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 声が出ないように唇を噛みしめたら、4つの手が僕の躰をまさぐりだした。

 上半身だけじゃなく下半身にも手が伸ばされ、感じたくないのに、ふたりから容赦なく与えられる快楽に、躰が感じはじめようとした瞬間、音楽室の扉が激しく音を立てた。

 ドンドンドンドンドン!

 明らかにノックとは思えないその音に、ふたりの動きが止まる。

「菊池……」

「わかってる、居留守を決め込むんだろ?」

「当然。こんな美味しそうな1年を逃してたまるかってんだ」

「助けて! 誰かっ、お願っ」

 彼らの腕の力が抜けたのを見、逃げようと上半身を捻ったら、躰と口元を押さえれてしまい、床に突っ伏させられる。それでも扉を殴る音は止まなかった。

「チッ、しつこいな」

「小山田、ヤバくないか?」

「鍵がかかってるんだ。入れるわけ――」

 そう言った矢先に、ガチャガチャという金属音が耳に聞こえた。そして扉が勢いよく開け放たれる。

「龍!」

 床に躰を押さえつけられていたけど、首を上げることができた。

「怜司?」

「テメェら、龍になにしてんだ!」

「藤島の弟だ、なんでコイツがここに」

 僕の背中を押さえていた3年が驚いて怜司の名字を口走った瞬間、圧のかかった力が抜け落ちたと同時に、床に転がる3年の姿を目の端に捉えた。

「龍、大丈夫か?」

 僕に手を差し出した怜司と入れ替わりで、もうひとりの3年が扉から出ていく。だけどすぐに戻ってきた。目の前に浩司兄ちゃんが怒った顔で立ちはだかっていたせいで、戻らざるを得なかったのだろう。

「菊池と小山田、これはいったいどういうことなんだ。説明しろ!」

「この話を持ち掛けたのは、小山田なんだって。俺は指示されたとおりに動いただけで、なにもしてないよ」

 浩司兄ちゃんに問いかけられて菊池が真実を吐いたら、床に転がっていた小山田と呼ばれた人が立ち上がり、チッと舌打ちする。

「小山田、どうなんだ?」

「もとはと言えば、この1年に隙があるのが悪いんだろ」

 吐き捨てるように告げた刹那、隣にいた怜司が大きなスライドで小山田に近寄り、拳でぶん殴った。

「怜司やめろ。こんなヤツ、殴る資格なんてない」

「だってコイツ、被害者の龍が悪いって言ったんだぞ。手を出したほうが絶対に悪いっていうのに。こんなの納得いかねぇって!」

「校内暴力で部活動禁止になったら、バスケ部に迷惑がかかる」

 浩司兄ちゃんは怒りまくる怜司を確実に止める言葉を告げ、小山田の前に歩み寄り、無言で股間を鷲掴みする。

「なっ!」

「これ以上動いたら、握り潰すぞ」

 小山田よりも背の高い浩司兄ちゃんが言うことで、妙な圧があるせいか、顔を真っ青にし、泣き出しそうな表情を見せた。

「兄貴、もうひとりはどうする?」

「とりあえず逃げないように、羽交い締めしておいてくれ」

「だそうだ。おとなしくしなきゃ、俺も兄貴と同じことをしちゃうかもしれない」

 笑いながら告げた怜司だったが、目が笑っていないため、言葉通りのことをしそうな雰囲気を漂わせた。菊池という人は抵抗することなく、怜司に羽交い締めされる。

「龍、コイツらをどうしてほしい?」

 小山田の股間を握ったままの浩司兄ちゃんに訊ねられ、迷うことなくそれを告げる。

「今後僕に手を出さないと誓うなら、見逃してあげてもいい」

「おいおい、龍ってば優しすぎるだろ」

 怜司が呆れた声をあげた。
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