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第八十二話 白い炎
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「グルゴォォォォォォォォッ!」
けたたましいまでの咆哮を上げ、ビリビリと大気を震わせる。
大きな翼をはためかす度に、強烈なまでの暴風が周囲に吹き荒れる。
人間を軽くひと飲みにできるほどの大きな口に、マグマのような真っ赤な瞳。
見上げるほどの巨躯からは、黒いケガレが湯気のように立ち昇っている。
当然いきなり現れた最強種の一角に対し、生徒たちが慌てふためいていた。
このままではパニック状態となり、不必要な怪我人が出てしまう危険性がある。
そして校長もそう判断したようで、
「皆さん、落ち着いてください。教師の誘導に従って、速やかにこの場から離脱してください」
険しい顔つきのままそう指示を出す。
教師たちが生徒たちを避難誘導している最中、俺に向けても校長の言葉が届く。
「アオス・フェアリード、あなたもそこから離れなさい。ドラゴンはこちら側で対処しますので」
すると観客席に座っていた現行の冒険者たちが、次々と跳躍して、ドラゴンの周囲へ降り立つ。
「よぉ、アオス、災難だったな」
俺の目前に立ち声をかけてきたのは、入学試験の時に俺の試験官を務めたオブラだった。
「ヤッホー、見てたよー、アオスくん! とーってもカッコ良かったねー」
「うむ、やはり我が『無限の才覚』に欲しいな」
同試験官だったシンクレアとオリビアもそこにいた。
「とりあえずアレは俺らに任せとけ。お前は今すぐ――」
オブラが何かを言おうとした直後、他の冒険者たちによってドラゴンの首が呆気なく落とされてしまった。
「げっ……先越されちまったぜ……!」
「まあまあオブラさん、楽できたから良いじゃないですかぁ」
肩透かしな感じで消沈するオブラに対し、自身の髪をクルクルと弄りながら笑うシンクレア。
だがさすがは現行の冒険者たちだ。こんなにも早くドラゴンを討伐するなんて。
ドラゴンはもちろん強さにピンキリはあるが、最低でもBランクはあり、上級冒険者でも一人では討伐することができないとされているほどの猛者だ。
まあたとえAランクでも、これだけの冒険者に囲まれれば成す術もないのは分かる。ドラゴンにとっては不運だったとしか言いようがないだろう。
だが誰もがトラブルを解決できたとホッとしていた時だ。
「……アオスさん、あのドラゴンさん、まだおわってませんよ!」
「はい。ケガレがぜんぜんへってませんしねぇ」
「つーか、ふつうのニンゲンがケガレをどうにかできるわけないしな!」
妖精さんたちの言葉はスルーできないものだった。特に普通の人間がケガレをどうにかできないという言葉は。
するとその言葉を証明するかのように、首を切られたはずのドラゴンの切断口から、気持ちの悪い触手のようなものが幾つも出現し、落ちた首に繋がっていく。
そして元通りの頭部を再現すると、ドラゴンは怪しく瞳を輝かせ、周りに向かって黒いブレスを吐き出した。
「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」
ブレスを受けた者たちは、爆風を浴びたように吹き飛んでいく。
「おいおい、マジかよ!? 復活しちまったぞアイツ!」
オブラの驚き声のあとに、「うわぁ、めんどくさそーですねぇ」と嫌そうな表情を浮かべるシンクレア。
それに対し、オリビアは目を細めながらドラゴンを冷静に観察していた。
「どうやら並みの攻撃では歯が立たないようだな。首を切っても無意味ということは、どこかしらに存在する核のようなものを破壊しないとダメということか?」
そういうモンスターは実際にいる。スライムだってそうだ。体内の核が無事であれば、いくら身体が傷つこうとも、時間をかけて再生するのである。
「はんっ! チマチマ攻撃するのは性に合わねえ! 一気に燃やせばいい話だろうが!」
オブラが楽しそうに笑みを浮かべると、そのままドラゴンに向かって駆け寄りながら高く跳躍した。
ドラゴンの頭上に辿り着いたオブラが叫ぶ。
「見てろよアオスッ! あの時、見せ損なった俺の魔法をよぉっ!」
オブラが両腕を広げると、両手から見慣れない白い物体が出現し始めた。
それはまるで炎のように揺らめいていて、そういえばと、試験の時に一瞬あの白いものを確認できたことを思い出す。
「燃え尽きてしまえっ、クソトカゲめ! ――《白炎《はくえん》》っ!」
ドラゴンに向けて両の掌をかざした瞬間、まるで津波のように白い物体がオブラの手から放出される。
まるでマグマのような見た目だ。
もちろんドラゴンもまともに攻撃を受ける謂れはないとばかりに、翼を広げて上空に回避しようとした。
ターゲットを失った白い物体が、地面に衝突した直後、驚くべきことが起こる。
まるでゴムボールかのように、地面に当たった白い物体が大きく跳ね、その先に浮かんでいたドラゴンを捉えてしまったのだ。
――ジュゥゥゥゥゥゥッ!
「グルゴァァァァァァァッ!?」
焦げるニオイとともに、苦しそうな声を上げつつ、空でもがくドラゴンだが、白い物体は一切離れることなくドラゴンにへばりついている。
必死に白い物体を剥がそうと試みるが、掴んで引っ張っても餅のように伸びるだけで被害が広がるのみ。
「驚いたぁ? アレがオブラさんの十八番――《白炎》なんだよねぇ」
俺が不思議な顔でオブラを見ていたことに気づいたのか、シンクレアがわざわざ説明してくれる。
「はく……えん?」
「そ、《白炎》。当然炎だから熱量は持ってるわよぉ。まあ見た目はドロッてしてて気持ち悪いけどねぇ」
確かに炎というよりはマグマといった方が正確に思える。
「アレの性質は厄介でねぇ、時にはゴムみたいに柔らかくてぇ、時にはお餅みたいな粘着性を発揮したりするんだよぉ。だから一度捕まったら、獲物を焼失させるまで離さない。オブラさんだけが使える固有魔法だねぇ」
なるほど。それは厄介な力だ。一応火属性の魔法に当てはまるのだろうが、ただの火ではなく、多様性質を持っているらしい。
しかも意思次第で、ゴム性質、粘着性質と切り替えることができるのが恐ろしい。
先に地面に当たって弾いたのはゴム性質を使い、ドラゴンの身体に付着してからは粘着性質を発揮させているというわけだ。
けたたましいまでの咆哮を上げ、ビリビリと大気を震わせる。
大きな翼をはためかす度に、強烈なまでの暴風が周囲に吹き荒れる。
人間を軽くひと飲みにできるほどの大きな口に、マグマのような真っ赤な瞳。
見上げるほどの巨躯からは、黒いケガレが湯気のように立ち昇っている。
当然いきなり現れた最強種の一角に対し、生徒たちが慌てふためいていた。
このままではパニック状態となり、不必要な怪我人が出てしまう危険性がある。
そして校長もそう判断したようで、
「皆さん、落ち着いてください。教師の誘導に従って、速やかにこの場から離脱してください」
険しい顔つきのままそう指示を出す。
教師たちが生徒たちを避難誘導している最中、俺に向けても校長の言葉が届く。
「アオス・フェアリード、あなたもそこから離れなさい。ドラゴンはこちら側で対処しますので」
すると観客席に座っていた現行の冒険者たちが、次々と跳躍して、ドラゴンの周囲へ降り立つ。
「よぉ、アオス、災難だったな」
俺の目前に立ち声をかけてきたのは、入学試験の時に俺の試験官を務めたオブラだった。
「ヤッホー、見てたよー、アオスくん! とーってもカッコ良かったねー」
「うむ、やはり我が『無限の才覚』に欲しいな」
同試験官だったシンクレアとオリビアもそこにいた。
「とりあえずアレは俺らに任せとけ。お前は今すぐ――」
オブラが何かを言おうとした直後、他の冒険者たちによってドラゴンの首が呆気なく落とされてしまった。
「げっ……先越されちまったぜ……!」
「まあまあオブラさん、楽できたから良いじゃないですかぁ」
肩透かしな感じで消沈するオブラに対し、自身の髪をクルクルと弄りながら笑うシンクレア。
だがさすがは現行の冒険者たちだ。こんなにも早くドラゴンを討伐するなんて。
ドラゴンはもちろん強さにピンキリはあるが、最低でもBランクはあり、上級冒険者でも一人では討伐することができないとされているほどの猛者だ。
まあたとえAランクでも、これだけの冒険者に囲まれれば成す術もないのは分かる。ドラゴンにとっては不運だったとしか言いようがないだろう。
だが誰もがトラブルを解決できたとホッとしていた時だ。
「……アオスさん、あのドラゴンさん、まだおわってませんよ!」
「はい。ケガレがぜんぜんへってませんしねぇ」
「つーか、ふつうのニンゲンがケガレをどうにかできるわけないしな!」
妖精さんたちの言葉はスルーできないものだった。特に普通の人間がケガレをどうにかできないという言葉は。
するとその言葉を証明するかのように、首を切られたはずのドラゴンの切断口から、気持ちの悪い触手のようなものが幾つも出現し、落ちた首に繋がっていく。
そして元通りの頭部を再現すると、ドラゴンは怪しく瞳を輝かせ、周りに向かって黒いブレスを吐き出した。
「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」
ブレスを受けた者たちは、爆風を浴びたように吹き飛んでいく。
「おいおい、マジかよ!? 復活しちまったぞアイツ!」
オブラの驚き声のあとに、「うわぁ、めんどくさそーですねぇ」と嫌そうな表情を浮かべるシンクレア。
それに対し、オリビアは目を細めながらドラゴンを冷静に観察していた。
「どうやら並みの攻撃では歯が立たないようだな。首を切っても無意味ということは、どこかしらに存在する核のようなものを破壊しないとダメということか?」
そういうモンスターは実際にいる。スライムだってそうだ。体内の核が無事であれば、いくら身体が傷つこうとも、時間をかけて再生するのである。
「はんっ! チマチマ攻撃するのは性に合わねえ! 一気に燃やせばいい話だろうが!」
オブラが楽しそうに笑みを浮かべると、そのままドラゴンに向かって駆け寄りながら高く跳躍した。
ドラゴンの頭上に辿り着いたオブラが叫ぶ。
「見てろよアオスッ! あの時、見せ損なった俺の魔法をよぉっ!」
オブラが両腕を広げると、両手から見慣れない白い物体が出現し始めた。
それはまるで炎のように揺らめいていて、そういえばと、試験の時に一瞬あの白いものを確認できたことを思い出す。
「燃え尽きてしまえっ、クソトカゲめ! ――《白炎《はくえん》》っ!」
ドラゴンに向けて両の掌をかざした瞬間、まるで津波のように白い物体がオブラの手から放出される。
まるでマグマのような見た目だ。
もちろんドラゴンもまともに攻撃を受ける謂れはないとばかりに、翼を広げて上空に回避しようとした。
ターゲットを失った白い物体が、地面に衝突した直後、驚くべきことが起こる。
まるでゴムボールかのように、地面に当たった白い物体が大きく跳ね、その先に浮かんでいたドラゴンを捉えてしまったのだ。
――ジュゥゥゥゥゥゥッ!
「グルゴァァァァァァァッ!?」
焦げるニオイとともに、苦しそうな声を上げつつ、空でもがくドラゴンだが、白い物体は一切離れることなくドラゴンにへばりついている。
必死に白い物体を剥がそうと試みるが、掴んで引っ張っても餅のように伸びるだけで被害が広がるのみ。
「驚いたぁ? アレがオブラさんの十八番――《白炎》なんだよねぇ」
俺が不思議な顔でオブラを見ていたことに気づいたのか、シンクレアがわざわざ説明してくれる。
「はく……えん?」
「そ、《白炎》。当然炎だから熱量は持ってるわよぉ。まあ見た目はドロッてしてて気持ち悪いけどねぇ」
確かに炎というよりはマグマといった方が正確に思える。
「アレの性質は厄介でねぇ、時にはゴムみたいに柔らかくてぇ、時にはお餅みたいな粘着性を発揮したりするんだよぉ。だから一度捕まったら、獲物を焼失させるまで離さない。オブラさんだけが使える固有魔法だねぇ」
なるほど。それは厄介な力だ。一応火属性の魔法に当てはまるのだろうが、ただの火ではなく、多様性質を持っているらしい。
しかも意思次第で、ゴム性質、粘着性質と切り替えることができるのが恐ろしい。
先に地面に当たって弾いたのはゴム性質を使い、ドラゴンの身体に付着してからは粘着性質を発揮させているというわけだ。
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