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 バドンの剣は確かに鋭いし、並みの者が相手ならすぐに倒されていたことだろう。しかし……。

「くそォ……おかしい……おかしい……おかしいィじゃねえかァァッ! 俺の剣は当たってるのに、何で平気な面してやがんだよォォッ!」

 そうなのだ。実は何撃かは捌き切れずに、バドンの剣を受けてしまっていた。しかしその都度、大量の魔力で防御してノーダメージにしている。

 それをわざわざ敵に教えるつもりなど毛頭ないが。
 相手は剣が入っているのにダメージを負わない星馬のことをバケモノでも見るような目で見てくる。

“どうだ? 大分と慣れてきたか、魔力の扱い方”
“そだね。相手の攻撃が入るところに即座に魔力を集束させるのはなかなか難しいけど”

 実際これ以上の速度で攻撃されれば間に合わないだろう。もっと大量の魔力で全身を覆えば事足りるだろうが、そんなことをし続ければ魔力消費が半端ない。
 今はシンセークンの魔力を使っているわけではないので、温存できるのならば技術を使って温存した方が良い。

 これもまた――良い練習になる。

 そう、星馬はこの戦場に置いて、バドンとの戦闘を鍛錬として利用していたのだ。
 星馬の不死身ぶりに訳が分からないといった様子のバドン。何をしても通じないという恐怖が彼を侵食し始めていることだろう。

(これは一種の復讐だ。復讐は徹底的にやる。二度と手を出すことができないようにするために)

 過去。可愛がっていた子猫を虐めて殺した連中を、自分勝手な正義で裁いた時と同じように。
 目には目を、歯には歯を、ではなく。それ以上の圧倒的な敗北感を与えて――。

「くっそがァァァッ! バーンナイトォォォッ!」
「――レイ」

 今度はキリングバイソンを倒した時の呪文。一瞬にして光の筋が、五体ほど生まれた炎の騎士を射抜いて消滅させる。

「十体から五体……ね。もう魔力もなさそうだね」
「うぎ……っ」

 図星なのか、汗塗れの表情を険しく歪めている。

「どう? 逃げる? 今なら逃がしてやってもいいよ? 土下座でもするならね」
「な、何だとォォォ……ッ」

 このような男に対して、こう言い方をすれば……。

「絶対に殺してやるっ! 絶対だァッ! 絶対殺すゥゥゥッ!」

 決して引くことはせずに、逆上してくるのだ。単純な奴である。
 相手が接近してくるのを黙って見守り、剣を突き刺してくるのもギリギリまで引き寄せた。

「死ねェェェェェェェェッ!」

 全力で突き出すバドンの剣をしっかりと見極めて――パァンッ!

 ――真剣白刃取りで掴む。

「――っ!?」

 当然の如くバドンは驚愕するが、さらにここから、

「はぁっ!」

 パキンッと力任せに剣を捻るようにして折った。そのまま折った破片を右手に持ち、切っ先をバドンの左足に向けて投げ落としてやる。

「うっぎゃァァァァァッ!?」

 剣の破片は、バドンの左足を貫いて地面に釘付けにした。同時に彼の額をチョコンと押してやると、そのまま後ろへと仰向けに倒れてしまう。
 苦痛に歪む彼の表情を見下ろす。

「……どう? 圧倒的な力でねじ伏せられるのは?」
「うっぎぎぎぎぎィィ……ッ」
「これがお前らのやったことだけど。ま、自業自得ってことで」

 星馬は右拳に魔力を集束させる。それを見てギョッとなるバドン。

「ま、待てェッ、わ、分かった! もう暴れねえからァ! だから見逃せェッ!」
「……そんな頼み方?」
「は? は、ははは……わ、悪かったよォ……だから頼むからァ」

 顔を引き攣らせながら必死に笑みを浮かべて言うバドンに対し、無表情のまま視線を彼に落とす。

「そういうふうに謝った人たちに対してさ、お前ってどうしてきた?」
「へ……?」
「少しは後悔することだね」
「っ!?」

 圧倒的な敵意を星馬から感じたのだろう。それとも規格外の魔力量を感じたのか、口をパクパク動かして固まっている。
 星馬は歯を食いしばり、右拳を倒れているバドンの腹部に向かって一気に突き出した。

「ぐっぶほォォォォォォォォォッ!?」

 衝撃が突き抜け、地面に亀裂が走るような強大な一撃。跳ね上がるバドンの頭と足。
 盛大に口から血液を流し、白目を向きながら完全に沈黙したバドン。彼の姿を見た黒衣の者たちは、一気に顔色を真っ青にして退却していく。

 これで終わり――そう思った矢先。


 ――――――――このありさまはどういうわけだ?



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