褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

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愛とは…

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私の傷も治り2ヶ月滞在していた公爵邸から伯爵邸へ帰る晩、お父様とお母様、ライアンといつものように皆で一緒に夕食を食べている。


「派手な夫婦喧嘩をしたらしいな」


突然お父様が言った。


「したらしいなってお父様も知っていますよね?何も知らずに私達の滞在を認めていたんですか?」


それも今日?今までだって何度も言う機会はあったわ。


「ミシェル、私はリーストファーに聞いている」


お父様の威圧に私は黙った。お母様なんてにこにこ笑っているわ。ライアンはサッと目を反らしたけど。


「どこぞの阿呆が巻き込まれたらしいが、まぁあれが別にどうなろうが私の知ったことではない。なんなら私の邸に無断で入った族のようなもの、傷の一つや二つ…、無傷で帰って行けたんだ、何も文句はあるまい」


まだ一応殿下ですよ?その殿下を阿呆とかあれとか…。それに傷の一つや二つも付けたらどうなる事やら…。


「のうリーストファー、派手な夫婦喧嘩をしたらしいな」

「申し訳ありません」


リーストファー様は立ち上がり頭を下げている。


「それで?頭を下げるだけか?頭を下げるだけなら阿呆でもできるぞ?」

「もう二度と『公爵の宝石』に傷を付けません」

「傷を付けた事を言っている訳ではない」


ん?待って、公爵の宝石って何?


「大切にできないのなら返してもらうぞ。リーストファー、二度目はないと思え」

「はい、肝に銘じます。私にとって、とても大切な人です。もう二度と悲しませる事はしません、お約束します」

「分かれば良い」

「いいえ、私は許しません」


お母様?お母様まで急にどうしたの?

ライアンを見たら『僕を見ないで下さい』と念を送ってくる。


「リーストファー君」


お母様のにこにことした笑い顔が怖い。これは本気で怒ってる時の顔だわ。


「私の可愛い娘に傷が残ってしまったわ」

「申し訳ありません」


リーストファー様は頭を下げた。


「消えない傷を残した貴方がもし私の可愛いミシェルを裏切ったら、その時は貴方の大事な所をちょん切るわよ?」


ライアンなんか『ヒッ』と身を屈めているわ。分かるわ、分かる。私でも想像するだけで痛いもの。


「お義母上、これだけは断言できます。私は今この時もこれから先もミシェルしか愛せません。女神を裏切ればそれこそ私は罰が下ります。もしはありませんがそれでももしお義母上から見て私が裏切り行為をしていると思えたのなら、この命をどうぞ地獄へ堕として下さい」

「そう?なら良いの。女性は旦那様に愛されるから綺麗になるの。そして愛は人を強くしてくれるわ、それは貴方もよ?」


優しく笑うお母様はリーストファー様を見つめた。


「人は誰かに愛されるとね、このままの自分で良いんだって思えるの。このままの自分をこの人は愛してくれる、それがどんなに幸せな事か分かるわ。そして人を愛すとね、この人の為にって強くなれるの。そして何があっても信じられるの。嘘も裏切りもそんなの些細な事よ。私はこの人の全てを愛しているの。何かを返してほしい訳じゃないわ、ただ私がこの人を愛してるだけなの。

もし自分の心と同じように相手もその心を渡してくれるのならそれはとても尊い事よ」

「はい」

「ミシェルはどっかの白豚ちゃんのお陰で自分で強くなったわ。強くあろうとする姿は妃としては誇らしいわ、でも親としては悲しかった。ミシェルは少し臆病なの、自分の弱さには脆いわ。まあミシェルは立ち直り方も逞しいんだけど、でも一人で何でも解決しようと一人で抱え込むの。誰にも弱音を吐けないミシェルがいつか限界を越えてしまわないか私は危惧しているの」


お母様、白豚ちゃんって…、確かに殿下はふくよかだけどせめて恰幅がいいと言ってあげて下さい。殿下の肌は羨ましいくらいもち肌なんですよ?それに昔は痩せていたんです。重圧や心労、心痛でふくよかになっただけで痩せれば見目は悪くないですよ?


「ミシェルは芯が強い女性に成長したわ。でも私は弱音が吐けて、心を相手に渡せる女性にもなってほしいの。自分だけで抱えないで一緒に抱えてくれる対の相手。

リーストファー君、それは貴方にも言えるのよ?」


お母様は私とリーストファー様を見つめる。


「貴方は一人で背負いこもうとする。全てを曝け出せとは言わないわ。でもね、ミシェルが隣にいる事を忘れないでほしいの。ミシェルは強いわ、貴方の愛で本当の意味でも強くなった。だから信じてほしいの。どんな貴方でもミシェルは愛しているわ。

貴方はもう私の愛しい息子なのよ?いつでも私達を頼ってくれていいの」

「はい、ありがとうございます」


優しい顔でお母様は私達を見つめている。

愛とは尊いもの、本当の愛とは相手の全てを信じ受け入れるもの。

愛されたいと願うのではなく、嘘や裏切りを許し、見返りを求めるのではなく、ただその人を愛する。

でもそれはとても難しい。

どれだけ相手を愛していても許せる所許せない所はある。嘘をつかれたり裏切られれば傷つくし辛く悲しい。自分が愛した分だけ相手にも自分を愛してほしいと願ってしまう。

でもだからこそ尊いもの。

どんなあなたでもそれがあなた、あなたの全てを受け入れれたら…。

今の私達はお父様やお母様のように深い愛ではないかもしれない。それでも相手を大切に思う気持ちも愛。そしてその愛に無条件でずっと注ぎ続ければお父様やお母様のような本当の愛にきっとなる。

お母様は私が臆病だと知っていたのね。そしてその事に対面すると私は脆い。傷つくのが怖くて問い質す事ができない。そして自分自身でその心の置き場を探し納得させる。

殿下の時もそうだった。そしてリーストファー様の時も…。

前のように驚愕すると心が耐えられなくなり吐いてしまう。

それを弱さと言えばそう。年相応と言えばそう。でもそれも私。



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