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その後のふたり
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「それは私がアンドレア様のお傍に、ずっといたからです。これからも変わらずおりますので、悲しければ悲しいと仰って、素直に涙してください」
隠し続ける感情をなんとか引き出したいのに、うまい言葉が見つからない。
「そんなことをねだられてもな……」
「アンドレア様――」
「涙を流すのは心根の弱い男に見えて、おまえは嫌いにならないのか?」
「泣いてる私を見て、アンドレア様は嫌いになれますか?」
空いてる手で涙を拭ったら、掴んでいる手をアンドレア様に引っ張られ、無理やり立ち上がらせると、胸の中に抱きしめてくれる。
「愛してる。それ以外の感情は出てこない」
「私も一緒でございます」
アンドレア様の抱きしめる両腕の力強さに、心地よさを覚えた。
「私よりも小さかった貴方様に、こうして抱きしめられる日が来るとは、思いもしませんでした」
「おまえよりも大きくなって、守れる存在になるのが目標だったからな」
自信満々なアンドレア様のセリフを聞きつつ、大きな躰に両腕を回して、ぎゅっと抱きしめ返した。
「ふふっ、これだけ大きかったら、どこにいてもすぐに見つけることができます」
「見つけてどうするんだ?『アンドレア様、またいたずらしていたんでしょ』って、口煩く注意するのか?」
おどけた口調に、首を横に振った。
「愛しておりますと、甘やかに耳元で告げて――」
言葉どおりに実行すべく、形のいい唇にキスをする。アンドレア様の存在を確かめるように自身の唇を強く押しつけてから顔を遠のかせ、首を傾げてふたたびくちづけを落とす。
すると私を逃がさないようにするためか、アンドレア様は私の後頭部に手を添え、くちづけを深いものにした。
「んぅっ……」
容赦なく絡められる舌の動きは卑猥で、いつも以上に感じてしまう。
「カール、これからも俺を愛してくれ。その愛に報いる働きを必ずしてやる。だから」
「そんなことをしなくても、私は貴方様を愛します。生涯をかけて私のすべてを、アンドレア様に捧げることを誓います」
「それじゃあ古城に着いたら、初仕事をしなければな!」
アンドレア様は抱きしめていた腕を外し、私の利き手を掴んで、足早に歩きはじめた。弾んだ足取りに導かれて、私も同じように足を動かしながら話しかける。
「初仕事とは観光客をお迎えするために、まずは門扉周辺の整備を――」
「頭の固さは相変わらずだな。硬くするのは、アソコだけで充分なのに」
「ぶっ!」
真面目な思考を見事に破壊されたせいで、頭の中が一気にピンク色に染まってしまった。
「ふたりの気持ちが盛り上がってるからこそ、ベッドメイキングをするべきだろ、まったく!」
「え? いきなり……それにまだ日が高いですし、夕飯の買い物だって」
「なにを今さら恥ずかしがって。夕飯ならデリバリーにすればいい。ホラーキャッスルまで持ってこいと注文したら、怖がって逆に誰も来ないか」
幽霊が出ると噂される古城だからこそ、亡くなったアンドレア様が観光案内をしても、逆に話題になると考えた。
「不測の事態を想定しておりましたので、非常食を持参してます。デリバリーが来なければ、それを食べましょう」
「さすがは俺が愛する執事様だ。ベッドでもよろしく頼むな」
「わかりました。ですが修繕作業が控えているのですから、ほどほどによろしくお願いいたします」
微笑みあった私たちは、仲良く手を握りしめて来城した。これからどんな苦労が待ち構えているのかわからないけれど、アンドレア様とふたりなら、きっと笑って乗り越えていける。
アンドレア様と私の未来に栄光あれ――。
おしまい
☆番外編をこのあと続けます。お楽しみください。
隠し続ける感情をなんとか引き出したいのに、うまい言葉が見つからない。
「そんなことをねだられてもな……」
「アンドレア様――」
「涙を流すのは心根の弱い男に見えて、おまえは嫌いにならないのか?」
「泣いてる私を見て、アンドレア様は嫌いになれますか?」
空いてる手で涙を拭ったら、掴んでいる手をアンドレア様に引っ張られ、無理やり立ち上がらせると、胸の中に抱きしめてくれる。
「愛してる。それ以外の感情は出てこない」
「私も一緒でございます」
アンドレア様の抱きしめる両腕の力強さに、心地よさを覚えた。
「私よりも小さかった貴方様に、こうして抱きしめられる日が来るとは、思いもしませんでした」
「おまえよりも大きくなって、守れる存在になるのが目標だったからな」
自信満々なアンドレア様のセリフを聞きつつ、大きな躰に両腕を回して、ぎゅっと抱きしめ返した。
「ふふっ、これだけ大きかったら、どこにいてもすぐに見つけることができます」
「見つけてどうするんだ?『アンドレア様、またいたずらしていたんでしょ』って、口煩く注意するのか?」
おどけた口調に、首を横に振った。
「愛しておりますと、甘やかに耳元で告げて――」
言葉どおりに実行すべく、形のいい唇にキスをする。アンドレア様の存在を確かめるように自身の唇を強く押しつけてから顔を遠のかせ、首を傾げてふたたびくちづけを落とす。
すると私を逃がさないようにするためか、アンドレア様は私の後頭部に手を添え、くちづけを深いものにした。
「んぅっ……」
容赦なく絡められる舌の動きは卑猥で、いつも以上に感じてしまう。
「カール、これからも俺を愛してくれ。その愛に報いる働きを必ずしてやる。だから」
「そんなことをしなくても、私は貴方様を愛します。生涯をかけて私のすべてを、アンドレア様に捧げることを誓います」
「それじゃあ古城に着いたら、初仕事をしなければな!」
アンドレア様は抱きしめていた腕を外し、私の利き手を掴んで、足早に歩きはじめた。弾んだ足取りに導かれて、私も同じように足を動かしながら話しかける。
「初仕事とは観光客をお迎えするために、まずは門扉周辺の整備を――」
「頭の固さは相変わらずだな。硬くするのは、アソコだけで充分なのに」
「ぶっ!」
真面目な思考を見事に破壊されたせいで、頭の中が一気にピンク色に染まってしまった。
「ふたりの気持ちが盛り上がってるからこそ、ベッドメイキングをするべきだろ、まったく!」
「え? いきなり……それにまだ日が高いですし、夕飯の買い物だって」
「なにを今さら恥ずかしがって。夕飯ならデリバリーにすればいい。ホラーキャッスルまで持ってこいと注文したら、怖がって逆に誰も来ないか」
幽霊が出ると噂される古城だからこそ、亡くなったアンドレア様が観光案内をしても、逆に話題になると考えた。
「不測の事態を想定しておりましたので、非常食を持参してます。デリバリーが来なければ、それを食べましょう」
「さすがは俺が愛する執事様だ。ベッドでもよろしく頼むな」
「わかりました。ですが修繕作業が控えているのですから、ほどほどによろしくお願いいたします」
微笑みあった私たちは、仲良く手を握りしめて来城した。これからどんな苦労が待ち構えているのかわからないけれど、アンドレア様とふたりなら、きっと笑って乗り越えていける。
アンドレア様と私の未来に栄光あれ――。
おしまい
☆番外編をこのあと続けます。お楽しみください。
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