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「……これは、何が言ったどうなったからこうなってんだろうかぁ……」

 今、オレの目の前には、あのクーアイが剣を構えて立っている。物凄い殺気立っている。いや、殺すつもりはないのだろうが、明らかに闘いますよオーラが迸っている。
 そして何故かオレの右手にも剣が握られてある。

 …………何があったんだっけ?

 それはこうなる十分ほど前のこと――。
 オレは【ラードック】という国に到着した。だが自由に行動できるわけでもなく、クーアイがついてこいと言うので、その言葉に従った。

 それがいけなかったんだろうなぁ。ついてみれば何やら“玉座の間”っぽいところ。突き当たりにある玉座に座っているのは、まあ誰もが分かる通りとっても偉い人なのだろう。

 ただ気になったのは、どう見てもオレと変わらない少女だったということ。
 その少女はクーアイとはまた違った美少女だ。
 相手を威嚇するような真っ赤に燃えているような赤い髪が、ツインテールではなく四つ  フォーテールとでも呼べるのか分からないが、左右に二つずつ分かれている。その先には何故か鈴がついているがファッションなのかもしれない。

 睨まれると、こちらまで燃えるのではないかと思われる紅蓮の瞳を宿し、少し吊り上った眼差しを更に細めているので威圧感が半端無い。
 右手に持った扇子をパチパチパチと左手に当てて弄びながら見下ろしてきている。

 高圧的な態度というよりは、生まれ持った王の資質というのか、そこにいるだけで気圧されるようなオーラが滲み出ている。なにこれホント怖いんですけど。
 こういう輩とは絶対に目を合わしちゃいけないんだろうが、一国の王みたいなので合わせないわけにはいかない。取って喰われないことをさっきからずっと心の中で願っている。無論神様に。だがオレをこの世界に誘った神じゃない。だってこうなってるのもアイツのせいだし。

「ふぅん、報告は聞いてたけど、その者が“神の御使い”なのかしら、クーアイ?」
「はっ! まだ確証はありませんが、かの者は神託の内容も、魔本の存在すら知り得ていませんでした」
「へぇ」

 ゾクリと背中に嫌な寒気が走る。少女の獲物を捕獲したような雰囲気から、オレは檻に閉じ込められたひ弱な子ネズミと化してしまった。チーズでも何でも食べるからこのままお咎めなしとかならねえかなぁ。いや、少しくらい腐ってても食べるから……九割がたマジで。

「それにここ【アル・ノール】地方の文字を読めない始末。見た目もそうですが、何よりもあの危険区域で手ぶらだったことが信じられません」
「なるほどね。確かにおかしなことだらけね。さて」

 少女がビシッと扇子の切っ先を向けてくる。

「まずは名を聞きましょうか?」

 本来なら先に名乗れよと言いたいが、そんなこと言う勇気まったく無し。今じゃ恐怖に震える駄犬みたいなもの。尻尾なんて接着剤でくっつけたのかと思うほどピッタリと身体に巻き付いている感じ。

「オレ……あ、いえ、わ、私はですね……」
「普通でいいわ」
「はい?」
「普通に喋りなさい。私の前で取り繕う必要はないから」

 とは申されましても、さっきから尋常ではないほど汗が止まらないんですけど……。一国の王に対し、「あ、オレ? オレはオウギってんだよ! でも君って可愛いね! どう? せっかくだからオレの初めてになってくれない?」なんて言えない。いや、すでにそんな場違いなことを考えていることがすでにオレの脳が沸騰している証拠なのかもしれないが。

「……ふぅ~、えっとぉ、オレ……はですね、オウギです。オウギ・フジサキ……」

 よし! とりあえずは噛まずに言えた。自分を百パーセント褒めてやろう。

「ふぅん。オウギ・フジサキ……ね」

 何その値踏みするかのような眼。何か舌舐めずりかこれ以上似合う少女なんていないと思っちゃうほど怖いんだけど!

「あなた、本当に“神の御使い”かしら?」
「……わ、分かりません。ただ神って名乗った奴は知ってます……」

 ハンドルネーム的なアレだけど……。

「へぇ……面白いわね、あなた」

 あれぇ? オレなんか面白いこと言ったっけ? いや、もしかしたらオレには隠されたお笑いのセンスがあったのかもしれない。知らず知らずそれが開花していて、今こそ花開いた? つまりはオレは覚醒したということか……! もしこの世界にお笑いブームがきているならオレは天下を取れるかもしれない! そうすればモテる!

「……あなた、なにニヤニヤしてるのよ? 気持ち悪いわよ?」

 おお~っと、どうやら顔に出ていたようだ。けどどうせ覚醒するなら、女性にモテるフェロモン分泌量マックスとかにしてほしかった。

「おいフジサキッ! 顔を引き締めろ! モルニエ様の御前だぞ!」
「は、はひっ!」

 クーアイに注意を受けて今までの妄想が一気に吹き飛ぶ。

「まあいいわ。とりあえず私も名乗ってあげる。私は【ラードック】を治めるモルニエ・L・キルユウよ」

 ……え? 怖くないその名前? だってKill youだよっ!? 殺されちゃうんだよ! さらにガタガタブルブルが五割増しになった感じだっての!

「何故それほど怯えているのかしら? フフフ」

 その冷笑のせいですぅぅぅっ! ああ、もしオレがドMなら快感なんだろうけど、アブノーマルなことも興味は無いって言えば嘘になるけど、できれば命のかかっていないソフト的な奴が望ましいィィッ!

「ふむ、どうもまだよく分からないわね。けれど嘘を吐き通せるような詐欺師でもなさそうだし……神託も知らないようじゃ本物なのかも……ね」

 モルニエが扇子の先を顎に当ててむぅ……っと考え込んでいる。すると何かを思いついたのかハッとした様子で、扇子をパッと開くと、次にとんでもないことを言い放つ。

「そうね、ではこうしましょう。オウギ、あなた――――クーアイと仕合いなさい」

 …………………………………………………………はい?

 時間が止まった。いや止まってはないけど、そんな感覚。聞き間違いであってほしいと願い、再度彼女に何を言ったのか尋ねてみよう。

「あ、あのぉ……い、今何と……?」
「聞いていなかったのかしら? クーアイ?」
「はっ! フジサキ!」
「へ?」

 もう多分パンツまでグッショリと汗塗れだろうなぁ……。

「これから私と仕合ってもらう!」

 終わった……聞き間違いじゃなかった……。一パーセントほど、聞き間違いだと信じていたけど、あっさりと裏切られた。

「ちょっ、か、かかかか勝てるわけないじゃないですかっ!」
「あら? 当然じゃない。まさかあなた勝てると思っているのかしら? こう見えても私のクーアイは国一番の強者なのよ? 何せ“七色の魔本”の所有者なのだから」
「い、いやいや! 最初から勝てないって分かってる闘いに何の意味がっ!」

 ん? 今最後に“七色の魔本”って言わなかったか? それって確か、あの子供っぽい口調の自称神とやらが集めろとか言ってたよな?

「意味ならあるわ。あなたが本当に“神の御使い”なら、その身に宿りし力は、必ず私の力になるはずなのだから」

 まるで巨獣の獰猛な瞳に睨まれているようだ。全身が震えてくる。オレ今全身がバイブレーション機能作動中だぜ!

「安心なさい。別に命まで取らないわよ。ただあなたの真実をこの目で確かめたいだけ。皆の者! 修練場へ向かいなさい!」

 凛とした澄んだ声が周囲に響き、部下たちが一斉に「はっ!」と返事をした。よく統率のとれた集団である。
 こうして断ることもできずにオレは、国一番の騎士であるクーアイと仕合うこととなった。

 …………ホントに何でこうなった?




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