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唐変木
しおりを挟む落ち着きを取り戻したレティアナ様。
「ルイスが王都へ行ったと聞いて、帰って来た時に『この子はテオンの子よ?見て分かるわよね?何か誤解してないわよね?』と何度も言ったわ。それでもルイスには私の声が届いていなかった。
誤解させるような軽口を言った私が悪いの。私がテオンの恋人だとルイスも知っていたし、子が出来たらテオンの子だと言わなくても分かるって思っていたわ。
確かに生活の面倒をリーストファーにみてもらっていたし、身勝手な考えをした時もあった。ただ誤解しないで、私は二人の結婚を本当に心から祝福しているの」
きっと、レティアナ様は何度もルイス様に伝えてきた。この子はテオン様との子供だと、リーストファー様の子供ではないと。
それでも、ルイス様にはそれがレティアナ様の強がりだと思った?
いいえ違うわ、きっと…、
ルイス様はテオン様の子供だと知りながら、リーストファー様とレティアナ様が夫婦になりテオン様の子を育てる、それが一番良いと思ったのかもしれない。それが理想だと。
「ミシェル様は二人の誓いを知ってる?」
「確か、『家族を守る為に強くなろう。家族の為にこの命をかけよう。俺達の志は同じ、もし俺達のどちらか一人が残ったらもう一人の心も一緒に戦おう。でも二人共最後まで生き残るぞ』ですか?」
「ええそれよ。でもそれにはまだ続きがあるの」
「続きですか?それは知りませんでした」
「『綺麗な奥さんと結婚して家族になって幸せになろう。俺達は親に恵まれなかった。だから幸せになって見返してやるんだ。あんた達は俺を幸せに出来なかったけど、俺は愛する奥さんと愛する子供と幸せな家族を作ったぞって、羨ましいだろってな。リーストファー、俺達は自分の手で幸せを掴み取ろうな』これが二人の約束。
テオンは結婚できなかったけど、子供も見る事は叶わなかったけど、それでも自分の子供が出来て家族を持てると喜んでいたわ。俺は自分の手で幸せを掴んだって。リーストファーより先に俺は父親になるって。いつも負けてばかりだから、ようやく勝てるって。
あの日の昼間、満面の笑みでテオンは笑っていたわ。幸せだと、お腹を撫でて、名前まで決めて…」
私はレティアナ様の手を優しく撫でた。
涙が溜まる瞳を、顔を上げて流さないように天を見上げている。
レティアナ様は見上げていた顔を戻しリーストファー様の方を向いた。
「リーストファー、今までありがとう。貴方に頼ってしまって、甘えてしまってごめんなさい。私が自分で選んだ道なのに、私は貴方に迷惑をかけてきた。
ミシェル様も、申し訳ありません」
私は顔を横に振った。
「エレンさんの口利きでこうしてメイドとして働いているし、もう私のお給金で暮らしていける。本当に今まで私達親子を助けてくれてありがとう」
レティアナ様は立ち上がりリーストファー様に頭を下げた。
「お礼を言うのは俺だ、テオンの子を遺してくれてありがとう。リースティンか、一度会ってみたい」
「今はエレンさんとエレンさんの家で暮らしているの。リースティンもエレンさんが見てくれているのよ。街で暮らしていた時にリースティンを初めて見たエレンさんが『テオンの子ね?それなら私の孫ね』って、辺境伯様に取り次いでくれて、こうしてメイドとして雇ってもらえて、住む所も『一緒に暮らしましょう』って言ってくれて」
「エレンさんか、懐かしいな」
「エレンさんだけじゃないわ、皆がもう援助は必要ないからって。貴方も結婚したなら家族の為に使いなさいって言っているわ」
「だから家族の為に使っているだろ」
「奥さん以外には使うなって事でしょう?お金は大事なのよ?なら貴方はミシェル様を露頭に迷わせるつもり?今の貴方の生活は貴方のお金で賄っているの?」
目の前で喧嘩腰で話す二人に私は呆気にとられている。
「あの…、一つよろしいですか?皆とは?」
「リーストファー、貴方、ミシェル様に何も説明していないの?信じられないわ。貴方ね、説明しないと人は分からないの。自分はやましい所がないからもし聞かれたら答えるって?聞きたくても聞けない事はあるのよ?聞かれたら答えるんじゃなくて、先に伝えるべきよ」
「ミシェル、今まで聞きたくても聞けない事があったのか?」
リーストファー様は怖ず怖ずと私に聞いた。
「まあ、なくはないかと…」
「聞いてくれれば答えた」
「ええ、聞けば答えてくれると分かっていました。ですが聞いて良いのか、聞いてもしと、それなら言ってくれるまで待とうと思っていました」
「悪い、俺は唐変木だな…。
皆とは第二小隊の奥さん達だ。国から弔慰金は出たが、夫を亡くし、気持ちばかりだが生活費の足しにと毎月送っていた。俺は給金をほとんど使わなかったからな」
「そうね、貴方は酒場にも娼館にも一度も行った事がないものね」
「え?」
私はレティアナ様の言葉に思わずリーストファー様を見つめた。
「付き合いで酒場には行ったが、それでも王宮軍に入ってからだ。
俺もミシェルに渡した分で足りないとは思っていたが」
「使用人も最低限ですし、王宮軍のお給金はご自分のご入用でお使い下さいと言ったのは私です。今、私達の生活費はリーストファー様から頂いたお金で、領地でかかるお金は陛下から頂いた慰謝料で賄っています」
「それはミシェルの慰謝料だ。言ってくれれば全て渡した」
「私も早く使い切りたいんです。何となく手元にある間は縁が繋がっているような気がして…。領地で使うのが道理だと」
「これからは自分の家族の為に、貴方の家族はミシェル様よ」
レティアナ様の言葉にリーストファー様は頷いた。
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