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第二十四話 寮へ

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 冒険者学校に通う生徒は、その希望により寮に住むことが許されている。
 遠方から通っている者たちの多くは、この寮で学生生活を送るのだ。

 そして俺も当然寮に住むことになった。
 すべて個室のようなので、そこは願ってもないことなので喜んだ。

「じゃあお兄ちゃん、アオスさん、私はこっちなので」

 教室から一緒に出てきたシン助と九々夜。九々夜は女子寮のある道へと別れていった。

「うし! じゃあ俺らもさっさと寮に行こうぜ! 確か寮の受付に預けてる私物を受け取って部屋に入れねえといけないんだっけか?」

 入学式前に、持ってきた私物(着替えや日用品など)を、寮にある受付に預けたのである。

 これから寮に向かって、その荷物を受け取り部屋へと運ぶ仕事が待っていた。

 寮はホテルのような造りになっていて、玄関に入るとすぐにカウンターがあり、そこには数人の受付嬢が待ち構えている。
 俺たちは受付へ行き、名前を告げて事前に渡されている学生証を提示した。

「アオス・フェアリード様とシン助様でございますね。少々お待ちくださいませ」

 受付嬢がカウンターの奥にある部屋へと消えると、しばらくして荷物を持って現れた。

「こちらがアオス・フェアリード様からお預かりしていたお荷物になります。どうぞご確認くださいませ」

 間違いないようなのでそういうと、受け取りのサインを行い荷物を受け取り、そのまま受付から離れ、中央にある魔法陣が刻まれているスペースへと向かう。

「お、おいアオス! ちょっと待ってくれよ!」

 荷物を持ちながら慌てて駆けつけてくるシン助。
 俺は魔法陣の真ん中で、何の支えも無しで宙に浮いている球体に手で触れる。

 すると数字が刻まれた画面が出現した。
 シン助も同じような作業をし、画面に視線を落としている。

「アオス、お前何号室なんだ? ちなみに俺は208号室だぜ!」
「……何故言わないといけないんだ?」
「いいじゃねえか! お互いの部屋を知っときゃ、いつでも訪ねていけるじゃん!」

 俺は何も言わずに619号室を押して、学生証を球体に近づける。 

 するとピッという音とともに、俺の姿がその場から消失した。
 途中シン助の「おいっ!」という声が聞こえたが、きっと気のせいだろう。そういうことにしておこう。

 一瞬にして周囲の光景が変化した。ここは六階のフロアで、俺は一階から転移してきたことを意味する。
 フロアにはそれぞれ先程のような魔法陣が存在し、学生は自由に各フロアに瞬間移動することが可能なのだ。

 ただ学生証が必要になるので、もしなくしてしまえば再発行するまで自分の部屋には戻れない。

 階段を上っていくという選択肢もあるが、部屋の鍵も学生証がなければ開けられないようになっているので、やはり再発行してもらう必要があるのだ。
 俺はフロアを移動しつつ619号室を探す。

 すると少し先の扉がガチャリと開き、そこから一人の男子生徒が姿を見せた。

「……あん? てめえは……見かけねえ顔だな。……ああそうか、てめえが今年の特待生ってわけか。……ちっ」

 出てきたのは目つきの悪い男。着崩したラフな格好で、両手をポケットに突っ込みながら俺を睨みつけてくる。

「……どうも」
「おい、俺は先輩だぜ? 挨拶はしっかりしやがれ」
「アオス・フェアリードです」
「おう…………って、それだけかよ!」
「はぁ……」
「……やっぱ特待生っつうのは、あれか? クールを気取ってなきゃ選ばれねえってのか?」

 何やら皮肉を込めたような言い方だが、どこか呆れているふうにも見て取れて、一方的に嫌悪を示しているような感じではない。

「俺はここのフロア長のバリッサだ。いいか? 面倒ごとは起こすなよ」
「そのつもりはありません」
「ふん、どうだかな。まあその……何だ、分からないことがあったら聞けや。暇があったら教えてやっからよ」

 ……ああ、この人多分良い人だ。

 言葉遣いや態度は悪いが、恐らくは面倒見が良いタイプなのだろう。
 だからこそフロア長などという役目を担っているのかもしれないが。

「ありがとうございます。その時は頼らせてもらいますので」
「おう。それと619号室はあっちの突き当たりだ」

 やっぱり親切な人である。

「最後に忠告だがな。お前の反対側の部屋――620号室にいる奴には気をつけろ」
「え?」
「超絶な変態だからよ。…………掘られるなよ」

 ……へ? ほ、掘られる? 何を?

 困惑する俺をよそに、バリッサ先輩は「じゃあな」と言って魔法陣がある場所へと向かっていった。

「……掘られる? どういう意味か分かる、妖精さんたち?」

 彼女たちの知恵も借りようと聞いてみたが……。

「う~ん……おへやをあなだらけにされてしまうです?」
「~~~~~~っ!?」
「フフン! あなほりしょうぶというわけか! ならばうけるしかあるまい! そしてこのわたしがかーつ!」

 よく分かっていないようだ。ただ二人目の妖精さんだけは、何故か顔を真っ赤にして頭をブンブン振っていたので「大丈夫か?」と聞いてみると、「はぅぅ……アオスさんのていそうが……ていそうがぁ……!」と訳の分からないことを言っていた。

 どうやら自分の世界に入っている様子なので、彼女は置いておいて俺は自分の部屋へと向かっていく。

 そして突き当たりの右側にある扉に619と書かれたプレートが張られていた。
 その対面する扉には620と刻まれている。

「こういう時って挨拶をした方が良いのだろうか?」

 だがバリッサのさっきの言葉を思い返すに、あまり関わらない方が良い相手なのかもしれない。
 ここは自然の成り行きに任せて、挨拶は先送りにすることにした。

 部屋の中に入ると、とても生徒一人に与えられるような部屋には見えなかった。
 一言でいえば広過ぎる。それに家具も充実していて、シャワー室なども完備されているので、庶民の家より明らかに整っていた。

 これが冒険者候補生になった恩恵ということなのだろうか。 
 さすがは誰もが目指す夢の職業だ。候補生にさえこの待遇。

 俺は荷物を置くと、キングサイズのベッドへと飛び乗った。
 妖精さんたちも、初めて訪れる部屋に興奮し、あちこち飛び回っている。

 窓の外にあるベランダから見える景色にも感動しているかのような声を上げていた。
 妖精さんたちが喜んでいるようで何よりだ。

「冒険者学校か……」

 望んだとおり特待生として入学することができた。これで学費などは免除だし、食費だって寮でタダ飯が食えるので問題ない。

 あとは二年間学んで冒険者の資格を取るだけである。
 俺は天井に向けて手を伸ばす。

「オルル、頑張るから応援してくれよな」

 そう呟くと、不意に訪れた眠気に従って瞼を下ろした。


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