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ジェームズトンプソンと深紅の男
完璧な女性との出会い──そして戦闘再び。
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「失礼しますカーン教授。私は刑事のトンプソン、彼は助手のペレスです」
ジェームズは愛想のかけらもなく淡々と言い、礼をした。慌てて俺も頭を下げようとしたが、ややタイミングがずれてしまった。
「よしてよぉ、ジェームズ。私たちの他に誰もいないんだから、普通に接してちょうだい」
「うん?」
拍子抜けして、疑問の声が出てしまった。
「あなた助手をとったんだ。ホントに人付き合いが上手くなったのね」
「──ああ、おかげさまでな」
状況が一向に理解できなかった──ひょっとして、二人は兄弟だったのか? たとえそうだったとしても、彼のような不愛想な男が、女性に慕われているなんて信じがたい。
「疑問に思うだろうが、何も言うな」
そう耳打ちされたが、意味もなく動揺していた俺は過呼吸気味になり、つばを飲み込んだ。
「隠さなくたっていいでしょ?」
彼女は椅子から立ち上がり、愛らしく笑ってこちらを向いた。
「ジェームズの助手になるなんて──彼に脅されでもしたの?」
「えっと──いいえ、かな」
かすれた声でそう返事した。
「ジェームズがどこまで言ったか知らないけど、わたしはフェリシア。ジェームズとは孤児院で一緒だったんだ」
孤児院──俺の人生で常連の単語だ。類は友を呼ぶとはこのことか。
「頭が凝り固まってる護衛の人もいなくなったことだし、ちょっと息抜きにみんなで散歩しない?」
「ハッ、ダメに決まっているだろう」
ジェームズが嫌みたらしい表情で言う。
「ねぇ、わたしを監禁する気?」
「捉えようによっては、そうかもしれないな。守るためだ──我慢しろ」
「大丈夫。俺たちが守ります!」
緊張しつつ、つい思い切ったことを俺は言ってしまった。ジェームズはあからさまに鼻で笑い、威圧的に注意してきた。
「君は、明らかにこの任務の危険性を舐めている」
加えて説教しようとするが、教授がそれを遮り、柔らかい笑顔で「ありがとうね、レオン」と返してくれた。俺の胸は今までになく高鳴っていて、心臓が口から飛び出そうだ。
背後で、ジェームズが教授──いやフェリシアに「何を考えてるんだ。彼の機嫌を取ってもいいことはないぞ」と小声で言うのが聞こえた。が、振り返ると彼女は真にきょとんとしていて、「えぇ? そんなつもりじゃないけど」と言ってジェームズをいぶかしげに見ていた。言葉に出来ない、すごく爽快な気分でフェリシアをエスコートした。
彼女は純粋無垢な笑みを浮かべ、クラゲのようにゆったり歩きながら自分のことや、廊下にある肖像画について説明してくれた。
「みんな、私の家族。父親は所属していた研究所の爆発で死んだ」
「それは──気の毒だ」
気の利いたセリフが思いつかない。俺は一瞬ためらった後、思い切って彼女の手を握ってみた。フェリシアは感慨に浸っているようで、握り返されたりはしなかったが、拒否反応は起きていない。
「わたしは母の手で育てられたんだ──数年前に亡くなっちゃったけど。今でも悲しい。わたしには表面上の友達はいても、相談できるような親友はいない。でも、研究をやってると、いくらか楽になるの」
それを聞き、対して自分は──と考えてみると、自然と脳裏に彼が現れた。肌が濃く、根暗で意地が悪いように見えて、すごく優しい、仲間想いの──
「──俺が親友になりますよ。親友がいるって、結構いいもんですよ」
「ありがと」
俺はぎごちない笑顔で彼女と見合いながら歩みを進めた。堅物のジェームズは空気を無視し、「ここからは他の護衛がいる。敬語を使うんだ」と横から威圧的に言ってきた。
「リーパー、何か異常があったか?」
「いやぁ、林の中で、どうも不自然な音がするんだよ」
「なら、林に入って正体を確かめればいいだろう」
「いや、ちょっと慎重になって考えを──」
「まさか……怖がっているのか?」
といった感じで、しばらく前から、ジェームズとリーパー刑事は無線でくだらない問答をしていた。
俺は「親友」という存在について考えをめぐらし、護衛のこともすっかり忘れ、廊下をフラフラと歩いていた。そのせいで、ふいに窓が割れて何かが投げ込まれてきたとき、いち早く対応できなかった。
「催涙ガスだ!」
ジェームズが叫んだ。そのタイミングでようやく目の前の事柄に注目した。しかし、いつのまにか辺りに充満していた煙のせいで、ジェームズと教授がどこにいるのか分からない。後ろで何か(おそらく「誰か」だ)が音を立て倒れた。弱く高い悲鳴がその後聞こえたので、フェリシアが襲われているのだろうと思った。だが俺はパニック状態にもかかわらず、声の方へ動くことができなかった。
やがて煙が晴れてくると、ジェームズが覆面をした、いかにもワルという漢四人と格闘しているのが見えた。彼は素手で二人の漢の攻撃をはたいて交わし、他一人の顎を蹴りつけて仰け反らせて倒し、もう一人の顔面を鷲掴みにして持ち上げ、ぶん投げた。
フェリシアは──ここにはいない。廊下の窓は開いていて、おそらくそこから残りの犯人は逃げたのだろうと思った。散乱しているとがった破片に気を付けながら、窓から頭を出し林を隅々まで見回した。ひときわ暗い木の陰に、二人の男に気絶させられ、連れていかれる教授が見えた。
「刑事さん、教授が誘拐される──捕まえて!」
そう叫んでみたが、あろうことか外には誰もいなかった。みんな、廊下での異変を察知して建物に入りジェームズの応援に向かったのだろう──
俺は考えもないまま、屋根をそろそろと渡っていた。足元のタイルは古く、大きな動きをするとそれがずれて足を滑らせそうだ。自暴自棄になって林を見下ろし、塀へと急ぐ犯人をにらみつけた。
〈さあ、飛びこみだ──〉
あとがき
到着早々、アクションが始まりました!ちょっと展開が早すぎるでしょうか。戦闘描写に関してもご意見いただけると嬉しいです!いいねもお待ちしております!
ジェームズは愛想のかけらもなく淡々と言い、礼をした。慌てて俺も頭を下げようとしたが、ややタイミングがずれてしまった。
「よしてよぉ、ジェームズ。私たちの他に誰もいないんだから、普通に接してちょうだい」
「うん?」
拍子抜けして、疑問の声が出てしまった。
「あなた助手をとったんだ。ホントに人付き合いが上手くなったのね」
「──ああ、おかげさまでな」
状況が一向に理解できなかった──ひょっとして、二人は兄弟だったのか? たとえそうだったとしても、彼のような不愛想な男が、女性に慕われているなんて信じがたい。
「疑問に思うだろうが、何も言うな」
そう耳打ちされたが、意味もなく動揺していた俺は過呼吸気味になり、つばを飲み込んだ。
「隠さなくたっていいでしょ?」
彼女は椅子から立ち上がり、愛らしく笑ってこちらを向いた。
「ジェームズの助手になるなんて──彼に脅されでもしたの?」
「えっと──いいえ、かな」
かすれた声でそう返事した。
「ジェームズがどこまで言ったか知らないけど、わたしはフェリシア。ジェームズとは孤児院で一緒だったんだ」
孤児院──俺の人生で常連の単語だ。類は友を呼ぶとはこのことか。
「頭が凝り固まってる護衛の人もいなくなったことだし、ちょっと息抜きにみんなで散歩しない?」
「ハッ、ダメに決まっているだろう」
ジェームズが嫌みたらしい表情で言う。
「ねぇ、わたしを監禁する気?」
「捉えようによっては、そうかもしれないな。守るためだ──我慢しろ」
「大丈夫。俺たちが守ります!」
緊張しつつ、つい思い切ったことを俺は言ってしまった。ジェームズはあからさまに鼻で笑い、威圧的に注意してきた。
「君は、明らかにこの任務の危険性を舐めている」
加えて説教しようとするが、教授がそれを遮り、柔らかい笑顔で「ありがとうね、レオン」と返してくれた。俺の胸は今までになく高鳴っていて、心臓が口から飛び出そうだ。
背後で、ジェームズが教授──いやフェリシアに「何を考えてるんだ。彼の機嫌を取ってもいいことはないぞ」と小声で言うのが聞こえた。が、振り返ると彼女は真にきょとんとしていて、「えぇ? そんなつもりじゃないけど」と言ってジェームズをいぶかしげに見ていた。言葉に出来ない、すごく爽快な気分でフェリシアをエスコートした。
彼女は純粋無垢な笑みを浮かべ、クラゲのようにゆったり歩きながら自分のことや、廊下にある肖像画について説明してくれた。
「みんな、私の家族。父親は所属していた研究所の爆発で死んだ」
「それは──気の毒だ」
気の利いたセリフが思いつかない。俺は一瞬ためらった後、思い切って彼女の手を握ってみた。フェリシアは感慨に浸っているようで、握り返されたりはしなかったが、拒否反応は起きていない。
「わたしは母の手で育てられたんだ──数年前に亡くなっちゃったけど。今でも悲しい。わたしには表面上の友達はいても、相談できるような親友はいない。でも、研究をやってると、いくらか楽になるの」
それを聞き、対して自分は──と考えてみると、自然と脳裏に彼が現れた。肌が濃く、根暗で意地が悪いように見えて、すごく優しい、仲間想いの──
「──俺が親友になりますよ。親友がいるって、結構いいもんですよ」
「ありがと」
俺はぎごちない笑顔で彼女と見合いながら歩みを進めた。堅物のジェームズは空気を無視し、「ここからは他の護衛がいる。敬語を使うんだ」と横から威圧的に言ってきた。
「リーパー、何か異常があったか?」
「いやぁ、林の中で、どうも不自然な音がするんだよ」
「なら、林に入って正体を確かめればいいだろう」
「いや、ちょっと慎重になって考えを──」
「まさか……怖がっているのか?」
といった感じで、しばらく前から、ジェームズとリーパー刑事は無線でくだらない問答をしていた。
俺は「親友」という存在について考えをめぐらし、護衛のこともすっかり忘れ、廊下をフラフラと歩いていた。そのせいで、ふいに窓が割れて何かが投げ込まれてきたとき、いち早く対応できなかった。
「催涙ガスだ!」
ジェームズが叫んだ。そのタイミングでようやく目の前の事柄に注目した。しかし、いつのまにか辺りに充満していた煙のせいで、ジェームズと教授がどこにいるのか分からない。後ろで何か(おそらく「誰か」だ)が音を立て倒れた。弱く高い悲鳴がその後聞こえたので、フェリシアが襲われているのだろうと思った。だが俺はパニック状態にもかかわらず、声の方へ動くことができなかった。
やがて煙が晴れてくると、ジェームズが覆面をした、いかにもワルという漢四人と格闘しているのが見えた。彼は素手で二人の漢の攻撃をはたいて交わし、他一人の顎を蹴りつけて仰け反らせて倒し、もう一人の顔面を鷲掴みにして持ち上げ、ぶん投げた。
フェリシアは──ここにはいない。廊下の窓は開いていて、おそらくそこから残りの犯人は逃げたのだろうと思った。散乱しているとがった破片に気を付けながら、窓から頭を出し林を隅々まで見回した。ひときわ暗い木の陰に、二人の男に気絶させられ、連れていかれる教授が見えた。
「刑事さん、教授が誘拐される──捕まえて!」
そう叫んでみたが、あろうことか外には誰もいなかった。みんな、廊下での異変を察知して建物に入りジェームズの応援に向かったのだろう──
俺は考えもないまま、屋根をそろそろと渡っていた。足元のタイルは古く、大きな動きをするとそれがずれて足を滑らせそうだ。自暴自棄になって林を見下ろし、塀へと急ぐ犯人をにらみつけた。
〈さあ、飛びこみだ──〉
あとがき
到着早々、アクションが始まりました!ちょっと展開が早すぎるでしょうか。戦闘描写に関してもご意見いただけると嬉しいです!いいねもお待ちしております!
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