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孤児院の在り方
しおりを挟むジルに案内され建物の中を歩く。部屋数は多くはないけど少なくもない。使っていない部屋もあった。ぎゅうぎゅうに押し込んで寝させるくらいなら余ってる部屋も使うべきだわ。
ベッドも個人の空間として必要だと思う。それに絵本や本も必要。文字に触れ知識を得る。頼る親がいないのなら尚更この子達には必要なもの。
上の子が下の子のお世話をする。自分の事は自分で。それはとても素敵な事よ。それが駄目なんじゃない。洗濯だって料理だって孤児院を出て一人で生活するには必要な事。皿洗いだって働く場所によっては役に立つ。
ただ、朝昼晩食事を作って後片付けをして、洗濯をして掃除をする。それに訓練?いつ遊ぶの?確かにあの殺風景の庭で危険な所はない。あるのは一本だけある大きな木。大人の目が必要ないと言われれば必要ない。
それでも子供は元気に走り回ってほしい。転んで泣いて、包むようにあやす大人が必要。上の子達もまだ子供なのだから。
「あっ、お姉さんここに居た」
私を見つけ近寄って来た女の子。
「私ここに残るわ」
「そう。貴女の話は外で聞くわ。他の子ももしかしたら貴女のようにもう決めた子がいるかもしれないもの」
女の子は足取り軽く外に向かった。私はその姿をじっと見つめる。
外に出れば皆その場にいた。
「それで聞かせてくれる?」
女の子は私の前に立った。
「私、王都で働きたいの。できれば貴族の邸で働きたいけど、メイド?それになりたいわ」
「そう、素敵ね。もう自分のなりたいものがあるのね」
「お姉さん言ったわ、手助けするって。メイドとして働けるようにしてほしいの」
「うぅん、そうね…、メイドとして働くには色々まだ足りないわね」
「何が足りないの?私洗濯だって掃除だって得意よ?小さい子供のお世話だって遊び相手にもなれるわ」
『シャルク』私はシャルクを呼んだ。私は孤児院の様子が書いてある紙を渡した。誰が読んでも別に構わない内容のもの。
「これを読んでみて」
女の子は紙を受け取り目を通している。
「何が書いてあった?」
「ここにいつ何をどれだけ届けたか。それから先生のサインが書いてあるわ」
「ええそうよ、すごいわ、字が読めるのね」
「私、もう12歳だもの、ここを出ないといけないの。だからお姉さんお願い。私を王都の貴族の邸で働けるようにしてほしいの」
「どうして王都に行きたいの?」
「都会は女の子なら誰でも憧れるわ」
「そうね、それも一理あるわ。でも貴族じゃなくても平民でも裕福な家や商いをしている家でもメイドとして働けるわよ?」
「貴族のメイドの方が華やかだもの。それに聞いたわ、優秀なメイドになれば、」
「なれば?」
「ううん、なんでもない」
「どうしたの?なればお給金がたくさん貰える?」
「そう、そうなの。それって自分の実力次第って事でしょ?」
「そうね」
私は優しく微笑んだ。
お給金ではないのは分かった。なら貴族の愛人?愛人になれば裕福な生活はおくれる。でも優秀なメイドになる必要はない。
優秀なメイドになりたい、そこから導ける答えは、情報?それとも、優秀なメイドは王宮に召し上げられる。当主の推薦状が必須だとしても優秀ならそれも貰える。
実際、自分の邸のメイドが王妃様付きのメイドになったと自慢する貴族はいる。でもそれはメイド本人の努力と実力であって貴族は関係ない。それでも自分が育てたと自慢気に話す。
「あっ、そうだわ、まだ貴女の名前を聞いていなかった。貴女お名前は?」
「私?私はサリーよ」
「サリー、貴女は素敵な夢を持っているわ。もうなりたいものが決まっているのね。その強い意志も。まだ12歳なのに、本当に素晴らしいわ」
サリーは笑った。
疑惑、そうまだ疑惑だったの。
孤児院へ来るまでは疑惑の範疇だったの。
私は妃教育でバーチェル国の光と闇を教わった。その中に『バーチェル国は孤児院の子供を影として育てている』それはあくまでも真相とまではいえなかった。なぜなら孤児院の子供達全員が影になる訳でもないから。素質を見出し育ててるのかと思った。
でも違った。
きっと親が誰だか分からない赤子だけを影として育てている。それも5歳から英才教育で。
男の子にはルト、女の子にはリー、それは管理する上で自分達が把握しやすくする為。親と過ごした事のある子供は親を慕う。捨てられても親を恋しがる。それは優しい時もあったから。どれだけ邪険にされても、どれだけ殴られても、それでも一つの優しさを覚えているから。好きなお菓子を買ってくれた、パンをくれた、本当に些細な優しさ。恨み憎み、あんな親いない方がましと思っていても、ふとした時に思い出す。
優しさなんて言えないわ。そんなの優しさじゃない。それでも、その子にとっては親から貰った唯一の優しさなの。
エーネ国の孤児院では女性が子供のお世話をする。赤子で捨てられてもお世話する女性達の愛情を受け取り育つ。それは親を亡くした子供も親に捨てられた子供も。
愛情は優しさだけではない。厳しさも必要。自立できるように育てるのもまた愛情。
出来たら褒め、危険な事は叱る。料理も洗濯も掃除も、それから勉強も。他の子供より早く自立しないといけないからこそ、その選択肢を増やす。だから男の子でも縫い物はできる。
たとえ女の子でも護身術として剣の稽古をさせる。自分の身を守れるのは自分だけだと。
でもそれは暗殺の為に教えるのではない。
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