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第一章
2話
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セロには戦う手段がもうなかった。昨今の武器の発展により、いまでは素手で戦う職業はない。よって人の拳は退化しており、それを武器として使うなんて考えられない時代だった。
「お待たせしました。アイスニードル!」
フィアの詠唱が完了した。
幾つもの氷のトゲがサラマンダーを襲う。
サラマンダーは絶命の叫び声をあげて死んだ。
「フィア、大丈夫かい?」
魔法には強い精神力を必要とする。
使いすぎたり、大きな魔法を使用すると、精神力がなくなってしまうこともある。その結果、何もやる気が起こらないマンになってしまうこともあるのだ。
「ええ、でも……」
「うん、ここでキャンプしようか」
彼女を気遣ったセロは、手早く野営の準備を始める。とはいってもダンジョン内である。そんな大がかりなことはできない。その場に座り、簡易的な食事や睡眠をとったり、休憩をするぐらいだった。
「すまないね、手伝ってもらって」
セロは、フィアが今回の探索に同行してくれたことを感謝していた。実際、武器に依存するセロの戦闘力では、この速度で、この深度まで進行できなかっただろう。もしかするとまだ一階辺りでうろうろしてるかもしれないし、武器が尽きて途方にくれてるかもしれない。
「いいんですよ。私は――セロのためになりたいんですから」
フィアは恥ずかしげもなくそういった。
「でも、俺たちはもう別れたんだから……やっぱり感謝以外の言葉は見つからないよ」
セロたちは、"かつて"恋人同士だった。しかし、ややあって別れてしまったのだ。なのにも関わらずフィアは、セロの手伝いを申し出てくれた。そのことは、セロの胸を熱くさせた。
「そんなことよりも、早く天使の布をとって戻らないと! ミーナさんが待ってますよ」
「あ、ああ……そうだね」
ミーナというのは、セロの婚約相手だった。天使の布でウェディングドレスを作って、結婚式を挙げる、というのが目的だった。
ミーナは、ライトリア家の令嬢だ。ライトリア家は、聖王都アルジャーノンでも有数の貴族のひとつである。今回、ガルドの洞窟にやってきたのは、ライトリアの現当主であるミーナの父親がだした、触れのためだった。
ミーナの婿になりたい者は、彼女が満足する品を用意せよ。
これが当主が出した条件だ。そこでセロは、世界十宝に数えられる天使の布を探しに行くことにしたのである。アルジャーノンがあるライグロードから、十五日ほど馬車で揺られた位置にあるフェルナンシア地方。その片隅にガルドの洞窟はあった。
そのガルドの洞窟に天使の布があると突き止めたとき、偶然フィアと再会する。そして同行を申し出てくれた彼女と、こうしてここにやってきたというわけである。
もしフィアと会ってなかったら……、そう考えるとセロは身震いした。ひとりでこの高難易度ダンジョンに挑むことになっていたからだ。
「とりあえず、セロの武器を探したいところですね。私の魔法だけだと、戦闘が効率よくないですし」
「そうだね。任せっきりにはできない。なんとかしたいところだな」
当初の目的を、セロの武器探しに定めた彼らは、キャンプ地を後にして、ダンジョンのさらに奥へと足を踏み入れることにした。
宝箱を探すため、注意深く辺りを観察する。武器はないものの、セロが先導し、その後をフィアがついていくという隊形で道を進んだ。途中、何度かモンスターを見かけたが、上手くやり過ごすことができた。
しかしセロは焦っていた。
通常、ダンジョンは下のフロアに行くたびに、モンスターが手強くなっていく。このままモンスターをやりごしていると、レベルがあがらない。現時点の強さで三階は多少余裕があるものの、次のフロアになると、少々厳しくなるのが想像できた。
セロ自身、戦闘技術には自信があった。しかし、いかんせん耐久力はレベルに頼るところが大きい。つまり、当てれば倒せるが、食らうと倒されてしまう。そんなピーキーな状態に置かれていた。
「昔は、こうしてふたりでダンジョンデートしましたよね」
後ろを歩くフィアが、沈黙を割って話しかけてきた。
冒険者のカップルは珍しくない。死と隣り合わせで協力し合うことが多いダンジョンのパーティーでは、恋愛に発展する男女もすくなくないのだ。
ふたりでダンジョンに潜ることにより、さらに親密度が上昇する。そのためにダンジョンでデートを楽しむカップルもまたすくなくなかった。セロたちもまたそのひとつで、交際期間はほとんどダンジョンで過ごしていたという過去もある。
「そうだね……」
対するセロは、濁らせる形で返事してしまう。なぜなら別れを切り出したのは彼の方だったからだ。そのときフィアは、涙を堪えながら「わかりました」と小さく答えたのである。
別れる理由を追及はしてこなかった。そのことが、セロの心を深く抉る。
「私は、セロと付き合ってよかったと思ってますよ」
健気なセリフを紡ぐフィア。自身のおさげをいじりながら、どことなく恥ずかしそうにそう口にしたのであった。
そのときである。
「のわっ!」
セロの叫び声が辺りに響いた。
「お待たせしました。アイスニードル!」
フィアの詠唱が完了した。
幾つもの氷のトゲがサラマンダーを襲う。
サラマンダーは絶命の叫び声をあげて死んだ。
「フィア、大丈夫かい?」
魔法には強い精神力を必要とする。
使いすぎたり、大きな魔法を使用すると、精神力がなくなってしまうこともある。その結果、何もやる気が起こらないマンになってしまうこともあるのだ。
「ええ、でも……」
「うん、ここでキャンプしようか」
彼女を気遣ったセロは、手早く野営の準備を始める。とはいってもダンジョン内である。そんな大がかりなことはできない。その場に座り、簡易的な食事や睡眠をとったり、休憩をするぐらいだった。
「すまないね、手伝ってもらって」
セロは、フィアが今回の探索に同行してくれたことを感謝していた。実際、武器に依存するセロの戦闘力では、この速度で、この深度まで進行できなかっただろう。もしかするとまだ一階辺りでうろうろしてるかもしれないし、武器が尽きて途方にくれてるかもしれない。
「いいんですよ。私は――セロのためになりたいんですから」
フィアは恥ずかしげもなくそういった。
「でも、俺たちはもう別れたんだから……やっぱり感謝以外の言葉は見つからないよ」
セロたちは、"かつて"恋人同士だった。しかし、ややあって別れてしまったのだ。なのにも関わらずフィアは、セロの手伝いを申し出てくれた。そのことは、セロの胸を熱くさせた。
「そんなことよりも、早く天使の布をとって戻らないと! ミーナさんが待ってますよ」
「あ、ああ……そうだね」
ミーナというのは、セロの婚約相手だった。天使の布でウェディングドレスを作って、結婚式を挙げる、というのが目的だった。
ミーナは、ライトリア家の令嬢だ。ライトリア家は、聖王都アルジャーノンでも有数の貴族のひとつである。今回、ガルドの洞窟にやってきたのは、ライトリアの現当主であるミーナの父親がだした、触れのためだった。
ミーナの婿になりたい者は、彼女が満足する品を用意せよ。
これが当主が出した条件だ。そこでセロは、世界十宝に数えられる天使の布を探しに行くことにしたのである。アルジャーノンがあるライグロードから、十五日ほど馬車で揺られた位置にあるフェルナンシア地方。その片隅にガルドの洞窟はあった。
そのガルドの洞窟に天使の布があると突き止めたとき、偶然フィアと再会する。そして同行を申し出てくれた彼女と、こうしてここにやってきたというわけである。
もしフィアと会ってなかったら……、そう考えるとセロは身震いした。ひとりでこの高難易度ダンジョンに挑むことになっていたからだ。
「とりあえず、セロの武器を探したいところですね。私の魔法だけだと、戦闘が効率よくないですし」
「そうだね。任せっきりにはできない。なんとかしたいところだな」
当初の目的を、セロの武器探しに定めた彼らは、キャンプ地を後にして、ダンジョンのさらに奥へと足を踏み入れることにした。
宝箱を探すため、注意深く辺りを観察する。武器はないものの、セロが先導し、その後をフィアがついていくという隊形で道を進んだ。途中、何度かモンスターを見かけたが、上手くやり過ごすことができた。
しかしセロは焦っていた。
通常、ダンジョンは下のフロアに行くたびに、モンスターが手強くなっていく。このままモンスターをやりごしていると、レベルがあがらない。現時点の強さで三階は多少余裕があるものの、次のフロアになると、少々厳しくなるのが想像できた。
セロ自身、戦闘技術には自信があった。しかし、いかんせん耐久力はレベルに頼るところが大きい。つまり、当てれば倒せるが、食らうと倒されてしまう。そんなピーキーな状態に置かれていた。
「昔は、こうしてふたりでダンジョンデートしましたよね」
後ろを歩くフィアが、沈黙を割って話しかけてきた。
冒険者のカップルは珍しくない。死と隣り合わせで協力し合うことが多いダンジョンのパーティーでは、恋愛に発展する男女もすくなくないのだ。
ふたりでダンジョンに潜ることにより、さらに親密度が上昇する。そのためにダンジョンでデートを楽しむカップルもまたすくなくなかった。セロたちもまたそのひとつで、交際期間はほとんどダンジョンで過ごしていたという過去もある。
「そうだね……」
対するセロは、濁らせる形で返事してしまう。なぜなら別れを切り出したのは彼の方だったからだ。そのときフィアは、涙を堪えながら「わかりました」と小さく答えたのである。
別れる理由を追及はしてこなかった。そのことが、セロの心を深く抉る。
「私は、セロと付き合ってよかったと思ってますよ」
健気なセリフを紡ぐフィア。自身のおさげをいじりながら、どことなく恥ずかしそうにそう口にしたのであった。
そのときである。
「のわっ!」
セロの叫び声が辺りに響いた。
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