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フンフンフフン

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昼の休憩が終わったジョイスさんや労働者達。


「では私は皆様のお邪魔になりますし帰りますね?今日はありがとうございました。貴重な経験ができました」


私はジョイスさんに笑いかけた。


「あっ、あと、ジョイスさんの都合の良い日にいつでも孤児院へ来てくださいね?お待ちしてます。

では皆様、完成までよろしくお願いします」


私は労働者達に聞こえるように大きな声を出して手を振った。

フンフンフフンと足取りは軽く鼻歌交じりで領地を歩いている。


「お姉ちゃん」


元気に手を振るフィンとラークはお爺さんと一緒に苗を植えていて、顔にも服にも土がついている。それでも二人は楽しそうに笑っている。

その近くではメイちゃんがお婆さん達と長椅子に座り仲良くお話ししている。

長椅子はリーストファー様が空家を壊した廃材でジークと作ったもの。

フィンとメイちゃんとジークとラークの母親達三人は立ち話をしている。母親達にも少しづつ笑顔が見られるようになってきた。


「リーストファー様とジークはどこにいるのかしら」


リーストファー様とジークの姿が見えない。


「多分あっち」


リックが指差した方を見つめる。

木々が生い茂り何も見えない。


「どこよ」

「ジークが馬の乗り方を教えてほしいって昨日旦那に言ってたぞ。姫さんも一緒に教えてもらったらどうだ?」


私達は木々を抜けて広大に広がる戦場になった場所へ来た。

ジークはリーストファー様に馬の乗り方を教えてもらっている。今はジーク一人で馬に跨り、手綱をリーストファー様が持ちゆっくり歩いている。

見てる分には簡単そうに思えるのよ?

私だって簡単に乗れそうって。

でも実際は違うの。馬も生き物だから歩けば揺れるし、それが直に私に伝わるの。馬車とはまた違う揺れよ?

馬車なら両足をペタンって床に置けるわ。でも馬だとあんな細い棒に乗せるだけ。もし間違って馬のお腹に足が当たったらゆっくり歩いていた馬が急に早くなるのよ?そうなるとあの細い棒の上に置く足に動かないように力が入るでしょう?ただでさえ浮いてる部分があるのに『力を抜いて』そう言われてもどうして力が抜けるの?

本当に分からない。

ジークもジークよ。どうして馬に乗りたいのか、私には理解ができないわ。

いやね、颯爽と馬に跨るリーストファー様は格好良いわよ?馬に跨る姿を絵で残したいくらいにね?それに颯爽と駆けていく後ろ姿もまた格好良いの。

まぁ、それはリックにも言えるんだけど。

自分にはできない事だから憧れ?みたいなものよ?

私は見ているだけで満足だわ。私ではない誰かの乗る姿を眺めているだけでいいの。

馬車がないなら足があるんだもの、歩けばいいだけじゃない?もし、馬なら一週間で着く、そう言われても私は馬車で二週間かかっても馬車で行くわ。風を感じたいなら少し窓を開ければいいだけだしね。

二人を眺めていたらリーストファー様はジークの後ろに跨り、そのまま軽く馬を走らせていた。それがどんどん早くなり…。あっという間に二人の姿が小さくなり、戻ってきたと思ったらゆっくり歩く馬の上で笑っているのよ?

ジークは何度も後ろを振り返りリーストファー様に笑いかけている。リーストファー様もジークに優しい顔で笑いかけている。

まるで恋人同士みたいに。

手綱を持つリーストファー様の前にジークは座っている。まるで抱きしめているように見える。

ちょっとちょっと、恋人同士に見えるじゃない。


「そんな不満そうな顔をするくらいなら姫さんも教わってこれば?」

「ふふっ、リックは知らないの?貴族夫人は乗馬は嗜まないの。なぜって?邸には馬車があるもの。それにドレスを着て馬には乗れないわ。だから私が覚える必要はないの」


よく見れば仲良しなおじと甥ね。

私が二人を見ていたら微かに声が聞こえた。まだ見えない声の主を探していても姿は見えない。


「奥さん」


木々を抜けてこちらにやって来た声の主。


「ジョイスさん、先程はありがとうございました。そんなに慌ててどうされました?」


馬から飛び下りたジョイスさんは私の前に立った。その顔は焦っているような、少し顔色が悪かった。


「やっぱり…」


私は何が『やっぱり』なのか分からず首を傾けた。


「ジョイスどうした」


リーストファー様の声が後ろから聞こえた。隣にはジークもいる。


「すまないリーストファー」


ジョイスさんは申し訳なさそうにリーストファー様を見ている。


「何がすまないのか教えてくれ」


ジョイスさんは私を真っ直ぐ見つめる。


「奥さん、確か首飾りを着けていましたよね?でも帰る時にはその首飾りが無かった。俺もすぐに気がつけば良かったんだが、奥さんが帰ってから何か違和感があって、それで思い出した。

首飾りが無い

それから奥さんが立ち寄った場所を全部探したんだが、どこにも無くてな…。作業者にも聞いたが誰も知らないって言われた。奥さんに落としたのか外したのか聞いて、もし落としたのなら今から全員の荷物の中身を調べるつもりだ」

「あっ」


私は思わず口を手で塞いだ。


「ミシェル?」


私は振り返りリーストファー様を見つめる。


「説明を、説明をさせてください」


リックはリーストファー様が持っていた手綱を持ちジークと離れていった。

私の横を通り過ぎるリックは『ガツンと、怒られてください』その声が嬉しそうに聞こえたのはきっと私の錯覚ね。

ニーナはスススっと私から離れて行った。

私の目の前には怖い顔をしたリーストファー様が仁王立ちしている。



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