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「……お母さんは?」
「元気にしている。それに母も私のすることを応援してくれているからな。だから私はアル様をお守りするのだ」
「……まだよく分かりませんけど、とにかくアルが誰かに狙われてて、その誰かから守るために多くの護衛がいるってことですか?」
「その通りだ」
「う~ん、そんなに身分が高いなら、お金で傭兵を雇ったりできるんじゃ?」
「今の私たちに、余裕のある資金などはない。腕の良い傭兵を雇うには、それ相応の金が必要だからな。しかしそれほどの大金は持ち合わせていないのだ」
「家族に助けてもらうってのは?」
「…………」
そこで初めて言い辛そうに沈黙を作ったカユキ。彼女が話すまで待つことに。
夜風が髪を靡かせ、月明かりが二人を照らしている。
そんな中、やっとカユキが口を開く。
「あの方の家族は――頼れない」
「頼れない? ……もしかしてこの世にいない、とか?」
「……ほぼ、な」
また奇妙な言い回しである。
「…………一体アルって何者なんです?」
「それは、私たちに力を貸してくれるというのであれば教える」
「……なるほどね」
どんな人物か言えないほどの身分ということなのだろうか。もしそうであるなら、アルという少年は星馬の想像以上の人物なのだろう。
「どうだ? 力を貸してくれるか? いや、是非とも貸してほしい」
「……一つ聞いてもいいですか?」
「ああ、答えられることなら答えよう」
「何でオレなんです? 確かに強い力は持ってるかもしれないですけど、まだ会って間もないし、そこまで信用できるとは思えないんですけど」
「どうやら悪い者たちではなさそうだからだ」
「……ルフナたちはそうでしょうね。あの子たちは話していれば分かると思いますけど、本当に良い子たちですから。困ってる人を見捨てられないし、とっても純粋な子たちでもあります。けどオレは言ってみればルフナと逆の人格だと思うんですけど」
「あの子たちが純粋で良い子たちなのは分かっている。あのアル様が何の警戒もなく楽しそうに接しておられたのだからな」
確かにルフナたちと話すアルはとても無防備で安心しているように感じる。
「だがそれは貴様……いや、オオモリにしても言えることだ」
「オレにも?」
「そうだ。アル様は人の悪意に敏感で、すぐにそういう意志を見抜くことができる。しかしオオモリに対しても、アル様は普通に接しておられた」
「だから信用できると?」
「それに、こうやって真剣に闘ってみて分かることだってある」
「……?」
「オオモリの剣は、濁ってなどいなかった」
まあ、《極竜魔法》で創った剣だから、どちらかというと神聖な感じだし……とはツッコめないだろう。それにそういう意味で彼女が言ったわけではないことも分かっていた。
「悪を企む者と対峙すれば、その剣にも濁りが映る。魔法にも、だ。しかしオオモリからはそれを感じられなかった。だから私はオオモリの強さを確かめ、もし私の望むほどの強者であるならば力を貸してもらおうと考えたのだ。これが今、私に話せることすべて。答えを、聞かせてくれ」
ジッと真剣な眼差しで見つめてくるカユキ。どうしたものだろうか……。
“――何を悩んでおるのだ、セイバよ”
“シンちゃん……”
“オマエは世界を見て回りたいと言っておっただろう。厄介事を抱え込むと、それもできなくなる可能性が出てくるぞ”
“だよね。それにどうやらかな~り重そうな問題みたいだしさ”
“まあ、どうするかはオマエが決めればよいが、後悔するような選択はせぬ方がよいぞ”
そう言われても、悩んでしまうのも事実なのだ。
シンセークンの言う通り、彼女たちに力を貸すことになれば、必然的に彼女たちと旅をすることになるだろうし、狙われているという輩と戦うことにもなるだろう。
そうなれば自由に旅を楽しむことができなくなるかもしれない。
しかしこうやって誰かに真剣に頼まれるというのも、今までの人生の中でもなかったこと。正直にいえば少し気分が良いと思っていることもまた事実なのだ。
こうして何の因果か、規格外の力を手にしているお蔭で誰かに頼られるというのは些か疑問を持ってしまうが、それでも頼りにされるというのは存外――悪くない。
アルも話してみて悪い人物ではなさそうだし、カユキにしたって、ちょっと……いや、かなり強引な性格だが決して悪人というわけではないだろう。
ただもし自分がアルたちについて行くとなれば問題もある。
「……ルフナたちはどうするんですか?」
「彼女には荷が重いだろう。幼い子供もいることだしな。勧誘はできない」
「ですよね……」
となれば、カユキの申し出を受けるということは、必然的にルフナたちと別れることになる。
“あの娘たちは、これからもオマエと一緒に旅をするのを喜んでいたがな”
シンセークンから、わざわざ気になっていることが告げられた。確かにそうなのだ。彼女たちと旅をするのも楽しいと星馬自身も思い始めていたのである。
だからできれば別れたくはない、と本心では思っていた。
「元気にしている。それに母も私のすることを応援してくれているからな。だから私はアル様をお守りするのだ」
「……まだよく分かりませんけど、とにかくアルが誰かに狙われてて、その誰かから守るために多くの護衛がいるってことですか?」
「その通りだ」
「う~ん、そんなに身分が高いなら、お金で傭兵を雇ったりできるんじゃ?」
「今の私たちに、余裕のある資金などはない。腕の良い傭兵を雇うには、それ相応の金が必要だからな。しかしそれほどの大金は持ち合わせていないのだ」
「家族に助けてもらうってのは?」
「…………」
そこで初めて言い辛そうに沈黙を作ったカユキ。彼女が話すまで待つことに。
夜風が髪を靡かせ、月明かりが二人を照らしている。
そんな中、やっとカユキが口を開く。
「あの方の家族は――頼れない」
「頼れない? ……もしかしてこの世にいない、とか?」
「……ほぼ、な」
また奇妙な言い回しである。
「…………一体アルって何者なんです?」
「それは、私たちに力を貸してくれるというのであれば教える」
「……なるほどね」
どんな人物か言えないほどの身分ということなのだろうか。もしそうであるなら、アルという少年は星馬の想像以上の人物なのだろう。
「どうだ? 力を貸してくれるか? いや、是非とも貸してほしい」
「……一つ聞いてもいいですか?」
「ああ、答えられることなら答えよう」
「何でオレなんです? 確かに強い力は持ってるかもしれないですけど、まだ会って間もないし、そこまで信用できるとは思えないんですけど」
「どうやら悪い者たちではなさそうだからだ」
「……ルフナたちはそうでしょうね。あの子たちは話していれば分かると思いますけど、本当に良い子たちですから。困ってる人を見捨てられないし、とっても純粋な子たちでもあります。けどオレは言ってみればルフナと逆の人格だと思うんですけど」
「あの子たちが純粋で良い子たちなのは分かっている。あのアル様が何の警戒もなく楽しそうに接しておられたのだからな」
確かにルフナたちと話すアルはとても無防備で安心しているように感じる。
「だがそれは貴様……いや、オオモリにしても言えることだ」
「オレにも?」
「そうだ。アル様は人の悪意に敏感で、すぐにそういう意志を見抜くことができる。しかしオオモリに対しても、アル様は普通に接しておられた」
「だから信用できると?」
「それに、こうやって真剣に闘ってみて分かることだってある」
「……?」
「オオモリの剣は、濁ってなどいなかった」
まあ、《極竜魔法》で創った剣だから、どちらかというと神聖な感じだし……とはツッコめないだろう。それにそういう意味で彼女が言ったわけではないことも分かっていた。
「悪を企む者と対峙すれば、その剣にも濁りが映る。魔法にも、だ。しかしオオモリからはそれを感じられなかった。だから私はオオモリの強さを確かめ、もし私の望むほどの強者であるならば力を貸してもらおうと考えたのだ。これが今、私に話せることすべて。答えを、聞かせてくれ」
ジッと真剣な眼差しで見つめてくるカユキ。どうしたものだろうか……。
“――何を悩んでおるのだ、セイバよ”
“シンちゃん……”
“オマエは世界を見て回りたいと言っておっただろう。厄介事を抱え込むと、それもできなくなる可能性が出てくるぞ”
“だよね。それにどうやらかな~り重そうな問題みたいだしさ”
“まあ、どうするかはオマエが決めればよいが、後悔するような選択はせぬ方がよいぞ”
そう言われても、悩んでしまうのも事実なのだ。
シンセークンの言う通り、彼女たちに力を貸すことになれば、必然的に彼女たちと旅をすることになるだろうし、狙われているという輩と戦うことにもなるだろう。
そうなれば自由に旅を楽しむことができなくなるかもしれない。
しかしこうやって誰かに真剣に頼まれるというのも、今までの人生の中でもなかったこと。正直にいえば少し気分が良いと思っていることもまた事実なのだ。
こうして何の因果か、規格外の力を手にしているお蔭で誰かに頼られるというのは些か疑問を持ってしまうが、それでも頼りにされるというのは存外――悪くない。
アルも話してみて悪い人物ではなさそうだし、カユキにしたって、ちょっと……いや、かなり強引な性格だが決して悪人というわけではないだろう。
ただもし自分がアルたちについて行くとなれば問題もある。
「……ルフナたちはどうするんですか?」
「彼女には荷が重いだろう。幼い子供もいることだしな。勧誘はできない」
「ですよね……」
となれば、カユキの申し出を受けるということは、必然的にルフナたちと別れることになる。
“あの娘たちは、これからもオマエと一緒に旅をするのを喜んでいたがな”
シンセークンから、わざわざ気になっていることが告げられた。確かにそうなのだ。彼女たちと旅をするのも楽しいと星馬自身も思い始めていたのである。
だからできれば別れたくはない、と本心では思っていた。
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