干し肉×4
 堅パン×5
 石の矢十本×2
 虫よけ草×3
 鉄のスコップ×2
 鉄の小鍋×2
 銅の剣
 皮のブーツ×4
 皮の鎧(下半身)×3
 皮の鎧(上半身)×3
 皮の盾×2
 皮の水筒×8
 皮の袋×2
 皮の帽子×6
 片刃のナイフ×7
 木の食器セット×3
 薬草×3
 旅人のマント×4
☆2:
 ただの石ころ×17
 枯れ葉×27
 糸×19
 小さな布切れ×24
 薪×21
 動物の骨×22
 馬の糞×18
 皮の紐×24
 腐った肉×19
 藁しべ×23

================
まさかの完全爆死でした。G〇〇gle先生の乱数に慈悲はなし。
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