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「準備できたようだな。では我々はここらで消えるとするか」
「……あ、ちょっと待って。……そこの人」
「……は? もしかしなくても……オレかな?」
コクンと頷く小さい方。
「……このバカの代わりに〝地位の象徴〟に入らない?」
「いきなり勧誘ですか」
「……いきなり勧誘だよ」
「悪いけど、オレは世界を敵に回したいとか思ってないので」
「……そう。残念。でもそうしないと死ぬよ? これ、爆発するから」
そう言って大きくなるバドンを指差す。
「ええっ!?」
とは、ルフナが声を出して驚いている。
(やっぱりそうかぁ。だと思ったけど……)
それにしても残酷な連中である。仲間だったはずなのに、用済みだと思えば呆気なく殺すことができるのだから。
しかもどういう原理か分からないが人を爆弾にして。
「あ~まあ、何とかなると思うので」
「……ならないと思うけど」
「おい、そろそろ行くぞ、クリケラ」
「……分かった」
少し残念そうな声音だが、どこに自分を気にいる要素があったのか。しかし相手の誘いに乗りたいとはまったく思えない。
「……仕方ない。最後の手向け。名前だけ教えたげる」
そう言って、フードを取った。そこから現れた顔に目を点にしてしまう星馬。何故ならそこにいるのは、明らかに声に違和感のない小さな少女なのだから。
クリーム色のショートヘアに、感情の見えない無表情の顔。その白銀の瞳からも冷たさしか伝わって来ない。
(おいおい、こんな可愛らしい子が何でさ)
普通に小学生に通っていてもおかしくない。ペロペロキャンディとか似合うのに……。
「……わたし、クリケラ・ボルナード」
「ならば俺も一応紹介しておこうか」
と、デカい方もフードを脱いだ。そこから現れたのは、明らかにルフナと同じ獣人の男性だった。
精悍な顔つきだが、獅子が擬人化したような姿をしていて、その鋭く獰猛な目つきは、見る者を凍りつかせるだろう。事実、無意識だろうが、彼を見てルフナはゴクリと喉を鳴らして汗を流してしまっている。
ただ気になったのは、二人の首に巻いているチョーカーである。バドンも青いチョーカーを巻いていたが、二人の首にも色は違うが、ともにオレンジ色をしていた。
何か意味でもあるのだろうか……。
「俺はジャグロだ。ここで散らすのは惜しい逸材ではあるが、仕方あるまい。行くぞ、クリケラ」
「……うん」
すると二人はその場から一瞬で姿を消した。残っていた黒衣たちも、蜘蛛の子を散らすかのように逃亡していく。
これで脅威が去った――わけではない。
「はっ、セ、セイバ! 爆発!? 爆発するってあの人ぉっ!」
星馬の腕の中で大慌てするルフナだが、
「分かってる。でもその前に――セイントヒール」
これは《下級》の治癒呪文ではあるが、骨折程度なら治せる。光がルフナの左腕を覆うと、
「あ……あったかい……!」
「もう、大丈夫だと思うよ」
「へ? ……本当だ、痛くない」
「さて、そろそろ起き上がってくれると嬉しいかな」
「起き上がる? ……! ~~~~~~~っ!?」
突然顔を真っ赤にして湯気をボフッと出現させるルフナ。今までお姫様抱っこみたいになっていたことに気づいていなかったようだ。
「ご、ごめんっ!」
慌てて地上に降りたルフナは、少しだけ距離を取った後、チラチラと恥ずかしげに上目遣いで見つめてくる。
何という可愛さであろうか。これはもう抱きしめても良いのでは、と思ってしまうが、今はそんなことをしている時間がない。
「ルフナ、二人を連れてきてくれる?」
「え……あ、うん!」
すでにバリアは解いてあるので、ルフナにチョコたちの回収を任せた。
「……さて」
問題はあのバドン爆弾をどうするか、だが。
「――セイバァ!」
チョコたちを連れて戻って来たルフナ。トリアは、その腕に一冊の本を抱えている。
「お婆ちゃん、その本は?」
「ここから逃げるんだろ? これは……せめてこれだけは手元に置いておこうと思ってね」
寂しげに、少し焦げている本を抱きしめるトリア。
トリアの店は、彼女の夫が建てたもの。倒壊してしまっているが、その下にはまだ本や、彼女の思い出の品が埋まっていることだろう。
バドン爆弾が爆発すればここら一帯はすべて吹き飛ぶ危険性が高い。
“……シンちゃん、アイツをどうにかすることってできる?”
“お前も大概お人好しだな。いや、すでにお前の守る範囲にあの老婆が入ってしまったってことか”
“いいから。できるなら教えてよ”
“そんなもの。海にでもワープさせればいいだけであろうが”
“あ、なるほど!”
目から鱗の方法だった。どうやら難しく考えてしまっていたようだ。
“魔力かなり減ってるからさ、貸してくれる?”
“仕方あるまい。しかしこれからはもう少し考えて魔法を使うことだな”
ルフナたちを守るために使用した呪文もあるので、結構魔力消費量が激しい。あとのことを考えて、彼に魔力を供給してもらう方が良い。
「ねえ、ルフナ。ちょっと行ってくる。すぐに帰って来るから」
「へ……あ、ちょっ」
彼女の言葉を背に受けながら駆け出し、膨れ上がっているバドンの身体にそっと触れる。
「まずは――ホリネスウォーカー。そんでもって――サイレントワープ!」
目指すは、この世界に来て最初に走って渡ることになった海だ。
「……あ、ちょっと待って。……そこの人」
「……は? もしかしなくても……オレかな?」
コクンと頷く小さい方。
「……このバカの代わりに〝地位の象徴〟に入らない?」
「いきなり勧誘ですか」
「……いきなり勧誘だよ」
「悪いけど、オレは世界を敵に回したいとか思ってないので」
「……そう。残念。でもそうしないと死ぬよ? これ、爆発するから」
そう言って大きくなるバドンを指差す。
「ええっ!?」
とは、ルフナが声を出して驚いている。
(やっぱりそうかぁ。だと思ったけど……)
それにしても残酷な連中である。仲間だったはずなのに、用済みだと思えば呆気なく殺すことができるのだから。
しかもどういう原理か分からないが人を爆弾にして。
「あ~まあ、何とかなると思うので」
「……ならないと思うけど」
「おい、そろそろ行くぞ、クリケラ」
「……分かった」
少し残念そうな声音だが、どこに自分を気にいる要素があったのか。しかし相手の誘いに乗りたいとはまったく思えない。
「……仕方ない。最後の手向け。名前だけ教えたげる」
そう言って、フードを取った。そこから現れた顔に目を点にしてしまう星馬。何故ならそこにいるのは、明らかに声に違和感のない小さな少女なのだから。
クリーム色のショートヘアに、感情の見えない無表情の顔。その白銀の瞳からも冷たさしか伝わって来ない。
(おいおい、こんな可愛らしい子が何でさ)
普通に小学生に通っていてもおかしくない。ペロペロキャンディとか似合うのに……。
「……わたし、クリケラ・ボルナード」
「ならば俺も一応紹介しておこうか」
と、デカい方もフードを脱いだ。そこから現れたのは、明らかにルフナと同じ獣人の男性だった。
精悍な顔つきだが、獅子が擬人化したような姿をしていて、その鋭く獰猛な目つきは、見る者を凍りつかせるだろう。事実、無意識だろうが、彼を見てルフナはゴクリと喉を鳴らして汗を流してしまっている。
ただ気になったのは、二人の首に巻いているチョーカーである。バドンも青いチョーカーを巻いていたが、二人の首にも色は違うが、ともにオレンジ色をしていた。
何か意味でもあるのだろうか……。
「俺はジャグロだ。ここで散らすのは惜しい逸材ではあるが、仕方あるまい。行くぞ、クリケラ」
「……うん」
すると二人はその場から一瞬で姿を消した。残っていた黒衣たちも、蜘蛛の子を散らすかのように逃亡していく。
これで脅威が去った――わけではない。
「はっ、セ、セイバ! 爆発!? 爆発するってあの人ぉっ!」
星馬の腕の中で大慌てするルフナだが、
「分かってる。でもその前に――セイントヒール」
これは《下級》の治癒呪文ではあるが、骨折程度なら治せる。光がルフナの左腕を覆うと、
「あ……あったかい……!」
「もう、大丈夫だと思うよ」
「へ? ……本当だ、痛くない」
「さて、そろそろ起き上がってくれると嬉しいかな」
「起き上がる? ……! ~~~~~~~っ!?」
突然顔を真っ赤にして湯気をボフッと出現させるルフナ。今までお姫様抱っこみたいになっていたことに気づいていなかったようだ。
「ご、ごめんっ!」
慌てて地上に降りたルフナは、少しだけ距離を取った後、チラチラと恥ずかしげに上目遣いで見つめてくる。
何という可愛さであろうか。これはもう抱きしめても良いのでは、と思ってしまうが、今はそんなことをしている時間がない。
「ルフナ、二人を連れてきてくれる?」
「え……あ、うん!」
すでにバリアは解いてあるので、ルフナにチョコたちの回収を任せた。
「……さて」
問題はあのバドン爆弾をどうするか、だが。
「――セイバァ!」
チョコたちを連れて戻って来たルフナ。トリアは、その腕に一冊の本を抱えている。
「お婆ちゃん、その本は?」
「ここから逃げるんだろ? これは……せめてこれだけは手元に置いておこうと思ってね」
寂しげに、少し焦げている本を抱きしめるトリア。
トリアの店は、彼女の夫が建てたもの。倒壊してしまっているが、その下にはまだ本や、彼女の思い出の品が埋まっていることだろう。
バドン爆弾が爆発すればここら一帯はすべて吹き飛ぶ危険性が高い。
“……シンちゃん、アイツをどうにかすることってできる?”
“お前も大概お人好しだな。いや、すでにお前の守る範囲にあの老婆が入ってしまったってことか”
“いいから。できるなら教えてよ”
“そんなもの。海にでもワープさせればいいだけであろうが”
“あ、なるほど!”
目から鱗の方法だった。どうやら難しく考えてしまっていたようだ。
“魔力かなり減ってるからさ、貸してくれる?”
“仕方あるまい。しかしこれからはもう少し考えて魔法を使うことだな”
ルフナたちを守るために使用した呪文もあるので、結構魔力消費量が激しい。あとのことを考えて、彼に魔力を供給してもらう方が良い。
「ねえ、ルフナ。ちょっと行ってくる。すぐに帰って来るから」
「へ……あ、ちょっ」
彼女の言葉を背に受けながら駆け出し、膨れ上がっているバドンの身体にそっと触れる。
「まずは――ホリネスウォーカー。そんでもって――サイレントワープ!」
目指すは、この世界に来て最初に走って渡ることになった海だ。
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