辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ

文字の大きさ
18 / 60

18.

しおりを挟む

私達は抱きしめ合い、お互いの体温を感じていた。

暫くしてジル様が体を離し、


「シア、これから聞く事にシアの気持ちを正直に話して欲しい」

「はい」

「シアにとって隣国から辺境へ婚姻が変わった訳だが、俺はただの貴族だ、国同士の繋がりがある訳じゃない」

「辺境と言っても同じ国ですものね。初めお父様に聞かさせた時は隣国の次は辺境ですかって思いました。ですが、私、喜んだんです」

「何故だ?この国は一夫一妻制だからか?」

「確かに一番の理由はそうです。例え政略結婚だとしても妻は私だけです」

「確かに妻は一人だが、愛人がいる者もいるだろ?」

「愛人、そうですね。王城で暮らしてると噂話として耳に入ります。貴族同士の婚姻は家同士の繋がりの為に政略結婚がほとんどですもの。お互い愛人を作り仮面夫婦の家もあります。ですが、例え始まりは政略結婚でも愛を育み仲が良い夫婦もいます」

「確かにそうだが」

「この国では愛人を邸に迎え入れて離縁になった場合、多額の慰謝料が発生します。そして愛人を作り原因を作った方には地位も剥奪され平民にさせられます。婚約中はまだ厳しくはないので、高位貴族程幼い頃から婚約、解消を繰り返します。家の為と言っても人と人ですもの、相性が合う合わないは誰にでもあります。長い婚約期間にも意味はあります。その間にお互いを受け入れる事が出来ますもの。愛を育むか諦めるか、諦め結婚したとしても愛人を容認するか、お互い愛人を持つか、自分で自分の気持ちを決められますもの」

「俺達は半年後には結婚だぞ?婚約だって短い。シアは良いのか?」

「この結婚は王命です。もし既にジル様に恋人が居た場合、ジル様と恋人様には申し訳無いのですが、恋人様には諦めて頂くか愛人になって頂くほかありませんでした。その時はその事実を受け入れ、私の気持ちで結婚生活を諦めるつもりでした。ですから、お父様から話を聞いた時、王命を断る事が出来ないジル様がお気の毒だと思いました。反対にジル様はこの結婚はどう思いました?」

「俺は、王命が届いた時、正直、ふざけるなと思った。前に第一王女との婚約の打診が合った時は父上が亡くなって家督を継いだばかりだったからな。婚約なんてする余裕もなかったし。まぁあれは帝国に嫁にやりたくない国王がとりあえず形だけ打診しただけだったけどな。結局それを知った帝国の皇子が奪う様に連れ去ったけど。で、今度は第二王女かよってな」

「そうでしたか」

「今回は王命で届いたから形だけじゃない事くらい分かっていたし、隣国の情報も入っていたしな。まぁ、恋人は居ないし、結婚もいずれはって思ってた所だったからな、受け入れた。俺はシアの方が気の毒と思っていたよ。辺境は何もないしな。それに危険と隣り合わせだ。おまけに俺は見目が良い方じゃない、傷だらけだ。それに、十も歳上だしな。そんな所に嫁ぐ事になって可哀想にって。俺が王命ならシアも王命だろうなって思ってたし」

「辺境が危険と隣り合わせは分かっていた事ですし、私、ちょっと楽しみでした。自然に触れ合える事が出来るのかもと。それに、見目とかは知りませんでしたし、年の差も気になりませんでした。十も歳下だと、ジル様の方がお相手として嫌がると思いました。私はまだ小娘です、ジル様は大人の男性ですもの」

「発展途上なんだろ?」

「確かにそうですが」

「年の差は俺も気にならなかった。貴族なら当たり前だろ?」

「確かにそうですね」

「シアと顔を合わせた時、正直、可愛いなと思った。だからこそこんな俺に嫁ぐのは可哀想と思った」

「可愛いと思って下さったの?」

「当たり前だろ、シアは可愛い」

「嬉しいです。私も初めてお会いして、とても素敵な方だなと思いました」

「本当にか?」

「本当です。だからこそ愛し愛される関係になりたいと思いました」

「まだ会って数日だが、シアをもう手放せない」

「私もジル様の事、もう手放せません。ジル様の優しい手も、この体温も、まだ恥ずかしいですけど、嬉しいのです。このネックレスも触るとジル様をおもい浮かべます」

「だから握ってるのか?」

「恥ずかしいです。でも、不安な時とか握ると安心出来ます。それに触れてると恥ずかしいですけど、心が温まります。ジル様に護られているような、私のお守りです」

「シア」


ジル様は私を抱きしめ、私もジル様を抱きしめました。


「こうして居ると恥ずかしいのですが、とても安心します」

「俺もだ」

「同じですね」

「あぁ。シア、好きだ」

「ジル様、私もジル様の事が好きです」


ジル様はそっと離れて私の口を指で撫で、


「シア、口付けは早いだろうか?」

「恥ずかしいです。私の口からは言えません」

「嫌か?」


私は顔を横に振りました。

ジル様の唇と私の唇が重なりました。触れるだけの口付けでしたが、とても幸せな気持ちになりました。


しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

愛する旦那様が妻(わたし)の嫁ぎ先を探しています。でも、離縁なんてしてあげません。

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
【清い関係のまま結婚して十年……彼は私を別の男へと引き渡す】 幼い頃、大国の国王へ献上品として連れて来られリゼット。だが余りに幼く扱いに困った国王は末の弟のクロヴィスに下賜した。その為、王弟クロヴィスと結婚をする事になったリゼット。歳の差が9歳とあり、旦那のクロヴィスとは夫婦と言うよりは歳の離れた仲の良い兄妹の様に過ごして来た。 そんな中、結婚から10年が経ちリゼットが15歳という結婚適齢期に差し掛かると、クロヴィスはリゼットの嫁ぎ先を探し始めた。すると社交界は、その噂で持ちきりとなり必然的にリゼットの耳にも入る事となった。噂を聞いたリゼットはショックを受ける。 クロヴィスはリゼットの幸せの為だと話すが、リゼットは大好きなクロヴィスと離れたくなくて……。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

処理中です...