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第二十六話 領主の依頼

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「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……っ」


 俺は今、心の底からホッとしていた。
 ようやく鬼ごっこから解放されたからである。


 くそぉ、何で俺がこんな目に遭わなにゃならんのだ……。


 追いかけてくる一般人《鬼》どもから必死で逃げていた時、一人の女性に救われた。
 それは実況の女性。名をユーランといい、何でも領主の娘だという。
 彼女が一般人たちの前に立ち、宥めてくれたお蔭で九死に一生を得たのだ。


 それからカヤちゃんたちも向かったという領主の屋敷へと連れられていった。
 客間にはカヤちゃんたちがいたが、俺は疲労からソファにぐで~んとなって横になる。
 行儀が悪いとカヤちゃんに怒られたら、そこはもう勘弁してほしい。


「ああくそ、あの野郎《一般人》どもめ。もう少し助けが遅かったら〝外道札〟で一カ月間、強烈な残尿感が残るような身体にしてやったものを」
「そ、それは……間に合って良かったです」


 カヤちゃんが顔を引き攣らせる。


 あれ? カヤちゃんっておしっこ……いや、セクハラは止めとこう。これ以上敵を増やしてもしょうがねぇ。俺のライフにも限界があるんだからな。


「ふぅぅ~、そんなことより領主は? ユーランさんもいねぇし」


 ユーランさんは俺をここに通したあと、どこかへ行った。
 この部屋には現在俺とカヤちゃん、そしてポチしかいない。
 するとガチャリと扉が開く音が耳朶を打つ。


 現れたのはユーランさんと領主だった。


「お待たせして申し訳ない。それとこちらが優勝賞金だよ」


 そう言って俺に袋を手渡してくる。中にはフォン紙幣で二十万フォン分が入っていた。


「ああまいど~」


 一気に小金持ちになった気分でほくほくしてしまう。


 あんな勝ち方なのに素直に受け取っていいのか疑問に浮かぶ奴もいるだろう。……関係ねえ! 結果は結果だしな! もらえるものはもらう主義だしな!


 何故かカヤちゃんがジト目だが無視だ無視。


「――さて、まずは自己紹介をしよう。儂はこの【アルバットの街】を治めているブランケットだ。こっちは娘のユーラン」
「よろしくね!」


 ブランケットさんは穏やかそうで、ユーランさんは気さくな感じである。


 俺たちも彼らに自分の名を名乗った。当然ポチは獣人という種族として伝える。


「君たちに折り入って頼みたいことがあって来てもらった」


 だろうなぁ。どんな理由かは分かってるけど。


「大会があるというのも事前に知っていたわけではなく、たまたま参加したということも知っている」


 どうやら領主はカヤちゃんから俺たちが旅人だということを聞かされていたようだ。


「本来ならこのようなことをお願いし辛いのだが、どうかこの街のために力を貸してはくれないだろうか?」
「……それって、深夜になると現れる魔物に関することっすよね?」


 俺が尋ねると領主は難しげな表情で「うむ」と頷く。


「へぇ、その話は聞いてるのね。そうなのよ、夜な夜などっかから魔物が現れて、街を徘徊しては人を誘拐してるのよね」


 内容は重いのに、そう言ったユーランさんがそれほど深刻そうではないのが気になった。


「誘拐された人はどうしたんすか?」
「それがね、翌日の夜にはひょっこり戻ってくるのよ」
「へ? 戻ってくるんですか?」


 カヤちゃんが驚きの声を発するが、確かに妙な話ではある。


「別に怪我もないし、重大な後遺症とかもなさそうだから大きな問題にはなってないんだけどね」
「うむ。しかし放置はできぬのだ。街を脅かす存在がいることは確かだしな。それに……」
「軽い後遺症はある、ってことっすか?」


 俺の言葉に全員が目を見開く。特にブランケットさんは物珍しそうに「どうして分かったのかね?」と聞いてきた。


「だって、今ユーランさんは〝重大な後遺症〟はないって言った。つうことは、ちょっとした後遺症は残ってるってことっすよね?」
「う、うむ、確かにそうだ。よく気づいたな」
「いやいや、誰だって気になりますって」
「わ、わたし全然気づきませんでした……」
「ボ、ボクも……」


 カヤちゃんとポチは置いておいて俺は後遺症の話を聞いた。


「記憶が無いのだよ」
「記憶? ……どこからどこまでのっすか?」
「攫われる直前から、再び街に戻る丸々一日分ほどだな。それ以外は別段変わった様子はないように見受けられる」
「うん、そだね。攫われた人は今でも元気で働いてるしね」
「働く? つまり誘拐される対象は大人ってことっすか、ユーランさん?」
「大体十五歳から二十代までの女性だね」


 この世界で十五歳は、昔の日本の元服と同じで一人前扱いされる。仕事をするために家を出たりするのもこの歳だ。


 つまり犯人が狙っているのは大人の女性ということ。しかし何故三十歳を超す者が出ていないのかは分からない。


「……攫われた女性たちは美少女や美女のカテゴリーに入るっすか?」
「へ? あ……そうね、入ると思うわ」


 それはそれは……なるほどなるほどぉ。


「記憶がない以外は問題はないってことっすよね?」
ブランケットさんが「うむ」と首肯する。
「本当に妙な話っすね。何かを奪われたわけでもなく、ただ誘拐された期間の記憶だけがない。犯人は何がしてぇんだ?」


 一体犯人は何を目的に人を……若い女性を攫っているのか?


 しかしなるほど、重症者が出たわけでもいまだに帰ってこない人が出たわけでもないから、それほど大事にはなっていないが、領主としては放っておくことはできないというわけだ。
 もしかしたらいずれ事がエスカレートするってことも考えられるしな。


 それに何よりも……。


「……許せんな」
「え? あ、あのボータさん?」
「きっとそいつは変質者っすよ! 間違いない! 美少女や美女を誘拐しては、一日監禁していろいろ楽しんじゃってるんすよ! ああくそっ、このめんくい魔物め! 世界の宝である女性を攫って一人だけで楽しむとはぁ……許せんっ!」


 しかもご丁寧に記憶まで失くして、何をされたか分からなくするほどの狡猾さ。これは明らかに性犯罪者だ! ああそうだ! そうに違いない!


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