パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ

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8話 もはやマイナスからのスタート

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「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」
「ありがとう、ございますぅ……うわああああぁぁぁっん!」

 傷だらけで縛られていた男女。
 彼等を解放し、《ヒール》をかけると、ものすごく感謝された。

 男性のほうは、もげるんじゃなかってくらい頭を下げ、
 女性のほうは、ベガの胸元で泣きじゃくっている。

 聞くところによると、この二人は帝国貴族だそうだ。
 その家名には、僕も聞き覚えがある。

 そんな冒険中の二人を奇襲し、捕獲。家に身代金を要求……。
 というのが、そこで縛られている五人組の魂胆だったらしい。

「チッ、中衛二人組に負けるとは……」
「おい、隙を見て逃げ出すぞ」
「馬鹿、聞こえるだろうが。静かにしとけ」
「覚えてとけよ。仲間に伝えて、絶対に復讐してやる……」

 ベガと僕の活躍で、その計画もご破算となった。
 いやぁ、本当に良かった。



 助けた二人を加えた、僕達四人は捕縛した五人組を連れてダンジョンを出た。
 一度だけ、あのファイターが縄を抜けようと試みていたが、ベガの「いいの? 素っ裸で置いていくけど?」という一言で諦めた。
 それ以外に大した問題もなく、彼等の身柄は帝国騎士団に渡された。

 助けた二人とも別れ、今日の仕事は完了。
 僕とベガは、夜の帝都を並んで歩いていた。

「なんだか、人生で一番濃厚な一日だった気がするよ……」

 昨日も、かなり衝撃的な一日だったけど、今日のほうが濃かったかな。
 家から追放され、ベガに拾われ……初めて人を斬った……。

 ランベルク侯爵家は名門貴族だ。
 名門の例に漏れず、軍の将軍や帝国騎士団も、数多く輩出している。
 もしもの時のため、僕としても、それなりの覚悟はあったつもりなんだけど……。

 戦闘の興奮が抜けたせいか、手が震えている。

 と、そこへ。
 ぽつ、ぽつ……。
 小雨が降り出した。

 ベガは手にしている傘を開き、差した。
 僕とベガ、二人の上へ。
 相合傘だ。

「イオ、なんとなく分かった? 私がクランを立ち上げて、何をしようとしているか?」
「帝国騎士団の目の届かない場所──ダンジョンで悪さをする人の退治……かな?」
「正解、さすが主席卒業。ご褒美のハグは?」
「い、いいよ別にっ」
「あら残念」

 肩を竦め、ベガは話を続ける。

「ま、説明不足のまま、あぁして生身の人間と戦わせたわけだけど……どう? やっていけそう?」
「う、うん。"元"とは言え、僕だってランベルクの男なんだ。これくらいでビビッてちゃ、姉上に笑われちゃうよ。それに、ベガのやろうとしてることは立派だと思う」

 ダンジョンはモンスターの巣窟だ。
 帝国騎士団でさえ、おいそれとは行けない。
 というより、人的な損害を気にして、ほとんど"行かない"。

 だから、無法地帯なのだ。

 そこにベガは、秩序をもたらそうとしている。
 もちろん、難しいことだと思うし、危険な行為だと思う。
 だけど、立派な目的であることは間違いない。

 ベガは嬉しげに微笑した。

「なら良かった。一番の懸念は、イオが嫌がってしまうことだからね」
「でも……本当に僕なんかで良かったの、誘う相手?」
「イオ"なんか"じゃなくて、イオ"が"良かったんだよ。前にも言っただろ?」

 彼女は指先で、くるん、と僕の髪をいじると、語り始めた。

「片手剣の武技だけでなく、下級までの攻撃魔術も修め、しかもほぼ全ての属性ときた。さらにさらに、支援魔術も卒なく行使し、生活魔術に関しては最高クラス。この時点で中衛としての能力は……」
「ま、待って! 分かった、分かったから!」

 は、恥ずかしい……っ!
 そんなに一気に褒めないでよっ!

「んーっ? 赤くなっちゃって、可愛いなぁ」
「か、可愛くなんてないからっ! いじらないでよっ!」
「あはは、ごめんごめん。でも、一番心を惹かれたのは……知識量と判断能力かな」

 知識量には自信があるし、判断能力もあるほうだとは思うけど……。

「人間を相手にするなら、武技と魔術に関しての膨大な知識が無いと、初見殺しでジエンドまっしぐらだからね。だけど、イオにはそれが十分ある。いや、十分すぎると言っていい。
 そこに、判断能力からくる対処能力と機転が相まって──対人のエキスパートになってるんだよ」

 僕が、対人のエキスパート……?
 信じられないけど、ベガの説明を聞く限りでは信じられる。

 人を倒すのに、ドラゴンを殺せる大剣は要らない。
 人を倒すのに、グリフォンを堕とせる大魔術は要らない。
 人を倒すのに、英雄的な勇敢さも、聖女のような慈愛も要らない。

 ただ、片手用の剣と短い杖があればいい。

 大事なのは、知識量と判断能力。
 他の全てがなくとも、僕にはそれが備わっている──

「これで分かったよね、私がイオを誘った理由。あと、最後に一つ聞いていい?」
「う、うん、いいけど」
「これからの目的は?」
「目的?」
「あぁ。人間、夢や目標が無いと全力で走れないだろ? だから聞いたんだよ」

 夢、目標か……。
 正直、聞かれる前から決まっていたかもしれない。
 あれ以外に考えらないな。

 パーティーを追放され、婚約者を寝取られ、家を勘当された僕は、

「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる。……なんて、夢物語かも知れないけど」
「いいや、イオなら成し遂げられるさ」

 ……ありがとう、ベガ。
 僕、夢に向かって走ってみるよ。
 みんなを、見返してやる!

 ぴょん。
 と、僕は水たまりを跳び越えた。
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